二十話
「ちょ、ちょっと待ってください」
冒険者ギルドを出ようとした俺達をファムルが慌てて呼び止める。
「なんじゃ?」
「どうかしたか?」
「いえ、その、お二人ともこれから街の外に行くんですよね?」
「そうだが」
「その格好でですか?」
なんだ? 街の外に出るんだからお出かけ用の服装にしろってことか?
(装備のことじゃろ)
(わかってる。冗談だ)
確かに、マジックボックスに仕舞っている封印前の装備を出して使うわけにもいかないから、外には今着ている普段着で出ることになって、傍から見れば俺達はただの村人AとBにしか見えないだろう。
ファムルが心配するのもわかるが……。
(俺達をどうにかできる魔物がいるとも思えないんだけどな)
(マリアナのやつファムルに全く説明しとらんようじゃの)
事情を知る人間は出来る限り少ない方がいいのは確かだけど、受付の担当が全く何も知らされてないってのはちょっと不便じゃないか? マリアナなりの考えがあるんだろうか。
とりあえずここは話を合わせておけばいいか。
「そうだな、装備を揃えてからの方がいいか。近くに安い防具を扱ってる店はあるか?」
「ギルドの近くですとあまり安い物は取り扱っていません。ちょっと歩きますが東門に向かう途中に手頃な武器や防具を扱ってる店がありますよ」
ファムルから店の場所を聞いて改めてギルドを後にする。
「なんか結構お金使わされるな」
「やはり早めに金策を考えておいた方が良さそうじゃの」
こんなことなら冒険者ランクをもう少し上で登録して貰えば良かった。低ランクだとあまり実入りのいいクエストは受けられなそうだしな。他の方法を考えるのもいいけど、商人とかはちょっと面倒そうだし。
二人で今後の生活費を稼ぐ方法などを考えながらしばらく歩くと、教えて貰った装備品店に到着した。
「東の武具店か、ちょっと寂れてる感じがするが」
「安く済ますにはこういう所の方がいいんじゃろ」
俺達は、名前の彫られた看板と外観を確認しながら店の扉を潜る。
「いらっしゃい」
「どうも、二人分の武器と防具が欲しいんだが」
「冒険者か、予算はいくらくらいだ?」
予算か……一応、指輪と旧金貨の代金がまだ金貨50枚程残っているけど、今後のことも考えたら不要な装備にはあまりお金を掛けたくないな。出来る限り節約しておきたいところだ。
「わるいが、あまり高くない物がいい。防御力の高さよりも着心地や動きやすさを重視したい」
正直、防御力はいらないって防具として矛盾してる気もするが。
「そういう物はあるか?」
「こんな店だから安く済ませたいって輩はよく来るが、防御力もいらねぇのか?」
「ああ。動きやすくて他の奴に変に思われないような見た目なら防御力は気にしない」
「俺は別に構わねぇが……ちょっと待ってろ」
そう言って店主が裏から持ってきた装備は見た目は普通の防具だった。
いや、むしろかなりしっかりした作りに見える。
「これは見た目こそ良い物に見えるが、素材に難があってな。防御力は普段着よりは多少マシって程度だ。
昔俺が酒に酔った勢いで買い取っちまったもんで、防具として殆ど意味をなさないんで値段もかなり安くしていたんだが、全く売れなかったんで倉庫の奥に仕舞い込んでた。言ってみりゃ不良在庫ってやつだな」
せっかくその不良在庫が売れるかもしれないってのに悪い所しか言わないな。人がいいのか、不良品を売り付けられたとクレームを言われるのが嫌なのか。
何にしても、俺達からしたら安くて見栄えがいいんなら望み通りだ。
「それでいい。それと武器を適当に頼む。こっちはある程度使えた方がいいから、防具の見た目と同程度の物でボロくないやつが欲しい。
流石にお飾り剣とかボロ剣じゃ見てわかるだろうしな」
「おい、本気か? 防具も武器も適当って……。
いいか、新人が金に困るのはわかるが、死んだら元も子もないだぞ?」
どうやら本当に人がいいみたいだ。
安い装備を扱ってる店だから、新人冒険者が装備を買いに来ることが多いのだろう。恐らく、その中には二度と顔を見せなかった者も。
装備を売ってる人間としてそういうのが嫌なのかも知れない。
「大丈夫だよ、装備の良し悪しで命に関わるような所に行くわけじゃないから。
そういう所に行く時はちゃんとした装備を揃えるけど、今回は装備無しで外に出ると色々言われるんで見栄えのいい物が欲しいだけだ」
嘘はついてない。
ただ、ちゃんとした装備を整えなきゃいけないような所というのが殆ど無さそうってだけだ。
「まぁ、分かってんならいいけどよ。
武器だったな、ちょっと待ってろ」
店主は再び奥に入って何本かの武器を持って来る。普通の剣や、レイピアのように細い刃が付いている物、ダガーのような短い剣、棒の先端にトゲトゲが付いているメイスのような武器まである。
「その防具に合わせた見た目の物だとこの辺りだ」
「俺は普通の剣でいい。エルはどうする?」
「妾はこれといって武器を使ったりせんのじゃが……そうじゃな、この細いやつは見栄えも良くて使いやすそうじゃ」
「鉄の剣と細剣だな。合わせて銀貨2枚だ。防具はおまけしといてやる」
「それはありがたい。また装備を買う時はここに来るよ」
料金を支払って装備品を受け取り、着替える場所があるというのでそこで買った物に着替えてしまう。
防具は要望通りかなり動きやすく、重さも普段着と殆ど変わらない。それでいて見た目は立派な冒険者なのだから、俺達からしたらかなりいい防具をおまけして貰えた。
俺達は店主にお礼を言いながら店を出て、そのまま東門へと向かう。
「いい買い物だったな」
「これで他の者からとやかく言われることもなかろう」
俺もエルも満足気に歩を進める。
東門に着き、先程と同じ門番に冒険者プレートを見せて門を潜った。
プレートを出した時に門番から『ちゃんと装備も買ったんだな』なんて生暖かい目をしながら言われたのはちょっとむず痒かったが……まぁいいか。
とりあえず、先にタルブ大森林でクエストの薬草集めを終わらせてから散歩に行く予定だ。
大森林に着いて薬草を探してみると、目的のキア草自体は森に入って少し歩いた所でいくつか見つかったものの、どれも大きさが10センチ以下のクエスト達成の為には使えない物ばかりだった。
「若い葉の草ばかりじゃの」
「めぼしいやつはもう採られてるんだろうな。もう少し奥に行ってみるか」
使えそうなキア草を探しながら奥へ奥へと進んでいると、不意に遠くから金属がぶつかり合うような音が響いてくる。
「なんじゃ?」
「なんか音がしてるな」
興味半分で音のする方へ向かっていくと、近づくにつれて人の声のようなものが聞こえ始めた。
「誰かが戦闘しているみたいだけど、この金属音は魔物と争ってる音じゃないよな」
「みたいじゃな」
更に音の方へと進んでみると、少し開けた広場のような場所で人同士の争いが起こっていた。
服装を見た感じ、片方は冒険者でもう一方は盗賊だろう。
盗賊がこんな初心者が来るような場所で冒険者相手にお仕事をしてるのも変な話だが、運悪くばったりってところだろうか。
「なぁ、あれって俺らが参戦したら怒られるかな。盗賊って捕えると結構金になるらしいぞ」
これは封印される前の知識なので今もそうとは限らないが、捕まえた盗賊を衛兵に引き渡すと報酬が貰えるという話を聞いた。
俺は演習でしか盗賊と争っていないので、実際にお金を貰っているところを見たわけじゃないけど、その時の話だと盗賊を討伐した場合はその盗賊達が持っていた宝なんかも討伐した者が所有者になるので、結構な儲けになることもあるということだった。
「先約がおるからのー、彼奴らに聞いてみてはどうじゃ?」
「そうするか」
俺は、戦闘中の集団に声を掛ける。
「おーい、助けはいるか?」
すると、冒険者らしき人だけでなく盗賊も一緒にこちらを見てきた。
どちらに声を掛けたのか分からなかったんだろう。
「あー、冒険者の方だ。そう、そっち。助太刀は必要か?」
ポカンとした顔で自分を指差して問うような目で見返してくる青年に再度尋ねる。
「すまん、頼む!」
冒険者の青年からの要請を確認して、俺達も戦闘に参加する。
「そこそこ人数もおるようじゃし少しは楽しめるかの」
「いや、それは無理だろ」
——〈睡眠〉
戦闘に参加してすぐだが、俺は敵味方問わず全員を眠らせてしまう。
「見ず知らずの奴らの前で実力を見せるわけにはいかないからな」
「なんじゃ、つまらんのー」
「運動したいならあとで魔物でも見つければいいだろ。探索魔法を使えばすぐ見つけられるだろうし」
実は昨日からエルに魔力感知されない魔法の使い方を教えて貰っていて、これが出来るようになるまでは広範囲の探知魔法や人に対しての鑑定魔法は極力使わないようにしているため、現在は探索魔法を使用していない。
範囲を狭めたり、物を対象にして使う分には「まぁ、大丈夫じゃろ」とのことだったのだが、言い方的にちょっと怪しかったので出来る限り使わないようにしている。
まぁ、魔力を隠すことができるエルが使えばいいだけの話なんだけど。
「とりあえずこいつら縛っちまうか」
俺はマジックボックスからロープを取り出して……って、こんな事になるとは思ってなかったから持って来てないな。
こいつらどうしよう。
「すまん、俺こいつらを縛る物持ってなかった」
「そういえば妾も持っとらんの。冒険者の奴らを起こして聞いてみたら良いのではないか?」
「そうするか」
ひとまず盗賊みたいな見た目のやつをひとまとめにしてエルに見張っておいて貰い、一緒に寝かせてしまっていた冒険者っぽい方の一人に気つけ魔法を掛ける。
「んー……ん?……はっ!? なんだ? どうなったんだ? 俺なんで寝て……」
青年は起きて早々パニック状態になる。
ちなみに、こいつらのパーティーは見た感じ男一人女ニ人のハーレムパーティーだ。
そう聞くと女目的で盗賊が襲ったのかと思うかも知れないが、女性はどちらも筋肉モリモリマッチョウーマンの前衛職で青年の方が後衛をやっていた。戦闘中に俺が話し掛けて答えたのがこの青年だったのは、彼が後衛で多少余裕があったからだ。
起こすのを彼にしたのは他のメンバーとは話してなかったのでなんとなく。決して他のメンバーは話が通じなそうだと思ったわけではない。決して。
「落ち着け、襲ってた奴らは全員無力化してあっちで寝てる」
俺の言葉を聞いて多少は落ち着けたのか、辺りを見回して眠りこけている仲間と盗賊達を確認している。
「あいつらを縛ろうと思ったんだけど、ロープを持ってなくてな。お前達は何か縛る物を持ってないか?」
「あ、あぁ、持ってる。ただ、そこのやつは勘弁してやってくれ。その男はそんな見た目だけど、うちのパーティーメンバーだ」
青年が指差した先にはこの盗賊団の首領と言ってもおかしくないようなゴツい男が寝ていた。
(こいつが!?)
(人は見かけによらぬものじゃの)
青年からロープを受け取り、盗賊の首領(仮名)以外の奴らを縛り上げる。
「なぁ、これ何があったんだ? こいつらも俺達もなんで寝てた?」
「ちょっとした薬品を使ったんだ。身体に害はない。ただの眠り薬だ」
基本的に面倒な質問には適当に答える。どうせ、魔法を使ったなんて言っても信じないだろうし。
「こいつらは盗賊か?」
「ああ、俺達はゴブリン討伐のクエストを受けて来たんだが、散策中に鉢合わせたんだ」
「それは災難だったな。
デーヴァンは盗賊を受け渡したら報酬って貰えるか? 最近来たばかりでその辺が分からないんだ」
「貰える。もし拠点を見つけられればそこにある物も見つけた者に所有権が認められる」
昔と変わりないようだな。
「よし、それならアジトを聞き出さないとな。俺達とお前らの取り分は半々でいいか?」
「いいのか? 殆どあんたらが倒しちまったじゃないか」
「いいって、そっちも金がいるだろ?」
パーティーの者達が身につけている装備は盗賊達にやられてボロボロだ。俺達が来てなかったらかなり危なかっただろう。
ゴブリン討伐をやってるってことは新人だろうし、装備の新調やら何やらでキツいはずだ。
「……助けて貰っておいてなんだが、確かに金は必要になりそうだな。すまない、ありがとう」
「気にするな。困った時はお互い様だ」
「やっと場所を吐きおったぞ。案外根性のある奴じゃったの」
困った時はお互い様〜とかのほほんと話していたが、実はさっきからずっと後で男の絶叫が響いていた。エルが盗賊の一人からアジトを聞き出していたのだ。どうやってかは想像にお任せする。
「俺一人で済ませて来るか?」
「多少暴れて良いのであれば妾が行ってきても良いか?」
「殺すなよ。確か殺すと貰える報酬が下がるんだよ」
「わかったわかった、では行ってくるかの」
あまり派手にやるなよー、と声を掛けながらエルを見送る。
「女性を一人で行かせて大丈夫なのか?」
「あいつはそこらの盗賊なんかにやられたりしないさ。
さて、あんた達には少し話がある、と言っても今話せるのはお前しかいないが。
……あまり警戒しなくていい、別にとって食う訳じゃない。単純に、俺たちのことを他で話さないでくれってだけだ」
「理由を聞いてもいいか?」
「黙っててくれるなら知らなくてもいいだろ? 別に悪いことをしてる訳じゃない。ただ、あんた達を眠らせたやつのこととかを話されると色々と面倒な事になりそうなんでね」
まぁ、もし人に話されてもこの人達は俺が何をしたのかわかってないだろうから大丈夫だとは思うけど念のため。
「……わかった。お前達の事は他では話さない」
「わるいな、メンバーも説得しておいてくれると助かる」
「こいつらは大丈夫だ。見ての通り脳味噌まで筋肉でできてるような奴らだからな」
「にしても、お前らのパーティーバランス悪くないか? 前衛三人に後衛一人って……」
「こいつらとは同郷でな、一応ハイダは魔術師なんだが……ああ、自己紹介が遅れたな。俺はトルライン、一応このパーティーのリーダーをやってる」
「俺はユウマだ、さっきのやつはエル。よろしくな」
「よろしく」
「同郷ってことは他所からデーヴァンに?」
「ああ、俺達の故郷はデーヴァンから西に……」
その後はエルが戻ってくるまで、トルライン達の故郷の話やデーヴァンに来るまでの経緯なんかを聴きながら時間を潰す。
少し離れた所から聞こえてくる破壊音をBGMにして。




