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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
二章 勇者の帰還(魔王付き)
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十四話

「すまんがちょっといいか」

「ん?」


 振り返ると、二人の男性が立っていた。後ろに控えている男性には見覚えがあり、その男性の前に立っているのは巨漢の大男。魔獣と素手でやり合えそうな筋骨隆々で2メートルはゆうに超える身長を持った巨体、目つきは鋭く、頭は白髪混じりの短髪。目元にある古傷なんて、完全に歴戦の勇者だ。

 うん、彼なら勇者の称号を明け渡してもいい。


「ルドマンさん、この方で間違いありません」


 俺が馬鹿なことを考えていると、後ろにいた男性が頷きながら大男に話しているのが見える。

 あぁ、どうにも見覚えがあると思ったら、指輪を買い取ってくれた商人だ。あの指輪がなんかあったのか? ちゃんと鑑定もしたし、変なもんを売りつけた訳じゃないんだが。


「俺はこの商人ギルドのギルド長をしているルドマンという者だ。悪いが、ちょっと聞きたいことがあるんで時間を貰えないか?」

「構いませんが、あの指輪は偽物とかじゃない筈ですよ」

「本物だから問題なんだ。とりあえず、冒険者ギルドの方で話を聞かせてくれ」

「冒険者ギルドで?」


 話をするだけなら商人ギルドでもいいんじゃないか? 応接室くらいあるだろ。


「いやな、冒険者ギルドのギルド長も同じことで話を聞きたいってんで、何度も話して貰うのも面倒だから一緒に済ませちまおうってな」

「……わかりました。私も冒険者ギルドに行く予定でしたし」

「悪いな、じゃあ付いてきてくれ。アドルフはもういいぞ、手間取らせたな」

「いえ、では私はこれで」


 指輪を買い取ってくれた商人と別れ、俺はルドマンというギルド長に付いていく。


『面倒なことになりそうじゃの』

(本物だから問題だって言ってたから封印が解けたのがバレた関係かね)

『可能性は高そうじゃの。なんせ500年前の物じゃしな』


 あぁ、エルの言う通り面倒なことになりそうだ。おそらく、指輪を盗んできたとでも思われてるんだろう。盗んだものじゃないって証明できないのが痛いな。この世界、前世より冤罪とか多そうだし。これ、捕まって牢屋行きとかになんのかな。


 ルドマンに付いて歩きながら、どう説明しようかとか捕まったらさっさと脱獄して逃げようかなどとエルと話していると、商人ギルドと同じかそれ以上に大きい建物に着いた。建物の正面には剣と盾のマークが入った看板が下がっていて、入り口の上には冒険者ギルドと書かれている。

 初めて入る冒険者ギルドが連行されるような形でなんて事になるとは……。


(ワクワクを返して欲しい)

『やはり楽しみにしとったのではないか』

(……悪い。やっぱ初めての冒険者ギルドってのに少し期待してた)

『まったく。別に構わんがの』


 エルに謝りながらギルドへ入っていくルドマンに続いて扉を(くぐ)り、初めて見る冒険者ギルドの中を見回す。

 基本的な作りは商人ギルドとあまり変わらない。違うところといえば商人ギルドの食事処が喫茶店みたいだったのに対して、こっちは完全に酒場になっているのと、そこらにいる奴等が厳つい武器や防具を付けているところか。あと、多分だが受付と食事処の間の通路の先が違うんだろう。こっちは素材の保管庫や解体場なんかに繋がってるんだと思う。さっき大きな猪みたいな魔物を奥に運んでいってたし。

 ルドマンは、酒場や掲示板なんかを見渡している俺を置いてさっさと階段へ向かっていってしまったので、俺も慌てて後を追う。


「なんだ、冒険者ギルドは初めてか?」

「ええ、まぁ」

「それはまた悪いことをしたな。いろんな奴からじろじろ見られちまって。もっと落ち着いて見たかったろ」


 実際、ルドマンに付いてきた俺は周りの冒険者から怪訝な目で見られていた。商人ギルドのギルド長自ら冒険者ギルドに来ること自体が珍しいだろうし、それに付いていってるのが商人らしくない男なのだから尚更珍しいだろう。


「仕方ありません。冒険者ギルドの見物はまたの機会にしますよ」


 再度軽い謝罪を受けながら階段を上がると、二階にはいくつかの扉が並んでおり、ルドマンが一番手前の扉をノックして声を掛ける。


「マリアナ、連れて来たぞ」


 するとすぐに中から返事があり、ルドマンがそのまま扉を開けて中へ入ったので俺もあとに続く。

 ここは多分応接室だろう。部屋の真ん中にはテーブルを挟んでソファーが置かれていて、壁には絵画や豪奢な剣が飾られている。ソファーには既に二人座っていて、片方は昼食をご馳走になったロールランドだった。

 そしてもう片方は……。


(おい、あれって……)

『あれはエルフじゃの、人里におるとは珍しい。いや、今は普通なんじゃろうか』


 そう、ロールランドの隣に座っていたのはエルフの女性だった。緑色の長髪に、陶器のような白い肌、よく見ると瞳はエメラルドグリーンだ。何より目を引くのは、頭の横からスッと出ている尖った特徴的な耳。俺が読んでいたラノベにもエルフのキャラが出てきていたが、まさにこんな感じだっだと思う。


「名前を聞いてもしかしたらとは思っていましたが、やはりあなたでしたか。最近は勇者の名前を付ける人も減ってきましたからね」


 ロールランドが席を立ってこちらへ歩いてくる。


「こんなに早く再開することになるとは思いませんでしたよ、ユウマさん」

「なんだ、知り合いか?」

「あら、セラスからローランがサボってたって聞いたけど、その事かしら」

「お昼を一緒に食べただけですよ。そういえばエルさんは一緒じゃないんですか?」

「エルは街を見て回ると言うので別行動です」


 まさか今は私の中に居ますなんて応えられるはずもない。

 ロールランドがいるってことは確実に封印の件に関する事だな。さて、どう言い訳したものか。


「まぁいいわ。それでルドマン、その人で間違いないの?」

「ああ、買い取った商人に直接確認して貰ったから間違いない」

「すみませんが、私がここに呼ばれた詳しい理由を教えて頂けませんか? 指輪の件でというのはわかりますが」


 ここのところは一応確認しておかなければ。こちらから話してボロを出す訳にもいかない。捕まったら逃げてもいいけど、お尋ね者になるのはできるだけ遠慮したい。


「ユウマさん、話し方は普段通りで大丈夫ですよ。マリアナさんは冒険者ギルドのギルド長ですし、ルドマンさんはご自身がああいう方ですから。あ、それと先程は言い忘れましたが、私のことはローランと呼んでください。皆そう呼びますので」

「自覚はあるが、その言い方はないだろローラン」

「……わかった。で、なんで呼ばれたんだ?」


 ロールランド改めローランに先程の質問を繰り返すと、ローランは視線をマリアナへと移す。

 ローランの視線を受けて、マリアナが仕方ないとでも言うようにため息をついてから話し始める。


「あなたを呼んだ理由は指輪の件で間違いないわ。率直に聞くけど、あの指輪はどこで入手したのかしら」


 まぁそうだよな。そのことだよな。

……面倒だし適当に嘘をついておこう。


「あれは人に譲って貰った物だ。ここに来る途中で会った冒険者から買い取ったんだ。付与効果が付いていると言っていたけど、本人も確認はしてないってことで安く買い取った。そのあと盗賊にあって所持金を取られてしまったから街に入る為のお金を作るのに待機列にいた商人に買い取って貰ったんだよ」


 だいぶ適当な言い訳だが……。


「なるほ——」

「流石に信じられないわね」


 通る訳ないか。

 いや、ローランはちょっと騙せそうだったな。


「あなた、ステータスを偽装してるでしょ。ちょっと魔力の出方が変よ。そんなことができる人を襲える盗賊がいるならAランク冒険者にでも討伐依頼を出さなきゃいけないわ」

「ステータスの偽装? そんなことできるのか?」

「ええ、失われた魔法(ロストマジック)だけどね。昔はそういう魔法で相手を油断させて不意打ちをしたりなんて事もあったらしいわ。私の父や祖父の時代の話だけどね」


 500年前の話をしてるんだとしたらやっぱりエルフって長生きなのか?


『此奴らの寿命はだいたい300〜400年くらいじゃの。長くても500年くらいじゃろ。年数的にはギリギリ生きとるのがおるかも知れんって程度じゃろ』


 魔族にもギリギリ500年生きる種族がいるって言ってたし、そういう長寿な種族の一部ってことか。

 じゃあ、この人この見た目で……


『ありえん話ではないの。父や祖父と言っておったから、もし父親が500年前に生きておったとすればこのマリアナとか言う娘も200歳は超えとるかも知れん』


 元気なお婆ちゃんだな。前世ならギネスに登録できるぞ。500年前から見た目が変わらない俺が言うのもなんだが。封印のせいだって言っても殆ど不老不死らしいから今後も変わらなそうだしな。


「失礼なこと考えてない? 私はまだ80歳よ。父が晩婚だったの」


 おー、俺が前世で死んだのと同じくらいだ。それは若い……のか? いや、人間の寿命に合わせたら20〜30くらいか。若いな。


「ちなみに、俺がひよっこの駆け出しだった時にはもうここのギルド長をやってて、その頃から80だって言ってるからな」


 ルドマンがこそっと耳打ちしてくる。


「ルドマン!」

「おっと、こえーこえー」

「……まぁいいわ。

 ともかく、その適当に考えたような話では信じられなわ。本当の事を話して貰える? じゃないと、問答無用で捕まえて……あなた、今何したの?」


 え? なんだ? バレたのか?

 俺を捕まえるって話が出たから念のため三人のステータスを鑑定してたんだが。


『お主な……妾の城に来た時それで妾に見つかったのを忘れたのか』


 あれは探索魔法だったろ。


『なるほど、なまじ魔法知識があるせいでその辺の事が分かっとらんかったのか。探索や鑑定なんかの対象を感知する系の魔法は相手に魔力を気取られる可能性があるんじゃ。じゃから、使う時は魔力を隠して使わなきゃいかん。魔力が高い者の中には時折そういった魔法に敏感な者がおる。お主は鈍感なのか、気にしていないだけかってところじゃろ』

(そういうのは早く言って欲しかった)

『もう少し考えて行動せんか』


 まいったな。鑑定したのがバレたら今以上に怪しまれそうだ。


「何をしたのか答えなさい」


 あれ? 何かをしたって事はバレてるけど、それが鑑定だって事はバレてないのか?

 それなら……。


「疑いを晴らすためにまずは偽装の魔法を解こうかと——」

「そういや、指輪を買い取ったアドルフの奴が売買の話の前に魔力感知器が作動したって言ってたな。攻撃されると思って慌てて出たんだと」


 馬車の中を確認するのに使った探索魔法かー。そんな装置があるなんて聞いてない。


『お主……』

(すまん)


「……牢獄の取調室で話した方が良さそうね」

「まった、わかった。話す。話すから」


 信じて貰えるか分からんが、ここは素直に話して相手の出方次第で考えよう。


「最初からそうしてくれていれば良かったのよ」

「いや、信じて貰えるかどうかわからなかったから、こちらとしても警戒してたんだ」

「まぁ、いきなり連れて来られてこの指輪はどうしたってんだからな。仕方ないっちゃ仕方ないな」

「では、立ち話もなんですし、ユウマさんもルドマンさんも座りましょう」


 ことの流れを見守っていたローランに促されソファーへと腰を下ろす俺とルドマン。続いてローランが座りテーブルに置かれた紅茶を啜りだしたところで俺は話し始めた。


「まず始めに、俺は勇者だ」


 ローランが紅茶を吹き出して、目の前のルドマンがびしょ濡れになる。


「あなたね」

「まってくれ、だから信じて貰えるかわからないって言っただろ」

「それにしたって、信じろって方が無茶だぜ」


 ローラン産の紅茶を滴らせながら呆れたようにルドマンが言う。


「ちゃんと説明するから。一応聞いてみてくれ」

「わかったわ。続けて」

「よし、いいか? 最後まで聞いてくれよ? 始まりは500年前だ——」


 俺はこの世界に召喚された時からの経緯を説明した。流石に信じて貰えないかもと思い神様や精霊の事については話さず、召喚される前や封印が解かれた理由なんかは覚えてないとか時間が経ってなどとボカして誤魔化す。

 俺の説明を、ルドマンは呆れ顔、マリアナは思案顔、ローランは楽しそうに聞き続けた。

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