九十九話
昼食を終え、冒険者ギルドでミイナの装備製作に使う分以外の素材を売って資金を作った俺達は、ピニエールとアルファトとギルドで分かれて装備品屋へと来ていた。
作ってもらう装備以外の小物の購入の為だが、それ以外に装備を作ってもらえる人を紹介してもらうためだ。
流石に武器や防具を作ってくれる知り合いはいないし、冒険者ギルドで聞いたら普段買っている防具屋や武器屋に聞けばそこと懇意にしている職人を紹介してくれるだろうと言われたので、それに従って俺達が装備を買ったこの店に来たってわけだな。
「ああ、それが正解だ。基本的に武器にしても防具にしても相性ってもんがある。作ってる奴を統一したほうが性能に癖がなくて使いやすい」
「相性ね。まぁ、それも揃ってた方が見栄えもいいだろうしな」
「見た目がチグハグでは格好付かんからの」
「かっこいい方がいい」
持っている武器が防具にあった意匠をしていた方が見栄えが良くなるのは確かだろう。
ドレスコード……なんてものを気にするような場所に行くわけではないが、それなりに整った格好をしていた方が様々な場面で役に立つはずだ。
「いや、見た目じゃなくて性能だ。むしろ、見た目に惑わされるような奴は早死にするぞ。お前らに言ってもわからんだろうが」
「なんだ? また来るって約束を守ってこの店に来た上に、新しい顧客を連れてきたのにずいぶんな言いようじゃないか」
「そりゃそうだろ。お前ら二人とも完全に見た目だけで選んで買ってったってのに、防具も武器も綺麗なまんまだ。そんな奴らに性能の方が大事なんて話をしても説得力がねえじゃねえか」
そういえば、ここで装備を買ったのは装備なしで外に出ると門番とかに色々心配されるからで、見た目さえ良くて動き易ければあとはなんでもいいって言って買い物したんだったな。
「となると、もう少しいい物を置いてる店の方がいいか?」
「馬鹿を言うな。お前らが着てるのはほぼ処分品の防具だ。金も取らなかっただろ。普通のもんは普通の品質で置いてある。お前らがおかしいだけだ」
それはそうか。
見た目だけの装備品しか置いてない武具店なんてすぐに潰れるだろうしな。
「まあいい、で、作りたい装備ってのはなんだ? それによって買うもんも変わってくるぞ?」
「杖を予定してる」
「あとは防具じゃな。魔術師系じゃから無難にローブになるんじゃないかの」
「杖にローブか、杖は鉄製か? ならあのあたりに置いてあるやつを作った工房がいい。木製ならこっちだな。どっちも防具はやってねえから別で頼むことになるが」
結局別の人に作ってもらうなら装備の性能の違いがとかってなんだったんだって感じだが……まぁ、わざわざ紹介してくれるくらいだからその辺りも考慮してくれてるんだろう。
「杖に関しては魔物製ってことになるのか? 変異種の素材を使って魔術に適性の高いやつを作ってもらうつもりだ」
「防具分はないからの。こっちは普通の魔物製じゃな」
ブラックメガマンティスの素材は、防具にする場合は鎧とかには使いやすくてもローブなんかの魔導師が使う装備には合わないらしい。
なので、ミイナの防具になるローブはファイトモンキーの皮を使ってもらう予定だ。
「変異種!? それはまた珍しい素材を手に入れたな。それだと普通の職人じゃ扱いきれねえかも知れねえな。となると……あそこか」
「あそこ?」
「そういう珍しい素材からの装備作りに強い職人が親方やってる工房がある。あそこならローブも一緒にやってもらえるが……」
店主がそこで言い淀む。
こちらの様子を伺っている風だ。
「何か問題がある工房なのか?」
「いや、問題というか……単純に高い」
「高い?」
「ああ、料金がかなり高い。結局のところ装備を作るってのは技術業だ。なんだってそうだが、技術業で一品ものを作るってのは金がかかる。普通の装備くらいならそうでもねえが、変異種の素材からってなると、それを扱えるやつに頼むには結構値が張るぞ」
なるほど、店主からしたら俺達は少し前に冒険者になったばかりの新人だ。
そんな奴らがそんな装備代を払えるのかと心配しているのだろう。
それに、前にここで装備を買った時は安さ重視って感じだったしな。
「金なら問題ない」
だが、今の俺達ならその点は問題ない。
ブラックメガマンティスとファイトモンキーの素材が結構高く売れたからな。
……いや、ほんと、驚くくらい高値で売れたんだよ。メガマンティスの鎌一つで家が一軒余裕で買えるくらい。
「装備品は命を預けるものじゃからの。出し惜しみする必要はあるまい」
「お前達が言っても説得力がだな……」
結局、東の武具店ではその工房が作ったという靴や、ローブの下に着ける胸当てなどの軽い装備を買い、俺達は紹介された工房へと足を向けた。
「ここか」
「……小さい」
「思ったよりちんまりしておるな」
紹介された工房の名は鉄屑工房、俺達の目の前に建っている建物の入り口にも、そう書かれた看板が取り付けられている。
その名前のせいでなかなか固定客がつかず、東の武具店のような初心者向けの装備を主に取り扱っているような店に卸しているのが現状らしい。
先の店長曰く『腕は確かだが性格に難がある』とのことだ。工房名も何やら理由があって変えないんだそうだが、その理由を聞いた時は馬鹿らしくて言葉が出なかったと言っていた。
「偏屈で頑固な職人っていえばそれっぽいけど」
「この店構えじゃとな。経営方針が間違っておるとしか言えん」
先程エルとミイナが漏らした通り、鉄屑工房はこじんまりとしたまさに個人店といった場所だった。
ぱっと見では、本当にこの中で装備作りができるのかと不安になるくらいの面積しかなく、見た目もほとんど普通の民家だ。
「本当にこんなとこでミイナの装備を作ってもらえるのか?」
「ゴチャゴチャとうるさいわ!」
中に入るかどうか悩んでいたら、その店内から声が聞こえてた。
「装備を作るかどうかはワシが決める。用がないならさっさと帰ら——ガフッ!」
言葉と共に工房内から出てきたのは子供程の背丈の大人。所謂ドワーフと呼ばれる種族の男性だな。
言葉が途中で途絶えたのは、その人が出てきた途端に彼の後頭部に金槌が飛来したせいだ。
「親父! そんなこと言ってるからうちの工房は金がないんだろ!」
そして、その金槌をぶん投げた犯人はどうやら彼の娘だったらしい。
金槌による頭部への攻撃によって沈んだドワーフの男性に続いて、彼を親父と呼ぶ女性が工房から出てくる。
彼女はどうやらドワーフではないらしく、身長は俺よりも少し高いくらいの、魔族的に言えば人族の女性だった。
てか、親父さん、死んでない?
「いってえじゃねえか! 何しやがるディミラ!」
あ、生きてた。
頑丈ですね。
「何しやがるじゃない! 親父がそうやって客を追い返すから、うちは炉にくべる燃料もままならねえ状態なんだぞ! これ以上客を減らさせてたまるかっ!」
「自分の納得いく装備を作ってこその職人じゃバカ娘ッ!」
「その装備が作れなくなるっていってんだバカ親父ッ!」
俺達そっちのけで喧嘩始めちゃったよ。
うわ、普通にグーで殴り合ってる。
「うん、帰るか。どうやら装備作れないらしいし」
「あ! ちょっと! カネヅルが!」
おい、今娘の方が『かねづる』って言わなかったか?
かねづるってあれか? 金蔓か?
親子揃ってろくでもねえな。
「そうじゃな、ギルドに行って変異種の素材を扱える工房を改めて探してもらうとしよう」
「変異種だと!?」
あ、親父さんの方も食いついた。
「……帰る?」
ミイナは状況についていけないらしい。
俺達と工房の二人とを交互に見ながら訪ねてくる。
「ま、まってくれ! かねづ、お客さん! 変異種素材の依頼なら料金がたか、じゃなくて、うちがこの街で一番だよ!」
おう、娘さんや、ところどころ心の声が漏れてるぞ。
「そ、そうだ! そんな珍しいもんを使った装備ならワシに作らせろ!」
親父さんは心の声どころか完全にだだ漏れじゃねえか。
少しは繕え。
さっきまで喧嘩していた筈の二人が、息ぴったりに俺とエルを捕まえて懇願するようにすがってきている。
このままでは、ギルドに戻るまでずっと二人を引きずっていくことになりそうだ。
「わかったわかった。とにかく離してくれ。本当に変異種からいい装備が作れるってんならここで頼むから」
俺は二人の圧力に負け、工房の中へと入ることになった。
工房内は外見ほど狭くはないようだ。
もちろん、武具を作る工房と言われて普通に想像するものでいえば随分と狭いが、二階建ての工房の一階は壁がほとんど取り払われていたし、素材やらなんやらといったものは二階や地下に置かれているらしく、作業に必要な空間は確保されているといった感じだな。
その代わり、接客のための部屋というのは用意されておらず、工房に入ってすぐ横に置かれているソファーで依頼の話をすることになった。
ミイナは装備作りのための機材を見るのが珍しいみたいで結構楽しんでいるようだし、俺としても同じ気持ちだから文句はないけどね。
「で、早速だけど、作ってもらいたいものは杖だ。この子、ミイナっていうんだけど、彼女が使う」
「素材はブラックメガマンティスじゃ。できれば護身用の短剣も欲しいところじゃの」
エルに目線で促されたので、俺はマジックボックスにしまってあったメガマンティスの鎌を取り出す。
一応、杖と短剣用に二つ残してある。
「おお、ブラックメガマンティスか。変異種の素材を使うのは何年ぶりだ? 楽しみだ!」
親父さんはもう依頼を受ける気満々のようだ。
「待て、バカ親父! 料金の取り決めが先だ! バカ親父!」
バカ親父って二回言ったよこの子。
「せめてバカの前に鍛冶を付けろバカ娘!」
バカの部分は付いてていいのね。
まぁ、鍛治バカってなれば、鍛冶一筋な職人って捉え方もできるか。
「バカの前に金を付けろバカ親父!」
いや、それは付けても悪口以外の何でもないと思う。
「とにかく、この素材を使ってミイナが使う杖と短剣を作って欲しい。お金はそこそこ用意してある」
「代金が支払えるなら文句はない」
「珍しい素材が使えるなら文句はない」
仲の良い親子だことで。
その後、料金についてや、武器以外にもミイナ用の防具も作って欲しいことを話した。
防具はやはり魔導師が使うなら全身を守れるローブがいいだろうということになり、予定通りファイトモンキーの毛皮を使ったものを作ってもらえることになった。ファイトモンキーもまたこの辺りでは珍しい素材だということで、親父さんのお眼鏡にかなったようだ。
杖には魔格が必要だというので、これはエリスマグナの迷宮の下層で入手したものを渡しておいた。ケレイナの件でもう一度迷宮を踏破した時にいくつか譲ってもらったうちの一つで、これは変異種のものではない。
変異種の素材を複数使う場合は、相性が良いものでないと効果が減じてしまうということだったので普通の魔格にしておいた。何の魔格だったかは覚えてないが、あの時は変異種が出なかったから大丈夫だろう。
「じゃあ、完成は五日後くらいだ。出来上がったらギルドか魔術学校に言伝を頼むんでいいんだな」
「ああ、仲間が冒険者としてギルドには顔を出すし、俺達はしばらく魔術学校での依頼を受けるからな。どっちかに伝えてくれれば取りに来る」
料金に関しては半分を先払い、もう半分をギルド預かりということにした。
ギルド預かりというのは、料金の支払いの際に商人ギルドを通すことで確実に支払いをするシステムで、代金を支払う側は持ち逃げなどの心配がなくなり、代金を受け取る側は取りっぱぐれがなくなるという利点がある。その代わりにギルドで多少の手数料を取られるが、それでも確実な取引のため、特に高額な取引をする際にはよく利用されるそうだ。
今回はブラックメガマンティスの鎌を二本売ったお金の八割程を支払う取引だからな。確実に手続きした方がお互いに安心できるというものだろう。
「ギルド預かりは先払いの必要はないんだよ? 本当にいいのか?」
ディミラと呼ばれる工房の娘さんがおそるそるといった風に確認してくる。
これは、料金の話をしていた際に半額を先払いすると決めた時から何度も彼女が問うてきたものだが……。
「いや、だって、先払いがないと作れないんだろ? 杖も短剣もローブも」
そう、この工房に来たときの親子喧嘩で彼女が言っていた『炉にくべる燃料もままならない』というのは、冗談でもなんでもなくこの工房の現状だというのだ。
せっかくミイナの装備を作るというのに、炉にくべる燃料も心許ない状況でろくなものが出来なかったりすればこちらとしても大損なのだから、代金の半分を先払いしてその状況をどうにかしてもらった方がいい。
「わかった。親父には完璧なものを作らせる!」
「あったりまえだ! ワシがこんな素材で手抜きなんぞするか!」
その言い方だと、素材によっては手を抜くって聞こえるんだが……まぁ、ミイナの装備で手を抜かないならいいか。
「じゃ、よろしくな」
「ああ!」
「おう、任せろ!」
二人の満面の笑みに見送られて俺達は工房を後にした。
「大丈夫かね……」
「信じるしかあるまい」
ちょっとだけの不安を持ったまま。
その日は、ミイナの初めての冒険者体験のためにそのまま新しい迷宮へと向かい、エルと共に魔法や魔術の使い方を教えながら存分に冒険者らしく過ごした。
彼女も最初こそ魔物への恐怖があったが、途中からは、装備が完成するまでの繋ぎとして買った短剣でゴブリンを倒したり、現代では付与魔法と呼ばれる補助魔法の練習なんかをしたりと、帰り道ではだいぶ満足そうな顔でエルの背中で寝息を立てていた。
明日は魔術学校への初出勤なので、早く寝ることにしよう。
横道に逸れすぎると思ってカットしてましたが、主人公達はケレイナの物資不足改善のための手助けとしてエリスマグナの迷宮を再び踏破しています。
二回目の踏破は、ユウマも積極的に参加したことで所要時間が半分近く短縮されたとか。
おかげでエリスマグナも潤い、あそこのお兄ちゃんは更に迷宮研究に精を出してるとかなんとか。




