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祭りの後

 流し台に積み上げられたお皿の山と食べ残しが入ってないゴミ箱を見た私は思わず笑みを浮かべてしまった。

 もう半世紀前になるだろうか、夫が会社を同僚に譲って寮経営を始めよう、とした時ものすごく驚いてしまったことは今もはっきりと覚えている。

 元々子供好きなのは分かっていたが、まさかそんなことを言い出すとは私も予想してかった。彼曰く、私達の間に子供が出来ていてもいつかはやる気だったという。

 その情熱と勢いは私や会社の同僚の方々の静止を見事に振り切っていき、あれよあれよと進んでいった。

 しかしそれが実を結ぶことは無かった。

 もうすぐ改築が終わって、寮経営を始められるという頃、彼は飲酒運転の車にひかれて命を落とした。犯人はその場から逃走を図っていくつもの車に追突したあげく少し先の電柱にぶつかって止まり、逮捕された。

 突然愛する夫を失った私の前に現れたのは、借金完遂済み新築同然の寮とそれに入居を希望する学生達からの記入済み契約書の山だった。

 それから私はほとんど一人で法事と寮関連の仕事を必死に両立した。結果的に言えば、その慌ただしさが私を早く立ち直させる形になった。

 それから20年が経った今、私は彼がなんで寮を開こうとしていたのかが何となく分かってきた気がする。

 休日になれば、旧交を温めたり後輩の就職相談に乗ってあげたりで昔の寮生がたくさん来てくれる。

 こういう一回で終わらない人との繋がりを彼は欲していたのではないか、と。

 そんなことをボンヤリと考えていると玄関のチャイムが鳴った。

 宅急便かと思い、タオルで濡れた手を拭いながら出るとそこにはレディーススーツに身を包んだ女性が立っていた。訪問販売員だろうか?

 女性は私に気がつくと一礼し、思いつめた様子で話し始めた。

「突然お邪魔してすみません。ここにタカガキジュリさんか、タカナシシノさんという方はいらっしゃいますか?」

「えー、タカナシさんとはどういう風に書いてですか?」

「小鳥が遊ぶ、と書く方の小鳥遊です」

「……それなら違いますね。うちの親戚にジュリという名前の人はいませんし。タカナシさんも……一年前には高い梨の方の高梨さんならいたんですけど」

 そう言うと女性は目の色を変えて詰め寄って来た。

「そ、その高梨さんは男性でしたか⁉︎」

「い、いえ。かわいい女の子でしたけど」

 その剣幕に気圧されながら否定すると、女性は残念そうに肩を落とした。

「そ、そうですか……。すいません突然押しかけて変な質問してしまって……。では失礼します」

 そういうと女性は憔悴した様子で玄関から出ていってしまった。

 首を傾げながら台所に戻ろうとするが、その前にふと思い立って食堂の壁の中央に鎮座しているテレビをつけてみた。

 すると番組では今朝捕まった指名手配犯のニュースが速報として流されていた。

『今朝捕まりました近野 将門容疑者は、10年前、弁護士だった大垣 哲さんを刃物で刺し、殺した容疑で指名手配されており、今日の午前7時頃、大田区のアパートに潜伏していた所を逮捕されました……』

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