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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
三章 勇者と魔王と魔族
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二十八話

 戻って来たファムルから受け取った書類を確認して、マリアナがサインする。


「はい、手続きは終わり。後はあなた達の冒険者プレートに記録するだけよ」


 自分のランクに関してもプレートに記載されているみたいだし、ランクアップできる状態かどうかも登録しておけるんだろう。

 俺達がプレートを渡すと、ファムルは登録のために再び一階へと戻っていった。


「だいぶ便利だよなあの冒険者プレート。エルの予想ではこのプレートに登録されている内容も俺の名前で管理しているだろうってことなんだけど、実際はどうなんだ?」

「多分その通りよ。詳細が一切公開されていないからはっきりとは答えられないけど」

「そうなると、俺が魔法構築を代理してなかった500年前はどうなってたんだろうな」

「そうね、昔のこと過ぎてあまり記録が残っていないのだけど、以前は偽造が多かったなんて話を聞いたことがあるわ。冒険者の登録方法が変わったんじゃないかしら」


 昔は魔術の概念が人間側には殆ど無かったみたいだし、普通に紙媒体かなんかで管理してたんだろうか。

 いや、魔術が無くても普通に〈記録(レコーダー)〉を使えばいいんだから、何人かで分担して管理してたのか? 各自管理だといくらでも誤魔化しが効きそうだしな。

 魔法構築する者を固定することで不正を減らしているって考えたら、情報の管理とかの面では魔法より魔術の方が優れているのかも知れない。


「あなた達はこの後どうするの?」

「夕方に予定があるからそれまでは適当なクエストを受けて街の周りを散歩だな」

「昨日はどうにも忙しかったからの」

「それはごめんなさいね」


「そういえば、さっきヤウメルに会ったぞ。仕事を始めるの早過ぎないか?」

「早く慣れて貰いたいもの。ギルドもそんなに余裕があるわけではないのよ」


 といった感じで俺達が適当な話をしていると、登録を終えたファムルが戻って来てプレートが返却された。


「それじゃあそろそろ行くか。

 そうだファムル、これも伝えておいた方がいいと思うから言っておくけど、俺はマジックボックスが使えるから、獲ってきた獲物とかは直接持って来られるんだ。だから、昨日のキングボアも今すぐに出せる。もしマズかったら台車かなんかで改めて持ってくるけどどうする?」

「先程途中で買い取りの話をやめたのはそういうことでしたか。それでしたら解体場に直接持って行って貰えれば問題ないと思いますが……ギルド長、どうしますか?」

「そうね、カラド(じぃ)の所に持って行って貰いなさい。マジックボックス持ちが来るって伝えておくわ」


 わざわざ「マジックボックス持ちが」と付けるってことは勇者云々って部分は伝えないということだろう。

 マジックボックスを使える者は少ないって話だし、マジックボックス持ちだと知られたくないからみたいな感じに話すんだと思う。


「わかりました。

 キングボア一体をギルドで解体するということでしたよね? 今から解体場に行きますか?」

「ああ、頼む」


 そのまま執務室を後にして、ファムルに案内されながら解体場へと向かう。


「ユウマさんが勇者でエルさんが魔王だったなんて驚きました。新人さんの割にはギルド長への対応が雑だとは思っていましたが、勇者や魔王なら当然ということですね」

「いやいや、俺は結構ちゃんと相手を敬ったりできる人間だぞ? ただ、昔のことがあるからな。丁寧に接してたのに裏切られるなんて馬鹿らしいじゃないか。

 それに、いつも通りでいいってローランに言われたからお言葉に甘えてそうさせて貰ってるんだ」

「妾は魔王だからじゃ」

「裏切りですか?」


 そういえば俺のことについては正確なことが伝わってないんだったな。

 国が勇者を裏切りましたなんて言えるわけもないから仕方がないのかも知れないが。


「そこは気にしないでくれ。聞いて面白い話でもない。

 それと、さっきマリアナも言っていたけど、俺たちのことはあまり外で話さない方がいいぞ」

「そうですね。すみませんでした」

「別に謝る必要はないけどな」


 その後は昨日のバライス山の件を話したり、ヤウメルの様子を聞いたりしながら歩を進める。

 俺達の会話が、今日もまた適当な依頼を受けて外を散歩してくるから後で何か見繕ってくれないかという内容になった頃に解体場の前に着いた。


「ここが第一解体場です。基本的にカラドさんという、ギルドの解体士の中でも古株の方が使われているらしいです。

 カラドさんに会うのは私も初めてなんですよ」


 ファムルはまだギルドに勤め初めて二日しか経っていないのだからギルド内で会ったことがない人が居てもおかしくない。

 これがベテランの受付とかだったらカラドって人が人嫌いなのかなどと疑うところだが。


「カラドさん、受付のファムルです。解体希望の冒険者さんをお連れしました」

「おう、入んな」


 ファムルが扉をノックして声を掛けると、(しわが)れた声が返ってくる。


「失礼します」


 扉を開けて中に入ったファムルに続いて、俺達も扉を(くぐ)る。

 部屋に入ってすぐに身長160センチ程で白髪の男性が立っていた。

 この人がカラドと呼ばれていた古株の解体士だろう、髪の毛や顔の皺に似合わない腕や足の筋肉がそれを物語っている。

 歳は60〜65といったところだろうか、個人的には(じぃ)と呼ばれるには微妙な感じだがこの世界の成人年齢から考えたらそうおかしくもないし、ただ単に白い髪の毛と嗄れた声からそう呼ばれているだけかも知れない。


「坊主どもがギルド長が言っていたマジックボックス持ちの冒険者か。聞いた話だと相当な量を入れられるらしいな」

「ええまぁ、他で話したりしないで貰えると助かるのですが」

「んなこたぁしねぇよ。で、何を解体したいんだ?」

「キングボアです」

「そらまたでかいもんを持って来たもんだ。それじゃ、こっちに出してくれ」


 カラドに指示された場所でマジックボックスから昨日のキングボアを取り出す。


「今日はとりあえず一頭ですが、他を自分で解体してみて無理そうだったらまた持ってくるかも知れません」

「そうか。

 解体料は素材を売った時の値段から差し引いて清算する。もし素材を売らないで解体だけって時は料金を支払って貰っているがそれで大丈夫か?」

「はい、問題ありません」

「ならキングボア一頭くらいなら今日中に解体が終わるから夕方くらいにまた来な」

「今日取りに来られない場合はどうすればいいですか?」

「素材は二、三日程度なら置いておけるが、だいたい五日を過ぎたら全部買い取りに回しちまう。物によってはもっと早い。素材が無駄になっちまうからな。全買い取りになったら料金だけを受け取ることになる。

 一部買い取りを希望するなら、先に何を買い取って何を持ち帰るか言っといて貰えれば持ち帰り分だけ残しておけるが、こっちも保管は二、三日が限度だ」

「初めから全買い取りの場合は解体しなくてもいいんじゃないですか?」

「いや、どちらにしても買い取り時は素材での買い取りになるから、自分で解体しないなら殆どの場合はギルドの解体を使うことになるな」


 自分で解体しないとどうやっても解体料がかかるってことか。

 簡単なものくらいは自分で解体できるようになっておきたいな。


「わかりました。今回は全部買い取りして貰うつもりなので、取り置きは必要ありません」

「それなら来られる時にギルドの受付で代金を受け取ってくれ。冒険者プレートで管理してるから、解体が終わった後ならいつでも受け取れる」


 プレートで管理してるってのは全買い取りだろうと、一部買い取りだろうと変わらないんだろう。とにかく、素材の保管をする場合だけは二、三日の期限があるってことだ。


「ちなみに、解体のみの場合の支払いはどうするんですか?」

「その場合も解体が終わってから受付で支払いだな。終わってからじゃないと料金が出せないからな」

「そうですか、もし良かったら解体を見せて貰ってもいいですか?」

「そう言う奴は結構いるが、見てるだけじゃ殆どわからんもんだ。解体の基本書を図書館かなんかで読んだ方がいい」


 解体の基本書なんてあるのか。

 そういや、歴史について図書館で調べてみようかなんてエルと話してたし、ついでに読みに行ってみるか。


「ありがとうございます。時間がある時に行ってみます」

「一応、本屋でも売ってるが、本は結構高いからな」


 この世界では紙というのはそこまで高いものではない。前世のように何十枚何百枚でいくらという感じではないが、市場で全く出回らないというレベルでもないのだ。質の良くないものなら銀貨1枚程度で買える。それでも、前世と比べれば結構な値段なわけだが。

 材料費がそこまで高くないのに本の値段が上がるのは単純に人件費だろう。この世界で本を印刷する技術なんて——


複写(コピー)

  自分で見た場面や文字を紙などに写す魔法。

  写しの精度は使用者の記憶や使用魔力に依存する。


——あった。

 考えている最中に魔法知識が発動するのは久しぶりだな。

 この魔法は文書のコピーだけじゃなくて写真のようなことができる魔法みたいだ。どうやって写すんだろ。あとで試してみよう。


……ま、まぁ、俺の予想は魔法知識によって完全に否定されてしまったが、後でファムルに聞いたら本が高いのは人件費が高いからで間違いないらしい。

 複写の魔法は魔力効率があまり良くないため、本を一冊生産するのにそれなりの人数が必要になるので値段が上がるんだそうだ。

 よく考えたら、記録(レコーダー)という魔法がある以上、本は魔力を使用したくないもしくは魔力が少ない人用ということになるから、そこまで重要じゃなくなってしまうんだろう。俺は、前世の癖というか何というか、紙媒体の方が好きだけど。

 ファムル曰く、解体について記録された媒体はギルドでも貸し出しているが、これは有料なうえに一つ一つの媒体に記録されている内容があまり多くなく、それらが全て個別で料金が発生するから、色々と調べるなら図書館に行った方が安く済む。とのことだ。

 知りたいことが多い時は図書館、少ない時はギルドということだな。


「どうしても無理だったり面倒だって時はギルドで解体すればいい。解体料金もそこまで高いもんじゃないからな」

「そうします」


 その後、プレートの登録やらなにやらを済ませてからカラドに軽く挨拶をして解体場を後にした。

 ファムルから「ユウマさんって本当に敬語使えるんですねー」とか言われながら受付のあるギルドホールへと戻り、外を散歩するための適当な依頼を見繕って貰う。俺は結構礼儀正しいんだって。


「ランクアップのことを考えると討伐系の依頼を受けた方がいいと思います。試験を受ける資格を得ていることはそのうち知られますし、その時に薬草採取ばかりやってたとなると変に思われますから」

「せっかくなら手応えのあるものをやりたいの。強い魔物が出て手に負えんなどという依頼はないかの」

「そんなん受けたらそれこそ目立つだろ。

 今日はただの散歩だからな。ある程度ランクが上がったらそういう依頼も受けることになると思うが」

「今日はどちらに行く予定ですか?」

「東門から南門までは行ったから、北か西だな」

「それでしたら……」


 ファムルがカウンターの奥から依頼の張り紙を取り出してくる。


「西の洞窟でコボルトの群れが発生していて数人の商人が被害を受けているため、討伐の依頼が商人ギルドから出ています。

 昨日バライス山が封鎖されて冒険者が入れなかった影響で今日はそちらに人が集まってしまって、依頼を受ける冒険者がおらず、残ってしまっていたものですが」

「そういえば魔素溜りの調査はどうなったんだ?」

「今朝早くにBランク冒険者のパーティーを三組派遣しています。問題がなければ二鐘前には封鎖が解除されますね。

 昨日の封鎖で依頼が達成できなかった冒険者には依頼の期間を一日伸ばすという対応を取っているので、今は結構な人数の冒険者が封鎖の解除待ちをしてると思いますよ」


 昨日の時点でそこそこの人数が入り口に並んでいたし、そこに今日が依頼の期限の冒険者が増えるわけだから混雑してるだろうな。


「とりあえずそのコボルト討伐の依頼を受けるか」

「妾は何でも良いぞ、手応えのある魔物が出んのならどの依頼も大差ない」

「では依頼の受注手続きをしますのでプレートを出してください」


 俺達はプレートをファムルに渡して依頼の登録をして貰う。


「西の洞窟、名前は暗がりの洞窟と言うのですが、そちらに向かう時は南門から外を回って行くのをおすすめします」

「ああ、西門は行ったことないからな。その方が迷わなくていいか」


 行ったことない場所って結構迷うんだよな。この世界だと地図とかも殆ど無いし。


「初めて行かれるのでしたらそういった意味でも行ったことのある門から出た方が楽なのですし、南門からの方が近いというのもありますが、それとは別に、この街の西区は貧民街なのであまり治安が良くないんです」


 所謂(いわゆる)スラム街ってやつか。ゴロツキやらなんやらが(たむろ)してる感じの。


「それは面白そうな感じじゃの」

「絡まれても俺らがどうにかされるとも思わんしな」

「いえ、確かにお二人をどうにかできるような者はいないと思いますが、ヤウメルちゃんのような子を見て見ぬ振りができないのであれば近づかない方がいいですよ」

「「ぐ……」」


 そうか、貧民街だもんな、そういう子がいて当たり前だよな。


「ヤウメルちゃんのこともありましたし、お二人がとてもお優しいのはわかりますが、全てを救えるわけではありません。ギルドでもそう何人も受け入れられませんし」

「まぁ、受け入れができるなら既に貧民街なんて無くなってるよな……」

「そういうことです」

「嫌なもんじゃの」


 ファムルの言うことは理解できる。理解できるのだが、エルの言う通り嫌なものだ。


「申し訳ありません」

「いや、謝ることはない。俺達の考えが甘いだけだ」

「妾の国でもそういうことはあったしの。どうしても対処しきれんものがあるというのはわかっておるが、国を治めておった身としてはちと堪える」


 前世でもそういったことがなかった訳ではないが、だからといってそう簡単に慣れるものでもない。


「避けて通るというのも嫌なものは見ないようにするってだけで、問題を先送りにしているだけのような気もするが……」

「そうじゃな、妾達が面倒を見られる訳でもないし、そうするしかないのかも知れんな」


 俺達はファムルの忠告通り別の門から西の洞窟に行くことにした。


 依頼の登録が終わり、プレートを受け取ってから俺達はギルドを後にする。

 ギルドを出る際に一鐘(いっしょう)が鳴っていたので今はだいたい朝の九時くらいだ。バロン達との約束は鎮めの鐘が鳴る頃だから約九時間程時間が空いていることになる。コボルトの群れをすぐに見つけられるか次第だが、時間内に依頼を済ませられるだろう。

 まぁ、依頼の期限は三日後になっていたから今日達成できなくても問題はない。達成までの間に被害が出たりしたら目覚めは悪いが、既にコボルトが出ることはわかっているはずだからそれは自己責任だ。


 俺達は適当に会話をしながら昨日と同じ南門を抜け、そのまま昨日とは逆方向に歩いて行った。

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