表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

プロローグ

「雑魚がしゃしゃり出てくるんじゃねぇ!」

 怒声が俺を貫いた。

 どうも、雑魚です。

 敵と戦えない雑魚は頭を抱えて逃げるのが吉。

「荷物持ちもまともに出来ねぇのか! 糞の役にも立ちゃしねぇな!」

 再び怒声が俺を貫いた。

 何が入っているのか、こんなに必要ないだろうと思うほど重い荷物。谷底へ落としたくなるが、そんなことしたら俺が谷底に落ちてしまう。

「糞の方がまだマシだろ」

 違いないと嘲笑が俺を貫いた。

 どうも、糞以下の糞雑魚蛞蝓です。

 怒声も罵声も慣れたもの。最初は気にしていたが、最近では湖畔の波のような穏やかさ。

 はじめまして。ヨハン・エーデルワイスです。

 戦闘力皆無な自分は今日も必死で雑用係。

 草むしり? 致しましょう。「満足にできねぇのか」

 荷物持ち? 致しましょう。「行軍は遅いわ持てる荷物は少ねぇわ、邪魔してぇのかお前」

 薬草採取? 致しましょう。「数が少ないね。それに採取してから時間が経ちすぎている。最低だよ」

 魔物討伐? 致しません。「なんで冒険者をやっているの?」

 喧嘩の仲裁? 致しません。「ガキの喧嘩も止められねぇとは……」

 魔力タンク? 致せません。「何のための魔力だよ」

 一人で出来ないなら他に人が居れば良い。そう考えるも、相手に利益を供給できない。

 役立たずという事を皆知ったのだろう。結局誰ともパーティを組めなくなり、また一人でちまちま雑用。

 故に今日も評価は最低値。それでも今日は良い天気。

 俺は理解している。自分が冒険者なんてまともに出来ないことを。それでも冒険者をしているのは、少しでも自分に出来ることがあるため。

 例えそれが子供でも出来る簡単な作業だとしても、何も出来ないよりは遥かにマシだ。

 ハッキリ言って、他の作業は何一つ出来ない。なぜなら、この世界は全ての物を魔力で動かしているからだ。

 なら魔力を使えばいいじゃないかと思うだろう? ところがどっこいそうはいかない。

 この国では三歳にもなれば自然と身に付く身体強化の魔法ですら、俺には出来ないのだから。

 冒険譚には憧れる。夢を見る事は自由だと思った。でも、予想以上に現実は辛かった。

 魔力はある。有り余っている。だが、魔力を使えない。それなのに、世の中には魔力を使う魔道具に溢れている。

 俺にとって、この世界はハードすぎる。

 魔力を扱えないため、日常は不便の連続。人並みに働けない。運動能力が低い。魔物を倒せない。魔道具が扱えない。こんなことではいつ死ぬかも分からない。

 だから今日も、俺は必死に草を刈る。薬草を摘む。掃除をする。

 子供の手伝いレベルの報酬で、僅かでも人の役に立てるように雑用をする。

 あちらこちらから見下したような、獲物を見つけたような目で見られるが、周囲の視線には慣れたものだ。

 俺が鈍感であれば鈍感であるほど、俺の心は傷付かない。いちいち反応するほうが面倒だ。

 自分の実力は、自分が一番良く知っている。

 戦闘能力皆無。戦闘能力だけじゃない。魔道具を使えないので生活力も無ければ支援力も無い。

 それでも、俺は誰かの役に立ちたいのだ。そうでなければ、一体何のために俺が居るのか分からないではないか。

 仕事には魔道具を使う。家事には魔道具を使う。運動には魔法を使う。討伐には魔法を使う。

 何も出来ない俺は、肉体を鍛えて雑用をする。

 この、今にも溢れそうな魔力を自由自在に使えたら……。無い物ねだりをしながら身体を鍛える。

 鍛えて、鍛えて、この前スラムの子供に喧嘩で負けた。

 誰もが俺を見て嘲笑う。

 動かす物がない蓄電池、と。






合計三万文字程度のSSです。

毎日一話ずつ更新


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ