十五話
「——というわけで封印の地だったか? あそこから出てこの街まで来たんだ」
「ということは、ユウマさんは500年前の魔法についてご存知なんですか!?」
俺が説明を終えた途端にローランが目を輝かせながら体を乗り出す。
そうか、それで楽しそうに聞いてたんだな。
「あ、あぁ、まぁそうだな」
「ぜひその辺りのお話を聞かせ——」
「ローラン、よせ。
お前さんな、一応言っておくが、英雄ヤシオの名を騙るのは重罪だぞ。それならさっきの話の方がまだ信じられる」
「勇者を騙るのが重罪だってのは知らなかったが、言いたいことはわかる。俺としてはさっきの話を信じて貰っても一向に構わないんだけど」
むしろ、さっきの話を信じてくれた方が楽に終わるんだが。
「でも、その話なら辻褄は合うわ。封印の事は魔術局や一部の人間にしか知らされていないし」
「それに関してはダメだな。ローランに聞いちゃってる」
「あー、話してしまいましたね」
「ローラン……機密事項って話だったでしょ。私にその事を持ってきた時にセラスが何度も口止めして行ったわよ」
「すみません。話の流れでつい」
一応、俺にも黙っててくれとは言ってたけどな。
「ただ、そうなるとあなたの話の信憑性は薄れるわね。
封印の間にある二重封印は解けるかも知れないけど、それはあそこに盗みに入った時に解いただけの可能性もあるし、魔王を封印しているものは古すぎて発動してるかどうかすら私達には確認できない」
動くかどうかわからない骨董品みたいなもんか。
やっぱり証明ができないんだよな。ステータスでも調べて貰うか? 他の装備なんか出しても余計怪しまれそうだし。
「そもそも、もし封印が解けたっつうんなら魔王はどうしたんだ? 一緒に出たんだろ?」
ああ、それを説明してなかったな。
「それは証明になるかも知れない。
実は魔王はまだ俺の中に入ってるんだ。永いこと封印されてたせいで定着しちゃったらしくてな。ちょっと待ってくれ」
(エル、ちょっとだけ頼めないか)
『仕方ないのー、面倒じゃが、ちょいと此奴らをビビらせてやるかの』
言葉の割にはノリノリなのが伝わってくる。
「じゃあ、魔王に出て貰うから」
「おい! ちょっと待て!」
ルドマンが慌てて止める。他の二人もかなり慌てた様子で、マリアナに至っては壁に飾られていた剣の所まですっ飛んで行って抜く準備までしていた。
「あ、すまん。言い方が悪かった。出てくるって言っても本人がそのまま出てくる訳じゃなくて、魔力体を作ってそれで動くだけだ。能力もかなり落ちてる。ローランは一度会ってるぞ」
「へ?」
状況についていけずにエルの事を思い浮かべられないのか、それとも単純にエルが魔王だという考えにならないのか、呆けた顔でこちらを見つめるローラン。
「エルだエル。あいつが魔王なんだよ。
いいかマリアナ、攻撃しないでくれよ」
(エル、頼む)
『うむ』
エルはこの状況を楽しんでいるようで、ずっとコロコロと笑い転げているような感覚が伝わって来ていたが、ちゃんと出てきてくれるみたいだ。返事があってすぐに俺の横に光が集まり始める。
(お前、こんな出方じゃなかっだろ。普通にスッと出てきてたじゃないか)
『演出じゃ演出。魔王様降臨じゃぞ』
魔王の降臨に光ってのは違うと思うが。なんて考えているうちに光の中からエルが現れる。
というか、光は本当にただの演出でマリアナ達の目が眩んでいる隙にスッと出てやがったこいつ。
「はじめまして諸君! 妾の名はエルフェルタ・リンド。リンド魔族王国の魔王じゃ!」
おお、俺に名乗りを上げた時と同じだ。そういやエルの本名ってそんなだったな。しばらくエルって呼んでたから忘れてた。エルにバレたら怒られそうだな。
あ、エルが横目で睨んでる。そういや考えてる事が分かるんだったな。
「とりあえず、こいつがエル。500年前の魔王だ。よろしく」
「おいまて! このちっこいのが魔王だと?」
「なんじゃと!? それを言うならお主が商人じゃという方がおかしいわ! マリアナと逆じゃろ普通!」
それは俺も思ってた。こんな大男が商人なんて盗賊の方が逃げ出しそうだ。
「俺は元王国騎士団なんだよ!」
なるほど。
「いや、んなことはどうでもいい。本当にこの子が魔王だってのか?」
「そうだ。俺の中に封印されて、封印が解けてもそのまま居候してる魔王本人だ」
「居候とはなんじゃ! 妾も好きでやっとるわけじゃないわ!」
エルと軽い漫才をしているとマリアナが口を開く。
「わかったわ。信じましょう」
「いいのか? 俺はちょっと信じられないぞ」
「この子から感じられる魔力がかなり高いのよ。これじゃ普通の女の子だって言われる方が信じられないわね」
この状態のエルはかなりステータスが下がってるはずなんだが。
ま、信じて貰えるなら良しとしよう。
「それは良かった。
信じて貰えたならもう帰っていいか?」
「そういうわけにもいかないわ」
だろうな。これはこれで面倒な事になったかも知れない。
証明するものを探す流れでこうなってしまったが、元々バラす気は無かったんだし。
「エ、エルさんが魔王?」
お、固まってたローランが復活した。ちょっと話題が遅れてるけど。
「この事は別に話す気は無かったんだ。教えても俺に良いことなさそうだし、生活にも支障がありそうだ。だから可能なら秘密にして貰いたい。
あと、俺を捕まえるのは諦めてくれ。捕まっても多分すぐ逃げられる」
「本当にあの英雄だっていうならそうでしょうね。牢屋に入れても笑って出てきそうだわ」
「やろうと思えば壁でもなんでも壊して出られるだろうからな」
ローランが「ユウマさんがあの英雄?」なんてブツブツ呟いているが、他の二人は俺の話に一応納得してくれているようだ。
てか、ローラン、お前さっき俺の話を一番に信じてくれた感じだったじゃないか。500年前の魔法について知ってるかどうかって事しか考えてなかったのか?
「そうよね。そういえばあなた、いえ、ユウマ様と呼んだ方がいいかしら」
「いや、ユウマでもあなたでもお前でもなんでもいい」
様付けされるとお店の人と話してる気分だ。
「なら、ユウマ。あなたはステータスを隠しているのよね?」
「エルに言われてな。偽装を使ってる」
「それ解いて貰ってもいい?」
「いいけど、意味あるのか? 誰か鑑定魔法を使える奴がいるならこんな事しなくても確認して貰えたんだが」
「かんて……はぁ、そうよね。英雄は大魔法使いでもあったんだものね。
悪いけど、そういった細かな調整が必要な魔法はだいたい失われた魔法になってるわ。魔術でも再現できていないのよ。ごく少数の魔法使いが使える程度かしら。
私はただ魔力の感知が得意だからそれを見たかっただけなの」
大魔法使い? そんな風にも呼ばれてるのか。英雄もそうだが、なんかこそばゆいな。間抜けにも魔王と一緒に封印されてしまっていたんだが。
というか、魔法使いがまだいるってことに少しだけ安心した。何も知らない異国で同郷の人を見つけた気分だ。
いや、よく考えたらローランと食事した時に魔法を使える者が減ったとは言ってたが、居なくなったとは言ってなかったか。
「それなら構わないけど、俺の魔力ってちょっとおかしくてさ。
魔法局……じゃなくて今は魔術局か、魔術局にはまだ鑑定板ってあるのか?」
「大魔法使い……ユウマさんが……大魔法使い……英雄……」
「ローラン! しっかりしなさい」
「え? あ、はい。なんでしょう」
まだ反応がかなり遅れていたローランがマリアナの喝で戻ってくる。
「まったく、しょうがないわね。鑑定板ならあるわよ」
「あ、鑑定板の話でしたか。ありますよ、魔術が入ってきてから一気に機能が上がり、最近では小型の持ち運びできる鑑定板でもかなりの数値を鑑定できるようになっています。魔力感知器はこの鑑定板の魔法陣を応用して作っていて——」
水を得た魚の様にローランが饒舌に話し始める。
魔力感知器は鑑定板の応用で作られたのか。確かに、感知って鑑定と似てるしな。
(魔法知識で確認してみぃ。感知の魔法もある)
エルに言われて確認してみたら確かに〈感知〉という魔法があった。
周囲を確認する探索と違って、こちらは受け身の魔法で、現在相手から受けている魔法がどの様なものなのかがわかるものらしい。多分、この魔法の簡易版で魔法や魔術を使う時の魔力を感知しているんだろう。
鑑定魔法と感知魔法だと別の魔法なのに、鑑定魔法を使っている鑑定板から魔法感知の装置を作るって結構優秀じゃないか。
「——現在は相手が使おうとしている魔術の種類を特定する方法を……」
「ローラン、もういいわ。
それで、鑑定板がどうしたの?」
ローランの魔道具話を遮ってマリアナが俺に尋ねる。
「いや、今の鑑定板がどのくらいの性能かはわからないけど、500年前の鑑定板で俺の魔力を測ったら数値が測りきれなかったんだ。
今のエルの魔力でもかなり高く感じるんだろ? 大丈夫か?」
「500年前の……ちなみに、その時は何桁まで鑑定できたの?」
「確か、五桁だ」
「ということは少なくとも10万以上ってことね。やっぱり偽装は解かなくていいわ。魔力感知ができる者はそんなに多くないけど、冒険者にもいないわけではないし、ここでそんな大きな魔力を出されたら騒ぎになりそう」
理論上では六桁まで出るはずなんです。ただそこまでの数値を出せる人がいないだけで……とまたブツブツ言い始めたローランはもうほっといていいだろう。
「それで、俺はもういいか?」
一応、ここまで連れて来られた相手ということでルドマンに尋ねる。
「マリアナがいいっていうなら俺は別に構わねぇが。
元々こういうのは冒険者ギルドの管轄だから、うちで話を聞く前に冒険者ギルドに確認しただけだしな」
「私ももういいんだけど……あなた達、冒険者登録しない?」
「冒険者登録?」
「そう。こちらとしてもあなた達を放置するわけにもいかないの。だから、もし冒険者として登録してくれたらとても助かるのだけど。
冒険者の登録証は簡単な身分証の代わりにもなって便利よ?」
「んー……やめとくよ。エルが嫌がるだろうし」
「魔王が?」
「エルでよい。妾の両親が冒険者に殺されたのじゃ。妾はそれで魔王になった」
エルから小さな怒りの感情が流れてくる。
人間を殲滅するというのはどうにか諦めて貰い、人間全体に対する怒りも何度も話すことでどうにか収まったが、やはり両親の仇に対しての怒りは抑えきれないようだ。
こればかりは俺も否定できないし、する気もない。
「そうだったの……。
でも、それこそ冒険者になった方がいいと思うわ。そういう情報って冒険者ギルドに集まりやすいもの」
「おい、魔王に何をさせる気だ。
今でこそ商人ギルドの人間ではあるが、俺は元王国騎士団だぞ」
「妾は別に子孫を探して殺そうなどとは思っておらぬ。
500年前は人間を根刮ぎ消し去ってやろうと思っておったがの。こやつに毒気を抜かれてしもうた」
エルに足をゲシゲシと蹴られる。本当に毒気を抜かれてんのかこいつは。
流石に俺も子孫を見つけて殺そうとか言い出したら止める。子供に罪はない。
「でもまぁ、情報が要らんというわけでもないし、冒険者にはなってやっても良いぞ。見つかるなら墓でも見つけて叩き壊してやりたいしの」
おー、エルの奴本当にやる気だよ。
それなら俺も止めんぞ、むしろ協力しよう。
「なら登録しましょう。英雄が冒険者をやってくれるなら心強いわ」
俺をこき使う気じゃないだろうな。
仕事をするならちゃんと対価を貰うぞ。
「書類を持ってくるから少し待っててちょうだい」
そう言ってマリアナが部屋から出ていく。
ルドマンと軽く話をしながらマリアナを待っていると、しばらく前からブツブツいうのをやめて黙り込んでいたローランがバンッと机に両手を付けて突っ伏す。
なんだ? いきなり泣き出したのか? と怪訝に思い見ていると、そのままの体制でいきなり謝罪とお礼を言い始めた。
「大魔法使い様、数々の失礼をお詫び申し上げます。馴れ馴れしい態度を取ってしまい申し訳ございません。
そして、日々我々にお力を貸して頂いておりますこと、全ての魔術師に変わり感謝申し上げます。本当にありがとうございます」
……何をいきなり言いだすんだこの人は。
色々と情報が入りすぎて頭がおかしくなったのか?
と、俺が困惑しているところにマリアナが書類を持って帰って来た。




