暗い空
前線基地襲撃を受け、ロシアは真っ先にアメリカ合衆国へ事案の追求を求めた。しかし、アメリカはそれを拒否して黙秘を貫く。一方、日本国は先週のテロリズムを受けて共産党関係の組織を洗い始める。赤方面の軍用兵器が国内へ流れ出すということは、いくら軟弱となってしまった防衛意識でも異常であると判断したのだ。北アジア連合は頑固としてテロ組織との繋がりを否定しているが、合併された北朝鮮軍は海を通して頻繁に不審な行為を見せている。過去数回、中国軍がそれに対して攻撃作戦を実行して北朝鮮軍を押し退けている。しかし、それでも状況が変わることがなかった。
事実上の世界の憲兵であるアメリカはこの事態について首を回せる余裕が無く、国連による病的な軍縮によって軍事作戦には傭兵を頼らざるおえない現状であるのだ。
ロシアはこの軍縮に可能な限りの抵抗を行い、中国陸軍と共にウクライナ再合併を発動する。しかし、アメリカはそれを許さずウクライナへの支援を公式に発表。同時に、陸上自衛隊の第1空中機動機甲隊は、数少ないクオックスウルフを飛ばしてアメリカ陸軍と共にロシアと中国の侵略部隊を迎え撃つ。
この機会に乗じてシルバーウルフはウクライナ軍へ直接契約を持ち出し、ウクライナはそれを承諾して契約を完了する。
シルバーウルフの新しく設立された精鋭クオックスウルフ部隊が出撃する。
シルバーウルフの第2空中機動機甲部隊"ブラックジャック"はアメリカ陸軍の第6空中機動機甲部隊のウクライナ防衛部隊へ駆り出される。
山脈が連なる景色の中、約22機の鉄の巨人達が佇む。パイクマンは第2空中機動機甲部隊の3番機として編成されている。
「こちらBJリーダー。ロングレンジレーダーに反応。方位68、距離2100。識別を問う」
部隊長がエイワックスへ通信。
「こちらサーペント、BJリーダーへ。IFFに反応は無し、ロシアの侵略軍と判断。攻撃を開始せよ」
「こちらBJリーダー。了解、これよりアメリカ陸軍第6空中機動機甲部隊と共に攻撃を開始する」
米陸軍カラーとシルバーウルフカラーのグレイ-Wが駆け出した。これより米陸軍の第6空中機動機甲部隊を米クオックスウルフ隊、シルバーウルフの第2空中機動機甲部隊をシルバー隊と表現する。
シルバー隊は空中へ飛翔。そして散開しながらロシアの侵略軍へのトップアタックを準備する。米クオックスウルフ隊はそのまま地上を滑走。コクピットモニターに表示された"敵"は大量の有脚戦闘装甲車に守られた戦車中隊であった。すべてロシア軍機。中国軍の姿は無い。
米クオックスウルフ隊と真っ先に会敵。砲撃が始まる。砂漠色に染め上げられたグレイ-Wが硬い地面を削る。鳴り止まない120mm弾の咆哮。そして、一足遅れてやってきたシルバー隊のトップアタックによって戦車中隊は全滅。
非常に素早く、恐ろしいほどに刹那的。一時間も掛からずに終わった戦闘は、現実感が無いほどに呆気なかった。
「こちらサーペント。高熱源反応を検知。ロシア軍の高機動部隊と推測。方位78、距離1300」
エイワックスから通信。やはりまだ終わりではなかった。ウクライナ防衛部隊は緊張を保ちながら次の戦闘へ向かう。
遠くの方から数十機のクオックスウルフ部隊が見えた。ロシア製の重装機である。装甲と火力を追求した結果、推進機による跳躍機能は廃れ、水平方向への機動力を高めた。東諸国の最新鋭兵器である。
ウクライナ防衛部隊は、ロシア軍クオックスウルフ部隊を囲むように散開する。再び空からのトップアタックを開始するシルバー隊。シルバーウルフの機体は、明らかに米陸軍の物より高性能であった。その圧倒的戦闘力の理由は、クオックスウルフに課せられた違法改造禁止条約を無視したものであると考えられる。国家軍が保有する軍用兵器と同等に張り合う為には、例え国連に反する行為であっても、手を伸ばさなければならないのだ。
ウクライナ防衛部隊はついにロシア軍クオックスウルフ部隊と会敵。地上の米陸軍機が2機撃破される。空中に飛翔したシルバー隊機も猛烈な対空攻撃によって満足なトップアタックが叶わなかった。
3番機のパイクマンは地上から雨のように飛んでくる30mm弾を避けて、米クオックスウルフ部隊と合流。米陸軍機と共に再び空へ飛翔。ひたすらトップアタックの地形有利を保ってロシア軍機の分厚い防御力を無効化する。
最新鋭兵器同士の戦いは激しく、これまでの兵器とは全く違う形の戦闘が繰り広げられる。鉄の巨人達が死に物狂いで戦い続けているのだ。やがて、20分が過ぎる頃に戦闘は終了する。
結果はウクライナ防衛部隊の勝利。圧勝とは言えないが、それでも余裕のある戦いだった。
その後、地雷散布による防衛網を緊急展開して翌日には米陸軍の増援部隊が到着することになった。
戦線は続く。