虚偽満足の爆弾
マンモン。
キリスト教の七つの大罪に数えられる「強欲」を司る悪魔。黒く染まった人間の肉体にカラスの頭を2つくっつけたような姿を持つ。召喚時に、呼び出した者の命と引き換えに大量の金銀を恵むが、時が経つとその金銀は灰に変わり、崩れ落ちるという。
ーーー
強欲罪魔が腕を振ると目の前に母さんが現れた。
「し、信乃!? どうしたのその姿は!」
母さんは目を見張りながらこちらに近づこうとしたが、首にいつの間にかつけられていた鎖によってそれは叶わなかった。
「あ、あれ、何よこの鎖」
「「うちの物ですよ」」
強欲罪魔が声をかけると振り向いた母さんが悲鳴をあげた。強欲罪魔はそんな様子を楽しんでいるのか、ニコニコしながら手に持った鎖を引いた。
「「あなたには人質になってもらわんとねぇ」」
「た、助けて、信乃っ!」
引きずられる母さんが俺に向かって助けを求める。俺はすぐに足元にあったコンクリートの破片を拾い上げると思いっきり投げつけた。
ーー母さんに向かって。
「え?」
茫然とした様子でこちらを見る母さんの顔に破片が直撃する。その瞬間、母さんの顔はぐしゃりとひしゃげて爆ぜた。
砕けた床や鎖が爆風に乗って宙を舞う。それを見た強欲罪魔は大声をあげて笑った。
「「ははは、実の母親に向かっち平気で物ば投げつけるなんて、にしゃ、相当な人でなしだな」」
「うるせぇ。偽者の母親に対して敬う気なんてさらさらねぇよ」
先ほどの田代がやられたくだりを見ていて、強欲罪魔の能力の予想がついていた。
強欲罪魔が使っている能力はおそらく「相手が最も大事に思っている物を見せる」能力。爆弾を何も無いところから製造する能力も持っているようだが、マンモンが爆発物をつくるなんて話は聞いたことが無いので、おそらく前者の方が固有能力だろう。
「「にしゃ、ひょっとして2度見ただけでうちの能力が分かったんか?」」
強欲罪魔は表情を崩さず、鎖をのんびりと手元に戻していた。俺は軽く脚を伸ばしながら答える。
「……多分な。あんたの能力は人に幻覚を見せる類いの能力だろ?」
「「正解や。うちの能力は『虚偽満足』。内容は……言わんでもよかやろ?」」
「……自分の能力をあっさり見破られてもそんなに困ってる訳ではなさそうだな」
「まぁな? うちにはまだまだ他の能力があるけん。1つ2つバレても痛くも痒くもなか」
「だよな……」
九州にいた別のプレイヤーを皆殺しにしたのだ、結合能力の1つや2つや余裕で持っているだろう。
「動く気がなかなら、うちからいかせてもらう」
強欲罪魔が鎖を振り回してこちらに投げてくる。俺はそれを避けて飛び上がると、半壊した小屋の上に乗った。強欲罪魔も鎖を放り出してこちらへと近づいてくる。どうやら爆弾を使うつもりはないようだ。
俺は再び飛び上がって横にある建物の屋上に移った。田代に流れ弾が当たってしまうのを避けるためだ。
まだ田代は目覚めていない。当然だ、大爆発を至近距離でくらったのだ。あれでむくっと平然と立ち上がったら本当の化物だ。
「「ころころと逃げて……そんなにあのおなごを巻き込みたくないんか?」」
強欲罪魔がニヤニヤと笑いながらこちらに飛び移ってくる。
「……気絶してるやつの横で戦うなんてできるわけないだろ」
「「ははは、かっこいいこと言うなぁ。でもにしゃよりもあっちの猫の方が強いだろ?」」
「そうだろうな。経験も因子も段違いだった。……でも俺には一つだけ突破口があるんだよ」
「「ほぉー。そんな弱そうな身なりでか。人は見た目で判断してはならんとはよく言ったもんだな」」
強欲罪魔は意外そうな顔を浮かべた。
「「なら見せてもらおうか、にしゃの突破口とやらを」」
「……受けてから後悔すんなよ」
明らかになめられてる。俺は息を吐いて気分を落ち着かせてから、地面に手をつけて叫んだ。
「沈獣共鳴!」
突破口、それは運良く手にした結合能力だ!




