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誘惑声鳥の想い

 俺はマスターに支えてもらいながら、通路を歩いていた。血をたくさん流したせいか、頭がクラクラする。

「あのさ……さっきから気になってんだけど、この変な音はいったい何なんだよ」

「んー? 誘惑声鳥(セイレーン)能力(スキル)だよ」

「スキル? なんだそれ」

「魔物達が持ってる長所とか特徴に名前をつけた物、って考えてくれればいいよ」

「ふーん……で、話を戻すが、その……誘惑声鳥だっけ? この変な音ってそいつの能力のせいなのか?」

 マスターは頷いた。

阿鼻叫喚(ブレイクソレント)。超音波をおこして、周りの物をぶち壊したり、相手の思考回路を崩壊させる能力だよ。誘惑声鳥はわかってないまま使っているだろうけど」

「……そいつって香上なのか?」

「うん、そんな名前でアイドルやってる子だったよ」

 あぁ、そうか。やっぱり歌が上手くなったのは音系の能力を持った魔物になったからだったのか……。

「……あんまり驚いてないね」

「いや、あんなに突然うまくなるなんて、おかしいと思ってたからな」

 とはいえ、安藤の言葉に説得力があったから、一度その考え方は消したけどね。やっぱり直感を信じるべきだったな。

「それに、さっきすれちがったんだよ。この結界内ってプレイヤーだけしか入れないんだろ」

「正確に言うと、ラビッドファングの関係者だけ、だけどね。ということは死送御者(アンクウ)から逃げるのに精一杯で人狼(ヴェアヴォルフ)くんに気づかなかった、ってとこかな? 」

 アンクウ、というのはたぶんあの骸骨のことだろう。

「気づいてたらたぶん挟み撃ちを避けたくて倒しにかかるか、別の方向に逃げるだろうし」

「いや……気づいてたことは気づいてたんだけど」

「ん? そんな微妙な顔して言うってことは、なんかあったの?」

 マスターが興味深々な顔で聞いてくる。……あれっ、そんなにわかりやすく顔に出てたかなぁ……。

「教えてよー、何があったのー?」

「……ぶつかった時『なんでこんなところに子供が』とか言われた」

 するとマスターは意外そうな顔をした。

「えー? こんなに背が高いのにー?」

 そういうあんたも俺と同じくらいの身長だろ。

「いや、俺が尻もちついてた、ってのもあるし。なにより逃げるのに必死だったんだろ? きっと焦って短絡的に顔だけ見て判断しちゃったんだろ」

「大人だねー、人狼くん。普通大の大人が年下から子供扱いされたらぶち切れるよー?」

「いや……単に言われ慣れてるから……」

 そう言うと、突然マスターの顔色が変わった。

「あ、なんか地雷踏んじゃったかな……?」

 気づくの遅えよ。どうせだったら気づくなよ。そっちの方がまだ気が楽だよ。

「別に気にしてないからいい。それより、香上と骸骨の戦いはどうなってんだよ。今もエンドレスに阿鼻叫喚とやらが発動してるってことはまだやってんだろ?」

「あー、もうめちゃくちゃだったよー。死送御者は相手の変体中に大人気なく襲いかかったし、誘惑声鳥は変体したの今回が初めてだったし。そんでトドメに出力完全無視の阿鼻叫喚が飛び出してさー。オルガンアウト使っても気が狂いそうになったから慌てて避難してきたら苦しんでる君を見つけたってとこー」

「オルガンアウトってなんだよ」

「簡単に言うと、魔法による超高性能耳栓ー」

 魔法、ねぇ……。もうなんでもアリだな、ラビッドファング……。そう思った瞬間、例の怪音波が止まった。

「あ、終わったみたいだね」


ーーー


「はぁ、はぁ、はぁ……」

 私が声を出すのをやめると、目の前には大量の白い欠片が積み上げられていた。……明石さんの成れの果てだ……。

「うっわー、派手にやらかしたねぇ」

 マスターさんが苦笑いしながら近づいてきた。気づいて周りを見渡すと席やモニターが粉々に砕け散っていた。

「あ……大丈夫でしたか?」

「一応、ね。まだ耳がキーンとしてるけど」

 そう言ってマスターさんは右手で耳を叩いた。

「す……すいません……」

「いや、別に良いんだけどさ。それより謝っておくべき人が他にいるんじゃない?」

「え?」

 マスターさんが入口の1つを指差す。見ると誰かが壁に寄りかかって座っていた。顔は影になっていて見えない。足は使えないので、翼を使ってそこまで飛んでいく。

「……あ!」

 顔が見えた。そこにいたのはさっきぶつかってしまった子だった。黒いシェパードのような耳が生えており、彼も変身してるのがわかる。しかし、それよりも大きな穴があき、血によって赤黒く変色したシャツに目がいった。

「き、君! 大丈夫!?」

 必死にゆすったが、彼は目を覚まさない。最悪の事態が脳裏をよぎった。

「そ、そんな……」

「大丈夫だよ。ちょっと血を流しすぎたみたいで力尽きちゃっただけ。変体してるんだ、ちょっとやそっとじゃ死なないよ」

 マスターさんがゆっくりと歩いてきた。

「残酷だよね。お腹に穴開けられても食われるまで、普通に生かされるんだから……。あそこの死送御者もね」

「え?」

「とりあえず、ステージまで戻ろうか。話はそれからだ」


 ステージに上がるとマスターさんは、明石さんの破片を1つ手に取るとこちらに投げてきた。私はそれを小さくなった手で辛うじてキャッチした。

「よく見てみて。まだ動いてるでしょ?」

 見ると明石さんの破片はまるで生きているかのように細かく震えていた。

「ように、じゃなくて生きてるんだよ。魔物の生命力って異常でね。食われなければ、原子レベルにまで分解しても、元の形に戻れるんだって。ただし相当な時間が必要らしいけど」

「……何が言いたいんですか」

「死送御者は今、必死で元に戻ろうとしてるんだ。自分が食われないようにすると同時に誘惑声鳥ちゃんを仕留めるためにね」

 そう言うとマスターさんは私の手から破片をとり、山の中に戻した。

「で、誘惑声鳥ちゃんはどうしたいの?」

「え、どうしたい、って何を……?」

「結界は発動したプレイヤーと標的になったプレイヤーどちらが捕食されるか、発動したプレイヤーが別の結界玉を使うまで、消滅しない。さらにその間、対象の2人は結界内から出ることはできないようになっている。逃げた方が得、って状況が起きないようにね」

「……それは聞きました」

「となると誘惑声鳥ちゃんに残されてる選択肢は『死送御者も人狼もまとめて食う』か『人狼は襲ってこない、と信じて死送御者だけ食べる』か『死送御者が回復するのを待って食べられる』か、だ。君はどれを選ぶの?」

「何を、って、明石さんを信じる選択肢は……」

「優しいねー、誘惑声鳥ちゃんは」

 マスターさんは呆れたようにため息をついた。

「でも死送御者を信じる、ってことは死送御者の『狂った』思想を肯定して、自分の今までの努力を否定するのと同じだよ?」

「確かに、マスターさんが言っていることは正しいです。……それでも、明石さんは私の恩人なんです。私がどれだけわがままを言っても、嫌な顔をせずに必死に叶えようとしてくれたんです」

 言っているうちになぜか涙が出てきた。

「私は、まだ明石さんに、恩返ししきれてないんです、だから……」

「……ふーん。でも死送御者の願いは叶えたくないんだよね」

 誘惑声鳥ちゃんも大変だね、とマスターさんは哀れむように言った。

「それでも決断しなきゃいけない時は生きている限り、たくさん訪れる。まず、誘惑声鳥ちゃんの理想通り、死送御者と殺し合わずに済んだら、としよう。そうしたら明日からここを使う予定の人達は結界のせいでここが使えなくなる。死送御者は誘惑声鳥ちゃんを殺す以外に結界を解除することはできないから」

「なんでそんなことがわかるんですか」

「死送御者の荷物を見てきたんだ。そしたら予想通り結界玉は入ってなかった。つまり、最初から君を一発で仕留めるつもりだったんだ」

 そう言って、マスターさんは白装束の中から見覚えのあるカバンを出した。明石さんのカバンだった。

 手渡されたそれの中身を漁ったが、スケジュール帳や携帯電話、社員証は出てきても結界玉は出てこなかった。

「見ず知らずかもしれない他人に独りよがりなわがままで、迷惑をかけるつもりかい?」

「…………」

「それに、助けにきた人狼の気持ちはどうなる? あの子、結界が発動した時、外にいたのに、誘惑声鳥ちゃんを助けるために慌てて戻ってきたんだよ。それなのに肝心の誘惑声鳥ちゃんは余計なお世話だった、死送御者を止めようとして負ったあの大怪我は無駄だったって、言うのかい?」

「…………」

 マスターさんは真剣な目で私を見つめた。

「誘惑声鳥ちゃんは何を選ぶべきなのか、もう分かってるんよね。でも、それが自分の望む物じゃないから必死に目を背けようとしてるんじゃないの?」

「……だったらどうするんですか」

「ん? 何もしないよ。僕は意見するだけで自分では何もしない卑怯なやつだからねー」

 そうマスターさんが言った瞬間、私はその場に突っ伏した。散々言っといてそれはないでしょ!?

「正確にいうと、しないんじゃなくて出来ないんだけどね。一応主催者だから」

 結構キツイもんだよ、見てるだけしかできないって、とマスターさんは言った。

「でも、誘惑声鳥ちゃんは自分のやりたいこと、やるべきことをすることができる。自分の本心に従うのか、恩義に殉じるのかは君が決めるべきだよ」

 その言葉に私は呆れて笑った。

「……マスターさん、さっきと言ってることがまるで逆ですよ?」

「え、そう?」

「そうですよ、君のわがままに他人を巻き込む気か、とか言ってたのに、結局自分の好きにしろとか……」

「あははー、僕は中立者だからねー。Aも推すしBも推すさ」

「……なんですか、それ……」

 私もつられて、笑ってしまう。

「……あーもう、なんだかよくわからなくなってきました……」

 というか、なんか疲れた……。別の意味で。

「ま、ゆっくり考えるといいよ。僕は帰るから」

「あ、そうだあの」

「ん? どうしたの? まだ何かあるの?」

「さっきは、ありがとうございました。助けてもらって」

 色々言われて、すっかり言うタイミングを逃していたから……。するとマスターさんは照れたように頬をかいた。

「別にお礼を言われることじゃないよ。それに死送御者は『お前が邪魔しなければ僕が勝っていたのに』とか思ってるだろうし」

 そういう意味だと中立者になってないんだよなぁ、とマスターさんは呟いた。確かにその通りだ。

「だから今回は、誘惑声鳥ちゃんが変体経験すらないビギナーだったのと、死送御者があまりにも相手への礼節を欠いてたから助けた、ってことにしといてよ。次はないからね、もう自分の魔物(セイレーン)のこともわかったでしょ?」

「はい、そういうことにしときます」

 私が笑みを浮かべながら言うと、マスターさんは満足そうにうなづいた。そして付け加えるように言った。

「あ、あと言い忘れてたけど、あの人狼、誘惑声鳥ちゃんより年上だから」

 え?

「じゃあねー」

 そう言ってマスターさんは出ていった。

 ……えええええ!!? なんでそんな爆弾投げて帰るんですか!!? 私の叫びは虚しく会場内に響き渡った。

「うわぁ……」

 私の頭の中は明石さんをどうするかではなく、入口近くで寝ているあの子……もとい人狼さんにどう謝るかでいっぱいになっていた。

マスターは、1番この小説で個性が強いキャラなので、たまに勝手に大暴れします。本当ならもっとあっさりと終わるはずだったのに……。

ちなみに、マスターが言った、信乃が突入した理由は全て彼の想像(・・・・)であります。(本来の理由は第16話参照)

そこらへんの齟齬は早速次回で発動します。

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