レアスライム編5
「カトウハジメか。ええ名前……でもないな。微妙なところや。まあええ、これから宜しくな」
「あ、ああ」
「で、これからどうすんの?王女様をさらってくんか。それは勘弁してや。こっちも仕事やねん」
「俺は王子と王女を会わせてやっただけだからな。後は二人が話して決めることだと思ってる」
「ふーん。それならまあいいわ。分かった」
「よし、戻るぞ」
二人で走って池に戻る。
そこには動けず恐怖に怯える二人の男。そして人狼の王女。あとスライムの王子とそれを背に乗せたカバ太郎がいた。
王女と王子はじっと見つめあっていた。
いや、スライムには目がないからな。実際に見つめあっていたかどうかは分からん。なら向かい合っていたが表現として正しいのか?いや、向かい合ってるのかもスライムの頭がどこか分からんな。まあどうでもいい。念話で会話中だったんだろうが、俺には二人が見つめあっていた風に見えたって事だ。そしてそれを俺はとても美しいと感じたって事だ。
「ワンワン!」
俺達の存在に気付いて、王子と王女がこちらを向く。
「ようジョセフィン、話はできたか?こっちは休戦する事になった」
『おお、魔王殿。アルマから事情を聞きました。そちらはクレマチス殿ですな。アルマが世話になったようだ』
「まいど」
この仕事でのデイジーの名前はクレマチスなんだな。で、人狼の名前はアルマって言うのか。アルマが俺に会釈をしてくる。いいねえ金髪美女だ。洋モノだぜ。
『魔王殿、この度はお力を貸して頂き誠に有難う御座いました。アルマは国に戻り、自らが果たすべき使命を果たすとの事です』
「そうか」
『彼女とは、互いに危機があれば、相手に構わず自らの安全を最優先にしようと約束をしておりました。この度は彼女が私を守る為に行動していたのに、私が約束を守れずにいただけのようです。非常にお恥ずかしい』
そしてジョセフィンの体がうにょっと伸びた。アルマがそれを掴む。
『ありがとう、アルマ。共に旅ができて楽しかった。また会う日まで』
「ありがとうジョセフィン。君は私の親友だ。きっとまた会おう」
よし、これでひと段落か。よかったよかった。横でデイジーも安心してる。仕事がうまくいってよかったな。
「なあクレマチス、頼みがある」
「なんや?何でも言うてや」
「食料を分けてくれないか。手持ちがない」
「ええよ。乾パンと干し肉位しかないけどな、余ってる分をやるわ。ていうかなんや、飯も持たんと、こんな所に来たんか」
「そこなんだが、ここはどこなんだ。実はそれすら分かっていない。教えてくれ」
デイジーがポカンとして、笑い出す。
「ほんとに不思議なお人やで。よっしゃ、いちから教えたる。ここは人魔の森。人の領域と魔物の領域の境や。南に行けば魔物の領域や。しばらくは人間もうろうろしてるけど、ずっと南に行ったら魔物しかおらへん。魔物にもいろいろいるけどな。人間に友好的なんとか、目の敵にしとる奴とか」
「北は人間ばかりなのか」
「ずっと北まで行ったらな。でもしばらくは魔物が人と関わって生きとる」
ふうん。
さらにデイジーが笑いながら言う。
「あんさん金は持ってんの?」
「いや、持ってない」
「やっぱりな。よっしゃあたしが金を貸したる。遠慮すな。利子はトイチでええわ」
「ぼったくりだな、おい」
「ガッハッハ。よっしゃ無利子にしたる。ていうかくれたるわ。その代わり教えてえや。あんさん、なにもんや。人間なんか。魔物なんか」
そう言えば、俺は人間なのか?人間だよな?それとももしかして魔物なのか?
魔王を鑑定してみるか。うん、してみてもいいかもしれん。自分探しってやつになるだろ。よし、魔王を鑑定。
『魔王:魔物を統べる力を持つ者』
しまったな。鑑定をいっこ損した。
「たぶん人間、ということにしてください」
「ふーん、そっか。よし、待ってな。食べ物とお金を用意してきたる」
デイジーが離れると、ジョセフィンが話しかけてきた。
『魔王殿ありがとうございます。私もアルマのように旅を終える事としました。自らの集落にもどり、自らの責任を果たすとします。魔王殿はこれからどうされるおつもりですかな』
「そうだな。魔物の領域に向かうとするよ。俺は配下を増やさないといけないんだ」
『配下とは?』
「そうだジョセフィン、俺の配下になってくれないか。体の一部に刻印を施すだけなんだ。それ以外は何も影響はないから……たぶん」
『むむむ。実はこのジョセフィンは訳あって旅をしていますが、いずれはスライムの集落の王となる身。それが、たとえ魔王殿程のたぐいまれなる強者とはいえ、種族外の者の配下になるとなれば、集落の者が何と言うか』
そうだよな。集団に属していたら、それぞれ立場ってもんがある。
「いや、気にしないでくれ。無理にとは言わんよ。配下の事は忘れてもらっていい。つまらんことを言ってしまった」
『申し訳ございません』
「いいよいいよ。俺がいなかったらアルマと話し合えずじまいだったとか言うつもりなんてないからな。あと俺がいなかったらカバ太郎にファイヤーボール食らっていたかもとかも言うつもりもないしな。ほんと気にすんなよ。ほんとほんと。レアスライムは恩知らずだとか言うつもりもないし、わざわざ言いふらしもせんしな」
『むむむ』
「ってまあ冗談だ。アルマと話せて良かったな。力になれて本当に良かったよ」
『ま、魔王殿、お人が悪い。感謝と謝罪を申し上げます。恩を受けておりながら配下となれぬこの身、誠に申し訳ございません。立場に対する責任があるのです。どうぞご理解をいただきたい』
「分かってるよ。大丈夫だって」
『なので、友として私に刻印を刻んでは頂けませんか?』
「え?」
ジョセフィンがうねうねと動いた。
「どういうこと?」
『つまり、私は配下とはなれぬが友にはなれるのです。魔王殿が私を助けていただいたように、私も魔王殿を助けたいのです。刻印を刻めば魔王殿の力となれるのでしょう?ならば、友の証として刻印を刻んで下され 』
なるほど、建前の問題ってことか。
でもさ、いいや。いいんだって。
俺のことを友って言ってくれただろ。それだけで本当にじゅうぶんなんだ。ありがとう。
なあジョセフィン、その想いに俺はただ感謝するだけなんだ。
「ジョセフィン。俺は友に無理強いなんてしたくない。その気持ちだけありがたく受け取っておくよ」
『ふむ。魔王殿程の強者と深い繋がりを持てるのは、実はこちらとしてもありがたいのです。魔物は他の種族と争い合う事も多くある。強者と関わりがあれば、その際に牽制となりますからな。私とアルマが仲良くなったのも、純粋な友情でありますが、それだけでもないのです。一族への責任も含まれているのです。配下となれないのはあくまでも建前の問題なだけであって、魔王殿と縁ができるのは我が一族としてもむしろありがたい。だからどうか刻印を刻んで下され』
「無理してないか?正直に言ってくれ」
『まさか。我が友よ』
ようしわかった。そういうことなら遠慮なく行かせていただくぞ。
俺は右手をジョセフィンの上に置く。俺の右手から黒い霧が出てくる。同時に、体から力が抜けていく感覚がする。やがて黒い霧が止む。手を離すとそこには五芒星が黒く刻まれていた。
あーこれやっぱめちゃ疲れるわ。
『終わりましたかな』
「ああ、ありがとな」
『では、私からはこれを』
ジョセフィンの体が伸びて、俺の右手の人差し指にまとわりつき離れる。そして後には、七色に輝く指輪が残った。
「これは?」
『私の体の一部を指輪としてお渡しします。これを見せれば、相手がスライムであれば、魔王殿を敬意を持ち接してくれるでしょう。指輪に念話で語りかければ、擬態して見た目には分からなくすることも可能です』
スライム業界のフリーパス券だな。ありがたい。
『さて、この森の中に集落がありますので、私はここでお別れします。魔王殿、カバ太郎殿、お元気で』
そう言って、ジョセフィンの姿が見えなくなった。
俺は自分のステータスを開く。
魔王 LV 1/5
名前 柴山大吾(加藤ハジメ?)
配下(または友) 2/15
リミット 406日
HP 201/201(100+100+1)
MP 251/500
攻撃力 141(90+50+1)
防御力 141(90+50+1)
素早さ 168(90+18+50)
魔法力 140(90+50)
抵抗力 140(90+50)
装備
魔神のローブ
魔神の指輪
レアスライムの指輪
スキル
「物理攻撃完全無効(使用制限あり)」「念話」「擬態(使用制限あり)」「硬化(使用制限あり)」「統べる者」「魔神言語」「人言語」「魔物言語」「全属性魔法使用可(光属性を除く)」「MP自動回復(大)」「MP使用量緩和(大)」「無詠唱」「火属性魔法LV1」「水属性魔法LV1」「土属性魔法LV1」「風属性魔法LV1」「闇属性魔法LV1」
特殊スキル
「鑑定(大)×82」「口寄せ×2」
配下のところが「配下(または友)」になってる。名前が変わるところといいステータスの対応は柔軟だよな。で、数が見事に2/15になったぞ。
魔王は配下の数と能力でレベルアップするってあったが、まだレベルアップはしてない。レベルは1/5のままだ。早くレベルアップせんかな。
で、次はお待ちかねのスキルだ。フフフきとるできとるでっ。レアスキル祭りだぜワッショイワッショイ!
ん?なに?使用制限ありって?何だって?
自分のスキルだから内容は鑑定なしでも分かるはずだ。俺はスキルの内容を探ろうとする。
『物理攻撃完全無効(使用制限あり):最大5秒間物理攻撃を完全に無効にする。24時間に1回のみの使用制限を受ける』
『念話:思念による会話が可能となる』
『擬態(使用制限あり):最大60秒間周囲の風景に自分の体を擬態させる。24時間に1回のみの使用制限を受ける』
『硬化(使用制限あり):最大5秒間自分の体の一部または全体を鋼鉄の硬さに硬化させる。24時間に1回のみの使用制限を受ける』
うへーそういうことかよ。
例えばゲームだったら、これらを常時使えるように設定したら一気にゲームバランスが崩れてしまう、パねえ威力のチートスキルなんだ。
魔法攻撃以外受け付けないし姿も見えないし、さらには鋼鉄の硬さで殴りかかってくるとか、めちゃくちゃな存在になるもんな。
だから使用制限があると。残念だけどこれは仕方ないか。
あと、MP消費がありになっていて、えげつなく設定されてるかもしれん。タイミング見て実験しよう。
あと、微妙にステータスが増えとるんだ。HPと攻撃力と防御力が1ずつ。スライムの指輪の影響か。うーん、これくらいのプラスは割とどうでもいいかな、っていや待てよ。
ジョセフィンのステータスオープン。
レアスライム LV 5/99
名前 ジョセフィン
魔王の友
HP 59/59(60-1)
MP 1/1
攻撃力 39(40-1)
防御力 44(45-1)
素早さ 12
魔法力 1
抵抗力 2
スキル
「物理攻撃完全無効」「念話」「擬態」「硬化」
やっぱりだ。ジョセフィンのステータスが減ってる。
なんだよジョセフィン。体張ってまで指輪をくれたんかよ。ありがとうな。数値は微妙だけど、ありがたいよ。感謝する。数値は微妙だけどさ、気持ちがありがたいんだ。数値は微妙だけどな。
「あんさん、何ひとりでぶつぶつ言っとんねん」
我に返るとデイジーが革袋を二つ持って俺に話しかけている。
「ええか?」
「ああ」
「これはあたしからや。食料とお金が入っとる。持っていき」
「ありがとう。助かる」
「で、これからどないするって?」
「ああ、魔物の領域に向かう」
「なら一緒に行くか?」
魔王と勇者の仲間が行動を共にするってのもなぁ。
「いいや、やめておく」
「そうか。この森は往来が結構あるから、道ができとる。道通りに行ったら1日もかからへんで。せや、魔物の領域はいま、はぐれのミノタウロスが正気をうしなって暴れ回っとるらしい。龍人の討伐隊が結成されたとかもきく。まああんさんならチョロイやろうけど、せいぜい気いつけてな」
おっフラグが立ったな。次はミノタウロスとの出会いがきそうだ。
「ありがとう。じゃあカバ太郎、そろそろ行くか」
「ワンワン!」
俺は手を振ってその場を離れる。デイジーとアルマが手を振ってくれる。男2人は……まだ動けないままだな。
しばらくカバ太郎と無言で森を歩く。
ん?そう言えば……よし、やるか。
『カバ太郎、分かるか』
『んー?なにー?』
『念話で話しかけてるんだ』
『ねんわ?なにそれ?』
『ていうか、お前は俺と会話できることに驚かんのか』
『んー?わかんない』
『リアクションが薄いやつだな。ダチョウ的な人達に怒られるぞ。まあ、それよりも、謝るよ。無理矢理配下にしてすまんかった。ごめんなさい』
『はいか?なにそれ?』
『自覚がないんかい。はははそっか。それならいいか』
『うん!いい!』
俺はひとしきり笑った。カバ太郎が楽しそうに尻尾を振ってる。
よーし。
「これから宜しくな!相棒」
「ワン!ワン!」
ところでこの犬、なんか毛のつやが良くなってねえか?ステータスオープン。
カーバンクル LV 6/10
魔王の配下(魔王の相棒?魔王のペット?)
名前 カバ太郎(番犬?駄犬?トンヌラ?ゴン太?セロテープ?ゴルバチョフ?プロテイン?)
HP 32/33
MP 2/8
攻撃力 21
防御力 23
素早さ 27
魔法力 9
抵抗力 8
スキル
「火属性魔法LV1」「逃げ足」
ぬをっ。レベルアップしとるで!戦闘したからなんかっ?
レアスライム編終了です。
勇者とデイジー編を1話はさみ、その次はミノタウロス編です。
明日朝7時に、ミノタウロス編全話アップします。