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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
一章 勇者の誕生
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二話

 真っ暗闇の中一人突っ立って待つ。

 思ったより時間がかかってて、ちょっとだけ肩透かしを食らった気分だ。

 それに、チャーセの最後の言葉も少し気になる。

 まぁ、若い見た目で精神は年寄りなんて、良いこと無さそうだし良いんだけども……。

 もう新しい身体には入ってる筈だから、精神も若くなってるのか? あまり実感はないけど……。


 などと考えていたら足元が光り出し、魔法陣が現れた。

 見た瞬間脳裏に「これは召喚の魔法陣だな」という考えが浮かぶ。

 どうやら、これが精神にインプットされた魔法の知識というものらしい。特に違和感もなく、前から知っていたかのように感じる。

 これは便利だ。


「よし、何はともあれ、この先は異世界だ! 気合い入れていこう!」


 魔法陣がスルスルと上がってくる。

 これをくぐりきったら異世界なのだろう。

 今足を攻撃されたら完全に無防備だな……。わざわざ召喚しておいて攻撃するなんて意味がわからないけど。


「うお! 眩しっ!」


 魔法陣が上りきると光が襲ってきた。

 しばらく暗闇の中で待っていたからか、一瞬目が眩み腕で覆う。

 徐々に光に慣れて腕を外すと、俺は十人のフード付きローブを纏った者達に囲まれていた。

 召喚時に「今攻撃されたら」なんて考えていたせいで多少警戒したものの、足元を見れば先程現れた魔法陣が書かれていて、周りのローブ達はかなり疲労しているように見える。

 どうやら彼らが俺を召喚した魔術師のようだ。

 場所は体育館程の部屋で、石造りの壁に窓がいくつか付いている。地下ではない。召喚された直後の光はこの窓から入ってきていた。


「勇者様!」


目の前の扉から男性が入ってきて俺の前でお辞儀をする。


「突然のことで困惑されていることかと存じます。私、この召喚場を管理しておりますロスヴァールと……あ、いや失礼。言葉が通じませんね。誰か通訳の指輪を持って来なさい」

「大丈夫ですよ。ちゃんと通じています」

「えっ? な、何故言葉がわかるのですか? 勇者様は異世界から来られた筈では?」


 ん? 普通の召喚者はわからないものなのだろうか。

 慎重に答えた方がいいのかな?

 ここは異世界で、何が起こるかわからないし、このロスヴァールという人が信用できるのかもわからない。

 情報はあまり与えない方がいいか。

 失敗したな、どうせなら指輪を持ってきて貰った方が面倒がなくて良かったかもしれない。

 こういうのは知識としてインプットされなかったのかな。


「いえ、理由を聞かれましても何がなんだか。普通に話されているようにしか聞こえていません」

「なるほど、そういう事もあるのでしょうか」


 誤魔化せたかな?

 とりあえず、何も知らない召喚者のふりをしておこう。


「それで、ここはどこですか? 貴方方は誰ですか?」

「失礼致しました。ここは召喚場。我々はこの国を救って頂きたく勇者様を異世界より召喚致しました」

「異世界よりって……ここは元いた場所とは別の世界だと?」

「その通りです。この国の名はティオール王国といいます。現在、この国は魔族との戦争の危機にあります」

「国を救えと言われても、私はただの一般人です。魔族だが何だか知りませんが、戦う力などありませんよ?」

「いえ、この召喚陣によって召喚された者は絶大なる力を持って現れるという言い伝えがございます。勇者様も強大な力を得ているかと……」


 なるほど、召喚陣の条件通りの対象を妖精が探してきているのを「召喚されると強化される」と認識しているのか。

 しかし、そんなのは他の召喚者が自分が強化されているかどうかを確かめればわかるはず。召喚は頻繁にされるようなものじゃないのかな。


「もしよろしければ、魔力を測定し、数値化する機器がございます。そちらを確認すればご納得頂けるかと」


 魔力を測定する機械! これはとても面白そうだ。元の世界では全く感じられなかった魔力というのがどれ程なのか、是非確認したい。


〈鑑定〉

  対象のステータスや状態を確認できる。

  対象は生物、無生物に関わらず使用可能。


 脳内に〈鑑定〉の魔法の使い方が浮かんできた。

 どうやら個人のステータスや物品の詳細などがわかる魔法のようだ。

 ちょっと熱が冷めてしまった……。

 なるほど、チャーセの言っていた「簡単に魔法が使える」というのはこういうことか。便利は便利だな。



 いやまぁ、せっかくなので魔力測定はして貰おう。

 鑑定の結果と比べてみてもいいし。


「わかりました。その魔力の測定というのを受けてみたいと思います」

「では、測定器は隣の部屋にご用意してあります」


 準備がいいな。こうなる事を予想してたのかな。

 先程ロスヴァールが入ってきた扉から部屋を出ると、廊下を挟んですぐ目の前にもう一つ扉があり、どうやらその部屋が魔力を測定する部屋らしい。


 扉を(くぐ)った先は先程の部屋と比べるとだいぶ狭く、部屋の真ん中に俺の腰程の高さのテーブルが一脚置いてある。


「こちらです」


 ロスヴァールに促されてテーブルの前に立つと、天板に黒い板が置かれていた。この板が測定器なのだろう。

 思っていたよりも簡素な物で、わざわざ部屋を変えずとも持って来れば良かったのでは? と思っているのが顔にでたのか、ロスヴァールが床を指差す。


「この床に書かれている魔法陣で魔力を測定し、そちらの鑑定板(かんていばん)に数値を表示します。これよりも簡易的な物で鑑定板に直接測定の魔法陣が書かれたものもあるのですが、そちらだと測定できる数値に限りがありますので」

「なるほど、普段はここまでのものは使わないと」

「そうですね、ここの利用は有料なので一般の冒険者などにはあまり利用されません」


 基本的には貴族が後継者や娘の婚約者、護衛兵の実力確認の為などで利用するという事だった。

 普段からポコポコ勇者を召還しているわけではないし、勇者を召還した所でお金が貰える訳でもないため、この施設の運営費は測定で(まかな)われているそうだ。

 冒険者の中ではここでの測定が高ランクの証しのようになっており、高ランクに上がった冒険者が測定に来ることもあるらしい。


「魔力が強さの基準にされているという事ですか?」

「必ずしもそうとは限りません。魔力値が低くとも身体能力が高い者はおりますし、個人の能力がそこまで高くなくとも軍師として優秀な者もおります。珍しい例ですが、戦闘スキルを所持していたりすると魔力値よりも重視されたりしますね。ただ、どれも数値化できるものではないので、唯一数値化する事が出来る魔力値が判断基準になる事が多いのです」


 スキル!?

 いきなり出てきたファンタジー要素に心躍る。

 俺が読んでいたラノベではスキルというのはあまり出て来なかったが、先生の話でよく出てきた単語だ。

 ただ、戦闘スキルは珍しいのか……。

 空飛んだり、斬撃を飛ばしたり、魔物を手懐けたりしたかったなぁ。



〈飛翔〉

  魔力により推進力を得て空を駆ける。

  スピード・高度・持続時間は使用者の魔力値に依存する。


飛斬(ひざん)

  風の刃を飛ばす。

  威力が魔力値に依存する。


〈テイム〉

  生物を使役する魔法。

  対象から同意が得られた場合のみ使用できる。



 鑑定の魔法が脳裏に浮かんだのと同じように、〈飛翔〉〈飛斬〉〈テイム〉の魔法が浮かんできた。

 スキルが無くても魔法があるので、あんまり関係なさそうだ。

 魔法というのは思ったよりなんでもできるんだな。

 スキルについては後回しで良さそう。

 さっさと魔力値を計ってもらおう。


「では、計測をお願いしていいですか?」

「それでは開始しましょう。と言いましても、計測方法はとても簡単です。足元の魔法陣に魔力を流して発動してくだされば後は自動で計測されます」


 魔力を流すと言われてもピンと来ないんだが……。とりあえず足元に意識を集中させてみよう。


 スーッと足元から力を吸われる感覚がしたのちに、魔法陣が淡い光を放つ。

 俺が立っている場所から徐々に光が浸透して行き、魔法陣全体に広がった途端、今度は鑑定板が光り出し、数字が表示される。


「もう魔力を切って頂いて構いません。測定が完了しました」

「確かにそこまで難しくはないですね。この鑑定板に表示されているのが魔力値なんですか?」

「はい。おおよそですが、一般市民の魔力値は100前後、冒険者や傭兵の魔法師が500前後ですね。高ランクの冒険者になると魔力値1,000〜2,000という者もいます。過去には10,000の魔力を持つ者もいたなんていう伝説めいた話を聞いた事がありますが、私が知る限りでの最高値は王国一の魔法師リーン・マランドが3,600くらいだったかと」


……とするとこれはまずいか?

 俺が手に持っている鑑定板には99,999という数値が表示されている。

 これってカンストしてるって事だよな。

 伝説めいた話より数値が高い……。

 化け物扱いされて……とか面倒なことにならないと良いんだが。


「これは……! 数値が最大になっているところなど初めて見ました。流石は勇者様ですな」


 お? 思ったより気味悪がられたりしないな。勇者召喚の効果というのがそれだけ信用されているのだろうか。

 召喚魔法陣で強化されてると思ってるわけだからな。

 いや、扉の前に立っている兵士が変な顔してるから普通ではないのだろう。ロスヴァールがかなり肝の座った人なのか、もしくは元々このくらいは予想してたということか。


「もし良ければどなたか他の方にも魔力を測って貰う事は出来ませんか? 基準として知りたいのですが」

「わかりました。さっき召喚の儀にいた奴を誰か一人連れてきなさい」

「承知しました!」


 ロスヴァールが声を掛けた兵士が早足で先程の部屋へ向かい、すぐにローブ姿の男性を連れて来た。


「彼はここの局のトップで、先程の召喚の儀にも参加しておりました。彼ならば高ランク冒険者並みの数値が出ると思いますよ」

「勇者様、魔法局デーヴァン支部支部局長のジェレールと申します。以後お見知りおき願います」

「よろしくお願いします。早速ですが、魔力値の計測をお願いしてもよろしいですか? 自分以外の方の数値を見てみたいもので」

「承知致しました」


 計測を快諾したのちに、ロスヴァールから軽く耳打ちされて目を見開いてこちらを一瞥してから俺の方へ歩いてくる。

 正確には俺の方ではなく計測器へ向かって来ていたようで、テーブルの前ですれ違い、俺はロスヴァールの横に移動する。


「勇者様の数値を伝えたら少し驚いてしまったようで。ご無礼をお詫び致します」

「いえ、気にしないでください。普通の数値じゃ無いのはわかりますので」

「正確な数値が出ないなんて普通なら機器の故障を疑いますからね。ジェレールも自分の計測で機器の故障を確かめる気でいるかも知れません」

「故障だったらそれはそれで問題ありそうですが」

「違いありません」


 ロスヴァールと二人して苦笑しながら、ジェレールの計測を眺める。

 先ほどと同じ流れで魔法陣が光り、すぐに鑑定板に数値が現れた。

 表示された数値は1,658で、ロスヴァールの説明からしてもかなりの高数値だ。魔法局というのは戦闘にも参加するような人の集まりなんだろうか。


「いや、少しばかり計測器の故障を疑っていたのですが……。流石は勇者様ですね」


 ジェレールが「故障だったとしてもそれはそれで面倒なんですが……」と呟きながらこちらへ戻ってくる。


「ありがとうございます。先程、ロスヴァールさんから伺ったところによるとジェレールさんの数値は高ランク冒険者程とか」

「そうですね。だいたいその程度だと思います」

「彼も一応ここの局長ですからね。今回の召喚も然り、自分で魔法を試したりする事も多い役職です。相応の魔法力を持っていなければ勤まりません」

「他の国ですと知識だけで同じような役職に就いている者もいますけどね」

「魔法局というのは争い事にも参加されるんですか?」

「いえ、彼らが出る事は殆どありません。研究や開発がメインですので。どうしてもという時には高ランク者を派遣する事がありますが、基本は内勤ですね」

「我々が出る時は切羽詰まっている状態の時です。今回の魔王討伐にはご助力させて頂きます」

「魔王ですか?」


 ついに召喚された目的が判明した。


「ロスヴァール様はまだ説明されていないのですか?」

「まずは勇者様に魔法陣の強化についてお話ししてからと……。これからご説明させて頂きます。その前に、勇者様のお名前をお聞きしてよろしいでしょうか」


 なんと、自己紹介もまだしていなかった。

 気を引き締めていたつもりだったが、異世界召喚に浮かれていたのかも知れない。


「立ち話もなんですので、一先ず場所を移しましょう。お茶や軽い食事などをご用意しております。こちらへ」


 俺は、ロスヴァールの後について部屋を出る。

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