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悠久のオルカナト  作者: 琴井
第一章. デモンワームの出現
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第8話

 たしかにあおしろたんを無理矢理仲間にしたのは事実だ。

 はじめはとにかく逃げようとするので必死にツタをリードに、ポケットを巣に連れ回した。

 だがすぐにモンスターでない生き物は逃げる仕様になってるんじゃ、と思い至り、いくらリアルに見えてもゲームはゲーム。仕様は仕様。そうならばいくら頑張ったって無駄だと、思い入れが少ないうちにすっぱり諦めた方がいいかと思い、初日のうちに逃がしてしまおうかとも思った。

 あまりに嫌がるあおしろたんの姿に、正直けっこう心にダメージ受けたし。

 しかしそれは数時間も経たないうちに杞憂となった。

 魔石をあげた途端、ころっとあおしろたんの態度が変わったのだ。

 触るのを嫌がる。近づかない。警戒するように鳴く。

 まるで本当の野生動物のような姿だったが、魔石を出せば自分から寄ってきてくれたし、いくつかあげれば自分から付いて来てくれるようになった。

 かわりにつねに魔石をよこせと大声で鳴き、放置をすれば不機嫌そうに噛み付かれて、魔石を持ってないと知るや否や尻尾ではたかれるようになった。

 ……いや、好感度が上がったんだ。なつき度みたいのがあったに違いない。そうだ、育成ゲームでいう主人公に甘えるそぶりを見せる状態になったんだ。そう思う。嫌がられなくはなったんだし。そうに違いない。うん。

 そうやって催促されるままにモンスターを狩り、魔石をあげれば、はじめと比べて格段に仲良くなれた。

 たとえしばらく放置してても、超不機嫌ながら待っててくれるようになった。

 魔石を持ってなくても、声をかければ面倒くさそうにしながら答えてくれた。

 魔石をあげればそれなりに甘えた仕草を見せてくれるようにもなった。

 それなのに。


「うそ……」


 それでもこんなに長い時間離れるなんて初めてだから、万が一なにかあったらまずいと村の端の柵にリードで繋いでおいた。

 不機嫌になってたけど、あおしろたんも一応待っててくれるそぶりを見せてくれた。

 当初の様子から考えれば、それなりに好感度が上がっていたと見て間違いないはずだ。

 長時間離れたら好感度が下がるの? それとも好感度に関係なく逃げ出す仕組でもあったの?

 いや、そもそもモンスターでもNPCでもない、動物使い的な職の話も聞かないのに、そこらで見つけた背景ギミックの一部にしか見えなったトカゲが、懐いたなんてのが思い違いだったんだろうか。

 ただアイテムをあげれば喜ぶというちょっとしたお遊びみたいな仕掛けで、好感度やなつき度なんて存在しなかったんだろうか。

 それとも、それとも……逃げ出したわけじゃなく……。

 ――モンスターに襲われて、殺されちゃったんじゃ


「あおしろたんッ!!」

「ぎじゃ」


 聞こえた声に勢いよく振り返った。

 それは近くの畑の作物の中から聞こえた。

 赤い実のついた稲ほどの植物の山の合間から、確かに聞こえた。

 がさがさと草を掻き分ける音をさせながら、こっちになにかが近づいてくる。

 それは草よりも低い位置から。さほど大きくない生き物が。……もう、何百回と聞いた鳴き声の。


「ッあおしっ……ろ、たん……? え? あおしろたん?」

「じゃあああああ!!」


 意味なくこちらを責めるようなその鳴き声はあおしろたんそのもので。

 大きさ的にこちらを見上げる上目遣いになるにもかかわず、てめーはダメなヤツだと言わんばかりに見下すつぶらな黒目。

 舌打ちするかのようにちろりと出される赤く細い舌。

 雪のような白と鮮やかな青色のしましました体、そして尻尾の根元の白い部分だけ他よりちょっと太いところ。

 うん、あおしろたんだ。それは見慣れたあおしろたんの特徴だ。そう……なんだけど……。


「あ、れ……あおしろたん、なんか大きくなってる……?」


 あおしろたんの大きさは頭から尻尾の先まで十五センチほどだったと記憶している。

 しかし、今、目の前にいるあおしろたんはどう見ても三十センチ近い。倍以上である。

 もともとあおしろたんは普通のトカゲよりちょっとずんぐりした体系だったが、そのずんぐり具合も増している気がする。どう見ても普通のトカゲより二周りはおなか周りが太めだ。


「えーと、あおしろたんであってる、よね?」


 もしかして別の同じ種類のトカゲじゃ、と思ったがそれはあおしろたんによって一蹴された。


「ぐげじゃっ!!」

「な、なんか怒ってる? 怒ってる? あっごめんごめんごめん!! あおしろたん! あおしろたんだよね!! おっきくなってもわかるよ!」

「じゃあああああああ!!」


 嘘つくな今疑っただろうが! と言わんばかりに雄叫びを上げ、尻尾で足をびしばし叩いてくる。

 なんかでかくなって尻尾も大きくなったせいか、使い方が今までより格段に器用になってる。

 具足つけてるから痛くも痒くもないけど怒りが伝わってきて怖いですあおしろたん!


「だだだだってあおしろたんいなくなるんだもん! ちゃんと頼んだ場所にいてくれてればすぐにわかったのに……」

「ぎじゃあああああ!!」

「え? なにそのお前が悪いんだろうがって言わんばかりのガンつけと頭突き……ごめんごめんなさい! 私が悪かったんだよね、ごめんってば!」


 怒りが収まらないのか、具足に放つ頭突きの速度がだんだんパワーアップしていく。

 私は痛くないけど、あおしろたんのお怒り具合が怖いのと頭が心配で即座に謝った。

 慌てて抱き上げると、やっぱり小さいときよりずっと重たい。

 そして大きくなった分力も強くなったのか、掴んだ手からするりと這い出して、そのまま腕を伝って胸上まで猛進してきた。


「ちょ、だめだめだめ! いや、痛くはないけどくすぐったい!! 鼻に頭突きはだめっ! 噛むのもめっ! めっ!」

「げじゃっ!!」

「あっ! だからって兜噛むのもだめだって! 揺すっちゃだめっ!! 兜取れちゃう取れちゃう!! 鎧足蹴にするのもできればやめてください!! 女神装備に恨みでもあるのあおしろたん!?」


 ひたすら装備に攻撃を繰り返すあおしろたんに、この装備がダメだという雰囲気をそこはかとなく感じた。


「《道具画面アイテムオープン》! ちょ、まって! 今装備戻すからまってまって!」

「ぎゃっ!!」


 肩に乗って尻尾で頭をびしばし叩いてくるあおしろたんに急かされつつ、もとの貧弱な装備を装備欄にドロップさせていく。

 装備は一瞬で入れ替わってしまうために、十秒も経たず立派な白銀の鎧は初心者丸出しの皮の装備へと変わってしまった。

 まぁもともとあの芋虫のためだけと心に決めた装備だ。二度と装備はするまい。うん。

 元の装備に戻すと、あおしろたんもそれでなんとか納得してくれたらしい。

 バンダナを巻いた頭部にもう一撃尻尾を叩きつけ、おとなしくなった。


「じゃー」

「……ご機嫌直していただけたようで何よりです……。なに? 金属製の鎧が気に食わなかったの、あおしろたん」

「ぎじゃっ」


 半目でこちらを睨むその顔からすると違ったらしい。

 ちげーよ、てめーがわりーんだよ、と言わんばかりにほっぺに頭突きを食らわせてくれた。

 もうゲーム時間で十日以上ずっと顔を突き合わせているので、あおしろたんの仕草の意味や表情なども見分けられるようになってきた。

 よくよく見てみると、本当に感情とか言いたいこととか、仕草や表情や雰囲気に現れているのである。

 もうRPGじゃなくて育成ゲームにいかせよこの技術、と言いたくなるくらいの細やかな表現パターンの数々には脱帽する。ここまで爬虫類を作りこむ製作スタッフさんとは、わりと真剣に友達になりたい。なれる気がする。

 そんなふうに意外と感情豊かなあおしろたんなのだが、やっぱり喋れないので細かいニュアンスは理解できない。

 なにがダメだったんだろう……もしかして音が嫌だったんだろうか? それとも見た目がいつもと違ってわからなかったとか、見慣れないものだったから気味悪がったとか……は、さすがにないか。

 動物番組とかペット紹介サイトでそこそこ聞く話だけど、これはVRだ。いくらリアル指向のゲームとはいえ、そこまでリアルと同じわけがない。

 装備なんてころころ変わるのに、そんな細かなところまでリアルにされたら不便すぎる。


「あー……でもあんなドン引きするような芋虫までリアルに再現してるもんなー。リアルに、を追求しすぎてそれぐらいやってそうな感じは……」


 いや、でもプレイヤーがゲームを進めやすいように色々配慮しているのは十分に伺える。

 さすがにプレイヤーが不便とか進めにくいとか感じるようなものまで、リアルにしているとは考えにくい。

 ペットとか動物の仲間などに関しては、チュートリアルには一切書いてないからなぁ。手探りで進めていくしかないか。

 なんだかいつになく怒らせてしまったみたいだが、逃げ出したりはされてないし、ちゃんと待っててくれたので、好感度の低下はしてない、と思う、けど……。

 育成ゲーム的に考えれば、好物をあげ続ければ好感度やなつき度は上がるはずだ。ちょっとぐらい減っても魔石をあげれば大丈夫だとは思うが……何も情報がないので、判断がしにくい。

 街で情報集めたりとか攻略サイトみればわかるのかもしれないけど、どっちも絶対やりたくないしなぁ。

 あ、ていうか。


「そういえば、あおしろたんなんで大きくなってるの?」


 聞けば今更かよと言わんばかりに半目の呆れた視線を寄越してくる。

 でもあおしろたんがその疑問をはさむ隙を与えずに怒ったから……とか言うとまたご機嫌損ねちゃうんだろうな。

 賢明にその疑問は胸の奥にしまいこむ。さっき怒らせたばかりなのにこれ以上怒らせるのはよろしくない。


「やっぱ魔石のおかげ?」

「じゃあああ!」

「やっぱり! そうかぁ、魔石あげると進化してくんだぁ……ってことはペット枠もありの可能性が濃厚に!」


 表情やAIはただの通行人Aからしてイベントキャラ並みなので、動物のNPCにも同じだけのことをしている可能性は否定できない。

 しかし! まさかただのお遊び要素に進化だのなつき度など組み込んだりはしないはず!

 このまま魔石あげ続ければ戦えるようになるのかなー。いや、さすがにそれは安直過ぎる。やっぱイベントかなにか必要だろう。それとも上級職で動物使いや魔物使いみたいな職種に……いや、今すでにあおしろたんが進化していることを考えればその可能性は――


「ぎじゃああああ!」

「うえ!? なに、あおしろたん?」

「じゃああああ!」

「あ、あおしろたんっ。肩の上で暴れないでっ! えっと、それは魔石よこせですか」

「ぎゃじゃっ」

「そうだよね、今日は随分長いことお留守番してもらったし、ご褒美上げないとね。……でもちょっとボス戦で精神疲れしちゃったから、ご褒美また今度でも……」

「げじゃああぁあぁぁぁ!!」

「ごめん! ボスからすっごいレアドロップいっぱい手に入ったし、次絶対あげるから! 今日はもうセーブさせて……」


 不機嫌そうに尻尾をばしばしさせるあおしろたんに必死に謝る。

 散々な初ボス戦となったが、終わってみればなかなか楽しかったと思えた。

 まだ序盤。やりこみ要素も、お楽しみ要素も山のようにある。

 次はなにを始めようかと思えば、子供のようにわくわくと胸が弾むのを止められなかった。

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