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エピローグ

 困った。実に困った。

 何に困ってるかって?

 そりゃお前、健全な大人だったら分かるだろう。

 エロい妄想が止まらない。昔よりもはるかに。

 今、俺の膝の中にはデルフィが居る。左腕で抱きかかえるようにして、右手で頭を撫でている。

 ふにゃぁと言わんばかりに幸せそうな顔をしやがって。

 俺はこんなにも大変だと言うのに。

 分かるだろう?

 めちゃくちゃ可愛くて柔らかくて良い手触りで良い香りで幸せそうにしている大好きな女が俺の膝の中に居るんだぞ。

 俺の性欲が留まる所を知らないのも、全部この愛おしい女性のせい。静まれ俺のパトスってなもんだ。

 まぁそれはそれとして。

 現在冒険者業は中断している。何故かって?

「あっ、蹴った」

「暴れん坊め。言っておくが、ママは渡さんぞ」

 そういうことだよ。

 身重なデルフィを冒険者として働かすわけにはいかないし、デルフィが居なければ俺は何の役にも立たない。

 冒険者として役に立てないなら冒険者以外の面で役に立てばいいじゃない。という考えになり、同居を始めてから家事全般は俺の仕事なのだ。が、油断するとデルフィが俺の仕事を奪いに来る。

 元々「依頼中の雑務は俺がやる」と言っても、デルフィが事ある事に俺の仕事を奪う状態だったので、今も大した違いは無いのだが。

 デルフィは「ヨハンが居ないと冒険者としての仕事は出来ないのだから、全て分担するべき」と言うが、それはそれ。気分の問題である。

 そういう言葉がいじらしくて辛抱堪らなくなった事が積み重なって今に至るわけだが、最初は子供を作る事に躊躇していた。

 なぜなら俺たちは赤字娘と蓄電池である。いわばどちらも欠陥品。子供がまともである可能性が非常に低い。もしも俺とデルフィのどちらかの体質が遺伝されれば、その子は確実に苦労するだろう。

 子に苦労してほしくないと考えるのは当然のことだ。

 少しでもまともに産まれてほしいがために、今はこうして出来る限り触れ合って幸福感を高めつつ、胎児まで魔力が潤沢に届くようにしているわけである。

 つまり子供のためであって、ただイチャイチャしているわけではないのだ。嘘ですイチャイチャしたいだけです。

 妊娠する前まで冒険者として荒稼ぎしていたので、暫く働かなくても金はある。二人揃わないと力を出せないのと、別に働かなくても十分やっていけるのだから、これ幸いとイチャイチャしているわけだ。

 頭を撫でる手が止まっていたからか、デルフィが右手を取り頬擦りした。

 魔力がズズズ……と抜かれていく。

 今のデルフィは大喰らいだ。元々のデルフィの分、そして子供の分の二人分魔力を蓄えるためである。そう考えれば大喰らいなのはデルフィではなく子供なのだろう。

 果たしてこの子は男の子なのか、女の子なのか。

 男の子ならこんな名前が良いな。

 女の子ならこんなのはどうだろう。

 デルフィと二人でずっとそんな事を言いあっている。

「あぁ、でもやっぱり、今までみたいにデルフィを独占出来なくなるんだろうな」

 子供が産まれるのは幸せであるが、デルフィとのイチャイチャが少なくなるのは嬉しくない。

「そうね。でもそれは、百を二つに分けるのではなく、百の上に上乗せされるんだよ」

「デルフィ。俺は独占欲が強いから、きっと嫉妬してしまうよ」

「それはお互い様。私は貴方に依存しているから、どうなるか分からないよ」

 デルフィが顔を寄せ、頬に口付けてくる。幸せを啄ばむような、甘いキス。

 どうしよう。奥さんが可愛くて仕方ない。

「これから冒険者業はどうなるんだろうな」

 子供が居ると、冒険者を続けるのは難しいだろう。

「隠れる人数が増えるだけだよ」

 大丈夫だとデルフィは言う。確かに、お荷物が一人増えるだけで、そのお荷物も一箇所にまとまっているなら問題は無いだろう。

「それもそうか。俺は元々付属品だったね」

「機械だってその付属品が無いと動かないんだから」

 結局あれから、お互いの代わりになる人物は現れなかった。

 魔力欠乏症は二億人に一人。魔力不出病は五億人に一人。この国の人口は約一億人。

 人口比を考えれば当然で、元々二人が出会った事が奇跡に近い確率。この国で同じ症状の人と出会うことなど、まず無いだろう。

「大丈夫かな」

 だから余計に、子供の事が心配なのだ。

 勿論、どんな子供であろうと全力で愛し、全力で守るつもりだが。

 一言で『守る』と言っても、俺は本当に守る事が出来るのだろうか。自分すら守れないというのに。

「大丈夫。……ねぇ、ヨハン」

「何?」

「ずっと、私に守らせてね」

 ……ずるい。それはずるいよデルフィ。

「……そういうのは男が言いたいもんだけどなぁ」

 だが、デルフィに守られてばかりの俺が守るとは中々言えない。

「あら、じゃあヨハンも言えばいいじゃない」

 それでもデルフィは促してくる。「ヨハンのやり方でいいんだよ」と。

「デルフィ」

「なぁに?」

 ワクワクしたような顔で、デルフィ・エインズワースが俺を見た。

「ずっと、俺の魔力で君を包むよ」

「うん」

 包んで守る。魔力を渡して、君を守る。

「俺は君の、君だけの――」

 デルフィの唇に軽く唇を合わせる。柔らかな唇に魔力が送られ、デルフィの顔に紅葉が散る。

「――唯一無二の、蓄電池だから」

 お返しとばかりに、彼女は俺にキスをした。






 二人は想像もしていない。

 胎児時代に潤沢な魔力を得られた結果、子供がドラゴンを物ともしない規格外になることを。

 ついでに、まさかその魂が転生者であることも。

 そんでもって世界中の魔力欠乏症患者を救う存在になるのだが、それはまた別の話。




最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ。


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