車内にて
「……どうします信乃さん、ここで阿鼻叫喚使えば切り抜けることできますけど……」
「いや、やめとけ……。そんなことしたらこの車確実に事故るから……」
「で、でも、この車に乗っている人ってみんなプレイヤーですよね。だったらここで一網打尽にした方が……」
「いや、運転手は真人間だと思う。あの人だけ変な気を感じないから……。それに制御を失った車が無関係な通行人をはねることだって考えないと……」
「何ボソボソと話してるのよ」
俺と鳥海の脱出に関するコソコソ話に気づいた制服女子がこちらに席を移してきた。
「い、いや、なんでもないですよ?」
出来るだけ平然としてるように見せようとしたが、どうしても声が上ずってしまった。すると制服女子はますます怪訝な顔でこちらを見つめる。……マズイ、誤魔化しきれてない。
「とりあえず、変身解いたらどうなの? 安心しなさい。あなた達が変なことをしない限り抜くつもりはないから」
制服女子が呆れたように言う。ふと見ると制服女子は腰に日本刀をさしていた。……あなたはどこかのゲームキャラですか? 本気になると水着になっちゃうやつの。
「……信乃さん、ここは従った方が……」
鳥海が小声で訴えてくる。振り向くとすでに鳥海は変身を解いていた。……早い、早すぎるよ。
「で、あなたはどうするのかな 人狼さん?」
制服女子が笑顔で詰め寄ってくる。この時点ですでに俺に他の選択肢は残されてなかった。
ーーー
あれからすっかり静かになってしまった……。
そもそもエンさんは無言だし、春香ちゃんとその相棒さんも元に戻ってから一言も喋らないし……こちらから話すこともないしなー。
ふと田代さんを見る。すると田代さんが私にむかって手招きしていた。呼ばれているようなので、席を移動して近づく。
「……どうしたんですか?」
「……由ちゃん、なんか話す話題ないの!?」
小声ではあるが、田代さんは焦っているようだった。
「え、別に話さなくてもいいんじ……」
「そんな訳にもいかないでしょ!? だって仲間になるんだったら、お互いに色々知ってなきゃいけないし!」
「で、でもまだ春香ちゃん達が仲間になってくれるかどうかわからないじゃないですか」
「そ、それはそうだけど……このまま無言だとなんか変な雰囲気になるじゃん……」
確かにこのまま無言だと非常に気まずい雰囲気になりますね……。いや、もうすでになってるけど。
それに今の私達ってたぶん「めっちゃ強くて怖い人」ってイメージだろうし……。仲間になるのであれば、どうにかして払拭したい。
「何か話のとっかかりとか作れないの?」
「無理ですよ……。そもそも私達、春香ちゃん達ボコボコにしたのに、その後ケロっとした顔して、何もなかったかのように話せるわけないじゃないですか! 話しかけるとしたら田代さんですよ!?」
「それはそうだけどー!! 私に期待されるほどの話術なんて無いよ!?」
「それを承知で言っているんですよ!」
「あ、あのー」
そんな会話を聞いていたからか、相棒さんが恐る恐る手を上げた。
「この車って、どこに向かってるんですか……?」
心なし語尾が震えているように聞こえる。すると田代さんが口を開いた。
「あたしの家」
「あ、そうですか……」
再び沈黙、会話終了。……ってオイ!
「今、確実にチャンスでしたよ!? 話を広げる!」
「わ、分かってるけど、あれ以外の返答ある!?」
「ありますよ! 『あたしの家ですよ? お2人ともなかなかの実力の持ち主でしたから、あたしの家に招待しようかと思って』とか!」
「あぁ……その手があったか……」
田代さんが頭をかかえた。それは外から見てる分には可愛らしいものだったが、今の状況でそんなことを考えられる余裕はなかった。
ーーー
「お嬢、もうすぐ到着しますから、そろそろ降りる準備を」
「う、うん、わかった」
目覚めてから約1時間が経過していた。途中、先ほど運転手から「お嬢」と呼ばれた制服女子と「由子」という名前らしい(鳥海情報)迷宮内牛が必死の形相で何かを話したり、こっちをチラチラと見てきたりしたが、結局特に何の話もなく終わった。
おかげさまでめっちゃ気まずいですよー。ええ。
車が止まると、運転手が先に降りていった。……どうやら扉を開けてくれるようだ。すると「お嬢」さんはこちらを見て言った。
「えーっと、これからあたしの父に会ってもらいますから。くれぐれも粗相のないようにね」
……一瞬何を言われたかわからなかった。なんであなたの父親に会わなきゃいけないの? 話の脈略がなさすぎて状況が把握できないのですが。
無意識の内に瞬きの回数が増える。そんな俺の様子に構うこと無く、「お嬢」さんと灼熱魔神は開かれた扉からさっさと降りてしまった。
「……信乃さん、今のどういう意味だと思いますか……?」
「……純粋に考えれば、お嬢さんの父親もプレイヤー、ってことだと思うけど……」
「それは違いますよ」
するとあちら側で唯一車内に残っていた由子さんが口を開いた。
「田代さんーーあ、制服着てる子のことだけど、その子のお父さんはあっちの人でね。一度会わないと相手を信用できない、って人だから。田代さんはお父さんに変な誤解を与えない内にあなた達を会わせたいんだと思う」
……あっちの人って何? え、ニューハーフとか? それとも……
「ま、会ってみればすぐわかると思うよ。じゃあ、行ってらっしゃい」
「え? 由子さんは来ないんですか?」
鳥海が驚いたように言う。
「うん、ちょっと私には合わない空気だから……。大変だと思うけど、頑張ってね?」
由子さんの口ぶりに若干の不安を憶えつつ、俺と鳥海は車を降りた。
赤い絨毯がひかれた通路を歩いていると扉の前で先行組が待っていた。
「あなた達、遅いわよ」
田代さんが俺たちにむかって言葉をかける。俺と鳥海は慌てて駆け寄った。イラつかれて、腰の日本刀で斬られたら終わっちゃうもん。
「すいません、由子さんと話していたので……」
「ふーん……」
そう言うと、田代さんは大して興味がなかったのか、適当な返事をしながら鍵穴全てにそれぞれ別々の鍵を入れた。そして声の認証装置だろうか、マイクにむかって言葉をかけると扉のロックがあいた音がした。
灼熱魔神がおもむろに扉を開けるとその先には……
「「「お帰りなさいませ! お嬢!!」」」
大量の男達が列をなして頭を下げていた。その大半は腕に龍やら虎やら蜘蛛やらの様々な刺繍を入れている。その姿を見た瞬間、俺は由子さんが言っていた言葉の意味がわかった。
「……あっちの人って、こういう意味かよ……」
「し、信乃さん……本当に大丈夫でしょうか……」
鳥海が青い顔をしながら不安そうにつぶやいた。それに対し、俺は情けない言葉でしか返せなかった。
「そんなの、こっちが聞きたいよ……」
あの、もう泣いてもいいですか……?




