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ミノタウロス編2

絶対に作為的だよな。作為オーラをビシビシ感じるぞ。


デイジーの時といいこのロックといい、連発で勇者のお仲間と出会うなんて、できすぎだろ。偶然で済まされたら俺は怒るぞ。困りますよお客さーん。


魔神の仕業なんか?女神の仕業なんか?どっちかね。


まだまだ俺の方が強いから、この時点で勇者の仲間と会うとして、戦って勝つのは俺なんだよな。


勇者や勇者の仲間が死んでペナルティーが発生するとしたらさ、得するのは俺だよな。てことは、魔神の仕業か?俺はいただきまーすを魔神から推奨されてんのか?


考えてわかるもんでもないな。


俺としては、デイジーの時で学んだように、ペナルティー目当てで勇者の仲間をほいほい殺すような真似はしたくない。


しかし相手が悪人なら遠慮なく殺るぞ……いや、なんか違うな。

なんかこの世界に来て世界を救うとかの大義銘文やら、自分の強さやらに酔ってしまっている気がするな。


殺すも殺さないも俺が決めるって状態になってないか。殺しちゃいかんだろ。普通は。


食べる為にうさぎを殺す。殺されそうになり、過剰防衛にならないよう行動して仕方なく殺してしまった、とかならいいはずだ。はずだよな?これって倫理学の話になんのかな。


関係ないけど、倫理学の、解決できない永遠のテーマってやつを友人から聞いた事がある。それは、人はなぜ倫理的でならなければいけないのか、らしい。


おいおい倫理学さんよ、自分の根本的な部分でブレブレじゃねえですかって思ったけど、よく考えたらそれが誠実な考え方なんだろうな。


ゴキブリ理論てのもそいつから聞いた。


ゴキブリは害虫である。害虫は殺すべきである。故にゴキブリは殺すべきである。これは論理的に正しい。


次はこうだ。ゴキブリは生き物である。生き物はムヤミに殺してはいけません。故にゴキブリはムヤミに殺してはいけません。結論は逆になったけど、これも論理的に正しい。


結局のところ論理的に正しいってのは話の順番が正しいというだけの事なんだよな。話の中身なんて関係ないんだ。


結局、その人にとって何が正しいかは、その時代、その場所に依るんだろう。


そして俺は現代の日本人だ。現代日本の倫理に従うべきなんだろう。それがこの世界で正しいのか正しくないのかは分からんが、少なくとも後悔だけはしない気がする。


話がだいぶずれちまったな。


カバ太郎が来てから、俺はひとつの家の前に案内された。木造の洋風家屋だ。やたら小さい。


ロックがドアをノックして出てきたのは、コボルトってやつだ。つまり二足歩行の犬だ。犬なんでよく分からんが、毛並みがくたびれていて、じいさん犬ぽいな。


身長は小学生くらいか。可愛いな。大人でもこんなサイズだから家も小さくて住むだろうな。


ロックが言う。


「村長、旅人だ。食糧欲しい、言ってる」


コボルトが俺の顔をじっと見て言う。


「金はあるかね」


「ああ」


俺は革袋の中の金を見せる。銅貨や銀貨が30枚ほど入っている。


「足りるか?」


「十分足りる」


「よし、保存が効く食糧があれば助かるよ。あと、すぐに食べられる物を貰えないかな。森で迷い食糧が無くなり、腹が減ってるんだ」


「それは大変だったな。よし、そう言う事ならすぐに女どもに料理を作らせよう。金は食べ物と交換で貰う。ほら、パンを渡すからこれでもかじって待っておくといい」


俺はパンを受け取る。我慢できず早速いただく。はしたないけど許して、腹ペコなんだ。


うーん、しみるわぁ。空腹は最高の調味料だな。


「よほど腹が減っていたのだな。うまそうに食う。もうひとつやろう」


「アザーッス」


「あと、売りたい物はないか」


「もぐもぐ。うーん、ないかな」


「そうか。売りたい物が思いついたらいつでも言え。高く見積もってやる。さあ、広場で待っていろ。料理を急がせるからな」


そして俺はロックとカバ太郎と広場に行った。狭い草場に丸太が転がっている。


ううむ。会ってまだ間もないけど、正直このロックは苦手だ。とにかく無口なんだよな。あまりしゃべらないし、しゃべっても最低限の内容しかしゃべらないときたもんだ。


コミュニケーション能力はサラリーマンにとってかなり大切とされる能力だぞって言ってやりたい気にやるが、ロックはサラリーマンじゃないからな。言わない。


で、ロックさんが先程からじっと俺の顔を見てらっしゃる。


擬音で表現するなら、じーーーーーーーーーーってところだ。

つ、つらい。そないに見つめんといて。顔に穴が開いてしまいますわ。ぽっ。


「あのう、僕の顔に何か付いてますかね」


「付いてない」


「そうですか。はい」


俺こいつに勝てる気がせんわ。勇者よりも手強い気がする。


沈黙がつらい。なあ、なんかしゃべってくれよー。百円やるからさー。


「お前、強いのか?」


うおっ。ほんとにしゃべった。びっくりしたー。


「俺ッスか?ええと、自分では結構強いかな、とか思ったりしてますけどね。えへへ」


「そうか」


またしばし沈黙。俺は待つぞ。口を開くのだロック。マイペースで構わんからな。俺は無理強いはせん。


「突然、強くなったのか?」


うーん、どうなんだろ。この世界に来ていきなり強くなったもんな。


「そッスねー、突然でしたねー」


「やっぱりか」


しばらく沈黙。俺は待つよ。大丈夫だよ。


「……俺、弱かった」


「え。そうは見えないッスけどね」


「大人の龍人の中で、一番弱かった。体も、心も」


ええと、どういう事ですかな。比較対象が大人の龍人なんですか?人間じゃなくて?


「秘密に、するか」


「え?はい」


なんかな。秘密のお話スタートか。


「この前、体、突然強くなった。これ、皆に、言ってない」


勇者の転生の影響だろうな。デイジーも似たようなことを言っていた。ロック、お前は勇者の聖騎士1/99になってるんだぞ。これからもっと強くなるんだぞ。


「強くなったんスか。良かったッスね」


「良くない」


「どういう事ッスか?」


「強くなったら、旅出ろ、言われてる」


「旅?」


「そう。人間になる旅」


うん、なんとなく分かってきた気がする。そういうことなのね。


「ロックさんは、どうして龍人の一族になったスか?」


「捨てられて、いた」


で、龍人に拾われて、龍人として育ったんだろうな。


「俺、形は人間。でも、龍人の、つもり」


ふむふむ。それで?


「でも、皆、俺馬鹿にする。弱いって。でも、フェルディナンドだけ違う。フェルディナンドだけ、優しい」


なるほどね。友人に恵まれて良かったよ。さあ続けて続けて。ゆっくりで良いからな。


「フェルディナンドが、いずれ人間に戻れ、言う。生きていく為の強さ、身に付けろ、言う」


うん。いい男だな、フェルディナンド。相手を思いやってこそ、そう言ってるんだろな。本当に優しい人間てのは、相手の為なら、あえて厳しい事も言ってくれるもんだ。


「俺、人間に捨てられた。人間、信じるの、怖い。人間、戻りたくない。体、強くなった。でも、心、弱いまま。だから旅、出ない。ずっと龍人のまま。それで、良い」


なんか可哀相だな。


そりゃそうだよな。


捨てられるってさ、親に否定されるってさ、それ程つらいことはないだろう。


傷つくのが当たり前だ。


よし決めた!俺でよければ力になるぞ。


さあ、話を続けて。


「そして、俺は、フェルディナンドと、結婚する」


ふーん、フェルディナンドはメスだったか。オスだと思ってたよ。


ってぬあああああああっ。


そう来たかっ。まさかそう来やがったかっ。このアホっ。


人間と爬虫類じゃねえかよっ。

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