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FourFriend  作者: 冬鳥
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FourFriend 深海の果てには

二千万円。

僕はここにいる四人に出会うまで、友達と呼べる人は生まれてこのかた誰もいなかった。彼女と呼べる人だってナナコさんと知り合うまではずっといなかった。

安アパートでの一人暮らし。


給料のほとんどを貯金に回す生活の日々。


だけどいまの僕には友人がいる。

親友がいる。

ツレ、ダチ。

呼び名はなんでもいい。

僕の存在を認識してくれて、僕の話しに耳を傾けてくれる人がいるのだ。


それが嬉しくてたまらない。

ゾクゾクとするような喜びが満天の星空のように心の辺り一面で光り輝いている。


君達を想いたい。

そして願いたい。

フレンドとして出会ったこの縁を大切にしたいんだ。


友達は生きるすべての色を変えるものなんだ。

僕はいま”友”を知る。


竹田さん。あだ名はシンゲン。


シンゲンとの出会いは高速道路の脇にある停車場だった。激しく行き交う車を見ながら話してくれた。


「わしはトラックの運転手でな。飼ってる猫を世話することが日々の楽しみだ。ん?歴史か?歴史はわしの全てと言っていい。この軍配は命の次に大切なものになる。しかしなぁ竹田じゃなくて武田がよかったよ」

とにかく、武田がよかったが口癖のシンゲンちゃん。


シンゲンちゃんとの二度目の出会いは、朽ち果てた神社の鳥居の下だった。


「わしは10トントラックに乗っててな。キャビンから見下ろす世界はな、すべてが小さく見えるんじゃ。どんな高級車だって小さくて弱く見える。どんな背の高い男でも小人じゃ。わしだけ別世界にいた感じだ。向こう側が見える。トラックを操るときのなんだか自分までが強くなったような偽りさがわしは大好きでな。停車して排気ブレーキがプシューッて鳴ったときにいつもああトラック乗りでよかったなぁって思うんじゃ。結局は居眠り運転で終わっちまったのが悔しいけどな。あと言いそびれたがな、わしの前世は武田信玄なんじゃ。おいこら、笑うなよ?そこは笑っちゃだめ。本当なんじゃ。だからわしのことはシンゲンと呼んでくれ。あんたのことはなんて呼べばいい?。」


僕はシンゲンの優しさに尊敬をする。

その手にはいつも軍配が握られている。


高井さん。あだ名はタカ。

スーツが良く似合うタカ。仕事一筋に生きて、愛する奥さんがいて危ない刑事を心から愛するタカ。


「仕事をできなくなった男はサングラスが似合わなくなった危ない刑事のタカと同じです」


タカとは高層マンションの屋上で出会った。


「そこの青年。一つ質問をよろしいでですか?このサングラスをかける私はどうですか?似合うと思いますか?これはね私が大好きなドラマで使われていたのと同じサングラスでしてね。いやぁ、もしあなたが似合うと言えば正直僕はいまここで踊り狂うでしょうね」


二度目に会ったのは廃墟となったラブホテル敷地内だった。


「私はリストラに合いましてね。はい。そうです。最終的には飛び下りました。私は職を失ってから妻に会うことが出来なくなっちゃいましてね。愛する妻に無能だと思われるのが何よりも辛いことでした。わかりますか?」


僕はタカの風格に尊敬をする。。

その手にはいつもサングラス。


カオス。


天性のロックウルフ。

暴力も愛も平和も自殺も戦争も援助交際も太陽も月も雨もクリスマスも。すべてを優しく悲しく激しく慟哭のままに透き通る歌声で唄う。それは聞く人の心を震わせていく。ときに完全なる道しるべとなり、ときに燃えたぎる勇気となり、ときに心底なる慈愛となる。人の人生を変える歌。

僕は思う。必ず世界一のミュージシャンになれるカオス。


カオスとは、10年ほどまえに殺人事件が起きた公園の隅にある電話ボックスの前で出会った。


「なぁ、お前、俺の歌を聞いていかないか?ちょっとだけでも聞いていけ。だってよ、お前はいますげえ寂しい顔してるんだ。それじゃあいまここにあるすべてが台なしになっちまうだろ?わかるか?心も寂しさに彩られちまったらお前はお前でいられなくなるんだ。心で見る色までをも見失っちまうのはもったいないことなんだ。まあつべこべ言わずに聞いていけ。お前に希望を与えるから」


カオスはギターピックをキラリと光らせた。


カオスと二度目に会った第三埠頭ではいきなり僕を抱きしめた。



「強くなれ。わかったな?」


そう言って僕の頭を叩いた。僕はカオスの天性に尊敬をする。



チーコ。



専業主婦で5歳になる我が子を心から愛するチーコ。その手はいつも愛する子供の頬を温める。



「完璧なんてものはないのよ」


が口癖のチーコ。


チーコとは魔のカーブと呼ばれる場所で出会った。チーコはガードレールに腰掛けていた。


「ねえ君。そんな寂しい顔をして…かわいそうに。悔しいよね。悲しいよね。でも、無意味なことなんてないって…信じたいよね。私の隣りにおいでよ。君の頬はあまりに冷たいわ。私達がいまここで出会ったことすら無意味になる前に。さ、まずはここに座りなさい。話しをしましょ」


二度目に会ったのは住宅街のなかに埋もれるようにある小さな交差点だった。



チーコは一輪の黄色い花を手にしていた。



「あら。また会ったわね。ここでね、私の全てが消えたの。まだあの子はたったの五歳だった。そうね。私もすぐに後を追った」



でもね。


会えないの。


どれだけ探しても、いないのよ。


チーコはこちらに顔をむけて笑いながら涙を流した。


僕はチーコの慈愛に尊敬をする。



チーコがいつも手にするのは最愛の息子が五歳のときまで肌身離さず遊んだ赤いミニカー。



いつしか五人は集まり語り合うようになった。


場所は、廃墟のラブホテル、廃屋、墓場、魔の交差点、竹やぶ、防空豪跡地。合わせ鏡の10枚目。暴走族がたまるすぐ横。井戸。云云…云々…



最高の友人。

最高の親友。

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