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ゴブリン編4

モン吉達の先にはゴブリンが立っている。


小学生の高学年くらいの小柄な体格のくせに、しわくちゃの老人みたいな顔。怒り狂った表情で歯ぎしりをしている。


右手には赤黒く光る杖。左手には赤黒く光る盾。それらが動くと、今あった場所に黒い残像が少しの間残る。闇のマジックアイテムだ。


うーん、禍々しさがエグいんだけど、ミノタウロスの時に比べて小さいからプレッシャーが少ないっていうか。なんかこっちを警戒してるくさいし。


ほんとに強いんか、こいつ。


鑑定の出番だ。


ゴブリン LV 16/45

名前 ドゥーガルド

HP 89/89

MP 47/47(32+15)

攻撃力 38

防御力 64(54+10)

素早さ 128

魔法力 58(48+10)

抵抗力 57

装備

狂気の杖

狂気の盾

スキル

「MP自動回復(小)」「MP使用量緩和(小)」「土属性魔法LV2」「女好き」


魔法使いタイプだったか。


っっっっていうかスキルに女好きとかあるってばよ!スキルでまさかの女好きだとっ!すげえ!土属性魔法LV2とか狂気の杖とかの肝心なトコよりも女好きスキルが気になって仕方が無いぞ。


クソッ、鑑定するか俺っ?でも絶対後悔するだろ。目に見えてるよ。わかってる。でも我慢できないんだっ。女好きに鑑定だ!さあいってまえー。


『女好き:女と見ると口説かずにいられない』


クッソくだらねえよ。どうしようもねえよ。こんなクソスキルにわざわざ鑑定を使っちまったよ。でも後悔はなんでかない。スッキリー。


よーし、テンションアゲアゲで続けていくぞ。


『狂気の杖:所有者をバーサーク状態にする。所有者が死ぬか武器が破壊されるまでバーサーク状態から開放されない。この杖で殴ると相手のMPを吸収する』


『狂気の盾:所有者をバーサーク状態にする。所有者が死ぬか武器が破壊されるまでバーサーク状態から開放されない。所有者に魔法攻撃完全吸収によるHP回復能力を付与する』


『土属性魔法LV2:ストーンバレットとストーンランスを使用可能。威力は術者の能力に拠る』


女好きスキルなんかいらないからこいつは配下にする気がナッシングなんだよな。だけど、土属性魔法LV2がちょっち羨ましい。


俺はへたり込むベルセフォネと自分自身にウィンドドライブを掛ける。そして、牛タンの横まで一足で跳ぶ。


「なっ?」


モン吉が驚くが、相手にしてられない。


『カバ太朗、大丈夫か?』


『うん、だいじょうぶー』


『よし、ウルフガングを後ろに放り投げるから、こいつに付いておいてやってくれ』


『うん、分かったー。気をつけてねー』


『おう』


俺は犬、牛、猿にウィンドドライブをかける。そして、巨人化スキルを発動する。


筋肉が盛り上がって、体がタテにもヨコにも少し大きくなる。

これを使うと、素早さが二割減して、攻撃力と防御力が二割増する。


本家のウルフガングは半減と二倍だったもんな。俺のは劣化版だがウルフガングに比べて極端過ぎず、逆になかなか使えるスキルだと思う。


使用制限がないし、あとMP消費が1秒で2だけ減るのも、威力に比べて燃費がいい気がする。


ウルフガングをつかんで、後ろに放り投げる。


「おおお」


「ワン!」


おっ、ゴロゴロ転がったのが刺激になったのかウルフガングが自分で起き上がったぞ。


よし、カバ太朗と一緒にそこにいとけ。


俺は巨人化を解除する。


「なんだ、お前は。今のは何だ?」


「おい、モン吉」


「モン……はあっ?今なんつった?モンキチって俺の事か」


「ウキャウキャ言うな。それよりこいつはあの杖と盾のせいで狂ってる。あれは闇のマジックアイテムだ」


「へ、へえ。高く売れそうじゃないか」


「アホ。触ったら呪われかねないぞ」


「触らなかったらいいんだろ」


「何言ってんだ?」


「紐でくくって運べばいい」


うーん、確かにそのとおりかも知れん。


こいつの金への執着は大したもんだ。俺はそこまで考えんかったからな。関心した。


でも、どうせこいつを退治したら、あの時みたいに魔法陣が出てきて、骨の手が回収するんだろうな。


俺は言う。


「あいつは俺がやる。お前はお姉ちゃんを守れ」


「ふん、マジックアイテムは俺の物だからな」


「分かったから、早くしろ」


「絶対だぞ」


モン吉が退いた。


このゴブリン、結構早いんだよな。ウインドドライブで素早さを底上げしたモン吉なら素早さで勝てるんだけど、魔法を織り交ぜてこられたら負けるかもだろ。ならひとりの方がやりやすい。


さあて、どう料理してやるかな。


目の前が俺ひとりになって余裕が出たのか、ゴブリンがやっと攻撃を仕掛けてきた。


「フゴフゴフゴッ!」


ゴブリンの前に拳程の石が現れた。それが俺に向かって飛んでくる。後ろにはベルセフォネがいる角度だ。こいつ、やる事がいちいちいやらしいぞ。


「ストーンバレット」


俺の前にボーリング玉位の石塊が現れ飛ぶ。それがゴブリンのストーンバレットを吹き飛ばす。そのままゴブリンに向かって飛ぶ。


「フゴッ?」


ゴブリンに当たる寸前、石塊は霧散して、霧はゴブリンの体の中に消えた。狂気の盾の魔法攻撃完全吸収だろう。


「フゴフゴッ!」


俺との格の違いに驚いたのか、背中を見せてゴブリンが逃げる。逃がすか。


「まちやがれっ」


「フガッ!」


追いかけようと俺が跳ねようとした途端、ゴブリンが振り返る。そして、その頭の上に突如現れたこいつの身長程もある石の槍。ストーンランスか。


こ、こいつ。小細工しやがった。


石の槍が俺に向かって放たれる。しかも、後ろにはやっぱりベルセフォネの角度だ。ストーンバレットじゃ押し負ける。これはどうにもならんぞ。やるじゃねえかゴブリン。


くそ、どうする俺?ベルセフォネの幸運スキルにかけるか?猿に任せるか?いや、それは自分にできる限りの事をしてからだろ。


「硬化!」


スライムの王子ジョセフィンのレアスキルだ。


『硬化(使用制限あり):最大5秒間自分の体の一部または全体を鋼鉄の硬さに硬化させる。24時間に1回のみの使用制限を受ける』


こいつは燃費が悪い。1秒でMPが20も消費する。


石の槍がぶち当たった俺は金属音を鳴らし後ろに吹き飛ぶ。石の槍が霧散する。


「フゴッ!」


ゴブリンの喜ぶ声が聞こえる。ふん、効いてねえよ。


俺が吹き飛んだ先にはベルセフォネだ。ヤバイ。このままの硬さでぶつかったら怪我どころじゃないだろ。とりあえず硬化を解くぞ。


「姉ちゃん、危ない!」


ベルセフォネの前に立ち、俺を見据えて剣を構えるモンタギュー。


……はあっ?


おいおいおいおい!

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