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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
二章 勇者の帰還(魔王付き)
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十八話

 振り返ってみると、正確には“男に”では無く“男達に”声を掛けられたのだとわかった。

 服装から見て多分冒険者だろう。顔つきやらなんやらを合わせると街のゴロツキと冒険者を足して二で割った感じだが。


(なんじゃ、知り合いか?)

(いや、500年経ったこの時代に知り合いなんているわけないだろ)


 敢えて言うなら、この街に来る最中に会った冒険者とローラン達くらいだろうか。


「何の用だ? パーティーのお誘いなら間に合ってる」

「そうじゃねぇ、お前ら新人冒険者だろ? 俺達先輩冒険者が世間の厳しさを教えてやろうってんだ。有り金全部とその女を置いていけ」


 先頭に立っている一番ガタイのいい男がそう言うと、後ろにいる二人の男達がゲラゲラと品のない笑い声をあげる。


「有り金って言っても、見ての通りたいして持ってないぞ」


 貰ったお金は殆どマジックボックスに仕舞っているので、それ以外で持っているのはすぐに使えるようにとポケットに入れていた銀貨と銅貨を数枚ずつくらいだ。

 まさか、こいつらエルが目当てのロリコンか? いや、この世界だと結婚の適性年齢だったな。そもそも、見た目は15〜6だが実年齢は20らしいし、もっと言ったら500歳を超えたお婆ちゃんだったな。じゃあ、熟女好きか。


「商人ギルドで革袋を貰ってただろ。革袋で出てくるってこたぁ結構な額の筈だ。さっさと出しな」


 馬鹿な事を考え、エルから脛を蹴られていると男が商人ギルドでのことを指摘してきた。

 いや、痛い、本気で蹴るな、ごめんって。

 にしても、ずっとつけられてたのか。ロリコンでも熟女好きでもなくてストーカーだったんだな。


(これはたぶんお決まり展開ってやつだ)

(なんじゃ、それは)

(ほら、俺がこの世界に来る前の話をしたろ。その時世話になった医者の先生が話してたんだ)


 前世の最後にお世話になった若い先生が興奮しながら話していたのを思い出す。

 異世界に行ったら、まず最初に他の冒険者や街のゴロツキから難癖つけられて喧嘩になるというイベントが発生するんだそうだ。そこで自分の実力を示して勇者街道(ゆうしゃかいどう)真っしぐらというものらしい。俺が読んだラノベではそんな展開は無かったので、先生が興奮しながら語る内容を、そんな展開もまた面白いと笑って聞いていたものだ。


(なるほどの、此奴らを()して力を示すわけじゃな)


 エルがかなり楽しそうだ。

 俺もこの世界に来てすぐゴロツキに絡まれた時にはちょっと心が踊ったけど、もうこっちに来てからそこそこ時間が経ってるしなぁ。


(いや、さっさと逃げるぞ)

(なんじゃと?)

(俺達は名を上げたり有名になりたいわけじゃない。そんなの日常生活が不便になるだけだろ)

(お主は……)


 エルから呆れたような空気が流れてくるが知った事じゃない。わざわざ面倒事を起こす必要なんて無いんだからな。


「とりあえずあそこの路地に逃げてさっさと撒いてしまお——」

「お主らのような雑魚が何を息巻いておるんじゃ」


 俺が路地の方を指してこそっと話すのを無視してエルが男達を挑発する。

 いや、そんな気はしたんだよ。エルは魔王だもんな。売られた喧嘩は買うよな。


「んだとこのガキ!」

「テメェ! ぶっ殺されてぇのか!?」


 エルの言葉で後ろにいた二人がヒートアップしている。


「痛い目見ねぇとわかんねぇみてぇだな」


 そう言って先頭の男が腰にさした剣を引き抜くと、後ろの男達も同様に剣を抜いて下卑た笑みを浮かべる。

 いや、街中で剣を抜くってどうなのよ。衛兵は休暇中か?


「子犬がキャンキャンとよく吠えおるの。弱いコボルト程よく(わめ)くと言うが、本当じゃったようじゃの」


 エルが火に油を注ぐように挑発を続ける。

 喧嘩を買うにしてもせめて言い値で買って欲しいものだが……なに値上げしてんだよ。

 てか、前世で似たような言い回しがあったけど、こっちでもそういうのあるんだな。比較対象がコボルトになってるけど。所変わればってやつか。

 ちなみに、コボルトというのは小型で二足歩行の犬型の魔物だ。ゴブリンよりは強く、オークよりは弱い。初心者の冒険者がソロで狩ると中級者として見られるようになるらしい。実際にDランクに上がる試験でコボルト狩りが採用される事もあるそうだ。


「ガキが、女だからって優しくして貰えると思うなよ」

「ふん、妾はちゃんと手加減してやるぞ。簡単に死なれてしまってもつまらんしの」


 男達とエルが睨み合い、まさに一触即発といった感じだ。周りの人達も騒ぎに気付いて野次馬に興じていたり、巻き込まれるのは御免だとばかりにこの場を離れて行ったりしている。


「ったく、しょうがないな」

「ん? なんじゃ、お主もやるのか。それじゃ、すぐに終わってしまうの」


 お前のせいで面倒な事になりそうだからな。仕方ない。


「それじゃ行くか」

「うむ、此奴らを完膚なきまでに叩きつぶしてやぁぁぁぁ」


 俺は、エルを抱えて走り出す。


 話している途中でいきなり脇に抱えられたエルの残響がその場から消る前に、俺は先程エルに示した路地へと曲がった。

 残された男達はポカンと口を開けて呆けていたが……。


「逃すかぁ!」

「待てやコラァ!」


 しばらくして状況を把握出来たのか怒鳴り散らしながら追いかけてくる。


「お主! 何故逃げとるんじゃ! それでも男か!」

「なんだ、俺が女に見えるのか。目でもやられたか? 回復魔法かけてやろうか?」

「そういう事を言っとるんじゃないわ!」

「わかってるよ、これは別に逃げてるんじゃない。あそこは見物人が多過ぎる。それに、さっき何人かあの場から立ち去ってたからそのうち衛兵とかが来るだろ。喧嘩したいなら場所を変える」


 ちゃんとあいつらが追いつけるようにスピードを落として走ってるしな。


「なんじゃ、それなら良い。脇に抱えられているのはどうにも気に食わんが、まぁ楽じゃから良いか」


 先程の場所から少し走った先に多少開けた空き地のような場所があったので、そこで待っていると、しばらくして男達が追いついて来た。


「やっと観念しやがったか! テメェら覚悟しやがれ!」


 先頭にいた男が腰から剣を抜いて怒鳴りつけてかる。流石に剣を抜いたまま走って来る程の馬鹿じゃなかったらしい。そんなことしたらすぐに衛兵さんのお世話になってただろうし。

 それにしても……。


「なぁ、お前はいいけど、後ろの奴らは大丈夫か?」


 男の後ろに付いて来ていた二人は、ここに来るまでに疲れ果ててしまったのか地べたに座って天を仰いでいる。


「鍛錬不足じゃの。もっと普段から走り込みでもせんか。そんなんじゃから他人から金銭を奪うようなことしかできんのじゃ」

「黙れ! おいお前ら、だらしねぇことしてんじゃねぇ!」


 一人だけちゃんと立っている男が頭に筋を浮かべながら唾を撒き散らしている。いくらなんでも興奮しすぎだろ。体に良くないぞ。


「まぁ、なんだ。流石に二対一ってのはどうかと思うし、俺は見学してるよ。エル、殺さないようにな」


 さっき簡単に死んではとか言ってたからちょっと心配だ。


「わかっておる。弱者相手にムキになること程みっともないものもありゃせん。遊んでやるだけじゃ」

「て、テメェら、馬鹿にしやがって……」

「相手の力量も測れぬ輩なんぞに本気を出せと言う方が無理があるの。ほれ、妾はいつでも良いぞ。さっさとかかって来んか」


 エルの言葉を受けて男が剣を構える。見た感じでは結構腕が立ちそうだ。500年前の騎士団長ジェレールに剣を教えて貰っていたから流石にそれと比べると(つたな)さを感じるが、それでもそこらのゴロツキとは違って剣に慣れているように思う。腐っても冒険者ってことか。一応、一人だけ俺に付いて来られてたしな。


「ほれどうした、はよ来い」

「テメェ、魔術師だろ。武器も持ってねぇし。呪文を唱える時間ぐらいくれてやろうか?」


 下に見られ続けているのが気に入らないから余裕を見せたいのか、ただ単純に後衛が魔術や飛び道具もなしに前衛に勝てるわけがないと考えてるのか。少なくとも、紳士的な考えで言ってるってことは無いだろう。


「なんじゃ、先に攻撃させて負けた時の言い訳でも欲しいのかの?」

「この野郎っ!」


 男は更に青筋を立て、今にも襲いかからんと足に力を込めている。それ以上興奮したら頭の血管が切れて喧嘩と関係ないところで死んじまうぞ。


「どうなっても知らねぇからな! オルァァ!」


 男は中段に構えていた剣を振り上げてエルへと突進、そのままの勢いで右上から左下へと剣を振り下ろす。


「踏み込みが甘いの」


 男の剣をひらりと左に(かわ)し、右の脛に蹴りを入れるエル。


「ぐっ……クソが!」


 男は躱された剣をそのまま横に薙いで少し距離を取るが、読んでましたと言わんばかりにエルが間合いを詰めて拳を繰り出す。


「攻撃を避けられて反撃されたら間合いを取る。単純すぎじゃぞ」


 エルの拳が胸当てに当たり男は仰け反る。


「わざわざ防具の付いとる所を狙ったんじゃ。そんなんで降参も無いじゃろ。もっと来んか」

「っざけんな! 死ねぇぇぇ!」


 死ねって、お前女は置いてけって言ってたろ。殺してどうする。


 その後も男の攻撃を避けてから反撃が繰り返される。先程と同じ上段からの振り下ろし、横薙ぎ、突き、どの攻撃も避けられている。大振りだろうが、小振りのスピード重視だろうが余裕で躱す。時々エルからも攻撃を仕掛けてはいたが、どれも防具を付けている部分を小突くような感じで、どう見ても大人が子供をあやしているような状態だ。

 しかし、ふと避けてばかりいたエルの足が止まる。広場の端に生えていた木に背をぶつけたのだ。


「貰った! 死ねぇぇぇ!」


 一瞬の隙を見逃すかとばかりに男は剣を横薙ぎに振り、ガキッという音と共に動きを止めた。


「物は大事にせんか。これじゃあ、妾がちょいと横に避けただけで剣が木に刺さって刃こぼれするじゃろ」

「なっ……」


 男の剣はエルの身体を切り裂くことはなく、エルの手によって手前で止められていた。

 正確には止めていたのは手ではなく指。人差し指と親指で摘むようにして剣を止めているのだ。


「おまっ、このっ、離せ!」


 押そうが引こうが剣が動く様子は無い。


「ま、こんなもんかの。ほれ」


 男の焦る顔を見て満足したのか、剣が引かれたのに合せてエルが手を離すと、男は勢い余って尻餅をつく。


「避けられてばかりではつまらんじゃろ。妾もちと本気を出してやるからの。よく見ておくが良い」


 そう言うと、エルの右手に炎が生み出される。俺と戦った時に使っていた黒炎だ。

 炎は球状になりだんだんと大きくなっていく。インパクトを重視しているのか、俺の時に使ったのよりも更に大きく、直径五メートル程まで膨れ上がり、エルの後ろに生えていた木を木炭に変えた。


「ば、化け物……」

「ひぃぃ……」


 初めは隙あらば参戦しようとしていたが、実力の違いに呆然と戦いを眺めていた取り巻きの男二人がそう呟いて逃げ出そうとする。


「おっと、まった。エルも殺す気は無いだろうから大人しく見てろ」


 こいつらを逃して衛兵でも呼ばれたらまずい。俺は二人の首根っこを掴んで座らせる。

 実際、炎の方は殆ど虚仮威(こけおど)しで、木を焼いたあたりから段々と込められた魔力が減ってきている。このままなら、人に使っても「あちっ」て程度で済むだろう。


「さて、お主はこれを耐えられるかの」

「あ……あ……」

「せいぜい、消し炭にならんように頑張るんじゃな。ではゆくぞ!」


 腰が抜けているのか、現実が理解できていないのか、その場から動かない男にエルが球体の黒炎を放つ。炎は男の目の前で爆ぜて、一帯に黒い炎が四散する。花火みたいで結構綺麗だ。

 結局、取り巻きの二人が駆け寄った時には男はショックで気絶してしまっていた。火傷も負っておらず、目立った外傷も無いので大丈夫な筈だが、念のためこっそり回復魔法をかけておく。


「じゃあ、俺達行くわ。新人に金たかるのも大概にしとけよ」

「それに、相手はちゃんと選ばんとな」

「「すみませんでした!」」


「俺達のことは誰にも言うなよ。誰かに話したりしたら命の保証はないからな」

「「わかりました!」」


 気絶してる奴を取り巻きに任せて、俺達はさっさと空き地を後にする。

 さっきの黒炎は結構目立ちそうだから人が集まってきたりする前に退散しなくてはいけない。


「まったく、とんだ目にあった」

「確かに、あれじゃあちと物足りんかったの」


 そういうことを言ってるんじゃない。


「お前、そんなんでよく俺に考えて行動しろとか言えたな」

「うぐ……すまぬ、今度から気をつける」

「まぁ、いいさ。封印が解けてから戦闘もなかったしな。ちょっとした運動にはなったろ」


 その後はこれから行く宿について話しながら、十分程歩いたところで目的地に到着した。


「ここがファムルの言ってた宿か」

「熊の洞穴亭と書かれた看板もあるしの。間違いないじゃろ」


 外観は普通の宿だ。そこそこ繁盛しているようで、中から楽しげな話し声が聞こえてくる。


「飯が美味いらしいからな。楽しみだ」

身内贔屓(みうちびいき)という可能性もあるがの」

「ハズレだったら明日から他の所を探せばいいだろ。流石にこれから探すのはちょっと嫌だしな」


 微妙そうだったら他の宿を探そうと思っていたが、さっきの件があって既に日が落ち始めているし、今日はもう他を探す気にはなれない。


「妾は魔力体を切ればいいだけじゃから寝るのはどこでも構わんが、飯は美味い方が良いの」

「ま、取り敢えず行こう」


 そう言って俺達は宿の扉を(くぐ)た。

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