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悲鳴と筒と地獄絵図

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 俺たちがもうすぐ屋上にたどり着こうとした時、扉の先からとてつもない大音量の悲鳴が轟いた。

「……今の聞いた?」

 田代が顔を引き締めながら振り返った。

「……長く一緒にいたわけじゃないから断言できませんけど、今の声は遠藤さんの物ではなかったと思います」

「……ようやくかたがついたか」

 そういう安堵ともとれる言葉とうらはらに、田代の顔は未だに強張ったままだった。


 ギィィッと錆び付いたような音をたてながら扉が開く。

「…………」

 俺は視界に飛び込んできた光景を見て絶句した。その光景はまさに異様としか言えない物だった。コンクリートが崩れ落ち中身が丸見えになった小屋、いまだに赤く発光しドロドロに溶けている床や鉄骨、変な感じに絶たれ火花を散らす電線、そしてその中心には群青色と血の赤で染まった物体を喰らう怪物がいた。

「「ん……?」」

 黒く染まった体に2つに分かれ、鳥のような形に変わった怪物は俺たちに気づいて振り向くと血で染まった2つのくちばしで喋り出した。

「「妖精猫か。やっと来よったか。ちょこっと遅かったな」」

「ちょこっと……ねぇ」

 田代は片目をつぶり、頭頂部に移った耳をいじりながら答えた。

「……あなたがなんでここにいるのかしら? 九州一のプレイヤーさん?」

「「ははは。あんだに知っちもらえとうなんて光栄たい」」

 怪物はおかしそうに笑い出した。俺はその様子を見て田代に声をかけた。

「……おい、九州一の、ってどういうことだよ」

「どうもこうもないわ。言った通りよ。名前までは分からないけど、黒い体に2つに分かれたカラスの頭。九州にいたプレイヤー全員を殲滅させたと言われているプレイヤーの特徴に合致してるわ」

「「全員は殲滅しとらんよ。何人かは別の所に拠点を移してたけんな」」

 つまり戦ったプレイヤーは全員ぶっ潰したということか。なんつう化け物だ。

「そんな強豪がこんな半端なグループを狙うわけがないと思ってたんだけど、迂闊だったわね」

「「狙う? いやいや、うちはここのグループに雇われてここに来とるんよ」」

「じゃああんたが今食べてるのは何よ。瘴気蛟なんじゃないの?」

「「そーばい? こいつは自分のグループを守るために私のチームのプレイヤーを好きに食べていい、と言ったんよ。自分の命を差し出すなんてリーダーの鏡よ」」

「…………」

 果たしてそれは本当だろうか。それならば人喰神熊や大章魚がやられそうになった時にこいつが飛んで来ているはずだ。ひょっとしたら瘴気蛟は「自分の身を守るために仲間を売ろうとした」のではないか。

「ま、そこらへんは興味無いわ」

 そう言って田代は刀を抜いて、その切っ先を怪物にむけた。

「いくら遠藤でもあんたクラスが相手じゃ簡単に負けたでしょう。弔い合戦といかせてもらうわ」

「「ああ、さっきのプレイヤー、遠藤といったんか。確かに美味しくいただいたわ」」

 怪物がニヤニヤと笑みを浮かべた。それを見た田代の顔は一気に強張る。

「「そんなに怖い顔せんでよかよ。可愛い顔が台無しやぞ?」」

「あんたに言われる筋合いなんてないわ」

「「そーか……そや。お近づきの印にこれをどうぞ。美味しいもんを持ってきてくれた礼や」」

 そう言って怪物が手をあげると空から巨大な筒が落ちて来た。

「……なんだ? あれ」

「え……?」

 俺が首をかしげながら言う横で、田代は呆気にとられた顔になった。そして握っていた手がほどけ刀が床に落ちた。

「……田代さん?」

 明らかに様子がおかしい田代に俺は声をかけたが返答は無かった。田代は虚ろになった目で筒にむかって歩き出した。

「お母さん……?」

 そうつぶやきながら田代は筒を抱きしめた。


 その瞬間、


 筒は大きな破裂音を残しながら爆発し、抱きついていた田代の体は高々と宙に舞っていた。

 絶句した俺が見ている中で田代は屋上に叩きつけられた。その様子を怪物はハッとしたように言った。

「「おっと、うちとしたことが自己紹介を忘れておったわ。うちの名前は強欲罪魔(マンモン)。以後お見知り置きを」」

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