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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
三章 勇者と魔王と魔族
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二十四話

「ないわ馬鹿者!」


 戻って早々エルに罵倒された。

 少女からの罵倒は一部の界隈で喜ぶ人がいそうだが、俺にそんな趣味はない。


「なんのことだ。馬鹿呼ばわりされることしたか?」

「妾はまだ子を成したりしとらんと言っとるんじゃ! 魔族の寿命は長いんじゃぞ! 妾はまだ子を成すような歳ではない!」


 あー、どうも忘れがちだが俺の考えてることってエルに筒抜けなんだったな。

 その割にはエル側の考えがわからないのは何故だろう。意識すると「なんとなく怒ってるかなー」くらいの感覚が伝わって来るって程度なんだが。

 入ってる側と入られてる側の違いか?

 封印の事を調べるうえでも要検証かも知れない。今すぐにってわけでもないけど。


「聞いてたんならいつもみたいに話しかけてくりゃ良かったのに」

「会話まで聞こえてた訳ではなかったのでな。流れは分かっとったが、どうせこちらに戻ってくるみたいじゃったからの。

 それで待っとったらお主が失礼な事を考えとるもんじゃからのー」

「悪かった悪かった。まだピチピチの20歳だもんな。俺のこの身体より年上だけどな」

「うるさいわ。

 とはいえ、戻って来たのは褒めてやろう。あの時もだいぶ失礼な事を考えておったが、まぁそこは大目に見てやるかの」

「それはどうも。で、キングボアの解体は終わってるのか?」


 さっきの魔族にすぐ戻ると言ってしまった手前、キングボアの解体は終わっていて欲しいものだ。


「ああ、もう終わるようじゃぞ。三人がかりでテキパキ解体しとったな」

「他の魔物とかは来なかったか?」

「血の匂いにつられて何体か来とったが、どれもゴブリンやらコボルトやらで雑魚ばかりじゃったから斥候の者が対処しておった」


 キングボアを倒せる程度の実力を持ったパーティーのメンバーなのだから、流石にゴブリンやコボルトに遅れをとるようなことはないか。


「じゃあ、大丈夫だな。もう動けるか聞いてくる」


 エルにそう告げて冒険者達の方へと向かう。


「解体は終わったか?」

「ああ、待たせてすまなかったな。とりあえず持って帰れるだけの素材は取ったよ。残りは燃やしてしまうつもりだが、あんた達も素材取るか? 余り物で悪いが、まだ十分肉も残ってるし、ちょっと勿体無いから見回りをして貰ったお礼にでも持ってってくれ」

「気持ちはありがたいが、俺達はまだ他の冒険者がいないか確かめに行かなきゃいけないからな。荷物を増やせない」

「そうか、じゃあ燃やしちまおう。カリナ頼む」


 男性がそう言うと後ろに立っていた魔術師が呪文を唱え始める。


——〈炎よ我が魔力を糧として勇者ヤシオの名の下に顕現せよ〉

——〈火炎(フレイム)


 呪文が終わると、魔術師の持つ杖から(てのひら)程の大きさの炎が生まれてキングボアの残骸を燃やし始める。


「あとは燃えるまで待つだけだな。皆んな、肉と素材をまとめて街に戻る準備をするぞ」


 そう言って冒険者達は各々ロープや布を取り出して素材をまとめていく。


(魔術の呪文ってちゃんと聞いたの初めてだけど、自分の名前が入ってるのはなんかこう、むず痒くなるな)

(そうかの? 妾はずっと使われておったが気にならんかったの)


 そういや昔の魔族はエルに魔法構築を頼んでたんだっけ。


(にしても燃えるの遅いな。料理でもしてるみたいだ)

(これでは燃え尽きる前に魔物を引き付けそうじゃの)


 エルの言う通り、あたりには肉の焼けたいい匂いが漂っている。


(仕方ない)

「準備ができたら山を出ちゃってくれ。火の後処理は俺達でやっておく」

「いいのか?」

「どうせこれが済んだらすぐに他の冒険者を探しに行かなきゃいけないからな、こちらで処理した方が手っ取り早い」

「じゃあ頼んだ。皆んな、行こう」


 冒険者達はまとめ終わった肉や素材を背負って、山を降りる準備を始める。


「色々すまなかったな。俺の名前はスクライムだ、また縁があったらよろしくな」

「俺はプレートを見てるから知ってるだろうけど、ユウマだ。気を付けて戻れよ」

「これでもCランク冒険者だからな、流石にEランクに心配される程弱くはないさ」


 プレートに冒険者ランクも書かれてるのか。知らなかった。


「まぁ、こんな依頼をギルドから直接受けるくらいだからただのEランク冒険者じゃないんだろうけどな」

「そんなことない。普通の冒険者だ。今回のは探索が得意だからってだけだよ」

「そうか、じゃあまたな」

「ああ」


 準備を終えたスクライム達はそう言って軽く手を振り、山を降りて行く。


「よし、じゃあ、とっとと燃やしちまおう」

「そうじゃな」


 エルの探索魔法でスクライム達が戻って来ないか確認して貰いながら、俺は燃えているキングボアに対して〈火炎〉の魔法を唱える。先程の魔術師が使ったのと同じ魔法だが、込めている魔力量が違う。

 既に燃えている死体が更に強く燃え上がり、数瞬後の炎が消えた頃には灰のみが残されていた。


「威力が落ちるとは言ってたが、あれは弱すぎじゃないか?」

「魔法と同様、使う者にもよって違ってくる。あの者はどちらかというと回復系が得意のようじゃったしあんなもんじゃろ」


 そんな事を話しながら、俺達はその場を離れて山頂へと歩を進める。もちろん、一直線に山頂へ向かったわけではなく、山の中を回るようにして冒険者がいないか確認しつつ進んでいる。

 結局、山頂に着くまでの間に三組の冒険者と二体のキングボアに遭遇した。

 冒険者は魔物と遭遇したりしていなかったので、マリアナに貰った依頼書を見せて山を降りて貰えたし、キングボアの方も食料が増えただけだ。


「お主のマジックボックスは容量が大きいの。あとどのくらい入るんじゃ?」

「わからん、入れられる大きさも量も調べようとはしたんだが上限が見えなかった。一応、地面に繋がっているものは収納できないって制限はあるみたいだけど」


 自分で調べた時は家や木などの地面に直結してるような状態にある物は収納できなかった。木に関しては切り倒したら収納できたので、地面に埋まってると対象外になるのだろう。

 あとは、生物は収納できないという事も分かっている。ネズミで試そうとしたが収納できなかったのだ。その割には植物は収納できるのだから不思議だ。ちなみに、結果が怖いので人間では試していない。


「中に入れとけば腐ったりとかもしないみたいだ。500年前に入れた果物なんかがそのままだった。そもそもあの空間で物が劣化するのかわからないけど」

「そこまで高性能じゃと既存のマジックボックスとは全く別物じゃの。魔族軍にいた者が使っとったやつはキングボアくらいの大きさの物が二個も入れば性能がいいと言われておったし、劣化も一ヶ月程遅らせる程度じゃった」

「スキルで表示されてないからこれも普通の魔法のはずだけどな。

 まぁ、あれだ、神様ってすごいな」


 正直、この世界に来てから魔法だとかなんだとかって驚くことが多いんだが、自分の能力に関しては神様すげーで終わらせられるから楽でいい。


「さて、そろそろ山頂付近だが、あいつはどこにいるんだ?」

「開けた場所で待ってるとか言っておったのじゃろ?」

「そうなんだが……お、それっぽい所があるぞ」


 もうすぐ山の頂上に着くかといったところで一角だけ木のない場所がある。まるで山が円形脱毛症にかかったかのような状態だ。

 エルの探索魔法は、相手が魔法の探知が得意な可能性もあるので念のために少し前から切ってある。

 木の枝を避けつつ広場の方へ向かうと、人影が見えてきた。


「逃げずにやってきたか。随分と時間がかかったな」

「すまんすまん、邪魔が入らないように冒険者を山から追い出してたんだ」


 理由はともかく行動では嘘をついていない。冒険者を山から出すのに多少時間がかかったのは事実だ。


「まぁ、いいだろう。それで、連れというのはその小娘か」

「そうだ。こいつに見覚えはないか?」

「知らん。多少魔力が高いようだが、貴様が言うようにキングボアを一人で倒せる程とは思えんな」


 魔族側でも魔王の容姿は語り継がれてないのだろうか。


(主要な者以外とはあまり顔を合わせておらんかったからの。この見た目じゃと軍の士気を上げる事もできん)


 見た目はただの女の子だから仕方なくってことか。それで武功だけが広まって、話についた尾ひれが色んな形になってエルの見た目を飾り立ててるのかもしれない。俺の銅像も凄いことになってたしな。


「知らないならいいんだ。一応、こいつも魔族だから知ってるかと思っただけだし」

「ふん、人間風情と共にいる者なぞを魔族とは認めん。人に付いた裏切り者の小娘如きが魔族を名乗るなど……恥を知れ」

「なんじゃと……?」


 ヴァイリスの言葉を受けたエルの雰囲気が一変した。

 500年前俺と対峙した時のようにエルの周りからドス黒いオーラが噴き出て、瞳が真紅に輝く。


「小僧、今妾のことを魔族と認めんと、裏切り者じゃとそう言うたのか?」

「見たところ俺と同じ角紅瞳(つのあかめ)族のようだが、(つの)も生えていない低級が粋がるな。二角(にかく)の俺に勝てるわけがない。引っ込んでいろ」


 角紅瞳族? 初めて聞く言葉だ。話の流れからしてエル達の種族名なんだろうけど、ヴァイリスの言う通りエルにはツノが生えてない。ヴァイリスの勘違いなのか、エルにもこれから角が生えてくるのか。

 エルに角……ちょっとやだな。


「おい、そこの人間、連れを呼びに行くのを待ってやったら俺と一騎打ちをするという話だった筈だ。さっさと戦いを始めようじゃないか」

「小僧……舐めた口を利いてくれるの。

 ユウマ、お主は下がっておれ。ちとこの小僧に口の利き方というものをわからせてやらねばならんようじゃ」

「小娘に興味はない。弱者をいたぶる趣味はないんでな」

「なんじゃ、その小娘に負けるのが怖いのかの? 二角じゃかなんじゃか知らんが、低級呼ばわりした相手に負けてしもうてはお家に帰ってママに何と言ったらいいか分からんからのー。

 それとも負けたらママに泣きついて慰めて貰うのかの?」

「なんだと?」


 お、ヴァイリスとかいう魔族の額に青筋が立ってる。なんかプライド高そうな感じだったもんなー。

 エルはまだ偽装魔法を解いてないから実力も分からないだろうし、本当に自分より格下だと思っている相手から馬鹿にされたわけだから、そら怒るだろう。


「ヴァイリスだっけ? さっきも言ったけど、こいつも結構強いから先に戦ってみたらどうだ。というか、こいつに勝てなきゃ俺にも勝てないと思うぞ」


 この状態でエルから獲物を奪ったりしたら後が怖い。

 それに、ヴァイリスの様子からして俺からもエルとの戦いを促せば……。


「ならば相手をしてやろう。準備運動くらいにはなるだろうしな」


 乗ってくるよな。

 それでも俺と戦いたいとか言い出したら流石にどうしようもない。


「じゃあ、エルと戦ってからその後に俺とってことで。ちゃんと俺とやる前に回復する余裕はやるからな。お前みたいなのは万全の状態でやれなきゃ満足しないだろ」

「低級なんぞに傷付けられるとは思えんがな。少しくらいは楽しませて貰いたいが、どうせ一瞬で終わってしまうだろう。

 戦う準備をしておくんだな人間」

「殺す気でやらないと死ぬから気を付けろよー」


 最後のはもちろんヴァイリスに対しての言葉だが、ちゃんと理解してるだろうか。エルに対して仲間からの警告か激励だとか思ってそうだな。

 ん? なんかエルがすっごいやる気になってる。


(おい、さっきのはエルに言ったんじゃないぞ、あの魔族に言ったんだからな。殺すなよ)

(わかっておる。久々に魔族と手合わせをするんじゃ、水を差すでない)


 わかってるならいいが。こいつには色々聞きたいこともあるから、ちゃんと生かしておいて欲しい。


「とりあえずルール的なものを決めておこう。

 時間は無制限。どちらかが死んだ時点、もしくは降参するか身動きが取れなくなった時点で終了。ただし、降参してようが身動きが取れなかろうが相手を殺すのは自由だ。

 降参や身動きが取れなくなった場合ってのは一応そういうルールにしとかないと、殺さなくてもいいって思った時にも殺すまで争いをやめられないからだな。殺してもいい、殺さなくてもいいって方が自由が利いていいだろ」

「下賎な人間らしい甘っちょろい考え方をするものだ。しかし、絶対に殺すなと言わなかっただけ評価してやろう。そのルールで受けてやる」

「妾も異存はない」


 正直、殺すまでってルールだと魔力体のエルがかなり有利なんだけどな。死なないし。


「よし、じゃあ、殺し合いにゴングはいらないだろ」

「ゴングとはなんだ?」

「ああ、わるい、俺の生まれた国で始まりの合図として使われてた物だ。開始の挨拶はいらないだろってこと。適当に始めちゃってくれ」


 結局俺の言葉が開始の合図になったのかヴァイリスが剣を構える。


「なかなか良さそうな剣ではないか、ほれ、攻撃して来て良いぞ」

「元よりそのつもりだ。すぐに終わらせてやる」


 そう言うと同時にヴァイリスの姿が消えた。

 正確には消えたように見える程のスピードでエルの背後に回ったのだ。


「終わりだ」


「何がじゃ?」


 エルの首を狙った横薙ぎは軽々と避けられてしまう。まぁ、本当に消えたわけでもないし、目で追えない速さでもなかったから避けられないわけがないんだが。


「せっかく背後を取ったというのに剣を振る前に声をあげてしまっては意味がないの」

「ちっ、避けられたか。だが俺の俊速の剣は一太刀で終わりではない」


 ヴァイリスは言葉通り横薙ぎに振られた剣を切り返し、それが避けられたら今度は足を狙うように下段の横薙ぎ、腕を狙った切り上げ、胴に向けての突き、と身体の各所を狙った剣撃が繰り出す。

 全てを紙一重でスルリと避けているエルと合わせて見ていると剣舞を舞っているかのようだ。


「ふむ、流石にゴロツキの剣とは鋭さが違うようじゃが、届かんの」

「動きは悪くない、ならばこれはどうだ」


 一度エルとの距離を開け、剣を体の横に水平で構え、俺と戦ってた時に使おうとしていた溜め攻撃のような体勢に入る。剣に左手を添えるようにして、まるで居合を使おうとしているような体勢だ。


「この魔術剣は速さも範囲も先程とは大違いだ。避けられるものなら避けてみろ」


 魔術剣! 少年心をくすぐられる言葉だ。

 ヴァイリスが呪文を唱え始め、剣に添えた左手が淡く光を放つ。


——〈我が魔力を糧とし大魔王エルフェルタの名の下に我が剣に全てを切り裂く力を与え給え〉

——〈空間斬(くうかんざん)


 ヴァイリスが構えていた剣を振るうと、その剣筋に沿って真空波がエルに襲いかかる。言ってみれば飛ぶ斬撃のような感じだ。

 というか、エルの後ろには俺もいるんだが。このままじゃ巻き込まれ——


 空間斬は先に進む程に範囲を広げ、ヴァイリスの目の前の木々が扇状に切り開かれる。ズンっと木々が倒れる音と共に砂埃が辺りに舞った。


「あの人間も殺してしまったか。仕方ない、下級魔族ごときと戯れているようなやつだ。実力も知れるというも——」


「つまらんな」

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