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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
三章 勇者と魔王と魔族
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二十五話

 立ち込める砂埃に人影が浮かび上がる。


「貴様、何故生きている!」


 砂埃の中から出て来たのはエルだ。


「何故もなにもないわ。

 とっておきを出すような感じじゃったから期待してみれば、魔術剣じゃと? せめて魔法を使わんか」

「何故生きているのかと聞いているんだ! あの攻撃を()けたというのか!?」

「避ける? (たわ)けたことをぬかすな。あんなもの、避ける必要もないわ」


 ちなみに、俺もちゃんと生きている。巻き添いを食わないように剣で受けようとして間に合わなかったんだが、そのまま攻撃を食らっても別になんともなかった。多分、ステータス差がありすぎるんだろう。魔術って魔法より威力落ちるらしいし。

 ただ、エルが言っているのはどうやらそういうことではないらしく……。


「魔法の構築を頼んどる相手にその魔法を使って効くわけがなかろう」


 そう、ヴァイリスが呪文を唱える時に使っていたエルフェルタというのはエルの本名だ。大魔王ってのはよくわからんが、ただの勇者だった俺が英雄などと呼ばれてるのと同じ感じだろう。

 意識して魔法構築を手伝っているわけではないとはいえ、エルの力を借りてエルを倒そうなんて、行動自体が矛盾している。


「そもそも、妾を倒そうというのに他人の力を借りようなんぞと考えるのが間違っておるのじゃ。己の力でかかって来んか。借りるとしても、せめて実際に妾を倒した勇者の方から借りんか」


 どっちにしても結果は変わらなそうだけどな。俺が今の攻撃で無傷なわけだし。


「貴様のような小娘が初代魔王様を騙るとは、我等魔族を馬鹿にするのも大概しろ。今の攻撃をどのように避けたかは知らんが、それならば全てを斬撃で埋め尽くすだけだ。上にも下にも避けられない程にな!」


 ヴァイリスはもう一度先程の攻撃を繰り出そうと居合のような構えを取る。


「だいたい、その攻撃はなんじゃ」


 呪文を唱え始めるよりも早くエルがヴァイリスの懐に滑り込み、剣を握っている右手に手刀を叩き込んだ。


「ぐあっ」

「そういう時間がかかる攻撃というのは相手の動きを止めてからするものじゃ。相手が待つことを前提にして使うこと自体間違っとる」


 手刀を受けて剣を取り落としたヴァイリスにエルが告げる。

 そうだよな、溜め攻撃って相手の体勢を崩すか自分の守りを固めてから使うもんだよな。戦隊ヒーローものじゃあるまいし、相手が待ってくれなきゃ発動できない攻撃なんて隙ができるだけだ。


「つまらん、ああも大口を叩いておいてこの程度か。魔族も落ちたものだ」

「貴様ぁ……」

「もうよい。寝とれ。魔法も使えんようじゃ話にならん」


——〈睡眠(スリープ)


 ヴァイリスはエルの睡眠魔法を受けてその場に倒れこむ。

 一応、身動きが取れなくなったからエルの勝ちって事でいいな。ヴァイリスが納得するかはわからんが、ルールに同意もしてたし。


「魔術局を見た時に魔族も魔術が主体になっておるかも知れんと話してはおったが……雑兵(ぞうひょう)とはいえなんの策もなく自信満々に魔術を使ってくるような状態とは。嘆かわしいの」


 エルが額に手を当ててため息をつく。

 嘆いてるとこ悪いが、間違いは正してやらんとな。


「そいつ、王国魔族団(おうこくまぞくだん)第五番隊の隊長とか言ってたぞ。五番隊ってのがどんなもんかわからんが、一応雑兵じゃないんじゃないか?」

「なんじゃと……これが隊長……?」


 魔法も使えん奴が隊長……とブツブツ言い出すエル。


「まぁ、こいつは剣が主体らしいから仕方ないんじゃないか?

 とにかく、縛り上げて色々聞き出そう。今回の騒動の元凶がこいつなのかハッキリさせておかないといけないし、なんでこんな事をしたのかも知りたいしな」

「あ、ああ、そうじゃな」


 俺はマジックボックスから盗賊のこともあって買っておいたロープを取り出し、近くの木にヴァイリスをぐるぐると縛り付ける。


「これでよし」

「では起こすかの」


——〈気付け(ケアー)


「……はっ! ここは……なにが……」


 急に眠らされて混乱しているらしい。


「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」

「貴様は! どういうことだ!」

「どういうことも何も、お前はエルに眠らされて身動きが取れなくなってたから勝負は終了。さっきも言った通り聞きたいことがあるんで、逃げないように縛ってから起こしたんだ」

「眠らされ……?」

「状況が物語っておるじゃろ。過程はどうあれお主は今、木に縛り付けられとるんじゃからな」


 だんだんと状況を飲み込めてきたのか、ロープやら周囲の状況やらに目を向けた後にその目を伏せる。


「聞きたいことというのはなんだ」

「なんだ、思ったより素直だな。もっとこう「卑怯な手を使ったんだろ」とか「一思いに殺せ」とか喚くかと思ってた」

「戦場で卑怯だなんだと喚くなど恥の上塗りだ。それに、生かすか殺すかは自由だという約束だったからな。

 ただし、答えられない内容に関しては話さん。自害しないという約束はしていないからな、無理に聞き出すというのならこの場で自害する」


 随分と律儀な魔族さんだな。隊長ともなるとそういう人格的な部分も重要になるのか?


「なら、まずは今回のキングボアの件について聞こうか。

 この騒動はお前が一人で起こしたのか?」

「そうだ」

「どうやった」

「答えられん」

「んー、魔素溜りを作っているか、ならどうだ? 魔族が魔物を強制的に進化させられるというのは聞いてるが、もし魔素溜りを作り出してるんだとすると面倒なんだ」

「……魔物の強制強化については知っていたのか。ならば答えてもいいだろう。

 魔素溜りを作ったわけではない。お前が今言った魔物を強制的に進化する魔術を使ったものだ。魔術の詳細に関しては答えられん」

「わかった」


 実はこの魔物の強制進化に関してはもうわかっている。

 というか、この話を聞いた時に魔法知識から〈魔力吸収(マジカルアブソプション)〉や〈魔力付与(マジカルエンチャント)〉に近い術式だという情報が貰えたのだ。魔力の付与ではなく注入、魔力吸収に魔力付与の概念を混ぜて逆作用させた感じのものらしい。


「じゃあ、次はこの騒動を起こした理由を聞かせてくれるか?」

「答えられん」

「ならエルキール魔族王国について話せる範囲でいいから教えてくれ」

「魔王カルアナ・エルキールが統治している魔族の国だ」


 魔王を呼び捨てか。訳ありっぽいな。


「お前はそこの王国魔族団の隊長なんだろ? そんなやつがなんでこんな使いっ走りみたいな事をしてんだ?」

「答えられん」


 答えられること少ないなー。

 まぁ、こいつには命を懸けてでも秘密を守らなければならないような相手がいて、それが今の魔王じゃないってことはわかったな。嘘を付いていなければだが。


「あとは何か聞いといた方がいいことあるか?」

「そうじゃのー……のう、お主は隊長らしいの」

「第五番隊の隊長だ」

「王国魔族団とやらの隊長は皆お主程度の実力なのかの?」

「ぐ……俺はかなり下の方だ。第五番隊は新人育成をするための隊だからな」


 さらりと傷に塩を塗るな。悪魔だ。……いや魔王か。


「エル、他に聞きたいことはあるか?」

「んー、エルキール魔族王国というのはどこにあるんじゃ?」

「知らないのか? 人間供との国交があるはずだが」

「こっちに来たのは久しぶりだからな」


 やはり、エルが魔王だというのは信じていないらしい。

 魔族と人間の交流か、こいつがエルに対して言っていた内容からして、そのあたりが魔王を呼び捨てにしてる理由だろう。


「冒険者ギルドで聞け」

「わかった。じゃ、もう無いな?」

「そうじゃの」


「死ぬ前に聞きたい。貴様らは何者だ?」

「何者ね……魔王と勇者だって言っても信じないだろ?」

「エルフェルタ様は500年前に勇者に封印されている。人間である勇者が500年も生きている筈もないし、もし生きてたとしてもエルフェルタ様が勇者などと共にいる筈がない」


 え、俺って死んだ事になってんの?

 そういや銅像に「命と引き換えに」とか書かれてたな。あれって自分が封印の入れ物になってたことの比喩じゃなくて本当の意味で死んだってことだったのか。


(お主が封印から出てきて報復を始めた時に、相手が勇者じゃと誰も戦えんからの)

(あー、確かに、英雄と讃えてる相手と戦うのは難しいか)


 俺を殺す為の大義名分を作ってたってのはちょっとしょげるが、脅しが効きすぎてたって事で許してやろう。


「まぁ、いいや。

 そうなると俺達はただの冒険者だ。他に説明のしようがない」

「そうか」

「それと、一つ訂正しておくが、俺達はお前を殺すつもりはない」

「何故だ? 生かしておく必要はないだろ」

「そうじゃのー、妾達は弱者をいたぶる趣味を持っていないからかの」


 それ言われたのまだ根に持ってたのか。ヴァイリスの歯がギリッと音をたてた。そのまま歯が砕けてしまいそうな音だ。入れ歯は辛いぞ。


「意味もなく殺す趣味がないってのも理由の半分としては間違っていない。ただ、このまま帰してまた同じようなことをされると面倒だから、お前には偽装魔法を解いて実力を少し見せておく。つまり、俺達に手を出すなという忠告だ。お前を生かしておくもう半分の理由は仲間にこのことを伝えて貰うためだ」


 そう言ってから俺は魔法を唱える。


——〈土の牢獄(アースプリズン)


 土の壁を作ってドーム状に周りを囲う魔法だ。高さは山の麓から見えないギリギリの高さだが、広さをかなり広めに作っておいた。


「魔法くらいなら魔族にも使える者はいる」

「そうじゃない、これは準備だ」


 これは実力を示す為の魔法ではなく、自分達を囲うドームを作る為だけのものだ。

 俺は、できたドームに封印の間にあったものと同じ封印を施す。これで、どんな魔法を使っても周りからは感知されない。


「お前は魔力感知はできるか?」

「多少ならな」

「じゃあ、まずは俺達の偽装魔法を解除するから見とけよ」


 エルに目配せをして二人共偽装を解除する。


「確かに、かなり魔力は高いようだが、その程度では……」


 測りきれないのか? それとも本当に俺らよりも強いやつがこいつの仲間にいるのか?


「エル、あれやってくれ」

「では久々にちと強めにいくかの。ちゃんと守ってやるんじゃぞ」


 そう言うとエルの掌から炎が立ち昇る。エルの十八番(おはこ)の黒炎だ。

 どんどん魔力を注ぎ、黒炎は天井ギリギリまで膨らんでいった。ゴロツキ冒険者達を脅した時の花火とは違い、ちゃんと魔力が込められているので、俺が守ってやらなければヴァイリスは一瞬で灰になってしまうだろう。


「いいか、もしお前らがちょっかいを出して来たら容赦なく殺す。話がしたいなら礼儀を持って接して来い。仲間達にそう伝えてくれ」

「わ、わかった。伝える。伝えるからそれを消してくれ」

「それだと俺の実力を示せてないだろ? ちゃんと守ってやるから見とけよー」


 俺の言葉を合図にエルが黒炎をこちらに向けて放つ。

 結果は言うまでもない。全盛期のエルでも壊せなかった俺の防壁が今のエルに壊せるはずもなく、難なく受け切った。地面に衝撃が行かないように受けるのがちょっと大変だったけど。


「ふう、やはりちゃんと力を使えると気持ち良いの。まだ魔力が完全とは言えんし、全力を出したわけじゃないが……まぁ満足じゃな」

「それは良かった。じゃ、ヴァイリスを起こそう」


 俺が黒炎を受けてる最中にショックで気絶してしまっていたヴァイリスを気付け魔法で起こす。


「起きたか? 実力に関してはこんなもんだ。一応言っておくと、これでも全力じゃないからな。信じるかは知らんが」

「先程のでも十分に脅威だ。それに、あれを守りきると言うことはお前はあれ以上の魔力を持っていると言うことになる」

「まぁ、俺は見ての通り平和主義者だ。ただし無抵抗主義者じゃないって事だけを理解しといて貰えればいい」


 言葉の裏に「防御だけじゃなくて攻撃もちゃんとできるよ」という意味を込めたつもりだ。伝わっているといいが。

 ま、そのままの意味で取って貰っても構わないけど。


「じゃ、用事は済んだから元に戻すか」


 黒炎の被害はないが、このドームをそのままにしておくわけにはいかない。俺はドームに掛けてある封印を解いてから、土の牢獄を解除する。もちろん、俺もエルも偽装魔法をかけ直してある。


「おっと、ロープを切るの忘れてた。すまんな」


 全ての作業が終わってからヴァイリスに巻き付けていたロープを切る。

 せめて実力を示すあたりで解いてやるべきだった。


「伝言頼んだぞ」

「わかった」


 そう言うとヴァイリスは足早に去って行く。


「あっちってリンド魔族王国があった方じゃないか?」

「ここからあちらの方角じゃと妾の国は通り過ぎそうじゃの。もっと奥、デーヴァンから見て北東の方に例のエルキール魔族王国かあやつの本拠地があるんじゃないかの」


 国の場所はギルドで聞けと言いつつ方角を教えてくれるとは、最後まで素直なやつだったな。


「俺達も帰るか」

「そろそろ日も暮れそうじゃしの」


 日の位置からして、だいたい十六〜十七時くらいだろうか。なんだかんだやっててだいぶ日が傾いてきている。

 日が暮れる前に街に戻りたいので直ぐに下山を始めた。


「そういや、角紅瞳(つのあかめ)族に関して聞かなかったな」

「それなら妾がなんとなくわかる。

 妾の種族は紅瞳(あかめ)族というての、見ての通り紅の眼を持って産まれるのが特徴じゃ。そして、魔法に()けた者が生まれやすいという特徴も持っておる。

 そして、500年前には角鬼(かっき)族という種族もおっての、角鬼は妾達紅瞳と反対で身体的な面が長けておる。角の数で一角(ひとかく)二角(ふたかく)三角(みかく)といった風に格付けしておった。実際には角の数で力の差などなかったがの。

 多分、あやつは紅瞳族と角鬼族のハーフじゃろ。角紅瞳という新しい種族になっとるところを見るにそれなりの数がおるようじゃが、紅瞳族や角鬼族はもうおらんのかの」


 エルは少し遠い眼をしながらも歩を進める。

 俺には想像もできないが、自分の種族が滅んでしまっているかもしれないというのはやはり悲しいのだろう。


「今までの話からして、紅瞳族ってのは長命な種族なんだろ? そう簡単にいなくなったりはしなそうだけどな」

「……そうじゃな」


 その後は二人で、今日の夕飯は何だろうかとか明日は何をするかなどと取り留めのない話をしながら街へと戻った。

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