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装甲銀狼  作者: dispense
血肉
2/3

蜂の巣を越えて

 三日前に起きた日本首都圏でのテロリズム事件。町は尽く破壊され、道路は砕かれ、人は死に、交通機関が一時的に崩壊した。テレビの画面に映し出される報道はその事件一色に染まり、正確な情報は国民に与えずひたすら恐怖感を煽るのみだった。これが最初に始まったわけではない。今、何の力も持たない非力な国へと落ちぶれた日本は移民受け入れを許可したのを皮切りに戦場へ化していった。

 各地で勃発する暴動、テロリズム、兵器の密輸とかつての中東のような紛争地帯へなってしまった日本は、日米安保保障条約と国際的傭兵組織に自国の軍事力を頼りきっていた。


 そんな状況での三日前のテロリズムは何も珍しい事ではなかったのだ。しかし、日本政府は破壊された有脚戦闘装甲車を回収、分析するとこの機体が北アジア連合に属するロシアから製作された機体と判明する。最新機から一歩引いた機体ではあるが、こんなものが闇市場に出回る事はあり得ない話なのだ。そうなると三日前のテロリズムは単純な過激派連中の無差別テロではなく、侵略国からの戦術行動という可能性が浮かび上がってくる。

 これを知ったアメリカ合衆国はすぐに行動を起こした。日本からこの情報が流れてきた途端、大至急でシルバーウルフを雇用したのだ。そう、アメリカ合衆国は自分の軍事力は行使せず、傭兵という壁を作ってから報復行為を実行する計らいだった。

 そこで新たな仕事を得たシルバーウルフに所属する傭兵の一人、パイクマンは、現在極寒の空をヘリで吊るされながら眺めていた。彼に課せられた依頼はロシアの国境線付近に位置する前線レーダー基地の強襲だった。ただ地上設置型の対空レーダーを破壊するのみ、小難しい任務内容ではない。

 そのレーダーに捉えられる前に輸送ヘリは吊るしている機体を切り離した。


 前回とは打って変わり、装甲を純白に染め上げられたグレイ-W。もはや灰色の名前は似合わない機体色だ。上空300mを切ったところで推進機を点火。そのまま滑空しながらレーダー基地へ突き進む。脚が雪の大地へ触れる時、両腰から噴出される高熱の排気が表面の雪を一気に溶かす。直後、脛と脹ら脛に装備しているスキーボードを展開し、背を低くしながら雪の海を滑走する。雪の大海を掻き分けて時速360km/hで突き進んだ。

 グレイ-Wのレーダーが反応する。前方に2機、高度100mで間隔を置いて飛んでいる。グレイ-Wはスキーボードを折り畳んで推進機の排気口を下へ向けて飛び上がった。高度を上げながらボギーへ近付いていく。時速290km/h、加速が落ちる。

 やがて高度150mを突破。その頃には足元にボギーが重なっていた。レーダーに映る物体の正体はロシア製の戦闘ヘリだ。上面を取るグレイ-Wに気付いているようで、旋回しながら高度を上げてきた。

 空を飛ぶ巨人は左腕を下へ振り下ろし、その手に握った25mm機関砲で寄ってきたヘリを掃射する。小蝿を叩き落とすかのように2機の戦闘ヘリを破壊。


 警備していた戦闘ヘリを撃墜した事でレーダー基地は警戒体制に入っている事を察したパイクマン。再びグレイ-Wを地面へ下ろし、舞い上がる雪の粉に紛れるように純白の大地を滑走する。

 作戦開始から6分。やっと破壊目標がパイクマンの視界に入ってくる。そこには3基の大型なパラボラアンテナが設置されていた。グレイ-Wは更に姿勢を落とす。レーダーに映りこむ複数の反応が基地の警戒レベルを表現していた。

 南から順にアルファ、ブラボー、チャーリーと破壊目標の目印が付けられている。パイクマンは一番機影の少ないチャーリーの方へ機体の進路を決定し、しゃがみこんだ体勢になっているグレイ-Wを滑り込ませるように停止させて、右手に握られた榴弾機関砲を構える。

 着弾目標を決定、その後火器管制システムの自動補正による射角調整。右腕のマニュピレーターが機関砲を握りこむ。機械の圧倒的な握力は人間の手のように悴んだりはしない。


 90mm榴弾を発射。ワインのコルクを抜いたような音が轟き、緩やかに弧を描いてチャーリーに着弾。初弾命中する。そのまま砲口を維持して次弾を発射する。炸薬が弾け飛び、一瞬にして瓦礫と化すチャーリー。

 5発目の榴弾を発射するとグレイ-Wは速やかにその場から離れる。破壊したパラボラアンテナの近くから、まるで巣を壊された蜂のように戦闘ヘリが飛び出してきた。

 レーダーの夥しい反応は消えぬまま、パイクマンはグレイ-Wをブラボーの方へ走らせる。後ろからは破壊者を逃がすまいと憤怒した雀蜂の如く怒濤の勢いで迫ってくる戦闘ヘリが複数。足を止めれば幾多の対地ロケットを容赦なく撃ち込まれる。気が付くと既に後ろから何発か撃たれていた。

 雪を掻き分け、推進機の排気口から炎が燃え盛る。アフターバーナーを点火して最大戦闘速度の時速460km/hに到達する。スキーボードが悲鳴を上げた。

 機体を何とかして旋回させ、ブラボーへ砲口を向けた。精密射撃をしている余裕はない。ロックオンが終了次第砲撃した。それでもグレイ-Wの火器管制システムは数値を弾き飛ばして榴弾を着弾させる。ブラボー崩壊。

 最後に残るはアルファ。有脚戦闘装甲車も基地を囲う金網を蹴り破ってこちらへ迫ってきた。寒冷地で最大限のパフォーマンスを発揮できるように改造されたロシアの機体だ。

 それを見たパイクマンはグレイ-Wを空へ飛ばす。しかしアフターバーナーの使用限界が刻々と近づいていた。猶予などない。

 上昇して速度が落ちた途端、戦闘ヘリが36mmチェーンガンを乱射した。それを必死に振り切ろうと機体を振り回す。とにかく高度を戦闘ヘリよりも上に取らなければ撃墜されてしまう。未だに炎を吐き出す排気口はその熱で周りの空間を歪ませている。

 戦闘ヘリよりも高度が高くなる。刹那、右手に握られている榴弾機関砲と25mm機関砲が咆哮。下面のアルファに向かって爆撃の如く降り注ぐ砲弾。25mm弾の衝撃と90mm榴弾の炸薬が混ざり合う。レーダー基地に設置されたパラボラアンテナの全てを破壊が完了した。作戦成功。


 しかしこれで終わりではない。作戦領域から離脱し、敵機の追跡を振り切らなければならない。グレイ-Wはそのままレーダー基地の真上を通りすぎるように空中を飛ぶ。猛烈な対空射撃が機体を襲う。40mm対空砲の砲弾が胸部と脚部装甲に着弾。莫大なエネルギーが機体を揺らす。

 叩き落とされる事なくレーダー基地を通りすぎ、雪の大海に着地。依然として背後には夥しい敵機がグレイ-Wを追っている。

 アフターバーナーを使える燃料は残っていない、胸部装甲が破損している上、圧倒的な数の差で戦闘は不可能である。しかし、ここを逃げ切らなければパイクマンは戦死するだろう。

 スキーボードを展開すると同時に両肩に装備された発煙弾発射機から四方八方にスモークを発射した。人工的な煙と排気により舞い上がった雪が混合する。辺り一面が真っ白な煙で囲まれ、赤外線を遮断した。


 自分達の基地を破壊した狼を追う多数のロシア機は煙によって立ち往生した。視界が完全に消える上、置き土産のチャフで電子機能も妨害されるため突入するのは危険だ。

 一時の静寂が過ぎると、煙は晴れて地平線が見えてくる。しかし、既に狼の姿は消えてしまっていたのだった。

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