お化け屋敷で幽雅(ゆうが)な暮らし。#1
放課後の校舎裏、人気の無いこの場所に大きな怒鳴り声が鳴り響く。
「おら!さっさと財布出しやがれ!!」
怒鳴った本人による容赦ない一撃が鳩尾に入る。
「がはっ」
その一撃の衝撃で思わず前かがみになってしまった僕の眼前に不良の膝が迫ってきた。
苦しさで悶てる中、不良の繰り出した膝蹴りを顔面で受けてしまう。
「あうっ」
「呻いてねぇで、さっさと出すもんだしやがれ!!」
そんな理不尽な事を言ってくる不良に対して、僕は一言
「わ、分かってるよ、ちょ・・ちょっとカバンの奥の方に財布しまっちゃったから、だ・・出すのに苦労するんだ・・・」
「能書きはどうだっていいんだよ、早くしろよ。」
何をそんなに苛ついているのか、僕の返答に苛立ち混じりの返事を返しつつ今度は僕のスネを蹴り上げる。
「イタイ!!、わ、分かってるって!!ちょっと待ってよ!、今出すところだから!!」
「あぁ?何だお前、俺に指図するのか?」
典型的な不良の反応に内心呆れつつも、それを顔に出さず言葉を返す。
「ち、違うよ!僕が悪かったから、謝るから、ね?・・・ほ、ほら、財布、財布出てきたよ!はい、どうぞ!」
そうして、僕の財布を持って差し伸べてた手を不良は払いのけると、僕の胸倉を掴んできた。
「そんなもんいらねぇんだよ!!テメェが俺様に口答えしてくるんじゃねぇよ!!あぁん!?」
僕にどうしろっていうんだよ!!と思いつつも、それを口にすると余計状況が悪くなるだけなので今は言われるがままに徹する。
「おい!なんとか言えよこの野郎!!」
「ご、ごめんなさい!口答えしてごめんなさい!!」
仕方なく、ここは無実の罪を認める作戦で穏便に事を運ぼうと思う。
「やっぱり、テメェ俺に口答えしやっがったんだな!!」
あぁ、これは選択ミスったわと思いつつも、不良の怒りがこもった拳を顔面に浴びる。
顔への攻撃はここまでで、その後は首から下の服で隠れる部分を何度も殴られたり、蹴られたりした。
日が沈みかけ、辺りが暗くなり始めたところで不良は殴るのを止めた。
痛みで呻きながら、倒れている僕を見下ろしながら不良が一言。
「今日は、こんくらいにしといてやるよ。」
そして、近くに落ちていた僕の財布からお札を何枚か抜き出すと、財布をその場に投げ捨て校門に向かって歩いていった。
「やっと終わった。」
誰もいなくなった校舎裏で一人、不良が立ち去ったことに安堵し痛みが引くのを待って体を起こす。
さて、今日はいくら持っていかれたものやら。
財布の中を確認すると諭吉と一葉が一人ずついなくなっていた。
「ちくしょう・・・、帰りに電気屋でカメラ買うために用意していたお金が・・・くそっ、これじゃあ、また今月もカメラ買えないじゃないか。」
そうボヤきつつ僕は歩ける程度まで回復した体を引きずって帰路に着いた。
僕の名前は、只野幽太どこにでもいるごく一般的な高校生である。
勉強も、運動も、ルックスもどれをとっても特筆することのない人間である。
そんな僕でも一点だけ人とは変わった隠し事を持っている。
それはYOUTUBEに動画をたまに上げていること。つまり今世間で注目を浴びているユーチューバーというやつだ。
上げる動画は決まっていて、深夜に一人で心霊スポットを探索するというものだ。
最初は、近場でネットに紹介されているところを訪れていたのだが、最近ではチャンネル登録者が増え、広告収入なども入ってくるようになったので、他県の有名な場所や、視聴者から寄せられた場所を訪れたりしている。
現在までに100以上の動画を上げているが、上げる動画殆どに幽霊が写っていたり怪音が入っていたりとホラー系が好きな人のでは知らぬ人はいないほど有名になっている。
と、いっても怪奇現象が起こった動画は全て編集で幽霊や音を後づけしていたりしている。しかし、そればかりだとリアリティに欠けるので時には現場で一芝居してあたかもその場に何かいるような雰囲気を出したりして、絶妙に編集感を誤魔化している。
そんな感じでマニアには有名なチャンネルになった僕は次に訪れる場所を探していたのだが、いい感じなところが見つからず困っていた。
そんなある日、僕の上げた動画の一つに気になるコメントが投稿された。
投稿者の名前は「伽椰子&貞子by俊雄」