ミノタウロス編3
重いっ。重いぞっ。
哺乳類と爬虫類だぞ。アホかお前はっ。国際結婚とかとレベルが違うだろがっ。
「子供、たくさん、作る」
なにいい笑顔してんだアホっ。いい加減にせいっ!無理に決まってんだろが!
龍人業界は性教育きちんとしてんのかっ。教育委員会に訴えるぞっ。モンスターペアレントになるぞっ。
「家族、ずっと、いなかった。寂しかった。だから、作る」
な、なんでそんな事、言うかなぁ。夜眠れなくなっちまうだろが。ああもうっ、堪忍してっ。
でも乗りかかった船だ。付き合ってやるよ。ええい。さあガンガン来なさいっ。来ないのかっ。なら俺のターンだ。
「なあロック。子供ってどうやってできるか知ってるか?」
「卵?」
そうか。龍人は卵なのか。へえー。
いやいやその前の話からスタートなんだ。男と女がだな、ほれ、あれだよ。参ったな、なんで素人童貞の俺がこんな事説明すんだよ。なんか遠い目をしちまうよ。
「いいか、オシベとメシベが……」
あれ、なんだろう。向こうでやたらとデカイのが歩いてるな。
牛だ。人間だ。いやミノタウロスだ!
「ワンワンワンワン!」
「ロック!ミノタウロスだ。見ろ!すげえすげえ。超デケエ」
返事がない。どうしたロック。おい。
なんだこいつ、固まってんのか。ポカンと口開けて、アホみたいだな。
まあ、分かるわ。俺もミノタウロスを甘く見てました。まさかここまでとは思わなかった。
身長3メートルはあるな。でか過ぎだろ。龍人が小さく見える。
で、腰に布だけ巻いてる半裸状態なんだけど、その筋肉がエグイ。全身ゴリマッチョのムキムキで血管浮き上がりまくってる。ボディービルダーも真っつぁおだぜ。
で、手にはバカデカイ戦斧。なんか赤黒く光ってるよ。動かすと、今あった場所に黒い残像が少しの間残る。こりゃただの斧じゃなさそうだな。
そして頭は牛、天を付く巨大な二本の角。
眼を血走らせて、凄い形相で「ふんっ!ふんっ!」て鼻を鳴らしてる。「まあまあちょっと落ち着いて、はい深呼吸」とかでなだめられるレベルじゃないぞ。
「皆、避難しろ」
向こうでフェルディナンドと他の龍人達が叫んでいる。
コボルト達は家に籠って隠れていたのが、外に出て逃げ出し始めた。
「……ふんっ!……ふんっ!……ふんっ!」
ミノタウロスが斧を素振りを始めた。なんだあれ?精神状態がおかしいのか。
「ロック、フェルディナンドの手伝いをしなくていいのか?」
ロックはやっぱり駄目だ。固まったままだ。このヘタレ。
なら、これでどうだ。
ミノタウロスの素振りに合わせてだな、
「マネージャー明日はついにっ。高校最後の剣道大会だねっ。じつは試合の後にさっ。君に伝えたいことがあるんだっ」
ミノタウロスの動きに合わせてアテレコしてみたぞ。剣道部主将の青春だ。マネージャーに、ついに秘めた想いを伝えるんだ。
どうだロック、緊張がほぐれたか?
無理か、反応がない。それどころかブルブル震えてやがる。はあ、やっぱりヘタレだ。
フェルディナンドがこっちに来た。
「旅の者よ、お前も逃げろ。全員の避難が終わり次第、あのミノタウロスを我々でやる」
そして、震えるロックを見て言う。
「旅の者よ、ロックも連れて逃げてくれないか」
俺は答えない。代わりにカバ太郎に念話で語りかける。
『カバ太郎は、あの牛が怖いか?』
『うんー?おにいちゃんがいるから、だいじょうぶー』
『よし、なら頼みがある』
『なにー?』
『あの牛と戦ってくるから、ここでロックに寄り添っておいてやってくれ。ひとりじゃ不安だろう』
『うん。いいよー』
『やばくなったら、すぐこっちに来て、お前達を回収して逃げるからな』
『まってるねー』
よし、やるか。
「フェルディナンド、助力する」
「なに?共に戦うというのか」
胡散臭そうに俺を見てるな。まあいいさ。
「ファイヤーボール!」
俺が言うと、火の玉が飛び、そして天をつく火柱が上がった。
「おおっ。魔法使いなのか。しかも、これ程の使い手とは……」
魔法なしでも、実はお前達より強いぜ。
「おおおおおお」
火柱が気に食わなかったのか、ミノタウロスが叫び、こちらに向けて駆け出した。
どう見ても脳みそまで筋肉の馬鹿だ。どうせプロテインの事しか頭にねえんだろ。
ソッコーでストーンバレットぶつけまくってこてんぱんにやっつけてやる。そんで、配下にしてやるからな。
俺はミノタウロスを鑑定する。
ミノタウロス LV 18/75
名前 ウルフガング
HP 281/281
MP 0/0
攻撃力 232(116+116)
防御力 208(104+104)
素早さ 51(101▲50)
魔法力 0
抵抗力 71
装備
狂戦士の大斧
ミノタウロスの腰布
スキル
「チャージ」「巨人化」「痛覚耐性(中)」
ステータスが倍加したり、半減したりしてる。巨人化の影響か?
予想通り、真正面からの肉弾戦じゃ勝てないな。でもスピードで逃げ回って魔法で削りまくれば楽勝だろ。HP回復とかもってないし。
手持ちのスキルは、全部使えそうな内容だ。痛覚耐性、いいな。痛さが我慢できるようになるんだろ。俺は痛いの苦手だからな。
でも、親父が腰をいわした時、忙しい時期だったから薬でごまかして働いて、結果悪化させてしまった。痛いってのは体からのサインだから、おろそかにして無理したら余計イカンのだそうだ。
ところで、装備の狂戦士の斧って何じゃそれ。名前からして、うーん、たちの悪いものくさい。
もったいないとか言ってられなさそうだか。鑑定するぞ。
『狂戦士の大斧:所有者をバーサーク状態にする。所有者が変わるか死ぬか武器が破壊されるまでバーサーク状態から開放されない。魔法攻撃完全吸収によるHP回復性能と、血液吸収によるHPドレイン性能を持つ』
あかんっ。天敵じゃないですか。魔法攻撃完全吸収ってやめてくれよ。俺のいいところが意味なしじゃないですか。
「フェルディナンド、やばい」
「どうしたっ」
「あいつには、魔法がきかんみたいだ」
「どういう事だ」
「あの斧、所有者を狂わせる斧だ。んで、魔法を吸収する。それに、血を吸って体力まで回復する」
「闇のマジックアイテムか。なんと、禍々しい」
「俺があいつを引き付ける。お前達龍人は、ロックとカバ太郎を連れて逃げてくれ」
「誇り高い龍人が、敵に背を向けて逃げられるかっ」
「アホっ。お前達じゃ手も足も出ない相手だ。はやく逃げろ」
「貴様。弱い人間の分際で、私を愚弄するかっ」
くそっ、ミノタウロスが迫ってきた。動きはとろいが、凄いプレッシャーだ。俺は無詠唱でウイングドライブを連発する。全員の素早さが底上げされた。
「仕方ねえ、やるぞ」
龍人達と共闘だ。




