プロローグ
「雑魚がしゃしゃり出てくるんじゃねぇ!」
怒声が俺を貫いた。
どうも、雑魚です。
敵と戦えない雑魚は頭を抱えて逃げるのが吉。
「荷物持ちもまともに出来ねぇのか! 糞の役にも立ちゃしねぇな!」
再び怒声が俺を貫いた。
何が入っているのか、こんなに必要ないだろうと思うほど重い荷物。谷底へ落としたくなるが、そんなことしたら俺が谷底に落ちてしまう。
「糞の方がまだマシだろ」
違いないと嘲笑が俺を貫いた。
どうも、糞以下の糞雑魚蛞蝓です。
怒声も罵声も慣れたもの。最初は気にしていたが、最近では湖畔の波のような穏やかさ。
はじめまして。ヨハン・エーデルワイスです。
戦闘力皆無な自分は今日も必死で雑用係。
草むしり? 致しましょう。「満足にできねぇのか」
荷物持ち? 致しましょう。「行軍は遅いわ持てる荷物は少ねぇわ、邪魔してぇのかお前」
薬草採取? 致しましょう。「数が少ないね。それに採取してから時間が経ちすぎている。最低だよ」
魔物討伐? 致しません。「なんで冒険者をやっているの?」
喧嘩の仲裁? 致しません。「ガキの喧嘩も止められねぇとは……」
魔力タンク? 致せません。「何のための魔力だよ」
一人で出来ないなら他に人が居れば良い。そう考えるも、相手に利益を供給できない。
役立たずという事を皆知ったのだろう。結局誰ともパーティを組めなくなり、また一人でちまちま雑用。
故に今日も評価は最低値。それでも今日は良い天気。
俺は理解している。自分が冒険者なんてまともに出来ないことを。それでも冒険者をしているのは、少しでも自分に出来ることがあるため。
例えそれが子供でも出来る簡単な作業だとしても、何も出来ないよりは遥かにマシだ。
ハッキリ言って、他の作業は何一つ出来ない。なぜなら、この世界は全ての物を魔力で動かしているからだ。
なら魔力を使えばいいじゃないかと思うだろう? ところがどっこいそうはいかない。
この国では三歳にもなれば自然と身に付く身体強化の魔法ですら、俺には出来ないのだから。
冒険譚には憧れる。夢を見る事は自由だと思った。でも、予想以上に現実は辛かった。
魔力はある。有り余っている。だが、魔力を使えない。それなのに、世の中には魔力を使う魔道具に溢れている。
俺にとって、この世界はハードすぎる。
魔力を扱えないため、日常は不便の連続。人並みに働けない。運動能力が低い。魔物を倒せない。魔道具が扱えない。こんなことではいつ死ぬかも分からない。
だから今日も、俺は必死に草を刈る。薬草を摘む。掃除をする。
子供の手伝いレベルの報酬で、僅かでも人の役に立てるように雑用をする。
あちらこちらから見下したような、獲物を見つけたような目で見られるが、周囲の視線には慣れたものだ。
俺が鈍感であれば鈍感であるほど、俺の心は傷付かない。いちいち反応するほうが面倒だ。
自分の実力は、自分が一番良く知っている。
戦闘能力皆無。戦闘能力だけじゃない。魔道具を使えないので生活力も無ければ支援力も無い。
それでも、俺は誰かの役に立ちたいのだ。そうでなければ、一体何のために俺が居るのか分からないではないか。
仕事には魔道具を使う。家事には魔道具を使う。運動には魔法を使う。討伐には魔法を使う。
何も出来ない俺は、肉体を鍛えて雑用をする。
この、今にも溢れそうな魔力を自由自在に使えたら……。無い物ねだりをしながら身体を鍛える。
鍛えて、鍛えて、この前スラムの子供に喧嘩で負けた。
誰もが俺を見て嘲笑う。
動かす物がない蓄電池、と。
合計三万文字程度のSSです。
毎日一話ずつ更新