レアスライム編3
はあっはあっ!なんで勇者の斥候とか来るかなあ。勘弁してくれよ。ついツッコミしちまっただろうが。勇者一行はストーカーですか。
て言うか、ランダムワープ全然ランダムじゃないんですけどー。作為的な物を感じるんですけどー。マジでー。
ああっ。俺の混乱すること山の如しだが、混乱ばかりもしてられないのも風の如しだ。いかんなに言ってんだ俺、落ち着け俺落ち着け俺。よし落ち着いた。
冷静に見ていくぞ。
勇者の斥候はそのままだろ。勇者の仲間で斥候役ってことだろな。
で、名前がまたややこしいな。詳しくないから分からんが、花の名前が多いっぽいな。この子は花好きなのか。
こんなに名前がたくさんあるってのは「今日の私はマーガレットって呼ばれたい気分なのうふふ。明日はガーベラで」とか言うカンジのイタイ子なのか。そのせいで名前がこうなってるのか。脳みそがお花畑なのか。
いや、スキルを見たところ、違うだろうな。だいたい半分は勇者絡みのスキルだ。で、残り半分はゲームなら盗賊とかが持ってそうなスキルばかりだ。
もともとこの子は盗賊系の職業だったんじゃないか。それで仕事の都合で偽名をたくさん持ってるとか、そんなところじゃないか。で、勇者が転生してきて職業が変わり、スキルも増えたと。
おっ、なんか俺の今の推理何気に良くない?初歩的なことだよワトソン君。
まあ推理なんて後でいいか。鑑定でスキルを調べるぞ。これは鑑定をガンガン使うところだ。
『精霊の加護:精霊の加護により、次に行くべき場所、行うべきことが何となく分かる』
この精霊の加護は、勇者も持っていた。シナリオ通りにキャラクターが行動する為の仕掛けだな。ずるいな。俺は放置プレイなのに。
『第六感:時折神がかり的な直感を得る』
イマイチ具体的にどうなんなわからんが、多分そのまんまの意味じゃないか。命の危険が迫ったらピーンとくるみたいな。
次は何を鑑定すっか。死亡時ワープと復活にするか。これは勇者も持ってたな。で、文字通りの効果くさいんだよな。
ドラゴンをクエストする国民的なロープレゲームみたいに、全滅したら最後に立ち寄った町で生き返るってやつじゃないか。
で、ゲームなら教会で仲間を生き返らすんだが、所持金が半分になってるし生き返らせるのにお金がかかるしで、ペナルティーが結構大変なんだ。
まてよ、ペナルティーってか。
この世界では勇者が死んだら復活する際にペナルティーは発生するんか?
経験上、特殊スキルで効果が強いやつ程ペナルティーがひどいんだよな。
ならさ、人が死んで生き返るなんて異常事態なスキルなら、ペナルティーはかなりすんげえんじゃねえのか。
このデイジーの能力値は素早さがウインドドライブを使った俺と同等。んでHPも俺と同等。だけど他は全部格下だ。エクスカリバーとか訳の分からんヤツもないし。これ、勝てるんじゃないか。
俺はつぶやく。
「……殺っちまうか?」
その瞬間バッとデイジーがこちらを見た。
えっ?目が合ってる?うん合ってる。たぶん俺は今アホ面。
っっっなんだ!なんだなんだなんだ!
俺は慌てて身を隠す。心臓がバクバクする。やっべえこれ第六感だありえねえマジ神がかり的すぎだろ。ここはとりあえず逃げるか?
いかん下手に逃げてカバ太郎とジョセフィンが見つかって狙われたらひとたまりもないぞ。
ならやっぱ殺るか?殺るのか?
焦りまくっている俺になんか騒ぎ出した声が聞こえる。あいつら臨戦態勢に入ろうとしてるんだろうか。
俺は腹を決めて顔を出し様子を伺う。おっ四人ともハチャメチャ状態になってる。慌ててここから逃げだす準備をしてるな。これなら大丈夫そうだ。一旦戻ろう。
俺は来た道を全力で戻る。一度足を止め木に隠れて尾行を警戒するが、大丈夫だ。
いた。カバ太郎とジョセフィンだ。
『魔王殿、ご無事か?』
「ああ、無事だ」
「ワン!」
「ジョセフィン教えてくれ。お前の仲間は金髪の女か、それとも黒髪か」
『金髪の女ですが』
「よし。聞いてくれ。俺の存在に気付いてあいつら焦りまくってる。そこにつけ込むぞ」
『な、なんと』
「まず俺が突入する。ジョセフィンは俺にくっついていてくれ。俺が影縫いであいつらの動きをとめる。男2人はまず大丈夫だと思う。動きをしばらく止められる。ジョセフィンはこの時点で、俺から離れて人狼と接触してくれ。問題は黒髪だ。黒髪は影縫いを避けるかもしれん。そうなったら俺は黒髪と戦闘開始して、ヤツを引きつける。カバ太郎はその後飛び出してジョセフィンの護衛をしてくれ。そしていざとなったらジョセフィンを背負って逃げるんだ。いいか」
『わ、わかりました』
「ワン!」
「じゃあ行くぞ」
俺の肩にジョセフィンが乗った。俺は左腕でカバ太郎を抱える。そして走る。途中で2人にウインドドライブを掛ける。
よし、ここからは真面目にやるぞ。
間もなく池の手前に到着。カバ太郎を開放する。
森から出る。まだ人間達はわちゃわちゃしてる。よし、突っ込むぞ。
俺は飛び出し池沿いに走る。
俺に気づいたデイジーが青ざめた顔をして叫ぶ。
「もう荷物なんぞ置いて逃げえ。あたしらにかなう相手やあらへん。あれバケモンやぞ」
バケモンじゃねえよ。魔王だ。
「影縫い、影縫い、影縫い」
人狼以外の人間3人の頭上に黒い槍が現れた。
「刺され!」
黒い槍は男2人の影に突き刺さる。デイジーは見事に横に跳んで逃げやがった。すげえ反射神経と判断力だな。
「ジョセフィン、降りろ」
『畏まった!』
「ジョセフィン?なんでこんなところに?」
人狼の金髪グラマーが叫ぶが、俺は構ってられない。
「カバ太郎、来い」
「ワンワンワンワン!」
よし、ここまで予定通りにきている。後はデイジーを引きつけるぞ。
「ストーンバレット、ストーンバレット、ストーンバレット、ストーンバレット」
ボーリング玉程の石の塊が現れ、次々とデイジーに襲いかかる。
「な、なんやこれ。魔法か?ほんまに魔法なんか?こんな凄いストーンバレットがしかも連発なんて反則やっ」
とか言いつつきちんと全部避けやがるじゃねえか。もしかしてバカにしてんじゃねえだろな。
まあ、こいつなら高速で飛ぶストーンバレットもかわすかもしれんと思っていた。とにかく素早さの数値が高いからな。
だからまだ無詠唱とファイヤーボールを使わない。ここぞという時にいきなりぶちかまして、一気にとどめをさしてやるからな。
なあデイジー、お前はどうせ生き返るんだろう。
鑑定でバレてんだよ。
だからさあ、ここは俺に殺されてくれよ。
ペナルティーを発生させてくれよ。
俺には色々やる事があるんだよ。
だから早目にな、死んでくれ。
「ちっ、あかん」
デイジーが森の中に逃げ込んだ。俺はそれを追う。デイジーはさすがに早いが、木々の間の走るルートを見極めながらだ。俺はデイジーの選んだコースを走る分、余裕がある。
さて何か企んでるのか、それとも何も企んでないのか。そろそろ何か仕掛けてやろうか。
「ええい、チクショー」
デイジーが叫び足を止めた。そしてこちらを向いて身構える。
「ちょ、ちょっと待ってや、あんさん」
俺も足を止め、そして警戒する。
「さすがにあんさんから逃げ切る自信がないわ。腹決めた。もう逃げへん。そやからちょっとあたしと話をせんか?損はさせへんから、な?」
なに?