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赤字娘と蓄電池

 そんなわけで俺とデルフィはパーティを組んだ。

 最初は笑われた。「赤字娘と蓄電池が手を組んだ」と。

 蓄電池は言わずもがな、俺の事。赤字娘はデルフィのことだ。

 髪が赤い事、そして組んでもメリットが無く、損失ばかり生む娘ということらしい。

 他所から見れば似たもの同士のお似合い貧弱パーティ。

 だが、そんな評判など犬に食わしてしまえと言わんばかりの順調っぷりであった。

 まずは魔力の譲渡だが、俺が渡そうと思っても渡すまいと思っても、デルフィが触れば強制的に魔力が抜ける。デルフィが「もう十分!」と意識的に思えば供給は止まるし、もっと少しずつと思えば微量に譲渡される。限界一杯まで入れ続けたらどうなるのだろうと試してみたが、限界と思われるところで穴から抜ける魔力分を残し、入らなくなった。

 それでもしばらく入れ続けると、デルフィが顔を上気させて妙にエロく……もとい、苦しそうにしていたので止めた。その状態で何もしなかったら何時間持つのかと思い、その日は解散。次の日に確認してもまだ底を付いていなかった。

 結果、何もしなければ三日は持つ事が分かった。もちろん動けば動くだけ穴が広がるのか、魔力漏れが大きくなっていく。魔力を用いて動けばおおよそ一日持つかどうかといったところか。

 過剰に魔力を注いでもデルフィの体に悪いと思い、普段は多く入れないようにしている。というかそうじゃないと俺が付いていけない。魔力が有り余っている状態では、無意識のうちに歩く速度に差が出てしまうのだ。

 ちなみにそれだけの魔力を注ぎ込んだ俺は、魔力の総量から言えば一割も減らなかった。それだけ内包する魔力量が多いと言うことだが、使い道の無い魔力ほど無駄なものは無い。

 戦闘面で見れば、デルフィは間違いなく天才である。魔力の扱いが上手く、節約しつつ最大効率で体を強化する。……もっとも、使う分を節約しても穴から抜け出る量が増えるので全体としての使用量は多いのだが。

 ともかく、魔力さえあればデルフィは強かった。今までの問題は本当に魔力が無かっただけなのだ。

 俺は戦闘前や作業前に魔力を渡して見ているだけである。ぶっちゃけ動きが早くて何をしているのかさっぱり分からない。何かしようものなら邪魔になる。

 途中で魔力が必要になったらデルフィが触りに来る。俺から魔力を渡そうと動いてはいけない。どう考えても戦闘の邪魔だ。なので、基本お任せである。

 うーむ、パーティを組んでいるのにこの不平等感。

 半年程順調に動いていると、俺の呼び名が変わった。

 相変わらず蓄電池と呼ばれるのは変わらないが、それに金魚の糞が追加された。もしかしたら元々あったのかもしれないが、俺の耳に直接入るようになったのは最近のことだ。

 さもありなん。俺はほとんど何もしないで近くに居るだけなのだから。

「『蓄電池』ってのが余計にぴったりになっているな」

 俺が電池でデルフィが機械。機械と繋いで電源を入れれば電池からエネルギーを受け取る。供給されたエネルギーで機械が動く。電池はその場から動かず、ひたすら機械が動く。

「なんだか申し訳無いな」

 と言えば、

「ヨハンが居ないと私は何も出来ないんだから」

 と明るい声で返してくるのだ。

 なんだこの可愛い生物。持ち帰ってひたすら頭なでなでしたい。

 ちなみにこうやって色々やっている間にも、親は俺の魔力をなんとか吸い出せないかと奮闘している。

 我が子の魔力を有効活用したい。負担を減らしたいと動いてくれるのはありがたいが、もしもそれが可能になれば、こうやってデルフィと一緒に冒険者をすることが出来なくなってしまうのではないか。

 それだけが不安である。幸いなことにまだ親の研究は実を結んでいない。……親の失敗を幸いと思うのは精神的に良くないな。

 俺がデルフィの事を知らせると、今度は色々な人と同じような事を試したが、デルフィのように魔力を吸い出すのは不可能だった。

 それがデルフィの特性なのか、それとも魔力欠乏症の特性なのかは分からない。

 同時に、もしもデルフィと離れれば、ただの役立たずに逆戻りかと思うと不安になる。

 これは依存だろうか。単に命を握られているだけのような気もする。内側からの破裂はやっぱり怖い。

「つまり俺はデルフィが近くに居なければ存在意義がないに等しいのだ」

「それは私も同じようなものだと思うのだけど」

「だから、頼むから俺を捨てないでくれな」

 台詞から漂うヒモ臭が凄い。

「大丈夫だよ。むしろ私が捨てられそうで怖い」

「……なぜデルフィが?」

 俺を使っているのはデルフィである。あくまでも俺は使われている側に過ぎないというのに。

「色々不安はあるよ。そのうち、ヨハンの魔力を有効活用出来るものが出てくるかもしれない」

 それは親の研究が成功すればの話である。可能性はゼロではないが、多分その前に諦めるのでは? と考えている。

「私じゃない魔力欠乏症の人に会って、その人に付きっきりになるんじゃないか。そうしたら私はどうすればいいのかとか」

 魔力欠乏症は二億人に一人の割合だ。滅多に会うことはないだろうが、それも確実ではない。

「お互い不安を持ってるってことか」

「ん。そうなる」

 町に程近い草原で二人して語り合う。風は気持ち良いのに、少しだけ空気は重かった。

「……デルフィ」

 手招き。

 デルフィが誘われるがまま、俺の膝に納まる。

 パーティを組んで半年。お互い何か不安に思うと、こうやって膝の上にデルフィを乗せるのが習慣になっていた。

 こうしていると必要としてくれる人間を近くに感じられ、不安が収まっていくのだ。

 デルフィは成人になったが、外見からはとてもそうは見えない。一度見知らぬ冒険者から、「仲の良い兄妹だ」という評価をいただいたほどである。

 少なくとも現状、俺はデルフィを女性として見てはいない。エロい妄想はするが、それはそれ。俺はロリコンではないのである。エロい妄想はするが。なんというか、ただ愛でたいというか、そんな感じ。エロい妄想はするが、手を出すつもりはないのである。ちなみにエロい妄想には今の姿も成長するであろう姿も……あ、妄想話はどうでもいいですか、そうですか。

 デルフィは魔力吸収を微弱に抑え、少しずつ魔力が満たされていくのを感じている。

「ん、……ふぅ」

 なんとも幸せそうに目を瞑っているではないか。

 無垢な魔力の譲渡は幸福感を生むらしい。……あれ、なんか俺の存在が麻薬っぽくなってない? 洗脳みたいになってない? 大丈夫?

 頭撫で撫で。ふにゃりと柔らかい笑顔。うむ、幸せである。あれ、俺もなんかデルフィの存在が麻薬っぽくなってない?

 あー、陰口でささくれ立った精神が癒されるんじゃー。

 鈍感になろうが、全く心が動かないわけではないのだ。自分のことだけならまだしも、デルフィも含めて陰口を叩かれると、心も荒れるというものである。

 それがどうよこの圧倒的癒し存在は。子供体温だからか、はたまた魔力を満たしているからかは分からないが、抱きしめてるとぽかぽか温かい。

 気持ちの良い風にぽかぽかの抱き枕。こんなコンボに耐え切れるはず無く、俺の意識は幸せな気持ちを孕んで途切れるのだった。






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