十七話
博物館……そんなものがあるのか。まさか俺に関わる物だけが展示されているとかじゃないだろうな。
だとしたら、エルが親の仇の墓を壊すよりも先に俺がその博物館を壊しに行くことになりそうなんだが。
「ヤシオ博物館のことね」
よし、冒険者になって早々だがお尋ね者へとジョブチェンジだ。
「でも、あそこって英雄の名前を使っていながら勇者関連の展示なんて殆どないわよ?」
「ですから資金が出るのではないかと」
俺に関するものは殆ど無いのか。
そうか、命拾いしたなヤシオ博物館。
「いや、それほど勇者に関する物は少ないって事だ。王国が隠蔽しているなんて噂もあるくらいだぞ。
そんなところに勇者の装備なんて持ってったら出どころを詳しく聞かれる。装備品の保証ってのもそうだが、ユウマのことを話さずに説明できるか?」
「それは……確かに難しいですね」
「一個や二個ならどうにかなるかも知れないけれど……ユウマ、他の装備ってどのくらいあるの?」
「流石に一個や二個じゃないな。今出そうか?」
マジックボックスに入れてあるからこの場で確認して貰えばいい。
「今って……マジックボックス? なんでもありね」
「なあユウマ、お前商人にならないか?」
「今のところなるつもりは無い。
で、出していいのか?」
大きい物でも部分鎧くらいだからそんなにスペースも取らないし、この場で出しても問題ないだろう。
「そうね、じゃあそこに出して貰える?」
マリアナに言われた場所に装備品を取り出していく。
一通り並べ終わって、一応確認もしてみたが、ブレスレットや鎧、ローブだけでなく、例のペンダントにも何かのマークが彫られていた。これが旧ティオール王国の紋章ってやつなんだろう。
「あ、そのペンダントはダメだ。他のと一緒に出してしまったがそれは渡せない」
「なぜですか?」
「それは俺達を封印した時に使われたものなんだよ。流石にそんな物を他人に渡すわけにはいかないだろ」
「勇者と魔王を同時に封印できる物なんて、研究のために是非欲しいですが仕方ありませんね」
正しくは勇者を使って魔王を封印したわけだから、魔王と同時にと言うよりも魔王を封印するための部品として俺が使われたんだがな。
このペンダントだけで封印できるわけではないが、これを解析してまた使えるようになっりしたら最悪だ。
「流石にまた500年も封印されるのはごめんだからな。このペンダントを他の者に渡す気はない」
今度は500年では済まないかも知れない。説明の時は時間が経ってと言ったが、実際は神様のお陰で出られたわけで、次もそうなるとは限らないからな。
下手したら一生封印されるってことも……。
ペンダントを再びマジックボックスに仕舞い、他の装備品について説明していく。
俺にとっては装備に付与されている効果なんて無いよりはいい程度だったんだが、時代が違うからか現在では破格の魔道具とされるらしく、ルドマンが物欲しそうに眺めていた。
「やっぱり、これだけの量だと誤魔化しきれないわね。むしろ、これを外に出さないようにお願いしたいくらいだわ」
「こんなんが市場に出たら勇者の装備とか関係なく騒ぎになるだろうからな」
資金にするのは難しいか。
まぁ、指輪を売った時のお金があるからどうにかなるかな。いざとなったら冒険者のクエストを受ければいい。ちょっとクエストっての自体にも興味があるしな。
昔のお金が使えれば良かったんだが……。
「なぁ、500年前の硬貨って使えないか?」
「あら、それなら買い取れるわよ。
貴族で収集している物好きもいるし、そこそこいい値段で売れるはずだわ。でしょ?」
「そうだな。流石に500年前の物が市場に出るのはごく稀だが、無いわけでも無い。
そんなに多くなけりゃ買い取ってもいいぞ」
言ってみるもんだ。これで少しは余裕ができるだろう。
「じゃあ、金貨を20枚程買い取って貰えないか?」
「20枚ってのは結構多いな。まぁ、そういうのは出てくる時はまとめて出てくるもんだから問題ないか。
金貨なら買い取りでだいたい1枚に対して金貨2枚。つまり倍額だが、どうせなら自分でオークションに出品してみるか?」
「いやいい。これから世話になるかも知れないんだ。それで儲けを出して俺に感謝でもしておいてくれ」
マジックボックスから金貨を取り出しルドマンに手渡す。この硬貨に二倍以上の価値があるのか。言い方的に硬貨の種類によって価値も変わるようだけど。
「というか、値段が倍になるんだったら同じ物を作るやつとかいるんじゃないか?」
「いや、そもそも混ざってる金の割合が違うんだ。素材の値段だけで倍近くなる。それに好事家が多少値段を乗せる感じだな。作る労力を考えるとマイナスってわけだ」
そう簡単にはいかないか。言われてみれば模様だけでなく大きさや重さがちょっと違っている。お宝を見つけた時に昔の硬貨だったら嬉しいって程度なのかな。
「今は支払えないから後でギルドに来てくれ。全部金貨でいいか?」
「銀貨と銅貨も少し混ぜてくれると助かる。屋台で買い食いができなくてな」
「わかった。用意しておく。じゃあ、俺はこれで失礼する」
そう言うとルドマンは部屋を出ていく。
「では、私も失礼させていただきます。あまり局を空けているとセラスさんに怒られてしまいますから」
「セラスによろしく伝えといてね。たまには家に帰って来なさいって言っておいて」
「わかりました。
ユウマさん、エルさんも、時間があったらぜひ魔術局にいらしてくださいね。ぜひ500年前の魔法についてお話を聞かせてください。魔術に関してもエルさんとお話しできればかなり勉強になりそうですし、魔術学校もご案内しますよ」
「気が向いたらの」
「俺は魔法について話せる程詳しくないぞ」
「大魔法使い様が魔法に詳しくないのなら、この世に魔法について詳しい者など居なくなってしまいますよ」
ローランは笑いながら、ではまたと言って部屋を後にした。
俺が魔法を使えているのは魔法知識があるからで、俺自身は本当に詳しくないんだがな。
「じゃあ、私達も行きましょうか」
「行くって、マリアナも出掛けるのか?」
「あなた達には担当の受付係を付けるから紹介しておきたいの。
初めてみる顔が商人と冒険者の両ギルド長や魔術局の局長と会っていたんだもの、結構目立ってしまっていると思うから面倒を減らすためにね。
それに、あなた達は特殊だもの、対応も一人に任せた方が楽だわ」
そう言って部屋を出るマリアナに俺達も付いていく。
一階に向かう途中で先程ちょっと気になったことを聞いてみる。
「なあ、さっきセラスに家に帰って来いとか伝言を頼んでたけど、どう言う関係なんだ?」
「あぁ、セラスは私の娘なのよ。良い子なんだけど、最近は魔術局に泊まりっぱなしでなかなか帰って来ないから少し心配なのよね」
思い返してみればセラスの目の色がマリアナと同じだったな。
でも、セラスはエルフに見えなかったが。
「あの子は人間の夫との子なの。
外見にはエルフの特徴があまり出てないけど、寿命はエルフのものよ」
私に似て魔術にも長けているしね、などと娘自慢を始めるマリアナ。
セラスが少女のように見えたのは成長が遅いエルフだったからなのか。
にしても、娘がいるってことは歳の話はやっぱり……いや、女性の歳については触れないのが大人のマナーだな。そういうことにしておこう。
「セラスも魔力感知ができるのか?」
「あのこはまだそこまでじゃないわね。素質はあるから学んでいればできるようになると思うけど、あなたの偽装については感じられなかったんじゃないかしら。
エルの魔力が高いというのは薄々気づいていたかも知れないけどね」
「妾も偽装魔法を使っておいた方がよさそうじゃのー」
俺の後ろに付いてきながら話を聞いていたエルが〈偽装〉を使いステータスを偽装する。
「当然あなたも使えるわよね。魔王だものね」
「そもそも偽装魔法については妾がこやつに教えたんじゃ」
(存在をじゃがの)
(子供みたいな見栄をはるなよ……俺達もう500歳を超えるお年寄りだぞ)
(妾はまだ20歳じゃと言うたじゃろ!)
俺はエルに髪の毛を引っ張られながら一階に下りる。
マリアナと一緒に来たからか、ここに来た時と同様に周りの冒険者達から怪訝な目を向けられる。マリアナはそんなことは一切気にせず、受付の方に向かっていった。
(なんだかなぁ、こんなに目立つと後がめんどくさそうなんだが)
(そう気にすることも無かろう。何かあってもお主ならば力でねじ伏せられるじゃろ)
それがめんどくさいと言ってるんですよエルさん。
どうも時折この魔王は脳筋な発言をするな。そんなんだから俺に負けて封印されるような羽目になるんだぞ。
(お主も封印されとったじゃろうが。お主の場合は仲間の裏切りという間抜けなものじゃったがの)
言ってくれるじゃないかこのお子ちゃま魔王め。
俺達は脳内で魔法戦闘を始める。もちろん、実際に魔法を使っているわけではなく、魔力同士のぶつかり合いだ。魔力に関しては漏れないように偽装を強めている。
そんな感じで、脳内でドンパチやりながらマリアナに付いていく。
「さて、紹介するわ。
……って、なんかエルちゃん疲れてない? 階段を下りてきただけよね?」
エルの呼び名がエルちゃんに格上げ? されている。
「此奴が容赦なくての」
「いや、何でもない。それで、紹介するってのはその人か?」
マリアナの後ろにいる女性に目を向けながら訊ねる。
ちなみに、脳内魔力戦争は俺の圧勝だった。
「まぁ、いいわ。そうよ、この子があなた達を担当する受付係のファムル」
「ファムルです! よ、よろしくお願いします!」
「まだ新人だから色々と不便もあるかも知れないけど、新人同士仲良くやってちょうだい。
それじゃあ、私は戻るわ。ファムル、後はよろしくね」
そう言うとマリアナはさっさと二階へ戻っていってしまった。
「あ、あの、私、今日が研修後の初めての仕事でして……至らない所もあるとは思いますが、よろしくお願いします!」
「あー、うん。俺はユウマで、こいつがエルだ。よろしくな」
これ新人育成に利用されてないか? 早速便利屋扱いされている気がするんだが。
いや、でも俺達は冒険者活動を積極的に行うつもりがないから、新人に仕事を慣れさせるにはもってこいなのかも知れないな。
(それが利用されるってことじゃろ)
(だよなぁ……まぁいいさ、何も知らない人の方が扱いやすいとかって考えもあるのかも知れんし)
何の繋がりもない真っさらな状態の方が俺らみたいな特殊な状況の者には都合がいいんだろう。……多分。
「とりあえず、今日は宿で休みたいんだが、どこかおすすめの所はあるか? こういうことは冒険者ギルドで聞けって言われてるんだが」
「はい! おすすめの宿ですね! ありますよ!」
記念すべき初仕事で元気良くおすすめの宿の場所を教えてくれるファムル。
「——で、そこの角にある宿です。名前は熊の洞穴亭というところで、二階が宿屋で、一階が食事処になっています。ご飯がとても美味しいですし、なにより値段が安いです!」
ここから少し距離があるものの、料理が美味いというのは魅力的だな。名前がかなりワイルドなのが気になるが。
「ありがとう、じゃあそこに行ってみるよ」
「はい! 女将さんに私からの紹介だって伝えて貰えれば多少サービスして貰えますよ。その宿は私の親戚がやっている所ですから!」
身内の店か! ギルドの人が自分の身内のとこをおすすめするのはどうなんだ?
まぁ、初仕事でそれができるこの子は大物になるかもしれないな。
とにかく行ってみよう。気に入らなかったら入らなきゃいいし。
「じゃ、ありがとうな」
「はい! また明日、お待ちしております!」
ファムルに挨拶をしてギルドを後にする。
「なんか明日も来い的なことを言ってたぞあの子」
「そうじゃの。気が向いたら行ってやれば良いのではないか?」
「人間を滅ぼすってくらい冒険者嫌いだったお前が丸くなったもんだな」
「妾を説得したお主がそれを言うか」
冒険者ギルドを出た後は、宿を取る前に商人の方のギルドへ向かう。紹介して貰った宿とは正反対なのだが、古い金貨の代金を先に貰っておくためだ。こう言うのは忘れないうちに済ませておいた方がいい。
「そういやこの冒険者証、魔力を登録ってかなり高性能だよな。登録された情報ってどこで管理してんのかね」
「多分、それを管理しとるのもお主じゃろ。〈記録〉とか言ったかの。そういう魔法がある。
お主を対象にした記録魔法の魔法陣でも組み込んであって、識別するための仕組みを外に出さんことで複製を制限してるってところじゃろうな」
前世で言う所の、お札の透かしやら印刷方法やらみたいなもんか。作成技術を秘匿して偽物を作らせないっていう。
にしても、随分とでかいものを管理させられてるな俺。
「あの魔法は記録するだけなら何も問題ないんじゃが、情報を引き出すのに登録された内容が多ければ多いほど魔力を消費する欠陥品じゃ。普通は本一冊分くらいの内容毎に媒体を変えたりするんじゃが、これはそうでは無いらしい。その辺りの仕組みが鍵になっとると見た」
プレートを鑑定してみたが、魔法か何かで阻害しているのか、冒険者の身分証としか分からなかった。
阻害している魔法から解析していけば確認できそうな感じだが、あまり意味がなさそうなのでやめておく。
そんな話をしているうちに商人ギルドに着き、受付で名前を言うとすぐに代金を貰えた。
ここで他にやる事も無いので早々にギルドを後にし、ファムルに紹介して貰った宿へと向かう。
明日からどうするかだとか、クエストに興味があるだとか、そんなことをエルと話しながら冒険者ギルドの前を通り過ぎ、宿へと向かっている途中……。
「おい、兄ちゃん」
男に声を掛けられた。




