前編
私は悪役令嬢。それを察したのは高さ七十センチメートルぐらいの高さの天蓋付きのベッドから転がり落ち、その走っている自転車ぐらいの勢いで壁に激突した時だ。
この世界が前世でプレイした乙女ゲームそのものなのだ。
私は悪役令嬢……このままいくと破滅……最悪は公開処刑だ。
考えたくもないが手と首を固定され切れ味鋭いギロチンの刃が……。
ああ、ゾッとする。私が震え上がったのは言うまでもない。
私はそれ以来、主人公の攻略対象キャラを忌避した。
皆、美形で見る人を魅了する容姿をしており出来ることならお近づきになりたい。
しかし、そうすることは悪夢の展開を予想させる。
しかし、大人達の都合により近づくしかない場合もある。
それが私、ソリアを公開処刑に導く攻略対象キャラの大貴族の長男カルストだ。
私の父親と大の仲よしのカルストの父親が勝手に許嫁等にするとは。
お茶会で会うとカルストは同性すら魅了するハンサムな笑顔で近づいてきて私に話しかける。
しかし、それは絞首台を一段登るようなものだ。私は冷や汗をだらだらかき死に物狂いで遁走する。
恥もなんとかも無視して全力疾走。そしてあろうことか庭の木とファーストキス。
私の初めてを返せ! いや初めてじゃないか……前世で……いや、だから初めてか。
まあ、どっちでもいいが私はなるべくカルスト等と会わないようにした。
そんな私をチキン令嬢や失笑令嬢などと揶揄するやからもいるらしいが、そんなこと知ったことか。
こっちは命がかかっとるんじゃー! チキンで何が悪い! 私は鶏肉が大好き! まあ、それもどうでも……だけど。