十話
「あのー」
「ん?」
「なんだ?」
「突然すみません。私は、行商をやっている者なのですが」
「商人さんが俺たちに何の用だ?」
俺が話しかけると、真ん中の戦士らしき人が答えてくれる。多分この三人パーティーのリーダーなんだろう。
「実は、商品を運んでいる途中で盗賊に襲われまして。冒険者の方を見かけたので声を掛けたのです。失礼ですが、皆さんはどちらから来られたんでしょうか」
「それは災難だったな。俺たちはここの近くにあるデーヴァンって街から来たんだ。こいつの訓練でな。新人研修ってところだ」
斥候らしき人が背中を叩かれて涙目になっている。
「良かった。私はそのデーヴァンに向かっているところでして、もしよろしければお供させていただけませんか?」
500年も経ってるというのにデーヴァン領はまだ残っているらしい。ロスヴァールが頑張ったんだな。
冒険者達はこちらを伺いながら話し合っている。まぁ、当然といえば当然だ。いきなり現れて「盗賊に襲われたので一緒にいさせてください」なんて、簡単に信じてたら命がいくつあっても足りない。
しばらく話して結論が出たのか、戦士の言葉に他の二人が頷いている。
「一緒に来ていいぞ。俺達ももう少ししたら領に戻るつもりだったしな。ただし、怪しい動きをしたら命の保証はしないからそのつもりでな。食い物と飲み物は多少分けてやれる」
なかなか良い冒険者に出会えたようだ。
500年前と変わらなければここからデーヴァン領まで歩きで半日程かかるはずだ。太陽を見た感じ既に午後四時前後といったところだから今日は野宿するつもりなんだろう。
「ありがとうございます。私はユウマといいます。一応、魔物との戦闘経験もありますので少しは自分の身も守れます」
「俺はバロン見ての通り戦士だ。このパーティーのリーダーをやっている。こっちが斥候のセインで、後ろにいるのが魔法使いのパール。本当はもう一人メンバーがいるんだが、今日は来ていない」
バロンは所々傷痕のある筋骨隆々な体型で、身長は190前後くらいだろうか、170後半くらいの俺だと少し見上げなければいけない。顔にも傷痕があるせいで結構厳つく見えるが、話していると気さくな先輩冒険者といった感じだ。腰には刃の広い片手剣を差している。
「セインです! 斥候をやっています! よろしくお願います!」
セインは見た目15、6歳の少年。バロンとは違い身軽そうな格好をしており、武器も短刀を付けているだけだ。身長は俺より少し低く、だいたい160中盤ってところか。
茶色の短髪とパチッと見開いた目が部活動入りたての男子高校生を彷彿とさせる。
「魔術師のパールです。よろしくお願いします」
パールは黒髪で黒いローブに包まれており、まさに魔法使い然とした格好をしている。背丈は俺とバロンの中間くらいか。
ローブなのでよく見えないが、なんとなくスラッとした体型をしてるようだし、手に持っているのが木製の杖なので近接格闘はあまり得意じゃ無さそうだ。
「それにしても商人で戦闘経験があるというのは珍しいな」
「齧った程度ですよ。護衛を雇う金がありませんので自分の身は自分で守らねばと」
(魔王を倒しておいてよう言うのー)
(うるさいぞ)
「なるほどな」
バロンが俺をジロジロ見ているが、なんかまずい事を言っただろうか。
まさかエルの声が聞こえてるとがじゃないよな?
「いや、すまん。どうりで商人にしては戦闘向きな装備を付けているなと思ってな」
あぁ、なるほど。それは全然考えてなかった。
マジックボックスがあるんだからそっちにしまっておけば良かったな。
「じゃあ、そろそろ行くか。おいセイン、せっかくだから護衛任務の練習を兼ねて進むぞ。商人の護衛なんてこれから何度も受ける仕事だからな」
「はい!」
「まぁ、今回はユウマさんがある程度戦えるみたいだから少しくらいのミスは出来る。気負わずにやれ」
「バロン、そういうのはユウマさんに聞こえないようにやるものですよ」
「これは申し訳ない」
ダハハと笑いながら謝罪するバロンにこちらもつい笑みが浮かぶ。
「いえいえ、同伴させていただくのですから構いませんよ」
「よし、じゃあ行くぞ」
バロンの掛け声で先頭を進み始めるセインに俺が付いて進み、その後ろをバロンとパールが左右に並んで付いて来る。
『お主、マジックボックスが使えたのか』
(この身体を作った時に付けてくれたんだ。最初から付けてあったみたいだし、そんな珍しいもんでもないだろ?)
『いや、今はどうかわからんが、結構珍しい能力じゃったと思うぞ。魔王軍でも使える奴は数人しかおらんかった』
(へー、やっぱ適当なんだな神様。俺としては便利だしありがたいんだけど)
その後、何度か魔物と遭遇し戦闘になったものの俺が出る事もなく、森を抜けて平原に出た辺りで日が落ちてきたため野営する事となった。
バロンに貰った食料は干し肉とパン。どちらも硬くて水で少しふやかしてからじゃないと食べられないような物だったが、歯が悪くなって硬いものなんぞ噛む事もできなくなっていた前世をふと思い出して、こんな硬いものが噛めるのかと心の中で感動していたら、エルから『ジジイかお主は』と突っ込まれてしまった。
のじゃ口調の奴には言われたくない。
「見張りは二人一組で交代しながらやろう。俺とユウマさんが先に見張りをする。パールとセインは時間になったら起こすからしっかり寝ておけ」
戦闘ができるということで夜の見張りには俺も参加する事になった。お金を払って依頼したわけでもなく、食料まで分けて貰ってしまったのだから文句などあるはずもない。
そこまで信用できていない俺を監視しておきたいという理由もあるのだろう。
パールとセインが横になり寝息を立て始め、焚き火のパチパチという音が森の静まりに飲まれていく。
ただ火の番をしているだけでは暇なので、ポツポツとバロンと言葉を交わす。
「ユウマさん、生まれは?」
「生まれは遠い辺鄙な国です。デーヴァンにはしばらく滞在していたのですが、ちょっと遠い所まで足を伸ばしていたので来るのは久々なんですよ」
「そうか。……ユウマさんはそう悪い奴にも見えんから忠告しておくが、その装備で金がないから護衛を雇っていなかったってのはちと無理があるぞ」
「これは……申し訳ありません」
「いや、何か事情があるのだろうというのはなんとなくわかる。街に戻ったらその装備は外しておいた方がいいかもな」
「ありがとうございます」
本当に良い冒険者に出会えたものだ。
その後も当たり障りのない世間話をしながら夜を過ごし、寝ていた二人を起こして自分達も横になる。
暫く眠っていると、セインに起こされた。
「すみません。ちょっと様子がおかしいので起きてください」
見ると、バロンもパールに起こされて戦闘の準備を始めている。
「どうしました?」
「セインが平原の向こうから兵士らしき影が近づいて来てるのを見つけてな」
「はい。5、6人が馬に乗ってこちらへ向かって来てます」
「セイン、どこの兵だかわかりませんか?」
「鎧に付いている紋章を見た感じデーヴァンの兵だと思うんですが、遠かったので確実にはなんとも」
「一応、様子見ってとこだな。デーヴァンの兵なら別に問題はないが、他の所だと関わるのは面倒だ」
「この辺はデーヴァンの管理地ですからね。他の所の兵が来てたら関わりたくないですね」
「セイン、動ける準備はできた。もう一度確認しに行ってくれ」
「はい」
セインが再び兵の確認をして戻ると、兵の紋章はデーヴァンの物で間違いなかったそうだ。
しばらくして、兵を乗せた馬が俺たちの少し先で森へと入っていくのが見えた。
「……問題はなさそうだな」
「そうですね。一応、警戒はしておいた方がいいかもしれませんが」
バロンとパールが少し話し合い、とりあえずはこのまま街へ向かい、その道中で変な輩がいないか気を付けておこうという事になったようだ。
「変な目覚めになっちまったが、行くか」
バロンの一言で俺たちはまたデーヴァンへと歩を進める。
その後は、セインが気を張って警戒していた甲斐もなく特に何も起きずに森を抜けて街道に出る。
デーヴァンに着いた頃には日が頭上に登っており、バロン達とは街の少し手前で別れる事にした。
「皆さん本当にありがとうございました」
「ああ、ユウマさんも気をつけてな。俺たちは夕暮れの宿ってとこに泊まってる。飯なんかもその周辺で済ます事が多いから見かけたら声を掛けてくれ」
「はい。そのうち何かお礼をさせて貰いますので、その時はお伺いします」
「じゃあな」
バロン達はそのまま街の門へ進んで行く。
彼らが門を潜るまで見送り、俺は少し戻った場所で座り込む。
『良い連中じゃったの』
「だな。ちゃんと礼はしたいけど……そもそも俺らは街に入れるか?」
『微妙じゃのー。人間の街は出入りするのに金がかかるんじゃろ? 持っとるのか?』
「持ってない事もない。マジックボックスには入ってるんだ。ただ、500年前の通貨だからな。使えるかどうか」
『何か売れそうな物を渡して入れんのか?』
「なんかあったかなー」
封印される前は自分の持ち物なんてたいしてなかったし、売れる物なんて……
「お、これなんかどうだ?」
『なんじゃ? 指輪か?』
「筋力増加の指輪らしい。お前さんと戦う前に貰ったやつだ」
『たいした効果は無さそうじゃが、魔法石も埋め込まれとるみたいじゃし行けそうじゃの』
「そうだな。これで入れないか頼んでみよう」
「ん? なんだ、指輪? 田舎じゃあるまいし物で税金が払えるわけ無かろう。通行料は銀貨1枚。金が無いなら入れるわけにはいかん」
街へ入る人達の列に並び自分の番になった所で、金を取られたからこの指輪でどうにか通れないかと聞いてみたが、突っぱねられてしまった。
「そこをなんとかお願いできませんか。お金を盗まれてしまって、手持ちがないんです」
「そう言われてもな、我々には渡された物の価値を確認するすべが無いんでな。物で受け取ることはできんのだ。
どうしてもと言うなら、その指輪を商人に売って金にして来い。あっちに馬車が並んでいる所があるだろう。あそこが商人用の出入り口だ。もしかしたら買ってくれるかも知れん」
「わかりました」
門番に教えて貰った商人用の出入り口に向かう。
『まぁ、一理あるの』
「だな。最初は頭の固い門番かと思ったが」
『理由を聞けば、然もありなんと言った感じじゃな』
商人用の出入り口は先程の門とは大きさが違い、馬車が二台悠々と通れる広い門だった。
「魔王討伐に行く時に出たのはこの門だったな」
『まぁ、ここが一番近いからの』
「さっきの冒険者やらが使ってた門はその時無かったと思うぞ」
『500年経ってるというのは本当なんじゃのー』
「なんとなく実感しちまうな」
エルと話しながら商人の列を軽く見て回っていると、荷台はたいして大きくないのに作りだけはしっかりしている箱馬車が目に止まる。




