総括
「あの子、虫がいいこと考え過ぎだよね。願わなくても全てが終われば皆生き返るなんてさー。あるわけないじゃんそんなの」
モニターに映るうつむきがちに歩く女性ーー大垣の姿をふかふかそうな椅子に座るマスターは腕を組み、嘲笑しながら見ていた。
「しかし、あなたはその事実を言いませんでしたよね、授与式の時に」
「そりゃそうさ。聞かれてないんだもの」
指摘に真顔で答えたマスターに渡し人は鼻で笑って応えた。
「悪い人ですね」
「言ってろ」
マスターはポケットの中から棒付きキャンディを取り出すと、包装紙を剥がして口の中に含んだ。
「全く、『自分の父親を殺した犯人を捕まえて欲しい』っていう願いはしっかり叶えたんだからあんな暗い表情しないでもらいたいよね。どんだけ欲しがりなんだよ、今の日本人はさぁ」
「それにしても、最後のあれはどうだったんでしょうかね」
「え? 道徳的には反感を買うかもね。でもあのやり方はなかなか評価が高いやつだよ。自分には叶えたい事柄が無く、最後に対峙する相手の願いを叶えてあげる……っていう演技をしていたから。それに相手が長らく一緒に行動していた人狼だからね、効果は抜群だった。僕は嫌いな手だけど」
「なるほど……」
渡し人が感心したように頷く。どうやら皆まで言わせずに、マスターは渡し人が気になっていたことを当ててみせたようだ。
「あの演技のおかげで人狼は『負けても大丈夫』っていう持ってはいけない余裕を持ってしまった。だから動きも何処と無くのろかったし、放電もエンドレスにしなかった。無命闇王の敗因になったのもあの放電だったからね」
「確かに。無命闇王はあれで自分の戦力を無駄に削られてしまいましたからね」
そう渡し人が言った瞬間、突然マスター達のいる部屋の扉が開かれる。
「ヘイ、ジャパニーズ!」
そう言いながら入ってきたのは、マスター達と同じような格好をした大柄な白人だった。マスターはその白人の姿を一目見るとすぐに立ち上がって抱きつきにかかった。
「おー、アメリカーン!」
アメリカンと呼ばれた白人は抱きついてきたマスターの腕をしっかり掴むとその場で何回か回転してみせた。
「ハハー、アイカワラズチサイネ! カワイヨ!」
「センキュー!」
マスターの体を地面に下ろすとアメリカンはカタコトの日本語で話しかけ、マスターはそれに笑顔で答えた。
「アメリカン、君は次回のラピッドファングの受け渡しで来たんよね?」
「イヤァ」
アメリカンが頷くと、マスターは少し悲しげな表情を浮かべながらポケットから金色の懐中時計を取り出し、手渡した。
「で、次回はどうするの? 選考の時には広すぎる国土が問題視されてたけど」
「オー、ヒトツノシュウニシボテヤルコトニシタヨ。ゲンジテンデハアラスカカナ?」
「うわっ、寒そうだ」
腕を組んで震える演技をしたマスターに、アメリカンは笑顔を見せた。
「デハ、イクネ? コンカイヨリモイイラピッドファングニシテミセルヨ!」
「おー、期待してるよー」
力強く宣言したアメリカンが部屋から出て行くとマスターはホッとしたようにため息をついた。
「これにて僕達のラピッドファング終了だ。渡し人役お疲れ様、スサノオ」
「いえ、こちらこそです。アマテラス」
スサノオと呼ばれた渡し人とアマテラスと呼ばれたマスターががっちりと握手を交わす。
「さーて、次はいつになるかな僕達の主催は」
「さぁ。今回は66回目で始めてでしたからまたしばらく観戦側に回るんじゃないですかね?」
「はー、マジかー。今度は妖怪軍団を主催国枠で少し多めに入れたいなー、とか思ってるんだけど」
「そうですね。今回は全世界から等しく集めましたからね、著名な魔物が多いヨーロッパだけでなく」
「うん。出場交渉が大変だったー。ま、その分見応えのあるカードが多くなった、ってことで僕は満足だよ」
腕を思いっきり伸ばしながら話すマスターの後ろで渡し人は優しげな笑みを見せた。
そしてそのまま部屋から2人が出ていった途端、モニターやテーブル、椅子にゴミ箱といった家具が煙のように消えた。
そしてそれを見届けるために残っていたかのごとく、大きな洋風の扉が最後に消え、先ほどまでマスター達がいた部屋はただの虚空の闇へと変わった。
「さぁ、次の王者……『クローズド・ラピッドファング』になるのはどこの誰かな?」
そんな暗闇の中を、期待するような笑い混じりのマスターの声が響いた。




