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ゲーム・スタート

「あ……ああ……」

 喘ぎながら20代と見られる女性がその場にへたりこんだ。そうしてもらう方がこちらにとっては都合が良い。無駄に労力を使わなくても済むからだ。

「君はとても運がいい。なぜなら最後の……108人目のプレイヤーだからね。だから特別にちょっと豪華な物をあげよう。迷宮内牛(ミノタウロス)の力だ」

 そして彼女の腕を掴む。

「あ……うぅぅ!?」

 その瞬間、彼女は苦しそうにうずくまった。「力」を与えた時、大抵の人間がこうなる。その様子に満足しながら私はもう言い飽きはじめた説明をする。正直面倒くさいのだが、職務なので仕方が無い。

「元の身体に戻りたければ、同じ境遇の物を107人殺し、その身を我が物にせよ」

 彼女にちゃんとルールが伝わったかどうかはわからない。意識を失っていて聞いてなくてもおそらく、他のプレイヤーが教えてくれるだろう。「ぶっつけ本番」という形で。

「これで準備は整った。さぁ、ゲームを始めよう」


ーーー


「うーん……見つからねぇなぁ……」

 岩壁をぺちぺち叩きながら俺は夜の浜辺を歩いていた。理由はもちろん、あの男を探すためだ。あの男の正体とか、肩に出来た痣とか、触ってきた時に感じたあの激痛とか、あの本に出てきた「Rabidfang」とか色々聞きたいことは山ほどあるからな。

「とはいえ、本当に何もないな……」

 わかってはいたが、見渡す限り岩・岩・岩なこの浜辺には目印になるようなものが一切無い。だから正直今探してる所も当てずっぽうに近い。

「下手な鉄砲も当たるかな、って思ったけど……さすがに無理だったよな」

 よくよく冷静に考えたらこんな広いところでヒントも無しに探すのは無謀だった。みんなが寝た頃を見計らって部屋から抜け出してきたので、長い間探すこともできないし。

 しょうがない、諦めて帰るか。そう結論づけて俺は岩場を離れた。


 かすかな月の光で足元を確認しながら来た道を戻っていくと向こうから太った男が歩いて来た。残念ながら昼の男では無い。ゲーム風に言うなら、地元住民Aといったところだろう。

 当然、声もかけず横を通り過ぎる。しかしすれちがった瞬間、なんとも言えない妙な感覚を感じた。すると男が声をかけてきた。

「ん? お前『ラビッドファング』の参加者だな?」

「は?」

 今何て言ったこいつ?

「ははは、運が良いぜ。まさか適当に歩いていたらあっさり見つけるなんてさぁ!!」

 なんか急に笑い出した……。なんだこのデブ……。意味わからん。

「あの、何言ってんですか?」

「へへへ……とぼけてたって無駄だ。俺の鼻がちゃんとお前が参加者だって、教えてくれてるからなぁ!」

 ……お前の鼻はドーベルマンか。やばい、変なのに捕まったかも。すると男はズボンから白い玉を取り出し、地面に叩きつけた。

「結界包囲!」

 叩きつけた玉が割れる。その瞬間、近くに見えていた波の動きが……止まった。え、まさか、時間停止!?

「へへへ、これでここにいるのは俺とお前だけだ」

 そう言うと男はシャツを脱ぎ捨て、ベルトを外しだした。

「な、何やってるんだ?」

 もしかして、あれか? 自分の裸見せて性欲を満たす変質者か? 呆然とその様子を見ていると、男は胸に拳をあて大声で叫んだ。

「デ・コード! 一眼巨人サイクロプス!」

 すると突然男の体が大きくなりはじめた。なんだ!? 今日はビックリ人間と出会いまくる日なのか!?

「うぐ……はぁぁああぁぁ!!!」

 男が苦しそうに叫ぶ。その間にも男の腕や足が太くなっていき、その太さに耐えきれなくなったズボンが破れはじめた。俺の主観だけど……最初の大きさと比べて3倍、いや5倍くらい大きくなってる!?

 そして次に男が顔を上げたとき、男の目は1つだけになっていた。

「さぁ、変体完了だ……。お前の肉、食わせてもらうぜ」


ーーー


 サイクロプス。RPGでお馴染みといっても過言ではないモンスターの1体であるが、その出自は古く、ギリシャ・ローマ神話の時点ですでに登場している。

 そこに出てくるサイクロプスは「棍棒を振り回す、力のやたら強い怪物」……ではなく、天空神と大地神の間に産まれたが、「目が1つしかない」という奇形児で、その異様さを嫌った父である天空神に地中にある牢獄に幽閉された、という悲しい運命をたどった精霊である。

 心優しかった彼はその後ゼウスらに助けられ、自身の鍛治の才能を生かし、恩返しとして雷の槍などを作ったとされている……


ーーー


「うぉぉりぃやぁ!」

 適当に振り切ったサイクロプスの男の腕が直撃し、俺は近くの岩に叩きつけられた。これでもう7度目だ。

「が……っ」

「おいおい、この程度か? せっかく手加減してやってんのに。海に落ちたらお前の肉食えなくなっちまうからなぁ」

 男が舌なめずりしながら言う。つまり、本気を出せば岩も砕けるくらいに俺を叩き飛ばせる、と言いたいのか。

「へへへ、それにしても強い、強いなぁこの力! これなら残りの106人も簡単に食えそうだぜ!」

 男は自分の馬鹿力に驚くと共に、歓喜していた。

「勝手……言いやがって……」

 全身が痛い。当然だ、さっきから岩壁に打ち付けられまくってるのだから。もしかしたら全身骨折してるかも。はっきり言ってこのまま意識を手放したら楽になれる、というのはわかってる。わかってるけど……そうしてはいけない気がする……。

「それにしても、お前変体しねぇんだな。拍子抜けだぜ」

 男が何か言っているが、もう聞こえなくなってきている。薄れる意識の中、俺は昼の男の言っていたことを思い出していた。

『ふむ……20代男性、中肉中背か。プレイヤーとしては妥当だな』

「さぁて、そろそろ遊びもおしまいだ」

『君は……そうだな、ヴェアヴォルフとか面白そうだな』

「もう岩に打ち付けられるのも嫌だろう? 楽にしてやんよ」

 男がウォーミングアップのつもりなのか腕をぶんぶん振り回す。俺は無意識のうちに呟いていた。


「……デ・コード、ヴェアヴォルフ」

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