暴食悪蛇の先制
「……結局、残ったのは3名だけですか」
そう初老の執事がため息をついたのは俺が変身を解いて高級フレンチ顔負けのフルコースを味わい切り、食後の紅茶を飲んでいる頃だった。
「残っていないと何か問題があるんですか?」
「あ、いえ。主は何というか……闘うのが大好きなお方でして……」
なるほど、戦闘狂なんですね。
「この状況をどう説明したらよいか……」
そんなブルーな様子である初老の執事から少し離れた所で他の執事達が集まって色々と、自分が相対した相手の問題点について笑いながら話していた。
「いや、なかなかの強敵でしたよ。ただ行動があまりにもワンパターンすぎましてね」
「きっと一撃必殺のパワープレイで今まで生き残ってきたのでしょう。玄武の甲羅はかなりの硬さですからそう簡単に破られないでしょうし?」
「というか、破られていたらここにおりませんから」
「玄武」と呼ばれていた執事がそう言って笑った時、鐘の大きな音が鳴った。すると執事達の表情が一気に引き締まった。
そしてゆっくりと最後まで開いてなかった扉が動き出し、1人の人間が姿を見せた。
その瞬間その人影は炎に包まれていた。
「うがぁぁぁぁっ⁉」
「な……?」
俺達が絶句する中、炎の中で苦しむ人影に向かって嘲笑の声がかけられた。
「ははは、こんな所にまで呼び出して速攻やられるなんてざまぁねぇなあ!」
そう声をかけた、ガラの悪そうな見た目の男のズボンから巨大な黒い蛇の尾が飛び出した。いつの間にか変身を発動させていたらしい。
「き、キサマっ……!」
「さあさあ、反撃してこいよ主様よー。こんなにたくさんのプレイヤーを従わせているんだ、簡単に終わってくれるなよ?」
髪が全て抜け落ち、黒い鱗に完全に覆われた頭から赤い舌が漏れる。そして両肩が盛り上がっていくとシャツが急激な変化に耐えきれず破れ落ちた。
裸となったことで露わになった両肩にはそれぞれ別の蛇の頭が姿を現していた。
「ぐ、グレネード……」
「遅えよ」
主と見られる男が反撃しようと手に光る物を現そうとした瞬間に三頭の蛇男は自分の尻尾で吹き飛ばした。
主と見られる男が宙を回転しながら舞い、なす術もなく落ちる。その頃には鎮火していたが、あれだけ一方的にやられていて動ける訳がなかった。
「……えげつないね」
あまりにもむごいワンサイドゲームに大垣さんが口元に手をあてながらつぶやく。
そんな俺達を無視して、三頭の蛇男は体を揺らしながら主と見られる男に近づき三つの頭を全て使って男の体にかじりついた。
痛みの影響か、先ほどまでピクリとも動いてなかった男が覚醒し悲鳴を上げる。
しかし蛇男はわざとなのか、頭や首、心臓といった生死に関わる部位ではない所から食い始めていた。
「どうだ、攻撃することが出来なくなる恐怖は?」
唯一噛み付きから逃れられていた左足で蛇男の体を蹴るという、最後の抵抗をしている主と見られる男に向かって蛇男は勝ち誇ったように言った。そして今度こそ喉笛を噛み切り、男の命を絶った。
蛇男の両腕を埋没させながら肥大化する体を執事達は立ち尽くして見ていた。それはそうだろう、目の前で主が一瞬で殺されたのだから……と思っていると初老の執事がゆっくりと拍手を始めた。
それに合わせて他の執事達も拍手を始める。男の体を食い終わった蛇男が顔を上げ、怪訝な表情を浮かべると初老の執事は拍手を止め、優しそうな笑みを浮かべた。
「流石は第二位の量の因子を持っているお方ですね。惚れ惚れするような早業でした」
その褒め言葉に違和感を覚えたのか蛇男は軽く息を吐いた後、薄ら笑いを浮かべて問いかけた。
「あぁ? なんだい、今のやつは影武者かい?」
「いいえ、確かにあなたが今倒したのは我々の主であります。しかし、彼は主であって主ではありません」
そう、意味の分からないことを言うと初老の執事は右手を挙げた。
すると他の執事達の体が突然大量のコウモリへと変わり、初老の執事の体にまとわりついた。
黒い巨大な塊となった初老の執事から慌てて離れる。そんな中、蛇男は落ち着いた様子で唸った。
「なるほど……遅れているんじゃなくて最初からずっとそばで見ていたってわけか」
塊が小さくなり1人分の人間の大きさになる。黒色が抜け、人肌の色に戻っていく中俺は信じられない物を目にした。
「……な、なんであなたが出てくるんですか」
変化を終えた初老の執事だった者は、先ほどまでとは全然違う若々しい女性の声で言った。
「さぁ、本当のパーティを始めようか小鳥遊」
「樹里さん……⁉」




