襲撃予告と用心棒
「明日ヒマ?」
そう田代さんに問われたのは寮まであと10分弱で着く頃だった。
「瘴気蛟のグループに近々カチこもうと思ってたんだ。どうせだし食わせてやるよ」
「……はい?」
「鳥海さんは、仕事のスケジュールとか大丈夫?」
「あ、私はもう休業してるんで大丈夫です」
「そっか、なら話は早いな」
田代は俺抜きでどんどん話を進めると、満足そうに頷いた。
「よし! じゃあ明日の朝迎えにくるから。寝坊するんじゃないぞ?」
「小鳥遊、今の車は一体何?」
玄関に着くと仁王立ちしている樹里さんに出くわした。どうやら俺が車から出てきた様子を見ていたらしい。
「……ただの知り合いの車です」
俺は横を通ろうとしたが、すぐに襟を掴まれた。
「本当に?」
「本当ですよ。今日、友達と昼食食べに行くって話したじゃないですか」
「あー、そんな話してたね」
「で、食べ終わって帰ろうとしたら、車で来たから一緒に乗って行こうって話になったんですよ」
実はあれは暴力団の総長の娘の車で、ついさっきまでそのお父さんと話してたんですー、なんて言えるわけない。俺は咄嗟に思いついた嘘でその場を逃れようとした。
「ふーん……ずいぶんお嬢さんなお友達だね。ならいいけど」
そう言うと樹里さんはパッと手を離して奥へと引っ込んでいった。
「……面倒くさいことになったなー」
俺は部屋に戻ると真っ先にベッドに倒れこんだ。ただの昼食タイムのはずがバトル突入だったり、一方的リンチだったり、事務所強制連行だったり、回避不可スカウトだったり、と今日は厄日かというくらい色々面倒くさいことが起きた。しかも「遅れてる」というショックな一言付きだ。一応ファーストバトルをしたプレイヤーなのに。
「これが夢なら今すぐ覚めて欲しいな……」
しかしデバイスに登録された連絡先はいくら頬をつねっても消えなかった。どうやらこの悪夢はもうしばらく続きそうだ。
ーーー
「どうぞどうぞ、好きなだけ食べてください!」
その数日前の晩。細身で眼鏡をかけた男が、ガタイのいい大男を接待していた。大男は机の上に大量に積まれたジョッキとグラス、空の食器を見ると、申し訳なさそうにつぶやいた。
「ほんなごとよかと?」
「良いんですよ! これくらいお安い御用です!」
博多弁で喋る男に眼鏡の男はニコニコ笑顔で返した。
「で、今回ん仕事はなしてしゅ?」
「実は、近々私達のチームに妖精猫のチームが攻め込んでくるようで」
「あー、妖精猫なら聞いたこつはあっけん。刀使い……やったか」
「はい、接近戦で能力を使わずに戦えば確実に殺されてしまう、という評判を持つほどの強豪プレイヤーです。そんな化け物に私どものような弱いチームがかなうわけがないんですよ」
そう言って眼鏡の男はジョッキを飲み干した。
「そこで我々としては是非九州きっての実力者であるあなたを雇いたいわけですよ」
「なるほど……。しかしうちがそげな強かやつの相手になるか?」
「相性が良くないと思ってたら、わざわざ福岡までスカウトに来てませんよ」
すると愉快そうに大男が笑い出した。そして、真顔になると小声でこう話しかけた。
「……報酬は?」
「……うちの若い奴、自由に食べてください」
そう眼鏡の男が小声で返すと大男は今度、大声を出して笑い出した。
「にしゃ、ほんなに蛟か? うちには狐にしか見えんぞ?」
「そうですか?」
「そーばい」
「はい、ビールお待ちどうです!」
その時、元気のいい店員が先ほど注文されたジョッキに入ったビールをテーブルに並べた。
「では、運ばれて来たことですし勝ち戦を祈って乾杯しますか」
「また乾杯すると? 何度目か?」
そう言って眼鏡の男はジョッキを掴んだ。大男も呆れながらそれに従う。
「では、欲望の夜に「乾杯!」」




