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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
二章 勇者の帰還(魔王付き)
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十三話

 ロールランドの魔術講座が歴史から魔術と魔法の違いに変わった頃に注文していた料理が出てきた。

 出てきたのは魚料理が三皿。シンプルな塩焼きと、素揚げ、そして香草蒸し。せっかくだからと三皿とも小分けし、話し続けてるロールランドを放っといてエルと二人でいただく。

 これがまさかの美味(びみ)。内陸で魚料理はと心配していたのが嘘のように新鮮で臭みも全く感じない。塩焼きはシンプルながらもしっかりと味が付いており、焼き過ぎずに身がプリッとしていた。素揚げも味付けは塩だが、こちらはサラッと軽めに振られていてくどさがなく、いくらでも食べられそうだ。香草蒸しは、使っている香草が異世界でしか採れないものなのか、前世では食べたことのない味がした。


「美味しいな」

「そうじゃの。可愛い店員さんだけが目当てという訳では無かったのじゃな」


 魚料理に舌鼓を打ちながら、楽しそうに魔術と魔法について話しているロールランドを見ていると、魔術局への苦手意識が薄らいで行く。料理も美味しかったし。


「ロールランドさん、嫌な態度をとって申し訳ない」

「え?」


 話を遮って謝罪する俺をキョトンとした顔で見つめるロールランド。


「魔術局というものにあまり良い印象がなかったもので。謝罪します。料理もとても美味しかったです」

「いえいえ、気にしてませんよ。冒険者の方はだいたいそんな感じですし、普段通りの話し方で構いませんから」


 冒険者に粗暴な者が多いのは何年経っても変わらないらしい。まぁ、砕けた話し方でいいならその方が楽だしありがたいけど。


「そうか。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うか。なんにしても、本当にすまなかった」

「まぁ、妾達は冒険者じゃないがの」

「そうだったんですか? 魔術に詳しいみたいですし、とても強そうに見えたのでてっきり高ランク冒険者の方なのかと……」

「冒険者は好かん」


 両親が冒険者に殺されたんだもんな。


「そうですか。冒険者登録すると色々と便利ではあるのですが、無理に冒険者になる必要もありませんしね」

「冒険者になって何か得する事があるのか?」

「大きな利点は二つあります。一つは情報を得やすいということ。もう一つはクエストの斡旋ですね」


 ロールランドによると、各地の冒険者ギルドはギルド同士の繋がりが深く、情報のやり取りが盛んに行われているらしい。大きい所だと通信用の魔法道具(マジックアイテム)を持ってたりもして、ここデーヴァンのギルドも持っているとのことだ。そういったギルドの情報が冒険者に伝わってくるんだそうだ。

 クエストの斡旋は、ギルドに来た依頼をギルドホールなどで公開し、それを冒険者が受ける事ができるシステムで、依頼の難易度などをギルドが決めることで受けられるランクが制限され、ある程度自分に合った物を選ぶ事ができる。

 個人で受けるよりも依頼の達成率が上がるし、報酬の管理などもしてくれるので取りっぱぐれたりする事も殆ど無い。そもそも、依頼者もギルドに任せた方が安心できるということで個人での依頼はあまり無いらしい。


「どうしてもギルドを通している時間がない場合などに知り合いの冒険者に頼むという事はありますけどね。高ランクの冒険者になると貴族から直接依頼があったりしますが、それも基本はギルドを通します。わざわざギルドを通さずに出される依頼は危ないものである事が多いです」


 ただ依頼内容が危ないというだけでなく、依頼者が地雷って事もあるんだそうだ。ギルドへの手数料を払いたくないなんて考える奴は依頼料も払いたがらないという事らしい。


「まぁ、考えてみるよ」

「妾は気が進まんがの」

(例の冒険者がどうなったのかとかはギルドに登録しておいた方が分かるかもしれないぞ)

(む……確かにそうじゃの、一応考えてはみるかの)


「それにしても、冒険者ギルドについて知らないなんて、どんな所に住んでいたんですか?」

「あー、さっきも軽く話したけど、俗世から離れていたんだ。長いこと外との繋がりがない場所で過ごしててね」

「冒険者ギルドが無いというのはまただいぶ……」


 ロールランドが怪訝な表情になる。

 封印前にも冒険者ギルドはあったけど殆ど関わりが無かったからなぁ。知らないものは知らないんだからしょうがない。


「そんな事は良かろう。そういえばこの店は普段は繁盛しておると言っておったの。今日は特別じゃと」

「え、ええ。ここは魔術局の局員に人気のお店なんですが、実は魔術局内でちょっと問題が発生していまして」


 繁盛って魔術局の人達が来るからなのか。確かにあそこから結構近かったしな。


「封印の地はご存知ですよね? あそこの封印が解かれたかもしれないという知らせがあって、局がてんやわんやなんですよ。私も朝からずっと仕事に追われていて、確認に出た騎士団員から特に変わりはないという報告があって少し落ち着いたからこうして昼食に……」


 ロールランドが参りましたよと呟きながら溜息をついていると、店の扉がバンッと勢いよく開かれ、女性が店内に入ってきた。


「ローラン局長! やっぱりここに居ましたか!」

「セラス君?」

「お昼ご飯に時間かけ過ぎです! まだ仕事は残ってるんですからね! 早く戻りますよ!」


 セラスと呼ばれた女性は、小柄で身長140センチ程。くりっとしたエメラルドグリーンの瞳と鼻のそばかすが女児を思わせる。オレンジ色の髪を後ろで束ね、ロールランドと同じ白衣を纏っている。

 そんな、女の子と表現した方がしっくりくる様な女性が大の大人である男性を叱っているというのはなかなかシュールな絵面だ。


「わかったわかった、ごめんよセラス君、すぐ戻るから。すまないお二人さん、私はもう戻らないと」

「いや、気にしないでくれ」

「代金は払っておくから、ゆっくりしていってください」

「すまんの。仕事頑張っての」

「そうだ、さっきの封印が解けたかもって話は一応機密だから他で話さないでくださいね。私はだいたい魔術局にいるので気が向いたらまたお話ししましょう。では、失礼します」


 ロールランドは会計を済ませてからセラスに文字通り引き摺られて行った。

 自分より40センチ程背の高い男性を引き摺るとは……見た目と違って筋力のステータスが高いのかな。


彼奴(あやつ)、話を聞かせてと声を掛けて来たのに殆ど自分で喋ってるだけじゃったの」

「そういえばそうだな。ああいうタイプは、好きな話題なら相手が話そうが自分が話そうが関係ないんだろ」


 前世でオタクの友人が一人で延々と話し続けていたのを思い出す。まさか昼食に入った食事処で夕食を食べることになるとは思わなかった。俺が居眠りしてても構わず話し続けているんだからたいしたもんだ。ちなみに、話していた内容は殆ど覚えていない。


「さっきの封印がなんたらっての……」

「まぁ、妾達のことじゃろうな」

「だよな、来る途中で騎士団も居たし。なんでバレたんだろ」

「部屋を封印してたアレじゃないかの」

「あぁ、ちゃんと戻しておいたのにダメだったか。問題無いみたいだからいいけど」


 封印されてた部屋を出る時に少しだけ解除したアレだ。封印が解かれたのがわかる仕組みでもしてあったのだろうか。


「この後どうする?」

「とりあえず、今日の宿を決めておいた方が良かろう。夜になってから宿が見つからんなんて事になったら面倒じゃしの。妾は魔力体から戻ればいいが、お主は街で野宿なんぞ嫌じゃろ」


 俺は、街の端っこの地べたで寝ている状況を想像して顔を(しか)める。流石にそれは嫌だ。下手すると封印されてた方がマシかもしれない。


「宿を探そう」

「じゃの」


 散歩がてらに宿を探して歩き回ってもいいが、街の人にオススメを聞いてしまった方が時間を有効に活用できる。

 俺は、カウンターで暇そうにしていた魔術局の職員がここに来る理由の半分程を担っているであろう店員に声を掛ける。


「すみません」

「あ、はーい。ご注文ですか?」

「いや、ちょっと聞きたい事があって。これから今日泊まる宿を探そうと思っているんだが、俺達はこの街に来るのが殆ど初めてなんだ。だから、オススメの宿とかあれば教えて貰えないか?」

「なるほど。そうですねー、予算によって変わってきますけど……そういったことでしたら冒険者ギルドで聞くといいかも知れません。冒険者じゃなくてもそういうことは教えて貰えますし」

「そうか、ありがとう」


 考えると言った矢先に冒険者ギルドに行く用事ができてしまった。

 店員さんに情報の礼として飲み物を二人分頼み、エルと相談する。


「いきなりとはの」

「嫌なら歩いて探してもいいけどな」

「まぁ良かろう。妾はお主の中に戻っておるから宿の場所だけ聞きに行け」

「わかった。ならチャチャっと用事だけ済まそう」


 この後の目的も決まり、頼んだ物も飲み終わったので店を出る。

 ちなみに、お代は銅貨5枚で結局金貨で払う事になった。これではわざわざ屋台をやめて店にした意味がないとも思ったが、魔術局職員の御用達(ごようたし)のお店なだけあって儲かっているのか、嫌な顔一つせずにお会計してくれた。


「じゃあ、妾は戻るかの」


 店を出て脇道に入り、エルが魔力体を解除する。

 冒険者ギルドの場所は波風(なみかぜ)亭の店員さんに聞いておいたので、まっすぐ目的地へ向かう。


「なあ、冒険者ギルドに行く前にちょっと商人ギルドを見て行きたいんだけどいいか?」

『別に構わんぞ。妾もそっちには少し興味があるしの』


 波風亭から冒険者ギルドに向かう途中で商人ギルドの前を通るらしいので、一度寄ってみることにする。封印前は冒険者ギルドよりも縁がなかったのでちょっとした好奇心だ。


 暫く歩いていると、馬車の行き来が増え始める。もうすぐ商人ギルドだから商人が多くなってきてるんだろう。

 馬車の違いを見ながら進んでいくと、大きな建物が現れる。革袋のマークが入った看板が下がっていて、出入り口の上には「商人ギルド」と書かれた板が取り付けられている。


「でかいなー」

『ここはそこそこ大きな街らしいからの。商業も盛んなんじゃろ』


 波風亭の魚料理もマジックバッグを持っている商人に素材を届けて貰っていると言っていた。マジックバッグを持っている商人はかなり少ないらしいが、店の食事を割引きしてかなり安く仕入れて貰っているとのことだ。

 普通はそれだけで仕入れられる物じゃないだろうに……多分、店員さん効果が発揮されているんだろう。恐るべし看板娘。


「中に入ってみよう」

『どうせならここで宿のことも聞いたら良いのではないか?』

「それで済んでしまうならそれでもいいか」


 エルが行きたがらない所にわざわざ行く必要も無い。

 扉を(くぐ)ると中もかなり広々としていた。まっすぐ進むと受付があり、商人らしき人が受付の人と書類をやり取りしている。

 向かって右は食事処になっている。ご飯を食べるというよりもお茶をするための所という感じで、広めの喫茶店みたいな空間だ。多分、ここで契約の話なんかをしたりするんだろう。そして、受付の向かって左には大きな掲示板のようなものがある。貼ってあるものを軽く読んでみると、どこどこで盗賊が頻出しているとか、なんかの素材を買い取りしてますだとか、注意事項や商品の買取募集などが書かれていた。

 受付と掲示板の間には階段があり、二階へと続いている。反対側の受付と食事処の間は裏へと続く通路になっているので、ここから荷下ろし場に行けるのだろう。

 俺は、暫くの間エルと脳内で雑談しながらギルド内を見て回り、満足したので宿の場所を聞きに受付へと向かう。


「すみません、少しお伺いしてもいいですか?」

「デーヴァン商人ギルドへようこそ。商品のお取り引きでしたら商業証をご提示ください」

「あ、いえ、私は商人じゃないんです。この街に来たのが初めてで、もし可能であれば宿の紹介をして貰えないかと思いまして」

「申し訳ありません。そういったご案内はしておりません。ギルドが一つのお店を贔屓(ひいき)にする訳にもいきませんので。料金や評判についてでしたら冒険者ギルドの方でお聞きください」

「そうですか、お手間をお掛けしてすみません。ありがとうございました」


 軽く頭を下げて受付から離れる。


『納得じゃの』

「そうだな。しょうがないから冒険者ギルドに行ってさっさと済ませよう」

『そんなこと言って、ワクワクしてますって雰囲気が伝わってくるぞ』

「そ、そんな事はないぞ」

『はぁ、まぁ妾の両親の仇はもう死んでおるじゃろうし別に良いがの』


 そんなことをエルと小声で話しながら出入り口に向かっていると、不意に後ろから声を掛けられた。

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