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悠久のオルカナト  作者: 琴井
第一章. デモンワームの出現
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第2話

 客観的に判断するなら、私はコミュ障ではない、と思う。

 たしかに人に話しかけるのに心の準備が十分はかかったり、飲食店なんか長時間いるようなお店は店員さんやお客さんの目が怖くて入れなかったり、タクシーとか知らない人と狭い空間で一緒にいなきゃいけないとか思うと一時間徒歩で歩くのを選ぶような人間だけど。

 ……まぁ、コミュ障の気はあるんだろうけども、私は自分をコミュ障ではないと思う。

 だって幼馴染の友達となら、普通に話すことができる。

 型の決まった挨拶なら、誰が相手でもにこやかに言える。

 慣れた場所なら人が大勢いたって気にならない。

 客観的に、冷静に、自分のコレを判断すれば、きっと『人の目恐怖症』『病的なまでの心配性』『極端な自虐思考』というだろう、と思う。

 人が話しているのを見ると、自分を嗤っていると思う。

 優しく声をかけてくれる人も、顔を合わせるだけの人も、みんな心の中では自分を疎んで、嫌って笑ってるに違いない。

 失敗したら笑われる。間違えたら嫌われる。おかしかったら見捨てられる。何をしても、大丈夫か大丈夫かと不安にならずにいられない。

 なにかあれば、それはきっと自分のせいに違いない。私のせいで、どうせ私が、私なんか。

 落ち着いて、常識的に考えれば、きっとそんなことはないんだろう、と、思う。

 私は他人の細かな行動をそんなに見てないし、小さなことで人を嫌ったり嗤ったりしない。

 きっと周りの人に相談すれば、「くっだらないこときにするなあ!」とか言われるだろう。人によっては「他人がどう思ってようが別にいいじゃん!」と笑い飛ばすかもしれない。

 でも、そこまで考えても、だ。

 私と他の人間とは考え方が違う。私がそう思っても、他の皆もそうだとは限らない。周りの人間がそう思うくらい、私は駄目な人間なんだ。

 ……と、駄目な方へ駄目な方へ思考が傾いてしまうのだ。

 人が私を見てる。

 それだけでもう駄目だ。勝手に悪い方へと思考を張り巡らせてしまう。

 もちろん慣れれば、この人は大丈夫だな、ここは私がいてもいいところなんだな、と堂々と振る舞うことができるのだが、それ以前に怖くて怖くて、とてもじゃないが自分から動くことができない。

 仮に自分から行動を起こしたとしてもそんな具合だ。ろくにうまくできなくて、また自己嫌悪の海に沈むのである。

 だからたとえNPCだと、所詮AIだとわかっていても、現実の人間にしか見えない彼らが目を私に合わせるだけで、反射的に私の体は強張ってしまう。

 そんな私なのだ。

 それが優しくて善良そうな、年下の男の子だとしても。いや、だからこそ。

 レベル1で、無装備で、たかがスライム相手に無様に戦っていた姿を見られたと判断した瞬間に、体は勝手に逃げ出していた。







「ここまでリアルだとやんなるなぁ……。いや、主人公の行動やセリフを自分でやらなきゃいけないのがつらいのか……」


 少年が見えなくなるくらい遠くに、町から離れた森付近にまで逃げると、やっとそこで息をついた。

 途中モンスターにもあったが、全部それは逃げてきている。さすがVRといったところか、軽く四、五キロは走っただろうにまるで疲れなんてなかったし、スピードも一切落ちなかった。

 まぁ主な移動手段が徒歩なんだから、それぐらいはしてもらわないと困るといえば困る。


「……あーかっこわるい。あーなさけない」


 無装備で、無地の黒い長ズボンに黒い長袖という、初期服のまま、しかも素手での戦闘だ。

 剣を装備し、立派な鋼の鎧まできたあの少年と比べると、あまりに見っとも無かった自分の姿と行動に落ち込まずにいられない。

 これが普通のゲームだったら、そんなこと気にしないけど。

 でもこのゲームは違う。VRは違う。

 私が主人公なのだ。そして私は主人公みたいにかっこよくない。

 今、やっと気づいた。

 VRゲームは、人の目が気になって気になってしょうがない、自分一人じゃろくに行動もできない私には、とっても向いてないゲームだと。

 ……でも、それでも。そうだとわかったとしても。


「三十五万もしたのに、やめるとか嫌だし……! それにキャラと出会わなきゃ普通に楽しいゲームには違いないし!」


 そのキャラと会ってイベントを進めることこそゲームの主軸……だと思ったが、それは頭の片隅にはじくことにした。

 さっきの戦闘もすっごい情けない姿だったんだろうけど、十分楽しかった。初ドロップの瞬間なんか胸がわくわくしてたまらなかった。

 この周りの景色や街の風景、幻想的な生き物たちもそうだ。見てるだけでもう、うきうきする。

 人間じみたNPCが側にいなけりゃ、これはとっても楽しいゲームだ。

 何より三十五万。もう一度言う。三十五万。


「でもそうすると作業ゲーになりそうな予感……いや! 作業ゲーだって悪くないし! とにかく飽きるまで、元とれるまでやりこもう……!」


 改めて決意を胸に、その場に立ち上がる。

 とりあえずまずはレベル上げだ。もっといっぱいスキル覚えよう。スキルを使う私はかっこよかった。それから装備。装備品だ。このあたりのモンスターでも狩れば初期装備ぐらいドロップしてくれるはず。ソロでやっていくなら回復薬が……いや、お店行く勇気ないから、拳闘士をある程度上げたら治療士に転職しよう。そうしよう。

 ある程度今後の予定を立てると、俄然わくわくしてきた。


「別にイベント起こさなくったって楽しめるよね。キャラなんて所詮ゲームの一要素ですよ、偉い人にはわからないんです。それに……」


「いじゃああぁあぁぁぁ!!」


「私にはあおしろたんがいるもん!! 断じて一人じゃないもんね!!」


 スライムの戦闘中、逃げ出したと思ったあおしろたんはベルトに尻尾が挟まってしまったらしく、戦闘中から私が逃走中に気が付くまで、ずっと私の腰でぷらぷら揺れていた。

 あおしろたんの励ましと同意の雄叫びをBGMに、私は絶対にこのゲームを投げ出さず、最後まで楽しんでみせると心に決めた。


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