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電車と世間話と待ち合わせ

 翌日。俺は電車に乗っていた。

 なんでかって? 寮が車を用意してくれないからだ。用意してくれるのは宿の予約だけ(ただし大部屋)。簡単に言えば、参加したい人は自分で来い、ということだ。

 もちろん行くまでにかかるバカ高い電車賃を気にして来ない人もいる、というか数年前にいたらしい。でもその人はあとで気まずい目にあったそうだ。例えば旅行の間に起きた思い出話に全くついていけなくておろおろする、とか。

 そんな哀れな様子を見ていた(当時は後輩だった)先輩達は「お金が惜しくても、絶対に参加しろ」と後輩達おれらへ真面目に話す(忠告する)のであった。

 俺らもそんな目にあいたくないので、こうして自腹で電車に乗り、旅行に参加する。もちろんバイクとかで行くやつもいるけど俺は普通免許(AT限定)しかもってないから無理なの。


「おお、小鳥遊。お前もこの電車か」

 声がした方を見ると寮で隣の部屋に入っている安藤(あんどう) 宏太(こうた)がいた。

「あぁ、なんだ安藤か……。当然だろ? 間に合う最後のヤツなんだから」

「全くな、来るのは自由なら集合時間なんか作らないでほしいよな」

 ……そう。「来るのは自由」とか言っておきながら集合時間は指定されてるのだ。言ってることとやってることが矛盾していると思うのは俺らだけか。

 ちなみに、もし時間に遅れたらどうなるか。旅館が準備してくれた直行バスに乗れなくなるのだ。そうなると最寄り駅まで来て、バスが行っちゃったから諦めてUターン、ってわけにもいかないので、タクシーか県営バスに乗る必要がでてしまう。ただでさえ電車賃で金がかかっているのに、余計な金を使うことになるし、変な意味で目立ってしまうし、といいことなしなのだ。


「なぁ、小鳥遊ー、水着何にした?」

「はぁ? 去年と同じやつだけど」

「つまんないな、オイ!」

「つまんないな、って別にいいだろ、水着なんて毎年買い換えなくても。女子じゃあるまいし」

「わかってないなー。女の子ってそういうの気にすんだぞー?」

「そんな1年に1度ぐらいしか見ない服覚えてるやつなんていねーよ」

「なめんなよー、女の子の記憶力」

「そう思ってんのはお前だけだよ」

 俺ははっきり言ってさっさと話を切りたかったが、切ったら切ったで暇なので、目的地まで安藤の話にしぶしぶ付き合い続けた。


ーーー


「あのさー小鳥遊ー、そういえばどこだったっけ集合場所って」

 そんな話が出てきたのはもうすぐ目的地の駅につこうとする頃だった。

「何言ってんだ……ってお前知らねえんだったな」

 実は安藤、去年寝坊して集合時間に間に合わなかったのだ。

 その時安藤はどうしたか。……それは「ホテルまでの行き方をアプリで検索して歩いて行く」というとんでもない物だった。駅からホテルまでは車で約2時間の距離。それを安藤は徒歩で歩ききったのだ。

 ちなみに俺は、みんなが海でわいわい遊んでいるところにフラフラになりながら現れた安藤を見た瞬間、悪いが吹き出してしまった。金が惜しいからってそこまでやるか!? 的な。その翌日、安藤が筋肉痛で苦しんでたのは言うまでもない。


 電車の扉が開く。俺たちは改札に向かって歩き出した。

「おい、そんな適当でいいのか?」

「大丈夫大丈夫。別のやつらがきっと像の前にいるから……ほれ」

 と言って、俺は改札の向こう側にある未だに誰だかよくわからない人の像の前でたむろしている人達を指差した。その中にはもちろん樹里さんの姿もあった。改札を出たところでその中にいた樹里さんとは別の先輩が気づき、こちらに手を振って見せた。

「お、小鳥遊とカヤマか! 遅いぞー?」

 さっきの「2時間かけて踏破」エピソードから帰寮後、安藤には「カヤマ」というニックネームがついた。由来はもちろん、あの朝の番組でゆうゆう歩いているあの人だ。

「カヤマじゃなくて安藤ですよ新庄先輩ー」

「どうしたんだよ、こんな早くに来て? 今年もここらへんをぶらぶらするんじゃないの?」

「しませんし、去年もぶらぶらしてません! 寄り道せずに真っ直ぐ来ましたから!」

 安藤は笑いながら否定するが、先輩は攻撃……もといイジリの手を緩めない。そんな2人からそっと離れて、俺は奥にいた寮長親子の元へ向かった。

「寮長さん、樹里さん、おはようございます」

「お、来たか小鳥遊」

 樹里さんが気づいて返事を返す。寮長さんは寮に入っている他の女子と話していて気づいてない。

「母さん、小鳥遊と……安藤が来たよ」

「あ、おはよう小鳥遊くん、安藤くん」

 樹里さんが言って、ようやく寮長さんがこちらを見て返事をしてくれた。

 俺が入っている「高垣荘」の寮長であり、1児の母。それが高垣(たかがき) (ゆう)さんである。どう考えてもすでに40は過ぎているはずだが、その見た目は樹里さんよりも年下に見えるくらい小さいし若い。おっとりとした性格も合わさって、俺は入寮初日、間違えて樹里さんが寮長だと思っていた。(高垣親子によると新しく入ってきた寮生がそのような勘違いをするのはもはやお約束のような物らしい。)

「おーい、バス来たぞー」

 誰が言ったのかはわからなかったが、見ると確かに旅館の名前が側面に入ったマイクロバスが角を曲がってこちらに入ろうとしていた。

 これにてプロローグは終了です。

 読んでいる方は「変身言ってるけど変身しねぇじゃん」とか「殺しあいとか言ってるけどいつ起こるんだ?」と思われてると思います。すみません、もう少しお付き合い下さい。

 次話から本編スタートです。さぁ「ゲーム」を始めよう。

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