表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久のオルカナト  作者: 琴井
第一章. デモンワームの出現
5/23

第4話

 レベル上げは順調だった。

 作業ゲーもやり込みゲーも好きだからというのもあるが、やっぱりはじめてのVRゲームなのが大きいだろう。

 自分の体で動いている感覚、というのは慣れるとこれまでのどのゲームより楽しい。

 実を言うとはじめはこんだけリアルなVRで生き物を殺すっていけるのか、と思いもしたのだが、時折マジで命の危機を感じるぐらい殺気立ってモンスターが襲ってくるので、あんまり気にしなく無くなった。

 あと死体がぜんぜんグロくないのも慣れた要因のひとつだと思う。

 モンスターは黒い血のようなものを流すことはあるが、内臓とかは存在しない。

 中身はただ真っ黒なナニカが詰まっている。

 えーと、説明書によれば『かつて女神アンティーアルに封じられた世界を喰らおうとする闇が、僅かながらも地上に這い出し、この世を滅ぼさんと魔物となってあらゆる命を奪おうとしている』……とのこと。

 つまりモンスターはその闇が形作った生き物でないナニカで、倒してしばらくすると消えてしまい、死体が残らないのもそのせいということになってた。

 たぶんグロテスクな表現を緩和するための設定だろうけど、これだけリアルだとその心遣いは大変嬉しい。

 人型だったら抵抗あったのかもしれないけど……ていうかこの先、人型モンスターとか出てくるのかな……それはさすがに抵抗が……。

 まぁとにかく。

 今のところ特に問題もなく、このゲームを楽しめているということだ。できれば末永く楽しみたい、なんといっても三十五万だ。


「よっしゃあ! 初期職全レベル10たっせーい! ひゃっはー!」

「ぎゃっじゃああああ!」

「あおしろたんも喜びの悲鳴ありがとう! お祝いだから贅沢に魔晶石あげちゃおう!」

「じゃああぁあぁぁぁぁぁ!!」


 ハイテンションに喜びの踊りを踊るあおしろたんに魔晶石をプレゼント。

 魔晶石は三つ目犬が落としていったレアドロップ品で、魔石よりもちょっと力を多く含んでる石らしい。相変わらずそれ以外の説明は皆無だった。

 ピンポン玉大の青い石にへばりつくと、あおしろたんはうっとりと目を細める。

 その様子に和みながら、私はステータス画面を表示させた。


【名前:フウナ

 基礎レベル:13

 職業:剣士(レベル10)

 装備:木刀・バンダナ・皮の胸当て・リストバンド・皮のズボン・皮の靴

 副職:拳闘士(レベル10)・狩人(レベル10)・治療士(レベル10)・魔道士(レベル10)・商人(レベル10)・吟遊詩人(レベル10)】


 初期の草原と森でしか活動してないので、装備品はあんまり変化がない。

 ここら辺のフィールドだとさすがに経験値が足りなくなってきたのか、基礎レベルは初日からほとんど上がらなかった。

 それでも補正値のおかげで、ステータスの上がり具合ははんぱないことになっている。


「……むー、このフィールドじゃこれ以上は厳しいかな……」


 大ウサギと三つ目犬を同時に相手にできるようになった段階で、初期職レベル10はあっという間だった。

 そしてそれ以上は正直上げるのがきつくなっている。

 三つ目犬はここらでは一番の強敵であり、こいつを倒してもレベルが上がりにくいということは、この狩場の適正レベルを通り越しているということだろう。

 まぁ拳闘士がレベル10の段階で基礎レベルは8もあったのに、他職を全部レベル10になるまで経験値稼いでもレベル13までしかいかなかった、ということを考えれば当然かもしれない。


「いい加減余所行くべきかー……あおしろたんどーするー?」

「…………」

「……あいっかわらず魔石に夢中な時は返事もしないな。とりあげちゃうぞ、んもう。

 この付近っていうと、狩場どうなってんのかなー。町で情報収集できないってつらいなー……」


 改めて思う。

 よくゲームの主人公たちはよそ者にもかかわらず、初対面で下手したら警戒さえされかねないのに、ああも果敢に村人に話しかけたりしてたもんだ。

 下手したら通報されないかとか、変な目で見られないかとか、変質者扱いされて叩き出されるとか考えないんだろうか。

 まぁゲームだから聞けば普通に教えてくれる、とは、思うけど……。

 想像してみる。

 あの何百という人々。はじめて町に降り立ったときに突き刺さった無遠慮な目。そんな人たちに近くの町や狩場の情報を尋ねる。あの、大衆の注目の中で。

 うん、絶対無理だな。一瞬にして声すら出てこなくなる自信がある。


「《チュートリアル表示(ヘルプオープン)》。地図表示」


 街に入ることはソッコーであきらめて地図を表示させる。

 このゲームは一つの大陸の五つの国を舞台にしており、今私がいるのはシャハ王国だ。

 菱形のような形をした大陸で、大雑把に説明すると右の頂点から右下の辺一体がシャハ王国。上の頂点部分がオルセイユ公国で、下の頂点部分から中央線よりやや下ぐらいがディハング帝国。で、オルセイユとディハングの間の部分を真ん中で分けて、左の頂点側がアティア聖国で右の中央部分がパロム王国になる。

 現在地はシャハ王国の下側、ディハング帝国との国境も近い、海に面した港街ロルジャの近くだ。

 最寄の町、という意味なら同じシャハ王国のキーシャの街というのが近い。街、とついているからにはそこそこの規模なんだろう。

 人が多いところ苦手なんだよなー……街に入るつもりはさらさらないけど、デスペナ起こしたときがなー。

 と、なると。


「ディハング帝国のガディオ村が一番近いかー。村っていうんだから人少ないだろうし、ここかなぁ。

 そういえばディハングとオルセイユ、それからシャハにはそれぞれ初心者向けのフィールドが用意してあるって説明書に書いてあったし……ディハング帝国にしちゃうー?」

「ぐじゃあああ!」


 勢いのいいその声は同意ではなく、魔石がなくなったから寄越せという催促だろう。

 本当にあおしろたんは私を魔石あげ機と勘違いしてんじゃないのか。まぁ催促されるままあげまくったのは私だけど……。

 これが育成ゲーならきっともう取り返しがつかない失敗してるとこだな。

 とりあえず無視されるのは寂しいので、あえてこのまま会話を続ける。


「その次に近いところって言ったら、走ってリアルで一時間くらいかかりそーなんだけど……」


 このゲームでの移動手段は主に徒歩……いや、正確にはダッシュだ。

 現実と違って全速力で走っても全然疲れないし、スピードも落ちない。ステータスの素早さが上がればタイムもずっと伸びる。

 一応説明書には馬とか、移動速度上昇の装備アイテムもあるとは書いてあったが、お店を探し出すことも入ることも厳しい私には手に入れる手段がない。

 というかお店に行くくらいなら一時間かけてでも走っていく。

 ので、気分的には走るという手段に問題ないんだが、もっと現実的な切実な問題があるのだ。

 モンスターとデスペナルティだ。

 これから行くところにどれだけのレベルのモンスターが出てくるかもわからないし、下手したら逃げることもできないかもしれない。

 そうなった場合、せっかくあの一度のデスペナ以降一度も死なずに貯めたアイテムがぱーだ。

 いや、それ以上に問題なことがある。


「もし途中でつよーいモンスターにあってデスペナ食らっちゃったら、その強いモンスターが出てくるところにあおしろたん一人ぼっちになっちゃうからなぁ」

「ぎじゃああああ!」

「うん、それは嫌だよねえ。私もあおしろたんがいないと本格的に心が折れそうだし」


 人が苦手なことは否定しないが、一人で寂しくないというわけでもないのだ。かといって下手に人がいるところだと、やっぱり一人になりたくなるのだけど。

 そこらへんが人の心の難しいところである。

 正直、あおしろたんがいなければ選択肢はより取り見取りだ。

 手に入れたアイテムを捨てることも視野に入れて、デスペナ覚悟で近場の狩場や街を手当たり次第に回ってみてもいい。

 なんなら街の近くという選択肢を捨てることもできる。私が街の近くというのに拘っているのも、死んだときにすぐさまあおしろたんを迎えに行けるようにだ。

 もっともあおしろたんと別れるくらいならこの程度縛りのうちにも感じないけどね!! たとえ稼ぎにならないとわかっていても、スライム狩りして魔石集めだってやりますよ!

 いい女と付き合うには尽くしていくことが大事なのだ。トカゲの雌雄の見分け方なんかわからないから、あおしろたん雌か雄か知らないけど。というか性別設定されてるのかもわからないけど。


「となるとやっぱキーシャの街かガディオ村かー。人多いとこやだし、ガディオ村にしよっか」

「じゃあぁぁぁ!」

「うんうん。じゃあガディオ村にいこうか! えーと、地図的にはいったん草原に戻って、森を右手に進んでいけばいいのか。

 新しい狩場どんなとこかなー? 魔晶石より大きい魔石シリーズ手に入るかな? 楽しみだねー、あおしろたん!」

「ぐげじゃああああああ!!」

「よーしよし、しばらく走るからこれ抱いて大人しくしててねー」


 道具メニューから魔石をいくつか取出してあおしろたんに与えると、現金なくらい途端おとなしくなった。

 途中振り落したりしないように、余ったバンダナをベルトにひっかけて作った即席ポケットにあおしろたんと魔石を一緒に入れる。

 基本あおしろたんは魔石さえあげとけば、走っても騒がず文句も言わない。

 それにバンダナに入っていてもらえれば、モンスターと出会ってもすぐ安全な場所にバンダナごと置いておくともできるし。


「新しい狩場、楽しみだねー! あおしろたん!」


 いったいどんなモンスターがいるのか、どんなファンタジーな光景が見れるのか。

 わくわくと胸をときめかせながら、全速力でその場から駆け出した。







 とりあえず森と町の中間にある草原をまっすぐ南下。

 街道? ロルジャの街からまっすぐ南下する進路をとればあったけど、NPCと会うの嫌だし、魔石稼ぎもかねて草原をぶった切って走りましたよ。

 草原を進んでいくとスライムオンリーだったモンスターに大ウサギが混ざり始め、さらにしばらく進むと小山が見えてきた。

 地図的には小山のすそ野を抜けるように走れば村まで一直線だが、山や森に入ると走るペースが落ちるので迂回して村へ向かう。

 昼過ぎに出た上、迂回し、さらにモンスターとエンカウントするたび戦ったせいか、村に着いたのは夕暮れ時だった。

 いつもなら日がくれれば休息するところだが、入る予定はないとはいえ、デスペナでお世話になるかもしれない村だ。

 日暮れまでに間に合いそうだし、せめて遠目からだけでも見ておこうと村に近づいたのだ、が……。


「わぁー、素朴な村ー」

「じゃー」


 ロルジャの街は大きく、遠目からでも目立つくらい港には多くの船が並んでおり、海に面してない面は街を守るようにぐるりと石壁に囲まれていた。

 とはいってもせいぜい二階建ての家程度の低いものだったが、それでも立派なつくりだった。

 比べてこの村は木の柵でぐるりと囲んである、という質素なものだ。

 石畳の通りに立ち並ぶ石造りの家々があったロルジャと違い、土の地面を慣らしてあるだけの通りに、木で作られた一階建ての建物が数多く並ぶ。町自体の大きさも、ロルジャの街の半分以下だろう。


「ザ田舎って感じだねー。人も少ない……っていうか……」

「ぎじゃ」


 逆に、逆に言えばロルジャの街の半分以下の大きさはあるのだ。

 それなりの数の家が並んでいることに違いはない。厩だってあるし、なにかの作物が実っている畑だってある。

 なのに、だ。


「……人っ子一人いないって……どういうこと?」


 夕暮れ時、ロルジャの街なら見えた夕飯支度らしい煙や、灯り始めた明かりが見えない。

 それ以前に厩や家畜小屋があるのに、姿も見えなければ鳴き声も聞こえない。

 日暮れ時とはいえ、まだ太陽は顔を残しているのに、人の姿が一人も見えない。

 普通のゲームでも異常とわかる光景だが、リアルなVRだとさらに背筋が震えるほどの不気味さを感じる。

 いつもは賑やかな商店街なのに、車も通行人も店の人の姿もなく、音さえ途絶えたような感覚、といえばこの気味悪さと怖さをちょっとは理解してもらえると思う。

 さすがに人が苦手とはいえ、ここまで徹底的に人がいない光景なんて望んでなかったんだけど!!

 いい意味と悪い意味、両方で胸がドキドキする。


「……なんかイベントはじまっちゃったよかーん……」

「ぐじゃああああああ!!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ