ちょっとだけオチのある短編集(ここを押したら短編集一覧に飛びます)
そして建設へ……
成長するために必要なものは何かと問われたら、人はこう答えるだろう。
向上心、上を目指す気持ちだと。
しかし、それは過去の答え、過去の成長でしかない。
まず、成長したいからといって上を目指すばかりでは、いつか折れる。枯れていく。立派な花にはなれない。
しっかりと下に伸び、根を張り巡らせ、基礎を作らないといけないのだ。基礎がしっかりしていないと、いつか壊れるのだ。
まさに、この国がそうだ。
この国はかつて、高度成長期の名とともに、上へ上へと伸びていった。
太陽を追い求める向日葵の如く、高みを目指し栄えていった。
だが、本当に伸びるべき場所は、上ではなく下だったのだ。
根を張り巡らせ、もっと基礎を固める必要があったのだ。
「うわあ、また崩れた。これで今月何件目だ」
「壁の破片が上空から降ってきたぞ」
「なあ、あのタワー傾いてないか?」
一気に進んだ老朽化。それに対応しきれず、人々はうろたえた。
現在の地上は、過去の偉人たちが遺したビルやタワーという固形物からはがれ落ちた物によって溢れかえっている。
とても住まうことなどはできない。
もう地上には住めないのだ。
そして我々が生きながらえるには、地下へと進み、崩れることのない基盤を作る必要があるのだ。
そう。それが今の成長だ。
「マサオさんの成長に対する意識は流石のものです。尊敬に値します。お話していただきありがとうございました。それでマサオさん。今度はあのビルをモチーフにして、地下に生やしませんか」
「うむ。あのビルは素晴らしいな。参考にしよう」
マサオ氏は建築家である。今は地上に出向いており、次に建設する物件の参考となる物を探していたところだ。
そしてマサオ氏の成長に対する意識は立派なもので、人々から尊敬されていた。また、マサオ氏本人もその成長に対する意識を人々に話すのが好きだった。
そんなマサオ氏は、普段は地下820階の超低層マンションの一室に住んでいる。
そして何を隠そう、マサオは氏今をときめくカリスマだ。来月には地下1100階超えのマンションの建設予定だってある。
世はまさに成長期なのだ。
そうして、マサオ氏はどんどんと下へ進む建設をはじめたのだが……。
マサオ氏は成長したいあまりに、多くの危険を持つ地球という存在を蔑ろにしていた。そして地球の怒り、いや、核心に触れてしまったのだろう。
ある日、ぐつぐつと煮えたぎったマグマが溢れかえってしまったのだ。太陽のように熱いマグマが地下世界に広がっていく。地下の全てを飲み込んでいく。
「これでどこにも住めなくなった。この国、いや、この世界の成長は終わりだ。あとは花火のように儚く散りゆくのみだ」
誰かが言った。
だが、他人が諦めたとしても、マサオ氏は決して諦めなかった。
「地上と地下が駄目なら、次は海中か空中に建設すればいい。それでも駄目なら、宇宙に建設すればいい」
マサオ氏はそう言って、さらなる成長を求めるのだった。
そして、次なる建設に向けて、マサオ氏は上を目指し続けた。