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装甲銀狼  作者: dispense
血肉
1/3

銀の狼

 正午を過ぎた曇りの空。日本の季節は秋へ入ろうとしていた。要塞のように建ち並ぶガラス張りのビルの足元で、渋滞した道路はいつも通り鬱蒼とした空気を漂わせている。

 そんな中、一際目立つ二台の巨大なトラックが道の端に駐車している。コンテナを積み、場所を大きくとっているそのトラックは、通りすぎる車や通行人から嫌悪の視線が送られていた。道路の道の半分を塞いでおり渋滞の原因の一つになっていたが、それも束の間のことだった。

 突如、トラックのコンテナの扉が弾け飛ぶ。勢い良く吹き飛ばされた扉は、近くを走っていた軽自動車の動きを止めた。やがて、甲高い駆動音が渋滞した道路に鳴り響く。鉄がコンクリートを踏みしめ、砕き、火薬が爆発する音が轟いた。

 全長4.1mの鉄塊の太い脚が逃げまとう人達の目の前に現れる。有脚戦闘装甲車だ。4機もあの巨大なトラックのコンテナに忍び込んでいたのだ。

 逃げる人々の叫びを掻き消すように25mmガトリング砲の轟音が鳴る。看板は撃ち落とされ、電信柱は尽く薙ぎ倒されていく。数分後、直ちに駆けつけた装甲警察隊と対陣するが、有脚戦闘装甲車は縦横無尽に飛び回り、ビルの壁を蹴り、警察隊の装甲車を25mm弾で引き裂いた。突如として現れた破壊者達。渋滞していた道路は踏み潰された自動車で溢れ、ガラス張りのビルはハンマーで叩き割られたように穴だらけになっていた。

 電信柱のスピーカーから国民保護サイレンが鳴り響いた。そのサイレンをBGMに、4機の鉄塊はひたすら町を破壊していく。撃ち乱れる25mmガトリング砲。疾風のように出現した彼等の目的は、日本への無差別テロリズムだった。


 一直線の広い道路を突き進む4機。彼等の計画が順序通りに進んでいるのかは分からない。しかし、この4機の未来は狼によって食い千切られる事になる。

 コンクリートの道路を早足で歩く4機の元へ、真っ黒な輸送ヘリが近付いていく。上空400mから時速180km/hで急速接近する。そのヘリの腹には、曇天の空に溶け込むかのような灰一色の巨人がロープで吊るされていた。

 テロリストが搭乗する有脚戦闘装甲車にレーダーシステムは搭載されていない。後ろから近付いていくる狼に気付かず、再び目の前の道を塞ぐ警察隊の装甲車と対陣していた。警察隊の装甲車は12.7mm機関砲で4機を迎撃するが、有脚戦闘装甲車の強靭な正面装甲に歯が立つわけがなく、フルメタルジャケットの12.7mm弾は次から次へと弾かれていた。

 抵抗する術もなく一台目の装甲車が25mm弾によって引き裂かれた時、上空からカースト上位に君臨する捕食者が降ってきた。

 腰を落とし、一直線にテロリストの方へ落下してくる機体。名はグレイ-W。全長7.2m、総重量34.9tの質量が道路のコンクリートを砕いた。大きく脚を開き、着地体勢からゆっくりと腰を戻す灰色の巨人。分厚いブリムの奥から覗く血に飢えた真っ赤な瞳がテロリスト達を睨む。

 真後ろで轟いた着地音に気付いたテロリスト達は、有脚戦闘装甲車の上半身を先に旋回させて砲身を灰色の機体へ向けた。HUDに計算した数値が弾き出される。同時に火器管制システムが自動誘導を開始した。刹那、撃ち出される25mm弾。4機による集中砲火を浴びるグレイ-W。

 だが、グレイ-Wは25mm弾の発射と同時に上空へ一瞬にして飛び上がった。両腰に装備する推進機によって、点火の爆発音と同時に跳躍した。瞬時にして高度50mを突破したところで、右手に握られた120mm滑腔砲が咆哮する。とてつもないマズルフラッシュと共に、その炎を掻き分けるように突き進むAPFSDS弾。その針の先は上半身を大きく反らした1機の有脚戦闘装甲車に直撃する。装甲が貫かれる音が反響した。


 残り3機となったテロリストの機体。一瞬にしてトップアタック戦法をとられてしまっている。必死にローラーを駆動させて降り注ぐ120mmAPFSDS弾を避けようとするも、グレイ-Wの正確な火器管制システムから逃れることは出来ない。次々と機体上面を撃ち抜かれ、滑り転けながら黒煙を上げた。

 グレイ-Wは推進機の点火を停止し、近くに建っていたビルを蹴った。強力な脚力から繰り出される圧倒的な跳躍力。ガラスが砕ける音が響く。宙を舞ったガラスの破片の中で頭部カメラは最後の1機に狙いを定めていた。

 最後の1機である有脚戦闘装甲車は道路に並ぶ自動車を蹴散らしながら、ローラーを駆動させて時速90km/hで逃亡していた。しかし、上空から猛禽類の如く急降下してくる機体に無惨にも踏み潰されてしまう。まるで大鷲から逃げる小動物のようだ。

 総重量34.9tが思い切りのし掛かる。機体上面の薄い装甲は耐えきれず陥没し、容赦なく体重を乗せるその巨大な足はコックピットに座るパイロットを押し潰した。


 国民保護サイレンが鳴り止んだ。脚を戻したグレイ-Wは、道路の中央へ立ち尽くす。肩に光った銀色のエンブレム。M1911コルトガバメントをくわえた銀色の狼。深紅に血走った眼は、ひたすら獲物を探し求めている。このエンブレムは国際傭兵組織【シルバーウルフ】に属している証明だ。

 


「こちらα-1からパイクマンへ、機体を確認した。回収を開始する。通信終了」



 ヘリパイロットが通信する。上空で待機していた輸送ヘリがゆっくりとグレイ-Wの元へ舞い降りた。ハンガーに固定された機体はヘリに吊られ、ゆっくりと地から足を離す。


 道路に残された警察隊。嵐が過ぎ去ったかのような静寂が町を包み込んだ。後からやって来た対物武装を施した部隊は目の前の光景にただ呆気ているのだった。

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