表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/53

信用と見物人と阿鼻叫喚

「……聞こえるか」

「はい、大丈夫です」

 黒いゲーム機から鳥海の声がする。

「あのー、今、私TAKA:Qのビルの上にいるんでけど、信乃さんどこにいるんですか? ここから全然見えないんですけど」

「あー、そりゃそうだ。だって今、建物の中に隠れてるもん。歌広場の看板が出てるとこ」

「あ、あそこですね。わかりました」

 画面の中の鳥海は一度視線をはずして、うなづいた。

「鳥海ー、多頭多腕(ヘカトンケイル)はどこうろついてるかわかるか」

「あ、はい、えーっと……多頭多腕は今、お寿司屋さんの前にいますね」

 俺が今いる所からはやや遠いが、鳥海の方からしたら目と鼻の先だ。

「それじゃあ、私が先制攻撃しますんで、とどめは信乃さんお願いします」

「別にいいけど……本当に大丈夫なんだろうな。同士討ちとか嫌だぞ」

 そう言うと鳥海の顔が少し赤くなった。

「だ、大丈夫ですよ! 何疑ってるんですか!」

「いや、この間の無差別攻撃が軽ーくトラウマになってるからさ……」

「うっ……」

 痛い所を突かれたのか、鳥海の言葉が一瞬途切れる。

「で、でも今回は大丈夫です! ちゃんと手加減しますから!」

「手加減しすぎて効果なし、とかもやめてくれよー」

「……全然信用ないですね」

 鳥海が傷ついたような顔をする。

「だって、こっちは阿鼻叫喚(ブレイクソレント)の詳しい能力なんて知らないし。本当にお前が言った通りのことが出来るのかもわからないし」

「……わかりました。じゃあ今から見せつけてやりますよ」

 鳥海の目が反骨心で燃え出した。

「3つ数えたらいきますよ……3、2、1」

 0! と鳥海が言った瞬間、俺は通信を切って階段を駆け下りた。


ーーー


 信乃と鳥海が隠れて話しているころ、別の通りに2人の男女が立っていた。

「おもしろいことになりましたね。まさか多頭多腕を追っていたら、別のプレイヤーを2人も見つけるなんて」

「どうしますか、エンさん」

 後ろにいた女が声をかけてくる。エン、と呼ばれた男は頭をかきながら言った。

「うーん、お嬢を待ってる暇もなさそうだし、あの多頭多腕がやられたら入りますか」

「……多頭多腕は諦めるんですか?」

 女はエンの言ったことが意外だったのか、驚きながら言う。

「因子は食べた魔物の物しか手に入らないのに」

「あぁ、それも考えたんですけど、あの程度の能力しか持ってないなら、別に食わなくてもいいでしょう。それにヘカトンケイルって出番が少ないんで、接続出来る因子はない可能性が高いですし。どうせ食うんだったら、あれよりも犬耳君や半魚半鳥ちゃんの方が良さそうです」

 エンがそう言うと、女は納得したようにうなづいた。

「なるほど、今飛び込んで3人を相手にしてしまうより、潰しあって1・2人になってくれた方がいい、ってことですね」

「そういうことです」

 そう言ってエンはニヤリと笑った。


ーーー


 外に出ると、多頭多腕が鳥海に気づき、石を投げつけていた。

「くそっ、ちょこまかと逃げやがって! 当たりやがれ!」

 多頭多腕がイラつきながら叫ぶ。そんな中、石を避けながら鳥海が口を開いた。俺は思わず反射的に耳を塞ぎ目をつぶったが、何の音もしなかった。

 不審に思い、恐る恐る目を開くと、鳥海は撃ち落とされることなく、口を開いて何かを叫んでいる。その下にいる多頭多腕は相手が動きを止めているのに、石を投げることなくその場で立ち尽くしていた。そして手のひらからは砕けた石がポロポロと落ちている。

「信乃さん! 早く!」

 鳥海がその状況に見入っていた俺に向かって叫ぶ。その瞬間、多頭多腕は糸のきれた人形のように、その場に膝をついた。

「お、おう!」

 慌てて駆け寄り、その勢いのまま多頭多腕の心臓目掛けて、体を爪で貫いた。肉のぬるっとした感覚がしたが、多頭多腕は何の反応も見せなかった。

「まさかこんなに上手くいくとはな……」

 俺は腕を多頭多腕から引き抜いてつぶやいた。多頭多腕は何のうめき声もあげずにその場に倒れた。


ーーー


 阿鼻叫喚。超音波をおこして、周りの物をぶち壊したり、相手の思考回路を崩壊させる誘惑声鳥固有能力(スキル)である。その威力、効果範囲は誘惑声鳥自身の声量、及び意識によって変えることが出来る……らしい。

「らしい、じゃなくて変えたんですよ! いい加減見たんだから信用してください!」

 給水タンクの後ろから鳥海の声がする。

 俺が多頭多腕を食べている間、鳥海は物影に隠れて変身を解いていた。鳥海によると、変身すると下半身が魚の尾っぽになるため、パンツが破れて脱げてしまうのだそうだ。当然、変身を解除すればノーパンになるので、それを見られるのが恥ずかしいとか。……女心とは複雑な物ですね。

「それにしてもさー、本当に食べないでいいのかー?」

「だって、信乃さんが倒したんですから、信乃さんが食べるのが当然かとー」

 その返事に、俺は何十本もあった腕の1つに噛みつきながらつぶやいた。

「……俺じゃなくて、お前が倒したようなもんだと思うんだけどな……」

 あの時、多頭多腕は白目をむいてほとんど息をしてなかった。俺が体を貫くまでも無かったと思う。

 でも、本人がくれると言うなら、ありがたくもらっておくか……ということで黙々と食べる。そうしている内に残りは腕1本となっていた。

「おーい、履き終わったかー? 食べちゃうぞー?」

「はーい、大丈夫でーす」

 人間の姿に戻った鳥海が給水タンクの後ろから出てきた。俺はそれを見て、最後に残った手を噛み砕いた。

「すいません、少しの間眠っててください」

 そして飲み込むと、俺は手を合わせて、今は影も形もない名も知らない男に祈った。

 発動したプレイヤーが死んだことで結界が解除され、道に人々の姿が戻る。その様子を見ながら、俺は変身を解除した。鳥海が心配そうに言う。

「信乃さん、隠れずに変身解除なんて無用心過ぎませんか? 誰かに見られたら大騒ぎですよ?」

「大丈夫だろ、こんな屋上に人が来るわけないし」

 そう、ここは鳥海がさっき隠れていたビルの屋上である。こんな所に人が来るわけが……

「そうですよ。彼女の言う通りです」

 あった。声がした方を見ると、そこには1組の男女の姿があった。男は茶色で肩口までのばした髪に長袖でギンガムチェックのYシャツと青のジーンズ、女は黒のショートで、白と青のボーダーにショートパンツを着ている。見た目はそこら辺によくいるカップルのようだが……雰囲気が違った。

「し、信乃さん、なんかすごい威圧感を感じるんですけど……」

 鳥海が青い顔をして俺の腕にしがみつく。ファンなら嬉しすぎて憤死するのだろうが、今の状況でそんなことは考えられなかった。

 頬を汗が伝う。俺はさっき多頭多腕の言っていた言葉を思い出してた。

「……そういや『挟み撃ち』とか言ってたな……こういうことだったのか……」

 男が不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

「僕の名前は灼熱魔神(イフリート)。君たちの命、いただくよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ