くじ引き
「樹里さん……?」
茫然とする俺を尻目に樹里さんはパンッ、と見慣れない紅紫色の扇を開き、顔の近くで仰ぎ出した。
「ま、フィナーレには弱者は不要だからね。これだけしか残らなかった、ってのもある意味良い展開と言うべきかな。最後の最後でワンサイドゲーム見せられたんじゃ視聴者も納得しないだろうし」
「何ブツブツ言ってんだテメェはよ!」
暴壊悪蛇から大量の黒い炎の球が飛ぶ。しかし樹里さんはそれを宙返りしながら全てあっさりと避けてしまった。
そして着地すると同時に扇を閉め、クナイのように投じた。扇は勢い良く暴壊悪蛇の眉間に衝突した。
うめき声をあげながら暴壊悪蛇が悶え苦しむ。そんな蛇を一瞥してから樹里さんは軽く手を叩いた。
「さあ、対戦相手をさっさと決めようか。早く帰らないと母さんが心配しちゃうからね」
樹里さんが戸棚を開くと中には棒が十数本突っ込まれた白い箱があった。樹里さんはその棒をいっぺんに引き抜き、先についた飾りの形を見比べ始めた。
「……小鳥遊君、知り合いなの?」
大垣さんが心配そうな表情で声をかけて来た。
「うちの……俺がお世話になっている寮の娘さんです」
「……何ショック受けた顔をしてるの。最後まで勝ち残って全員生き返らせるんでしょ? そんな顔してたら勝ち運逃げちゃうよ」
大垣さんからの励ましを受けた俺は思いっきり自分の頬を叩いた。それを見た大垣さんは満足そうに笑顔を浮かべた。
「さぁ、さっさと引いちゃってよ。ダイヤとハートの2つだけだから」
そう言って3本の棒が刺さった箱を持つ樹里さんの手にはすでにダイヤの飾りがついていた。
大垣さんと顔を見合わせて頷く。そしてお互いに譲ることなく別々の棒を掴み引き抜いた。大垣さんの棒にはハートの飾り、俺の棒にはダイヤの飾りが。
「小鳥遊と私、それと迷宮内牛と……」
「おい、待ちやがれ!」
振り返ると暴壊悪蛇が眉間にシワを寄せ、口から炎をちらつかせながら近づいてくる。
「1人ずつ相手だと? そんなの納得出来るわけがあるか? 今から全員俺の炎で燃やし尽くしてやるよ……!」
そう言って暴壊悪蛇の口からとてつもない火柱が吹かれた。全員が反射的に避ける中、動くことが出来ない家財や残りの棒は燃え尽きてしまった。
「あらまー、そう簡単に納得はしてくれないか。……迷宮内牛?」
「何です?」
「あなた、強制的に一騎討ちに出来る能力を持っていたわよね。……後は頼むわ」
「へ?」
そう一方的に大垣さんに話しかけると樹里さんは女離れした怪力で俺の体を持ち上げ、脇に挟んだ。
「な、な!?」
「デ・コード、無命闇王」
その言葉と共に樹里さんのタンクトップが背中から破れ、下着が露わになる。しかしそんな物が気にならなくなるほどに、背中から生えた巨大な黒いコウモリの翼のインパクトはあった。
そしてそのまま暴壊悪蛇の炎によってあいた穴から飛び降りた。
その翼が風を捉え、落下する速度が下がる頃には穴がこの館とは別の色をした壁に塞がれた。
「……驚きましたよ」
「ん? 私がプレイヤーだったことに?」
「そうです」
「なんだ、色々ちらつかせていたんだけどなー」
樹里さんが残念そうに首を振ると、何の衝撃も無く地面に降り立った。
「さあ、第一試合を始めようか。安心なさい。あなたが変身するまで攻撃はしないから、戦隊物の怪人よろしくね」
そう言って笑みを浮かべた樹里さんの唇からは長く伸びた八重歯が姿を現していた。




