冬空 夏海
今話は1人目の主人公視点でのお話しです。
私は田舎が嫌いだ。したがって自分の故郷が嫌いだ。虫は多いし、コンビニは無いし、お隣さんが1キロ先っていうのはもうお隣とは言わんだろ!と思ってしまうから。だからとにかく都会に出て、この大っ嫌いなド田舎の故郷を1秒でも早く抜け出したいと思い、勉強を死ぬほどした。死んだまである(嘘)。で、その結果がめでたく東京の大学に進学という、私にとっては最高のものとなった。
東京での一人暮らしが始まったのが入学式の3日前。ついてすぐに大学へ行くための準備を終わらせて、都内にくりだした。実家で見慣れた気色の悪い虫はどこにもいないし、コンビニは故郷とは比べるまでもなく沢山ある。極めつけは借りているアパートでは、一つ壁を挟んだらすぐそこに人が住んでいる。そう、これこそが正しいお隣さんのあり方なのだ。そうして3日間私は東京を堪能した。
入学式の日、私は予定していた時間よりも早く自分の部屋を出た。私、待つの苦手なんで-wそれで、道行く人に片っ端から挨拶をして(誰も返してくれなかった)、スキップをしながら学校に向かっていた。
アパートを出て5分くらいしてだろうか。私は地面に開いている穴を見つけた。まだ時間もあったし、興味が湧いたので、少しだけ立ち止まってその穴を観察してみた。なぜ興味が湧いたのか私にもよくわからないけど、観察していて分かったことが2つあった。
1、その穴の上を通っても落ちることはない。
2、私以外の人はそこにあたかも穴がないかのように通り過ぎて行く。
このことから私は結論を出す。この穴はとても透明度の高いガラスが張られていて、その上街中にはこんなものは普通にあって、都会の人達は気にすることもないのだろうと。そして私は大変なことに気がついてしまった。もし私の考えが正しいなら、今のこの状況は田舎者丸出しじゃない!これは由々しき事態だ。都会に出てきたのだから、私が田舎者だとゆうことは極力伏せておかなければならない。そう考え私は、何事も無かったかのように取り繕い真っ直ぐ穴に向かって歩き出した。
そして落ちた…。え?何がどうなってるの??意味わかんないよ!あ、そうか。きっとあの穴は田舎者を識別するためのものなんだね。これはきっと都会に来ただけで、都会人になったと錯覚した私への罰なのね。そう、これは事件よ。その名も『田舎者冬空夏海の落下事件』ドヤ。はい、そこ!私のネーミングセンスの悪さに文句を言わない!結構気にしてるんだからね!…と、しょうもないことを落ちていく恐怖で意識が飛ぶまで考えていました。
☆
「大丈夫ですの!目をお覚ましくださいませ!」
随分と長い間眠っていた気がする。私はなんだか聞き覚えのある声で目を覚ました。
「よかった!目をお覚ましになって。」
あたりを見渡すと、そこは路地裏のようなところで目の前には豪華なドレスを身にまとった少女がいるだけだった。
「えっと、今何時ですか?」
ひとまず時間を尋ねる。下手したら大学に初日で遅刻になってしまう。
「今は大体お昼時ですわ。」
最悪だ。完全に遅刻じゃん。次は場所か?
「なら、ここはどこですか?」
そう聞くと、
「路地裏ですわ!」
と誇らしげな顔で言ってきた。見たらわかるよ…。具体的にどこの区か教えて欲しかったけどいいや。
「本当にびっくりしましたわ。マークから逃げてここに来たら突然穴が開いて、そこから貴女が出てきたのですから。」
私は穴から落ちて、穴から出てきたらしい。どういうことよ。
「それにしても貴女私と似通った顔をしていますわね。」
そう言われて初めて眼前の少女の顔をちゃんと見た。
「まるで鏡を見てるみたい。」
つい口からこんな言葉が出るほどに顔が似ていた。それを聞いて少し驚いた顔をした少女は、その後少し間を開けてから突然笑顔になりこう言った。
「そうだ、いいことを考えましたわ!」
と。なんだか嫌な予感がするのは私だけだろうか?
次話は2人目の主人公視点でのお話しです!