ラウンジ
この部屋のあちこちには天井を支えるための物ではなく、単なるオブジェクトでしかないように見える柱がいくつもある。
それらは先ほどからの戦闘の流れ弾をくらってボロボロになり今にも崩れ落ちそうである。背中にある物も恐らく強い衝撃を与えたら確実にいくだろう。
「どこを見てるのかなぁ?」
「うおっ」
柱の方を見ているうちにいつの間にか額宝玉獣が懐に入って握り拳を作って体をひねっている。俺は咄嗟に【深夜強襲】を使って裏に回り、床を蹴って額宝玉獣の間合いから脱出した。
空振りに終わった拳を開いた額宝玉獣は困ったように笑った。
「威勢の良いこと言ってんのに何もしてこないから攻めちゃったじゃないかー。やる気がないなら大風呂敷なんて広げちゃだめだよ、言ったことはちゃんとやらないと失礼だよ?」
「……誰が何もしてこないだって? こっちはお前を誘い込んだんだよ」
訝しげに額宝玉獣の眉間にしわがよる。俺は黙って柱に向かって雷を落とした。すると柱の上と下両方ともが爆散し、宙に浮かんだ形となった中心部分がゆっくりと額宝玉獣の方へと倒れこんできた。
「こんな物で僕を潰そうってか? 舐められたもんだね」
そう言いながら駆け出す額宝玉獣。その体を囲むように俺は雷を落とした。
目の前に現れた高圧の電撃に気づき額宝玉獣の足が止まる。しかしそんな額宝玉獣に向かって石柱は落ちることをやめない。
「貴様ぁぁぁぁぁっ!」
前門の虎ならぬ絶えない雷、後門の龍ならぬ巨石。どちらも食らえば即死亡となる物に囲まれてしまった額宝玉獣はやけになったように叫びながら石に潰された。
雷が消えると石柱と赤い水溜まりの間に潰れた額宝玉獣の姿があった。
もしこの死に姿がフェイクだと近寄った瞬間に攻撃されてしまうので石柱ごと額宝玉獣の体を雷で撃ち抜いておく。
石柱が砕け散る中で額宝玉獣の体がビクンと跳ね上がる。しかし上にのっていた石柱が無くなっても流される雷が途切れても額宝玉獣には一切動く様子はなかった。
今度こそ額宝玉獣に近づき体を仰向けにさせる。額宝玉獣の目は完全に白目になっており、脈も止まっていた。流石にこれは演技ではないだろう。
よし……じゃあさっさと食べてこの部屋から出るか。
俺は自分の手に生えている鋭すぎる爪で額宝玉獣の体を食べやすいようにバラしにかかった。
ーーー
「……ごちそう様でした」
赤い水溜まりに向かって手を合わせる。そしてその足で入ってきた扉を開ける。
しかしそこは通路ではなかった。
視界に広がったのはホテルの一階にあるラウンジのような部屋だった。そこでは大垣さんともう1人ガラの悪そうな男が9人の執事風の服装をした男たちにもてなされていた。
「あ、小鳥遊くんも勝った」
どこから持ってこられたのか、チョコレートケーキを小さなフォークで食べていた大垣さんが俺に気づいて手を振ってきた。すると初老っぽい執事が真顔で大垣さんの耳元に顔を寄せた。
「申し訳ありません迷宮内牛様、ここではヴェアヴォルフ内での役名でお願い致します……」
耳元で小声で囁いたのが人狼の耳にしっかりと届いた。俺は大垣さんの隣に座り、笑顔で話しかけた。
「迷宮内牛さんも勝ったんですね」
「……そこは本名で呼んで怒られるところでしょう」
大垣さんが責めるような目でこちらを見てくるが俺はあちらの方向を見て大して上手くない口笛を吹いた。
「お疲れ様でした人狼様、こちらからお好きな物をお選びください」
そうして差し出されたメニューには明らかに全部高そうな料理や飲み物の名前が記載されていた。しかしどれにも値段はついていない。
「……あ、あの、これ値段とかは」
「いえ。皆様にとっては最期の晩餐になりますので、お代はいりませぬ」
……大した自信だこと。それほど無命闇王は強いってことなのだろうか。
「なぁ、執事さんよぉ。いつになったらこんな茶番は終わるんだ? 俺は暴れたくてウズウズしてんだが」
ガラの悪そうな男が苛立ったように人差し指に鍵穴を通してクルクル回し始めた。しかし初老の執事は顔色一つ変えることなく言った。
「残り3部屋の勝敗が決まりましたら主が挨拶に来られます。それまでもう少々お待ちください」
ガラの悪そうな男が舌打ちをする。そんな中また扉が開いた。
中から出てきたのは執事風の服装の男だった。その姿を見た、また別の男が残念そうに言う。
「人造人間ですか。全く、お客様が現時点で5人にまで減るとは予想しておりませんでしたよ」
「申し訳ない。私も簡単に勝てる訳がないと思っていたのだがな……あまりに弱すぎました」
人造人間は呆れたように首を振った。
「そうですか。なら仕方ありませんね。主は出来るだけ沢山の相手と一戦交えたいと思っていらっしゃったようですが……」
人造人間の説明を聞いた初老の執事は残念そうに言った後、落ち着いた面持ちで俺の方を向き直した。
「……では人狼様、そろそろご注文の方はお決まりになられましたか?」




