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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
三章 勇者と魔王と魔族
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三十一話

 俺の素晴らしいアドバイスを聞いた男は当然だが怒り出した。


「このクソガキ、ぶっ殺してやる」


 思った通りだけど、見た目通り単純な男のようだ。


「やるのはいいけどここじゃまずいだろ。少ないとはいえ人の目がある場所で『駆け出しの冒険者にボコボコにされる』なんて格好悪いくないか?」

「てめぇ……いいぜ乗ってやる。ガキ相手に大人気ないとか言われても癪だしな。

 裏に訓練場がある。そこでやるぞ」


 そう言って男はギルドを出て行った。訓練場とやらには外から行くんだろう。


「ってことだから、ファムル、依頼の件は後回しになった。わるいな」

「い、いえ、それは構いませんが」

「それと、後でマリアナに話があるんだ。この後、訓練場とやらに人を近付けないで欲しいってことも含めて伝えておいて貰えるか?」

「わかりました。

 その、冒険者同士の揉め事にギルドはあまり口出ししないことになってはいますが、相手を殺してしまったりとかはちょっと……」

「大丈夫、手加減くらいできるよ。というか、ファムルにはマリアナへの伝言が済んだら立会人としてこっちに来て貰いたいんだけど、ギルドとしてはそれも無理か?」

「立会人としてなら大丈夫です。ギルド長に伝えて来ます。

 あ、訓練場の場所はわかりますか?」

「そういや知らないな」


 俺は訓練場の詳しい場所を聞いてからエルと共にギルドを後にした。

 訓練場は本当にギルドの真後ろに建っていて、ただぐるっとギルドの周りを行くだけなので、数分もせずに着くことができる。


「お主もこういうことをするんじゃな」

「まぁ、今回は本当にただのお遊びだ。バロン達との約束まで結構あるとは言っても、そこまで時間を使うつもりはない」


 マリアナへの報告を考えても時間は余ると思ってはいるが、予想以上に時間を取られてしまう可能性も考えられなくもない。

 こんな暇つぶしなんかをしてたせいで約束に遅れたりしたら阿呆らしいし。


「ま、妾も嫌いではないからの、良いと思うぞ」


 目的地に到着したのでエルとの会話は終了。入り口を(くぐ)って中に入ってみると、中は壁で囲まれたグラウンド場のようになっていた。

 人払いのお陰か、ただ単にこの時間の利用者が少ないのか、施設内にいるのは先程の男が一人だけだ。


「遅かったじゃねぇか」

「ちょっとギルドに頼みごとをしてたんだ。人払いしないと場所を移した意味がないだろ?」

「てっきり逃げたのかと思ったんだがな」

「逃げる理由が無いしな。

 人払いと一緒に立会人も頼んでおいた。ファムルが来るからいいとこ見せるチャンスかも知れないぞ」


 そんなことを話していると、噂のファムルが小走りでやってくる。


「お待たせしました。立会人をさせていただきます、ファムルです。

 ここの利用と人払いに関してはギルド長に連絡してあります。

 ギルド長からこの決闘にルールを設けるようにと言われて来ました。

 提示されたルールは三つ。

 一つ目は武器の指定。この訓練場に置いてある刃を潰した武器のみを使用してください。

 二つ目は施設の破壊の禁止。この訓練場には施設を保護する魔法陣が組み込まれていて、そうそう壊れることはありませんが、念のためとのことです。

 三つ目は相手を殺さないこと。ギルドでは決闘による殺人を容認できません。

 提示されたルールは以上ですが、問題ありませんか?」

「俺はそれで構わない」

「俺は一つ目のルールは受けられねぇな」

「それですと、ギルドとしてはこの決闘を許可できません」

「俺の武器はこのナックルだ、潰す以前に刃が無い。この施設にもナックルは置いてねぇだろ」

「確かに置いていませんが、ルールは……」

「いや、いいさ。そのルールはつまり殺傷性のある武器を使うなってことだろ? それなら三つ目のルールだけでも問題はない」


 正直、三つ目がある限り一つ目のルールは然程意味をなしていないから、これは俺に対して念を押してるだけだろう。相手を殺すなと。

 随分と信用されてないな。魔王と一緒にいるとはいえ一応勇者なんだけど。


「わかりました、ではナックルの使用を許可します」

「じゃ、俺はこの剣を借りるかな」


 壁の近くにあった剣が無造作に放り込まれている樽の中から適当な物を取り出して、俺は訓練場の中央へと向かう。

 男も俺の後に付いて来て、中央あたりに着いた所で互いに向かい合った。


「ファムル、合図を頼む」

「わかりました」


 ファムルが俺達から少し離れた所で片手を上げ、最後の確認をする。


「お互いに先程のルールは守ってください。何かあった場合はこちらで止めさせていただきます。状況によっては冒険者の資格を剥奪する可能性もありますのでご注意を。

 それでは、はじめ!」


「死ねクソガキ!」

「——」


 速い!


 男のスピードは俺の想像を遥かに超えるものだった。キングボアとやった時のように、助走も無しに地面を蹴るだけで一気にスピードを上げ、一瞬で間合いを詰められる。動きこそ似ているが、速さはキングボアとは比べ物にならない。

 咄嗟に剣を横に振るが、片手で弾かれてしまった。このスピードで迫って来ているのに面積の小さいナックルで剣を弾くなんて、かなりの技量だ。

 剣を弾かれたことでバランスを崩した俺の顔面へと弾いた方とは逆の拳が迫る。このまま頭に攻撃を受ければ完全に致命傷だ。

 こいつ、ルールを守る気がないな。

 俺は弾かれた剣を無理矢理引き戻すことでどうにか拳を受ける。


「ユウマさん、大丈夫でしょうか」

「妾を倒した勇者じゃぞ、負けるわけなかろう」


 男の攻撃を受けられたのはいいが、今度は先程剣を弾いた方の拳が俺に襲いかかって来る。狙いは腹だ、一旦、狙いやすい場所に攻撃を与えて動きを止めるつもりだろう。

 それならばこちらも相手の動きを止めてやろうと、俺は男の足下に狙いをつける。

 俺が剣を下薙に払うと、男はバックステップで距離を取って避けた。

 突っ込んでくる時のトップスピードを逃げる時にも使えるのか、これは引くことのできないキングボアとは違うな。


「でも、相手の冒険者はAランクですよ。いくらユウマさんが強くても怪我をしてしまうかも……」

「いや、それはないの。あの男はユウマには絶対に勝てん。触れることもできんじゃろ」


 俺から距離を取った男は、再び地を蹴って突進して来る。

 ナックルは接近武器だ、剣なんかよりも更に敵に接近しなければ攻撃ができないのだから、近づいて来るのは当然だろう。

 先程はこれに胴を狙った横薙ぎを放ったら拳で弾かれた。それなら今度は始めから足を狙ってやればいい。戦い方から見ても、足を使えなくすれば俺の勝ちはほぼ確定する。


「私にはユウマさん達が何をしているのか全く理解できません」

「まぁ、そうじゃろうな。

 しかし、余程のことがない限りユウマの勝利は揺るがんじゃろ」

「そう、なんですか?」


 俺は姿勢を屈め、男の足に向かって剣を払う。

 しかし、男はそれを読んでいたかのように一瞬だけ動きを止め、俺の剣が足を掠めて空振りしてしまった。

 そして、すぐさま再びトップスピードで向かって来て、拳を放つ。

 剣を引くことも間に合わず、男の拳が俺の腹へとめり込んだ。

 スピードが乗っている分威力も半端なものではない。ただ殴られただけではなく、俺は訓練場の壁まで吹き飛ばされてしまう。


「ファムルには変に見えるじゃろうが、既にユウマは勝利しておると言ってよい」

「しかし、私には……」


 立ち込める土埃。

 俺の状態を確認するためか、それともとどめを刺すためか、男は壁に向かって走り始める。

 しかし、男が俺の元に着くよりも早く土埃の中から影が男の方向とは別方向に飛び出す。影というかまぁ、俺だが。男からしたら自分のスピードも合わせて飛び出した物体は影にしか見えなかっただろう。

 と言っても、俺が吹っ飛ばされた先から何かが飛び出したのだから、迎撃しないという選択肢はない。

 男は瞬時に進行方向を変え、傷一つない俺を追う。


「私には、ユウマさん達がただ睨み合っているだけにしか見えないんですが」


……そう、実は、今までの攻防は全て現実に起こったことではない。

 開始の直後に俺が使った魔法〈幻惑(ダーゼル)〉によって男が見ている夢のようなものだ。

 この魔法は、相手の意識を乗っ取って幻を見せるという効果があり、先程までの攻防はこの男に俺が見せていただけに過ぎない。

 といっても、あまりに本人の意思との齟齬があると解けてしまうので、本人の方は自由に行動させている。俺の設定をかなり弱くして、一切傷つかない無敵状態にしただけだ。

 殴っても殴っても無傷で立ち上がって来る俺と戦い続けていて貰おう。


「ま、後は適当に頑張れ。

 じゃあ、マリアナに報告しに行こう。手間かけてわるかったな、ファムル」

「え、いいんですか? ガダルさんはどうしたんですか? 全然動きませんが」

「こいつ、ガダルって名前だったのか。

 今は俺が見せてる夢の中だ。始まった時に死ねとか言ってただろ? 夢の中で好きにさせてるが、本気で俺を殺すつもりだったみたいだな」

「煽り過ぎたんじゃろ」


 それはそうなんだろうけど、まさか冒険者資格が剥奪されてもいいと考える程とは思わなかった。


「一応、今後は気を付けるよ。

 とにかく、マリアナの所に行こう」

「えっと、ガダルさんはどうしたら……」

「人払いを解除しなければ放置してても問題はないだろ」

「……わかりました。ではギルドに戻りましょう」


 俺達は夢の中で頑張っているガダルをその場に残し、手に持っていた剣を樽に戻してからギルドへと戻っていく。


「ギルド長には依頼の件でお話があると伝えてあります。執務室にいるはずですので、そちらへ向かってください。

 私は人払いを継続するために訓練場に戻りますので」

「そうか、よろしくな。一応、なんかあったら知らせてくれ」

「はい、それでは」


 ファムルは再び訓練場へと戻り、俺達はマリアナがいる執務室へと足を運ぶ。

 執務室の扉をノックしたら中からすぐに返事があったので、俺達はそのまま部屋へと入った。


「すまん、遅くなった」

「いえ、いいわ。今回は私が呼んだわけでもないし。むしろ、Aランクの冒険者と決闘なんかしてこの時間なら早い方よ。

 一応確認しておくけど、殺したりしてないわよね?」

「俺はこれでも勇者なんだが……まぁ、身体的なダメージは一切与えてないから心配しなくていい」

「そ、わざわざ『身体的な』って付けるところは気になるけど、まぁいいわ。

 それで、私に話って何?」

「実は今日商人ギルドが出してた依頼を受けたんだが……」


 俺は今日の出来事をコボルト討伐から順に説明していった。

 洞窟の床を壊してしまったと言った時はマリアナの眉間にシワが寄っていたが、その後の迷宮の話を聞いた途端に目の色が変わる。


「あの洞窟の下に迷宮があったなんて……」

「俺達が見つけたのも偶然だったし、他に地上に繋がる道も無かったから誰も見つけられなかったんだろ」

「床を壊したって言われた時はどうしようかと思ったけど、その穴も既に塞いであるということだし、迷宮の発見はとてもありがたいわね」

「探索魔法で大体の地形は確認してあるから、後で迷宮内の地図でも作ろうか?」

「そうして貰えると助かるわ。

 階層ごとに魔物の生息分布がわかったりはしない?」

「範囲が広過ぎて全部の魔物を確認することはできなかった。上層の何階層かはわかるぞ」

「そう、どんな魔物が居るのかはなるべく早く調べておきたいわね。

 とりあえず、今わかっている範囲でいいから教えてちょうだい」


 その後は、探索魔法で確認した迷宮内の状況を細かく説明することになった。

 迷宮内は上層からゴブリン、コボルト、と段々と魔物が強くなっていくこと、最奥の迷宮の主らしき反応は魔力感知ができるからかなり強い魔物だろうということ、他には、迷宮内部の構造について、ここはどんな道になっているとか、下の階層へ繋がってる場所といった地図に関する情報なんかを伝えていく。


「こんなところかな、迷宮の主には手を出さない方がいいと思うぞ、エルの話からすると手を出す意味もないみたいだけどな」

「そうね、冒険者ギルドとしてはこの迷宮は有効活用したいわ。領主の許可が出なければ駄目なのだけどね。

 デーヴァン領は村はいくつかあるのだけど、街と呼べるのはこのデーヴァンの街だけという小さな領地なのよ。魔族との争い事があった頃は、隣接しているこの街が重要地として見られていたからある程度栄えていたし、実際に街としての規模はそこそこの部類に入るわ。今は『英雄がいた街』としてなんとかやっているけどそれも限度があるし、領主としても何か売りが欲しいはずだから許可は出ると思うわ」


 俺はご当地キャラクターみたいな扱いなのか……。


「迷宮があるとなれば街に来る冒険者が増えるはずよ。

 問題は下層の魔物がどの程度の強さを持っているかね、十五階層というのは迷宮としてはあまり大きくないからそこまで期待できないけど」

「そこの確認はAランク冒険者でも派遣してやってくれ。俺達が手伝ってもいいけど、ちゃんと報酬は出してくれよ?」

「最初は腕試しも兼ねて挑戦しようって冒険者が多いだろうからそっちでなんとかしてみるわ。どうしても無理そうだったら頼むかも知れない。その時はよろしくね」


「Aランク冒険者と言えば、ガダルとか言う奴をそろそろ解放してやらんと本当に壊れてしまうぞ」


 エルに言われてガダルが今どんな状況なのか確認してみたら、まだ頑張って不死身の俺と戦っていた。

 しかし、エルの言う通り精神的にだいぶ参っているようだ。最初の様なキレのある動きは既になく、殆ど防戦一方になってしまっている。

 先程、三鐘の音が聞こえてきていたから、戦いを始めてから約三時間程経過していることになる。いくら攻撃しても傷一つ付かない相手とそれだけの時間やり合っていたら精神的な疲労は相当なものだろう。


「これ以上は可哀想だな。

 じゃあ、俺達はこれで失礼するよ。洞窟の封印はそっちで解けるか?」

「使ったのって封印の間の二重封印よね? それなら問題ないわ」

「わかった、何かあったら連絡してくれ」


 俺達は執務室を後にし、ギルドを出て先程と同じ道で裏へと回り、訓練場へと向かう。

 訓練場の入り口にはファムルが人払いの為に一人で立っていた。


「お二人とも用事は済んだんですか?」

「ああ、随分待たせてしまってわるかったな。そろそそガダルってやつがヤバそうだったから幻惑魔法を解きに来たんだ」

「わかりました。(はた)から見た限りだとガダルさんはただ立っているだけなのですが、大丈夫なんですか?」

「今のところ問題はない。……多分」


 これで心を折られて冒険者をやめるとか言い出さなければいいけど。

 俺はガダルの前まで行って幻惑魔法を解除した。夢の中ではちょうど俺からの攻撃を受ける直前だったので、ガダルからすれば目の前に迫っていた俺の剣がいきなり消えたように見えただろう。


「よお、夢の世界はどうだった?」

「なにが……どうなって……」

「さっきまでお前が見てたのはただの夢みたいなもんだ。俺の身体能力をだいぶ下げてはいたとはいえ、かなり頑張ってたと思うぞ。前半のスピードは予想以上だったしな」

「夢……?」

「まぁ、あまり落ち込むなよ。

 じゃあ俺達は帰るわ。お疲れさん」


 ちゃんと能力も褒めたし、軽く励ましもしたからこれでいいだろ。

 俺が喧嘩を売った形ではあるが、最初に絡んで来たのはあっちなんだから、これで冒険者をやめることになっても自業自得だ。

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