では、ルール説明でもしましょうか?
信乃はデバイスをチラッと見て、困惑したように言った。
「『入れたい』と言われても……もう断れない状況になってると思うんだが……」
「そう? 気のせいじゃない?」
田代がキョトンとした顔でそういうと、信乃と鳥海はコソコソと口を手で隠しながら話し始めた。
「……気のせいじゃないですよね?」
「気のせいじゃないぞ、絶対」
「もう、連絡先特定されてる時点でそうですもんね……」
「ああ、断った瞬間にあの腰の刀でぶった斬られるのが目に見えてるし……」
「……で、返事は?」
田代が苛立ったように声をかける。信乃と鳥海は複雑な顔をしたまま、田代の要求をのむことにした。
「じゃあ、ルールの説明をしないとね?」
すると田代は車が環八を北上する中、突然そう言い始めた。
「え、田代さんのチームには掟みたいなのがあるんですか?」
「違うわよ。ラビッドファングのルールのことよ」
「はぁ? 今更説明されなくてもマスターから聞いてるし……」
「その割には周辺機器の名称とか使い方とかわかってないじゃない」
信乃と鳥海の胸に透明な何かがグサリと刺さった。
「で、でもさ……自分以外の107人倒せばそれでいいんだろ?」
「そんな簡単な話だったら説明しようとなんてしないわよ。マスターが言っていたのはあくまで基本のルール。それだけで済むほど、このゲームは甘くないわよ」
ーーー
突然だが、あなたは育成バトルゲームをやったことがあるだろうか。
最初はスライムなどどこからどう見ても弱そうなモンスターから始まる。当然そんなザコキャラでいきなりボスキャラに挑めば瞬殺の目に合う。しかしそこからレベル上げ、合成、進化など様々な条件をクリアしていくことでザコだったモンスターは強くなり、ボスキャラを倒すことも出来るようになる。
それと同じことがラビッドファングにも言える。いくら弱い魔物でも他のプレイヤーを倒し、喰い、相手の因子を獲得することは出来る。それを積み重ねることで普通の能力とは一線を画す破壊力を誇る能力、結合能力を手にすることが出来る。ただのスライムだって進化し続ければキングにもゴールデンにもカイザーにもなれるように。
つまりいくらドラゴンのような強い魔物の力を手に入れたからといって日々の鍛錬を怠っていれば、真面目にやっていた、一見ザコにしか見えないスライムに瞬殺される可能性だってあるということだ。
しかし目の前にある敵を片っ端から潰せば、結合能力が手に入るというわけではない。結合する因子にはある共通点が存在する。それを推測するために必要なのがデバイスだ。
「例えば……これね」
私は小鳥遊からデバイスをひったくると「USER DATA」を起動させ、ある因子の表記をクリックした。
「……一眼巨人か?」
「そ、その一眼巨人の説明文を見る」
「説明文?」
小鳥遊と鳥海さんが真面目な顔で画面を覗き込む。2人が読み終わったのを見て、私はスマホを取り出した。
「それに『その異様さを嫌った父である天空神に地中にある牢獄に幽閉された』って記述があるでしょ? それについて調べるともう1体同じ理由で牢獄に入れられてる精霊がいるのよ」
インターネットの検索結果がでる。私はその画面を2人に見せた。
「ヘカトンケイル……!」
鳥海さんが目を見張った。
「……わかった、ってことは覚えがあるみたいね?」
「はい、さっき襲いかかってきた人です」
私は一眼巨人の説明文を消すと、1番最後にあった多頭多腕の説明文を開いた。
「ほら、こっちにも一眼巨人と同じことが書かれているでしょ? こういう似たような説明文が書かれているのが揃うと比較的結合能力が発動しやすいの」
「へぇぇぇ……」
小鳥遊は感心した顔で私からデバイスを受け取った。
「ただ単に連絡手段とか、自分のステータス確認のための機械だと思ってたよ」
「それだったらLINEとかカカオとかで済むからね。個別にあるということにはちゃんと理由があるって言うことよ」
「……そういえば、田代さんはどれくらい倒してるんですか?」
鳥海さんがおずおずと聞いてくる。
「ああ、あなた達のばっか見てたら不公平だしね。見ていいよ」
私はカバンから自分のデバイスを取り出すと鳥海さんに渡した。鳥海さんが私のデバイスを見出すと、突然悲鳴を上げた。
「じゅ……17も倒してるんですか!?」
それぐらいで驚けるのはピュアなのか、世間知らずなのか……私は苦笑しながら答えた。
「私達みたいにチームで行動してる奴らもいるからね。そこら辺を叩けば軽くそれぐらい稼げるわよ。遠藤や由ちゃんに譲ったのもあるから実際はもうちょっと倒してるんだけど。……というか、こっちも言わせてもらうけど、1ヶ月も経ってるのに倒したのが1つとか4つとか、遅すぎるのよ!?」
2人の顔が曇った。自分達が今、ものすごく遅れていることに今更ながら気づいたのだろう。




