三十三話
「合同偵察?」
「妾達が単独で調べに行くのでは駄目なのか?」
「駄目……というわけではないわ。
あなた達だけならすぐに終わるかも知れないけど、せっかくだから今回の偵察で他の冒険者に経験を積ませようと思ってるのよ。今この街で活動しているAランク冒険者が少なくて困っていたし」
つまり、俺達は子守役か。
「そんな顔をしないでちょうだい。本当ならAランクの冒険者を三人程付ければいいのだけど、今街にいるのは一人だけなのよ」
まぁ一人とはいえ俺達以外にも保護者がいるなら……。
ん? 一人しかいないAランク冒険者?
「おい、まさかその冒険者って……」
「昨日あなたと喧嘩をしてたガダルという男よ。今回の依頼は彼にも出してるわ」
あいつかー……。
昨日ちょっとやり過ぎた感じがあるんだよなぁ。
「俺あいつに恨まれてそうなんだけど、大丈夫か?」
「恨んでるということはなさそうなのだけど……大丈夫とは言えないわね。
今朝ギルドから人を出した時はだいぶ落ち込んでいたと聞いてるわ」
落ち込んでたって……なんか似合わない言葉だな。『怒り心頭に発する』って方が合いそうだったけど。
「意外と繊細な奴だったんだな」
「人は見かけによらんものじゃ」
「ファムルから話しを聞いた限りでは単純にやりすぎだと思うのだけど」
なんにしても、ファムルに絡んでたあいつが悪い。
自業自得だ。そういうことにしておこう。
まぁ、なんかあったら謝ろう。
「あいつがいいなら俺達は別に構わないけど。な、エル?」
「そうじゃな、そもそも妾はその者とはたいして関わっておらんしの」
「今回の件はあなた達だけというわけにいかないから、どちらにしても彼には出てきて貰うわ。何かあってもあなた達ならなんとかできそうだものね」
それ、場合によっては引率者まで子守の対象になるってことか?
「なんか結構めんどくさそうだな、受けるかどうかは報酬次第だが……」
「迷宮を街で利用することになれば大きな利益になるし、ギルドからの報酬は金貨十枚を出すわ。
それに、領主からも報酬が出るはずよ。できれば迷宮の主の正体も確認してきてもらえると助かるのだけど」
「少なくとも十階層までは降りるんだろ? そこまで行けば探索魔法で魔物の種類が確認できる範囲内だから大丈夫だ」
「それなら、偵察で金貨十枚、迷宮の主の情報次第では追加報酬というのはどう? 追加報酬の方は領主次第だけど」
つまり『最低でも金貨十枚』ということか。
さっき、小さい領だからとかなんとか言ってた割に悪くない額だな、案外余裕があるんだろうか。
「よし、受けるよ。いつ行くんだ?」
「まだメンバーが確定していないから、それが決まったら出る日を知らせるわ」
「妾達のようなEランクの者が偵察に参加するのは不自然ではないかの? ミノタウロスがおるんじゃろ?」
「それ、もう気にしてないのかと思ってたわ。ガダルに対して魔法を使っていたようだし」
「ガダル自身は何をされたか正確に把握できてないと思うけどな」
「まぁそうでしょうね。私ですらファムルから聞いた話だけでは何となくしか理解できていないもの。当事者とは言ってもガダルが理解するのは難しいと思うわ。
ランクの件については、一応今回の偵察の目的は冒険者に経験を積ませるというものだから、それに合わせて『偵察に行くメンバーに低ランクの冒険者パーティーも何組かずつ入れる』という名目であなた達を入れることにしたの」
それで、Eランクの俺達がいてもおかしくないようにするってことだな。
「流石にEランクはあなた達だけですけどね。
あまり大勢を連れて行くわけにもいかないし、あなた達とガダル以外はBランクから二組とCランクから一組ずつを予定しているわ。
今は下で募集をかけているところよ」
掲示板の前に人が集まってたのは今回の偵察の件だったんだな。
結構な人数がいたし、メンバーが決まるまで時間がかかりそうだ。
「それならメンバーが決まったらまた連絡をくれ」
「あなた達が借りている宿は聞いてるから、そちらに連絡させるわ」
「わかった。それじゃ、もう行くわ」
俺達はマリアナに軽く挨拶をして執務室を出る。
一階の掲示板の前にはまだ人だかりができていた。やはり目的は迷宮偵察のメンバー募集のようで、俺もちらっと募集内容を見てみたが、先程マリアナが言っていたようにBランク二組Cランク一組の募集がかけられていた。報酬は金貨二枚、迷宮内での素材持ち帰り可と書かれている。
「素材の持ち帰りって言ってもあまり大きい物は持って帰れないだろ」
「迷宮の魔物は他とはちと違ってな、その魔物の素材以外に『魔核』というものが採れるんじゃ」
新しい単語が気になって『知識』で確認してみたところ、迷宮で出てくる魔物には通常の魔物の心臓部に当たるところの近くに魔核という簡単に言えば魔力の結晶みたいなものがあるんだそうだ。
魔核は、魔道具を作るのに使われたりと色々便利なので物によっては結構いい値段で買い取ってもらえるらしい。
「みんなそれが目当てか……」
……ん?
「ってことはこの間のゴブリン達からも魔核が取れたんじゃ無いか!?」
「おお、確かにそうじゃな。
まぁ、ゴブリンから取れる魔核なんぞ質は最悪じゃから気にするほどじゃなかろう。質の低い魔核はさして使えるものでもない。
低ランクの冒険者の場合は魔核よりは自身の訓練などが目的じゃろうな。魔核は小遣い稼ぎ程度じゃろう。
魔核の質は魔物の強さに比例することから、上質の魔核を持っていることが己の強さを証明するものとして見られたりもしておったな」
冒険者が強力な魔物の素材を使った装備を使ってるのと同じような感じかな。
あれは単純に性能が上がるわけだからちょっと違うか。
「迷宮の主となると魔核も良質なのが獲れそうだが、勝手に討伐されたりしないもんなのか?」
「殆どの場合、迷宮の主に魔核は付いておらん。
当時の魔族の定説は『迷宮の魔物は魔力によって生まれているから魔核がある』というもので、迷宮の主は魔力の供給元じゃから魔核が無いって訳じゃ」
勝手に討伐した魔物の素材は処理に困りそうだしな。魔核が無いんじゃ討伐する意味も薄いか。
「うまくできてるもんだ」
「迷宮が重宝される理由の一つじゃな」
エルに迷宮のことを聞きながら、「ランクが足りない」とか「ガダルさんが来るなら……」とか言ってる冒険者達を背にして受付の方へと向かう。今日の散歩のための依頼を受けるためだ。
受付でファムルを呼び、適当な依頼を探して貰ってギルドを出た。
受けた依頼は常時クエストのゴブリン討伐だ。ゴブリンは場所を選ばず出てくるらしいから、運が良ければ散歩中に済ませることができるかも知れないし。
「ガダルって意外と人望あるのかね」
「どうした? いきなり」
「いや、さっき掲示板の前にいた奴に、ガダルがいるからとか言ってる奴らが居たんでふと思っただけだ」
「妾も聞いておったが、そう言っておった奴らの殆どがならず者の様な見た目をしとったからの」
「兄貴分的なポジションなのかも知れないな」
ガダルがどんなやつであれ一応はAランク冒険者なんだし、俺達と同じ子守役としてある程度役に立ってくれることを祈ろう。
「ま、メンバーが決まるまでは暇なんだし、予定通り散歩しに行こうか」
「今日は西側と北側に行くんじゃったな」
「ああ、南門から西門を過ぎて北門から戻るルートで行こうと思ってる。ゴブリンが出てこなかったらもう少し歩くことになるかも知れないけど」
そんなこんなしているうちに南門に到着し、俺達は予定通り外に出て北門へ向かって歩き出した。
南門から西門前まではずっと森が続いている。この辺りは昨日行った暗がりの洞窟がある森だ。つまり迷宮がある所だな。
そのまま歩くこと暫く、特に何事もなく北門に着いてしまった。
「ゴブリン出てこなかったな」
「どこにでも出てくるとは言っても、流石に街の周りではそう出て来んじゃろ」
となると少しは魔物が出てきそうな所に入っていかないといけないんだけど……。
「なあ、俺達が封印されていた所にまた行ってみないか?」
「それは構わんが、ゴブリンを探すのにわざわざあそこに行く必要はなかろう」
北門の前から伸びている道の周りは草原になっている。この道をまっすぐ進めば王都に行けるらしい。
流通のメインになっている道のためか馬車もそこそこ行き来しており、どうにもゴブリンを探すのに適している感じはしない。
ただ、ゴブリンを探すだけなら封印されてたあそこまで行く必要はない。それこそ、その手前の森まで行って少し探索すればいいだけだ。あの場所まで普通に行ったら行き帰りだけで丸一日かかるし。
「ゴブリンだけならそうなんだけど、どうせ迷宮に入るメンバーが決まるまで暇だろ?」
「しかし、あの場所にもう一度入るならギルドに知らせておいた方が良いのではないか?」
「それもそうか……なら、今日はもう街に戻って北門周辺を見て回りながらギルドに向かうってことでどうだ? 途中で良さそうな店があったら昼飯にしよう」
南門から北門までの間、景色を見ながらのんびり歩いていたので時間は既に正午。
昼食ついでに街に戻って、迷宮に行くメンバーがどのくらいで決まりそうかを確認してもいいしな。
「そうじゃな、依頼の期限は五日じゃったし、急ぐ必要もなかろう」
俺達が封印された場所にはもう一度行かなくてはと思っていた。迷宮に行くまでの期間がまだあるのならばこの機会に用事を済ませておきたい。
そんなこんなで俺達は散歩を切り上げて街へと戻った。
帰りは北門から入ったのだが、王都へと繋がる道に面しているだけあって他の門周辺とはかなり趣が違う。
封印から解放されて初めてこの街に来た時に通った東門周辺は武器屋や道具屋といった冒険者に向けた店が多く、飲食店にしたって基本は酒場ばかり、偶にあっても定食屋のような店くらいだった。西門に関しては見ていないが、南門だって東門とそう変わらない感じだったと思う。
しかし、北門周辺はまさに観光向けといった雰囲気だ。立ち並ぶ飲食店はまさにレストラン。といっても、高級レストランではなく大衆向けの……所謂ファミレスといった感じだが。
まぁ、要するに少しだけお高そうなのだ。
東門や南門が冒険者向けだとすれば、北門は来訪者向け。少しでも街の印象を良くしたいという空気を感じる。この街の顔的な場所なんだろう。
「わざわざ東門の方で探すよりこの辺りで見繕った方が美味い飯が食えそうじゃないか?」
「あっちで紹介された店は値段を重視しておったんじゃろ。現に妾達は指輪を売らんと街には入れないくらいじゃったしの」
「確かにな。ま、今はそこまでお金に困っていないし、この辺りで昼飯を済ますか」
俺達はギルドの方へ向かいながら店を見て回り、最終的に朝の丘という名前の店に入って、牛っぽい肉を香草と一緒に蒸した肉料理を食べた。一人分で銀貨二枚とそこそこの値段だったが、値段相応に美味かった。
飲み水が有料だったのには驚いた。ただの水ではなく、ハーブの様な葉と果物で香り付けされた殆どジュースみたいな物だったけど。
「たまにならこっちの方で食ってもいいな」
「財布次第じゃな」
食事を終え、ギルドへと向かう。
お昼時という時間もあってギルドには殆ど人はおらず、受付では女性が二人書類仕事をしている。夕方の忙しくなる時間になる前に済ませてしまいたいんだろう。ヤウメルの姿が見えないのは他の受付嬢達と昼休憩中ってところか。
とにかく、俺達の目的は迷宮探索のメンバー選考にかかる日にちの確認と、決まるまでの間に封印されてた所にいく許可を貰うこと。まぁ、許可が出なくても封印の所には行くつもりだけど、出来れば正式に許可が欲しいので受付からマリアナに話があると連絡してもらった。
結論から言うと、メンバーの選考は今日を含めて二日間で、その間の封印の地への立ち入りを許可してもらえた。
メンバーは現在応募者から厳選をしている最中で、ある程度厳選が完了したら応募者同士で模擬戦をして決めるらしい。今日中に厳選し、明日模擬戦なんだそうだ。迷宮へ行くのは模擬戦の翌日になったと教えてもらった。
封印の地への立ち入りに関しては、『出来れば許可が欲しいけど、許可が無くても勝手に入る』と素直に話したら快く許可してもらえた。マリアナさんはとても優しいギルド長なのだ。
マリアナから立ち入り許可書を受け取って、俺達はギルドを後にした。
「今日はこと後どうしようか」
「そうじゃな、昼飯も食ってしまったし、暇になってしもうたの」
ギルドでの用事には殆ど時間がかからなかったので、今はまだ午後一時前後ってとこだろう。
封印の地に向かってもいいけど……。
「そうだな……図書館にでも行ってみるか?」
「おお、そういえばそんな話もしておったの」
最近図書館の話をしたっていうと……解体場でのことか。
ただ、今日の目的は、俺達が封印されていた間にどんなことがあったのかとか、俺のことがどう伝わっているのかとかの詳細だ。つまり、前に話していた歴史についての方だな。
目的も決まって、俺達は図書館を目指して歩を進める。
道行く人に図書館の場所を聞きつつ目的の施設へとたどり着く。
「なんというか……」
「小さい施設じゃな」
目の前には『デーヴァン図書館』と書かれた看板を掲げた建物が鎮座している。しかし、領地の名を冠した図書館にしてはちょっと小さい。
無論、民家なんかと比べれば十分大きのだが、冒険者ギルドや商業ギルドなんかを見た後だと小さく感じてしまう。俺達が泊まっている宿の二倍くらいか。
「まぁ、こんなもんなのかもな」
ただ見ていたってしょうがないので図書館の中へ入っていく。
入ってすぐに受付があったので図書館の利用を希望する旨を伝えたところ、施設利用料は一人につき銀貨一枚、備品等の破損は全て賠償を請求する、賠償およびに盗難防止のため冒険者証もしくは商業証の登録をしてもらう、などの説明を受けた。ちなみに、それらの登録証がない場合は利用料が金貨一枚に値上がりするんだそうだ。
俺達は冒険者証を渡して銀貨二枚を支払う。エルに一度魔力体を解除してもらってから入れば一人分で済むんじゃないかとか考えてたら、『みみっちいことを考えるでない』とすねを蹴られてしまった。魔王の矜持ってやつだろうか。
冒険者証を登録し終えたところで、ランクによって閲覧ができない場所があるという説明を軽く受ける。マリアナが言っていた『開示される情報にランク制限があったりする』っていうのはこういうことなんだろう。
手続きが終わって施設内に入ると独特の空気に包まれる。
人はいる筈なのにやけに静かな特殊な空間。
そして、時折耳に届くページをめくる微かな音……は聞こえないな。
いや、それよりもやはりこの紙が集まって保存されている場所特有の匂い……も無い。
「なんだ? ここは図書館なんだろ? 図書館らしさが全然無いぞ」
「ここに置かれている物は殆ど記録媒体じゃろう。紙媒体の真っ当な本なんぞもっと大きな場所でしか置いておらん」
エルが評した『小さい』は俺のそれとは少し意味合いが違ったらしい。
施設内には本棚はあるものの、棚の中に並んでいるのは厚さ5ミリ程の鉄の板だ。本で言えば背表紙に当たる場所に記号と番号が刻まれており、近くにあった板を手に取ってみると、表紙にはその板に記録されている内容の簡単な説明が記載されていた。
「なるほど、この記録媒体から内容を読み取ればいいのか」
「裏に魔法陣が刻まれておるの、これは〈記録〉の術式じゃな。
しかし……この術式には記録の管理者が設定されておらん。これだとこの魔法陣が破損でもしてしまえば記録の内容が消えてしまうんじゃが」
「その為の賠償云々ってさっきの話なんだろ」
俺からすれば紙の本と扱いは変わらないから特別気にする必要もない。寧ろ、火や水、年月による劣化によって簡単に形をなくしてしまう紙の本よりも、意図的に壊さない限り内容を保ち続けられるこちらの方が安心できるくらいだった。
ただ、記録する相手が指定されていないなら、どうやってこの魔法陣に登録された内容が保存されているのかが気になるところだが……魔法というのは不思議なもんだと納得するしかないか。
「いや、そうでもないぞ。
お主の記憶で例えるのであればこれはフロッピーディスク? とかいうやつに近いの。管理者が指定されている場合は……えー、なんじゃ……サーバー……かの? このあたりはお主の記憶も曖昧じゃが、まぁそんなところじゃろ」
前世の俺は歳も歳だったのもあってそう言ったものには疎かったからな。
実際、例えに出されてもちょっとピンとこないし。
「そういうもんじゃと思っておけば良い」
「結局、『魔法というのは不思議なもんだ』ってのとそう変わらないじゃないか」
「確かにそうじゃな」
そう言ってケラケラと笑うエルを残して、受付で歴史について記録されている物がどこにあるかを聞き、歴史書などが保管されている棚へと向かった。
俺達は夕方になるまで図書館で記録媒体を読み漁り、歴史に関して記録されているものなら絵本の様な児童書に近い内容の記録媒体まで読破していた。
ついでに魔物の解体について記録されている物の記録も読めたので、今日は十分な収穫があったと思う。少なくとも銀貨二枚分の価値はあっただろう。
歴史に関してだが、やはり魔王の封印についてはかなり改竄や捏造をされていた。封印の魔法を使ったのが俺ってことになっていたり、一緒にいたパーティーの人達と共にギリギリの戦いをしたことになっていたり、あとはまぁ、他でも聞いていた通り俺が魔王の封印で力を使い切って死んだことになっていたりだ。
なかでも驚いたのが、どうやらティオールとは別の国に俺の墓があるらしいってことだ。
デーヴァン領から北に進んでいくと王都があり、更にその王都から西に行った所にカリスヴァナ教国という宗教国がある。俺の遺体はその国に葬られているそうだ。
どうやら、勇者は神の使いということになっているらしく、それで勇者の遺体を宗教国であるカリスヴァナ教国へ運んで葬儀が行われたんだとか。
ただし、勇者が神の使いだったことや遺体の行方に関しては異なる内容が記録された物も結構あったりして、利権だのなんだのといった黒い感じが見え隠れしていた。
遺体の行方について最も強く異論を唱えているのが、ここデーヴァン領が属しているティオール王国だと記録されていたのは唯一の救いと言えるかも知れない。
死んだ後まで利用しないで欲しいものだ。
死んでないけど。
「にしても、カリスヴァナ教国なんて封印前にも行ったこと無いのによくあんな話を作り上げたもんだな」
「ティオール王国としては勇者が死んだことにしたかったわけじゃからな、そこに付け込まれたんじゃろ」
俺達は既に図書館を後にして宿へと向かっている。
歴史書に関しては俺達の事以外にも、封印された後の事なんかが色々と記録されていて結構面白かった。
記録は人間側がメインだったので魔族側のことは余り入っていなかったが、魔王の封印後にリンド魔族王国が敗走して新しく国を作ったことや、魔族の国との国交が結ばれたこと、勇者を称えて各地に像が建てられたなんてことも記録されていた。
ついでに、魔王の復活に怯えた国王が王国の地下に脱出の為の迷路のような地下通路を作ってるだとか、国王が神にすがり王都に巨大な教会を建てるために大金を寄付しただとかって噂話まで記録されていたのには笑った。実際、勇者の件で教国とはあまり仲が良くない筈の王都に立派な教会が建っているらしいからその辺りからきた噂だろう。
「恐怖は人を変えるな」
「お金もじゃな。教会はこの件でだいぶ儲けたようじゃぞ」
カリスヴァナ教国は勇者が眠る国として移住者が増え、教会の信者もかなり多くなったんだとか。
「少しくらいキックバックを請求してやりたいところだ」
「お主に金銭なんぞ払ったら、勇者の遺体が嘘だと公言するようなものじゃろ」
「それもそうか」
そんな感じで二人で笑いながら話しているうちに宿へと帰り着いた。
その晩。
宿で夕食を済ませ、寝床に潜って、いざ夢の世界へと入り込もうって所で変な気配が体を通り抜ける様な感覚に邪魔されてしまった。




