表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君を愛している

作者: たぬたろう

「起きなさいアポリア!」

「どわぁ!?」


 浮遊感を感じた後、地面に叩きつけられる衝撃を背中に感じた。

 毎朝毎朝、もうちょっと優しく起こしてくれないものか・・・。


「痛いだろ!リリィ!」

「なら自分で起きる事ね。」


 幼馴染のリリアナに起こされていつもの一日が始まる。

 狩りの道具を持って森に入り、魔物が居ればそいつを処理し、村で食べる為の動物がいればそいつを捕まえる。

 なんてことはない普通の狩猟生活だ。

 けど俺はリリィ以外の村人には疎まれている。

 それも当然だ、俺には家族はいない。

 子供の頃、母親だけがふらりとこの村に来て住み着き、俺を生んだ。

 そして俺が五歳になる前に病気で帰らぬ人となった。

 それ以降、ずっと一人で暮らしている。

 誰が父親かもわからない、母親が死ぬ前はほとんど狂っていた。

 それに俺は五歳の頃すでに弓と魔法を操り、森で猟師をしていたんだ。

 こんな子供、不気味でない方がおかしい。

 けれどこの村の人間は俺を疎んではいるが、排除しようとはしていない。

 それだけが救いではあるけど、理由はある。

 俺が猟師で、魔物や動物を狩ってくるからだ。

 魔物の被害はかなり深刻だ。

 俺が覚えているだけで近隣の村が二つ、魔物のせいで滅んでいる。

 魔物を殺せる戦力など村で用意するのは困難だ。

 けどこの村では戦えるのは俺だけ。

 だから俺は疎まれているが戦力として村に残してもらえている。


 今日もいつも通り魔物を狩り、イノシシを狩った。

 矢はある程度回収したが、それなりの数を折られてしまった。

 補充しなければならないなとリリアナと喋っていた時、リリアナの右手が光始めた。

 その光に伴い、俺の背中も焼けるように痛み出したが関係ない。

 リリアナが右手を抑えて苦しそうにしているのに自分の事など考えている暇などない。

 彼女を抱き上げ、村へと向かう。

 その間も彼女の光は収まる気配はない。

 どころか強くなっている。

 それに呼応するように背中の痛みが強くなり、何かが俺の心に入り込んでくるのを感じる・・・。

 やっと村に着き、村人が俺達に気づいた時、俺の意識はそこで途切れた。


『新しい器・・・やっと見つけたぞ!!』


 誰かがそう叫んでいるように聞こえた。

 俺の心がなにに食われている様な感覚がある。

 これに食われるのは・・・ダメだ。

 絶対にダメだ。

 これに食われるのであれば・・・逆に"喰らって"やる!!


『ば、バカな!?この我が!?魔王グレゴリウスが貴様如きムシケラに!?』


 それを喰らった時、はっきりわかった事がある。

 この世界にはびこる負のシステム。

 勇者と魔王。その絶望的な運命に・・・。

 そして、それを壊す方法を・・・。


 目が覚めた時、彼女に勇者の紋章が浮かんだ事で、村は大騒ぎだった。

 みんながみんな、リリアナを褒め称えている。

 けれど俺はその輪には加われなかった。

 なぜなら俺にも紋章が浮かんだんだ。

 あの時感じた背が焼ける様な感覚、あれは彼女と同じ種類の紋章だ。

 魔王を食った事で、この紋章の仕組みも、どうすればリリアナが平和に暮らせるかも知った。

 魔王・・となった俺に出来る事、それは。

 二つの紋章と共に、リリアナの手によって永遠に消滅する事だ・・・。



=====================================



 その夜、勇者として王都に向かうリリアナが俺の家にやってきた。

 きっとリリアナの事だ、俺も一緒にと考えているのだろう。

 確かにリリアナほどの剣の腕前は俺にはない。

 弓と魔法の腕だけはリリアナと良いコンビになれる自負がある。

 けどさ、やっぱ突き放さないとダメなんだ。

 俺は・・・魔王だから。


「あのさ・・・、アポリア。魔王討伐のPTについてきてくれないかな・・・?」

「出来ない。」


 俺がきっぱりと断ると、泣きそうな顔をしている。

 この村に生まれてからずっと一緒だったんだ。

 俺が魔王じゃなければ、一緒に行っていたさ。 


「理由、聞いても良い?」


 ここだ、ここが分岐点だ。

 ここで俺は・・・、魔王にならなければならない。

 どうあがいても人類の敵である事を教えなければならない・・・。

 殺す事に・・・手加減をしてはいけない・・・。

 絶対悪でならなければならない。

 彼女が、俺を殺せるように。


「それはな・・・。俺が魔王だからだよ。」

「えっ?」


 魔王の紋章を得た時に知った、これの使い方。

 それを全力で解き放つ。

 近くに居る彼女は大丈夫なのはわかる。

 だからこその勇者と魔王。

 そういう役割。


「きゃああああああああ!」

「あっはっはっはっはっ!どうだ勇者!これが魔王の力だ!!」


 今まで住んでいた家の原型・・・どころの話じゃないな。

 村の原型が完全に崩れた。

 魔王の紋章を開放したからかわかる。

 生きてるのは・・・数人だ。


「絶望しろ人間共!俺が新たな魔王グレゴリウス!無様に泣き叫び蹂躙されるがいい!!」


 魔力を使い一匹の魔物をこの地に落とす。

 勇者であるリリアナなら大丈夫だろうが、生き残った数人はダメだろう。

 ごめんなさい、けどこの世界の役割を終えるのに必要な事なんだ・・・。

 こうしないと・・・、勇者も魔王もこの世界から無くならない・・・。

 彼女に討たれたらどんな罰でも受けます。

 だから・・・ごめんなさい・・・。


「勇者などオーガだけで十分だろう・・・。くっくっくっ、さぁ人間共!宴の始まりだ・・・!!」



=====================================



 二年後、俺は魔物ですら恐れる魔王となった。

 俺が与えた任務を失敗した魔物は、殺してくれと人間に懇願するほど怯えているらしい。

 それもそうだ、魔物を一匹でも多く始末し、人間を一人でも多く殺す。

 それが・・・、それだけが必要な事なんだ。


「ふん・・・。つまらん。」


 その一言で周りにいた魔物がビクリと動いた。

 この一言と共に何百匹の魔物を葬った事か。

 魔王と言うのが本当に板についてきたな。


「魔王様!勇者がやってきます!!速くお逃げを!」

「貴様・・・この俺が負けるとでも言いたいのか?」

「そ、そんな事は・・・。」

「不愉快だ消えろ。」

「ま、魔王様!お待ちギャアアアアアアアアア」


 手を振りかざし、報告に来た魔物を黒い炎で焼き殺す。

 心底つまらなそうに、心底どうでもいいかのように。

 この二年の間に、こんな血生臭い事も慣れてしまった。


「どいつもこいつも下らぬ。」

「魔王様、私が出てもよろしいでしょうか?」

「ふん・・・、四天王最後の一人が出たところで変わらぬであろうよ。」

「いえいえ、必ずや勇者の首を御前に。では。」


 俺がこの城に来た時に魔王様に仕える四天王ですと名乗っており、リリアナに殺され残った最後の四天王が目の前から消え去る。

 彼らが一人ずつ死んでいったのはまぁ俺の策略なんだけどね。

 四人一度に相手にするときついだろうけど一人一人ならなんてことはない。


「さて・・・。どれほど強くなったのかな・・・。」



=====================================



「ま、魔王さギャアアアアアア」


 俺に報告に来たのだろう魔物が扉を開けた瞬間、体から剣を生やし絶命する。

 その魔物が消滅した時、奥に居たのはリリアナだ。

 後ろには彼女の仲間の男剣士、女僧侶、男魔法使いが居た。

 そして剣士の右手のところには、四天王の最後の一人が捕まっていた。


「魔王グレゴリウス!やっと会えたわね・・・!」

「グっ・・・魔王様。お逃げを・・・。」

「下らん・・・。お前はもう用済みだ・・・。」


 うっとうしそうにしながら左手で四天王を指さす。

 ゆっくりと、けれど確実にそいつの体は魔力へと変換されていった。


「そ、そんな魔王s」


 パリンと音がして、最後の四天王は消滅した。

 変換した魔力は自分で回収しておく。

 よし、これで最後の舞台の準備が整った。


「仲間を・・・!?もうアポリアの心は残って無いの!?」


 いや・・・残ってるよ。

 グレゴリウスなんて魔王はどこにも居ない、魔王を演じているアポリアが居るだけだよ・・・。

 そう伝えたいけど・・・、ダメなんだよね。

 俺は魔王グレゴリウスじゃないといけない。

 でないと君は俺を殺せない。


「アポリア・・・?あぁ、あのゴミクズか。全く手ごたえが無かったぞ奴は。さっさと我に体を受け渡せば良いものを・・・。無駄に苦しんで消滅しおったわ!」


 とても愉快そうに笑ってやる。

 あぁそうだ、俺がグレゴリウスを打ち負かしたからこんな辛い現状になったのだ。

 けど・・・後悔はしていない。


「アポリアの・・・敵!!」

「リリアナ!落ち着け!くそ!支援頼むぞ僧侶!」

「任せて戦士!リリアナちゃんの支援を、魔法使い!」

「嵐よ(サンダーストーム)!」


 魔法使いから放たれた、魔力の嵐を片手であしらい、リリアナの剣を近くに置いておいた杖ではじく。

 やっぱり、昔一緒に森でイノシシを狩った時より強くなっている。

 うん、自分の事じゃないけどなんて誇らしいのだろう。


「この程度が勇者か・・・やはり無能揃いの様だったのだな。闇に呑まれよ(ブラックホール)。」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 一番理性的だと思えた魔法使いの男をテレポートで俺の自室に送り込む。

 ずっとリリアナを魔法で見ていたから彼らについても知っている。

 彼なら、あそこに置いた手紙できっと全て理解してくれるだろう。

 演技だとばれない様に少々痛みのある方法で送ったが死ぬほどではないはず。

 一応最上級の回復薬を置いておいたのだ、大丈夫なはず。


「魔法使い!くそ!」

「魔王の前に立ったのだ。死ぬ覚悟はあったのだろう?」


 魔法使いがこの場より消えたので他の二人はどうようしたのだろう。

 俺が笑っていても何も行動出来ないでいる。

 けれどリリアナは、俺に向かって聖剣を振り下ろしてくる。

 それを片手で掴み、彼女を睨み付ける。

 睨み付けているはずだ・・・きっと出来ている・・・。


「お願いアポリア!目を覚まして!!」

「ふん・・・そんなちんけな男などもう存在せぬわ!!」

「アポリア!!」


 リリアナの眼に涙が溢れている。

 ごめんね、俺はもう止まってはいけない。

 この世界の仕組みを壊して、平和を作る為には止まるわけにはいかないんだ。

 なにより・・・、そのせいで死んでしまった人たちに永遠に詫びなければいけないのだから。


「愚かなり!!」


 ざくりと・・・、心臓に聖剣が突き刺さる。

 これで良い・・・、これで俺の目的は達成する事が出来る・・・!


「この時を・・・待っていた!!」


 リリアナの手を掴む。

 魔王の紋章の力を使い、勇者の紋章と融合させようとする。

 魔王となってから研究したのだ、この忌まわしい呪いとも呼べる勇者と魔王の紋章を完全にこの世から消す方法を。

 正と負の紋章は融合すると反発しあい崩壊する。

 対等の紋章でなければ壊れず強い方が吸収するが、魔王と勇者なのだ。

 その力の差は対等である、だから融合すればこの紋章は二度と発現する事は無い。

 パキンと音がして、二人の紋章が崩壊した。

 その瞬間俺の胸に突き刺さっていた聖剣は光と共に消え去った。

 あれは、勇者の紋章から生み出された物だ。

 紋章が消えれば聖剣も消える・・・。


「なに・・を・・・?」

「アハハハハハハハ!!これで勇者は二度と生まれない!二度とだ!!ざまぁみろ人間共!!アハハハハハハハ!!」


 ちがう・・・、俺が言いたいのはそうじゃない・・・。


「不幸になれ勇者よ!一生呪われるがいい!!」

『俺の事は忘れて・・・幸せになってくれリリィ・・・。』


「グレゴリウスという魔王によって!勇者という希望が打ち砕かれたのを理解するがいいわ!!」

『勇者の存在も、魔王の存在ももう終わりだ・・・。一人の女の子として生きてくれ。』


「人間共よ!勇者の居ない世界で恐怖に震えるがいいわ!!」

『これで終わりなんだ・・・。魔王はもう出ない、勇者システムなんてものから解放されてくれ・・・。』


 自分でも何を言っているのかわからなかった。

 もしかしたら、俺が打ち負かしたはずの、本当のグレゴリウスが喋ったのかもしれない。

 けど、これでいい。

 彼女ならきっと・・・、気づいてくれるだろう。

 最後の最後に・・・、彼女に向けて笑みを浮かべれたのだから。



=====================================



 こうして魔王は倒された。

 勇者たちは魔王城より帰還し、魔王を勇者の紋章で"封印"したと告げた。

 三日三晩続いた魔王討伐の宴は、世界中で盛大に開催された。

 けれど勇者がもたらした一つの話は、各国の連携を強くした。

 人の悪意が蔓延すると、魔王が復活すると。

 魔物の数が増えすぎても魔王が復活すると。

 また魔王が復活するのを阻止するために各国は協力体制を布いた。

 そして魔王を封印した勇者リリアナは英雄として称えられたが、彼女はそれをよしとせず、生涯魔王の城で封印を守り続けると言い人々の前から姿を消した。

 勇者の仲間たちは勇者を連れ戻すのを嫌がり、何度か特使が勇者は頑なにその城から出て行こうとはしなかった。

 数年後、勇者の仲間達が魔王城を訪れた時、小さな墓の前で死んでいる彼女を見つけ、その墓の隣に静かに埋葬した。

 以降その城には誰も訪れず、静かに歴史の中に埋もれて行った。 

 こういうハッピーエンドなんだけどバッドエンドな話って大好き。

 なろうでもっと流行れハッピーエンド風バッドエンド!

 主人公はもっと絶望しろ!!(外道


 ちなみにもっと詰め込もうとして酷いことになったので大部削ったらまた酷いことにの繰り返しでもう最後わけわかめ状態!

 誰かもっと良いハッピーエンド風バッドエンドくれください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ