池のほとりで
|
「ここで溺れたのでしょう、おそらくは。服がぬれていますし、肺に水が溜まっていましたわ。それに、私が処置するまで心臓も止まっていましたし、生きているのが不思議なくらいです。」
黒い修道服を身に纏った黒髪の女が、二回りほど年を取った初老の男にそう言った
「そうかそうか。しかし、、どうしてこんな。浅い池で溺れていたのかのう。
見たところ、ここの住人では無いようじゃし」
初老の男が悩ましげな表情で呟く。
「そうですね、身に着けている服もそうですが顔つきもこの辺では見ませんね、それに髪の毛が真っ黒の人間なんて始めて見ました。」
沈黙。
「もしかして、来週来るはずの使いでしょうか、少し早い気もしますわね、聖都から来たとすれば時間感覚も違うでしょうけど。」
せいと??何を言っているんだこいつらは。
うう、、それにしても頭がぼーっとする。まるで壊れた写真機のように焦点も合わない
いったい俺はどうなってしまったんだ、、、
「とりあえず、これを城まで運びます?
素性を改めるのはそれからでもいいでしょう」
「そうじゃな、とりあえずこの男の事はエヴァン、君に任せたぞ。
魔術使いなどここには君以外居ない、治療は頼んだ。
わしは一足先に帰ってやることがあるでの。」
女が男の方を向く。
「なに、ただのマナ補給じゃ。
その後七魔枝の奴らも集めて、予定通り定例会議を行うからの。
おぬしも遅れんようにな」
「任されました。では魔王様。後ほど王宮にて。」
[--------ほっほ、外ではその呼び方をするなと言ったろうエヴァ。]
俺に聞こえるかどうかという声量でそう言うと、初老の男は背中にとても大きな黒い翼を生やして、周囲の木々をざわめかせながら、勢いよく飛び去った!!!!!
-------------------------------------------------------------------------------------
いや、ええええええええええええええええええええ????????
俺はとっさに飛び起き叫んだ..
つもりだっったが体が動かないし声も出ないので目だけ見開いた
はあ?????何だ今のCG?幻覚?
「目を覚ましたか。
どうした、話せないのか?
-
------------------------------------------------------------
ふむ。どうやらお前は、魔力の適正が並ではないようだ。
マナの吸収力が尋常ではない。
我ら魔族に匹敵するほど...いや」
「.....っ!」
話そうとしてもうまく言葉が出ない、出そうとすると外から体に流れ込んでくるなにかに押し戻される。
「マナ過剰吸収障害、通称マ吸症。
ふつう、魔力にめざめたばかりの幼な子が罹る症状だが...
お前のそれはすこし違うな。」
なんだなんだ、マナだの魔力だの、全く聞いたことない病名だが…
「まるで初めてマナに触れたかのような、突然の環境の変化に肉体が着いていけていない。
そんな感じだな」
なるほど。いや言っている意味はさっぱり分からんが、とにかく今俺は毒ガスを吸っているに等しい状況だということか。
「いや、厳密には違うが...まあ今はその認識でいいだろう」
違うのかよっ…て
んん???????
今、声に出してたか?
俺。いや、そもそもだせないはず...
「出していないな。
しかしお前の意思がマナと混ざり合い、
魔力となって私のマナ受容体に干渉している。
最も、私が許可したことによって可能になった事だが」
まあ、
と女は一呼吸つき、続けた。
「魔術の一種と呼んでいいだろう。
呼応交信とでも言ったところか。
もっとも、受け手が相当に修練を積んでいないと挨拶程度にしか使えんがな」
とりあえず、俺が居た世界とは全く異質な、ともすれば物理法則すら全く違う世界へと迷い込んでしまったのかも知れない
そう薄々感じ始めた。
「ま..魔法」
少しだけ、声が戻った。
エヴァンとか言うこの女の言うとおり、マナなるものにより俺の喉がやられているとするのなら、
時間経過により俺の体が慣れ始めているのだろう。
「ほう。早いな。もう少しかかると思ったが、予想よりいいものもっていたようね。」
それと。エヴァンは続けた。
「魔法なんて旧暦以前の言葉が出てくるとは思わなかったわ。あなた、何者なの?」
二人称と口調が変わった。おそらく。こっちが素の彼女なんだろう。
しかし魔力やら魔術やらを鵜呑みにするとして、俺の素質に魔術師として認める部分があったのだろうか
てか、受け入れんの早いな俺。
「お..もいだせない」
くそっ、まだ声が出にくい。いやそうじゃなく、自分が誰でなぜここに居るのか。
全く思い出せない
人間の記憶には{手続き記憶}やら{エピソード記憶}やらいろいろ分類があるらしいが
今の俺には生活の術を記憶した分野しか残っていないようだ。
「ふーん、なるほど面白い。<転移者>か。
実物を見るのは初めてだな。
記憶が抜け落ちているというのも当てはまっている。
すまんが呼応交信<テレパス>で勝手に読み取らせてもらった」
というかここは俺が元いた世界とは(記憶がないので確証はないが)ちがうらしい。
彼女の話を鵜呑みにするのなら、だが。
それに彼女が超能力者なら魔術なんて嘘..(自分で言ってて意味不明瞭だが)いや、それならあのおっさんの翼は何なんだ
そして、これは自分で勝手に感じただけなのだが、妙な新鮮さがある。
空気の味。
とでも言うのだろうか
いつもより呼吸が楽だ。
「て......転移者......って事は,やっぱ俺はどこか別の場所からやってきたのか。そして君はそこをしっている?..っ」
喉が詰まった。だいぶ治ってきたがまだ長くは話せないようだ。
その様子を見て女は少し笑った。
えくぼがある。かわいい。
はっ、これも読まれている!?俺としたことが
「ふふ。私は知識として転移者を知っているだけよ。かつて一人だけそれっぽい男に会ったことはあるけれどね。」
あと、と続けた
「エヴァン。私のことはエヴァンでいいわ。あなたは特別よ。
色々使えそうだし。
それと、呼応交信ならもう切れてるわよ。普通に話せるんじゃない?」
さらに口調が崩れた
「--------------
---------------------」
たしかに、試しにあ行から順に喋ってみたがが問題なさそうだ。
「よし。体は治ったようだエヴァン..だったけ。色々助かった、ありがとう。できれば、この世界についてもう少し聞きたいんだが」
そう、とにかく今は情報が先決だ。
記憶が凪いだとか魔力がどう以前に、この世界の基本となる情報が欲しい。
見たところエヴァンは24歳前後。ある程度の知識はあるはずだ。
さっきのおっさんとの魔王云々の話が気になるが..........
「ええいいわよ。そのつもりだったもの。
私の...もとい、私たちの住居に案内するから、着いてきて。」
どこか得意そうな表情で
エヴァンは獣道へとスタスタ歩いていってしまった
「あっちょっ、待ってくれよ!!!」
後を追うように俺は走り出した
日が沈み始め闇が覆う
深い森の中へ。