「ゲーム」という名の牢獄
俺は怜と共にVRMMO「Infinite online」のサービス開始を嬉々として待っていた。
「いよいよだね。始まったら即高レベルダンジョンに特攻しよう。お兄ちゃんもだよね。」
「お前みたいに人間はやめてないから。」
「ちぇっ。一緒に狩りしたかったのに…」
「おっと。もうスタートできるぜ。」
「え!?早く言ってよ!」
そういいながらヘルメットのようなVRゲーム機、「コア」を頭にはめ込む。
「さて。俺もやり始めるか。」
俺もコアを頭に装着し、VRの世界に落ちてゆく。
真っ白な部屋に無機質な機械音が鳴り響く。
「キャラクターメイクを始めます。名前を入力し、次に顔の造形、髪形や体系を選んでください。」
うーん…名前は…
「キリでいいかな。やっぱり俺ってネーミングセンスないよなー」
俺は現実世界と同じ少しツンツンした黒色の髪の毛に、よく目つきが悪いと言われる細い目にした。できるだけ現実と似ているほうがなんとなくいいような感じがしたからだ。
「職業は何にしますか?」
ガーディアン(守護者) 防御、魔法防御に特化している。
スミス(鍛冶屋)DEXに特化している。
ナイト(騎士) 攻撃と守備のバランスが取れている。
ベルセルク(狂戦士) 攻撃、敏捷に特化しているが、防御が低い。
マジシャン(魔導士) 魔法攻撃に特化している。
ヒーラー(聖者) 魔法防御(回復魔法の回復量に関係しているようだ)に特化している。
ファイター(格闘家) 攻撃に特化しているが、敏捷が低い。
テイマー(使役者)すべてのステータスが平均より低いが、モンスターをテイムできる。
俺はベルセルクにした。攻撃特化のタイプだからだ。
「種族は何にしますか?」
竜人 HP、STRが高め。
人間 すべての能力値のバランスが取れている。
妖精 魔法攻撃が高め。
小人 器用度が高め。
巨人族 体力、防御、攻撃が高いが、ほかの能力値はかなり低い。
カスタム 自分で設定する。
カスタムをやってみよう。そして俺は、カスタムのところに手を触れる。
編集
名前
STR 1
DEF 1
MDF 1
VIT 1
AGI 1
DEX 1
カスタムポイント:15
15ポイントを自由に割り振れっていうことか…
とりあえずSTRに6、AGIに5、DEFに2、VITに2振った。
そして名前は狂壊者と書いてバーサーカー。我ながら恥ずかしいです。
聞いたところ、DEXは器用さで、武器や防具を作らないならやらないほうがいいらしい。
「武器は何にしますか?初めに選んだ武器以外にも装備することはできます。」
双剣にしてみた。攻撃特化だし、盾なんて持ってたら動きが鈍くなりそうな気がするからだ。
「スキルは何にしますか?ここで選んだものは、ステータス画面では確認できません」
俺は索敵とアクロバット、剣術の心得にした。
「それでは、Infinite onlineの世界をお楽しみください。」
その声と共に俺は白い渦に巻き込まれる。
俺は気が付くと始まりの町という所にいた。そこには、様々な模様の花、噴水があった。そしてそれを彩るかのように、耳のとがった妖精、少し緑っぽい肌の竜人、スタンダードな形の人間など、様々な人がいて、一人ひとりバラバラの武器や防具を装備している。
「まだ来ていないプレイヤーがいるが、ルールを説明しようか。」
突如現れた黒いぼろぼろのマントを着た男がしゃべった。
「私はGMだ。今この瞬間からログアウトできなくなる。そしてラストダンジョン・終焉の戦場をクリアすることができればこのゲームから脱出できる。現実世界での君たちの身体は私たちが管理している。不正などをしない限り安全は保障しよう。ゲームで死んだとしても、小説のように死ぬことはない。デスペナルティを受けて最後に行った町にワープするだけだ。デスペナルティとは、レベルが5下がり、持っているゴールドを半分失い、持っているアイテムの耐久度と貴重なアイテムをその場所においてくるだけだ。」
マントの男はさらに続ける。
「GMは全部で3人いる。案内役をゼルディアというGMが、不正行為の管理をヴァルグというGMがしている。
わたしは残りの一人のGMだ。私はプレイヤーの事と、ラストダンジョンのボスを務めている。プレイヤー諸君。ぜひともクリアしてくれ。そして、これで最初で最後のGMコールを終了する。」
なんかめんどくさいことに巻き込まれたらしい。ログアウト不可能…まぁ死なないだけマシだし、すぐ攻略すればいいだけだしな。
とりあえず一番初めのマップ、迷いの森に行った。
レッドベアーという爪が赤いクマと出会った。
「気づかれては…いないみたいだ。」
後に回り込んで、相手の体に突きを入れる。
「グウォォォゥ!?」
「これが初戦闘の始まりかぁ・・」
熊は両手で何度も薙ぎ払いを仕掛けてくる。そして最後には突進。
「えっと!?アクロバットの効果でバックステップとか緊急回避できるんだよなぁ!?」
そういううちにも突進が迫る。
「ぐふっ!?」
後から目や口の付いた切り株が手で足を切ったようだ。
「よけられないじゃん!ぐぁぁっ!」
灰の中の空気が一気に吐き出されているような感覚になる。だが状況は最悪。切り株がもういったい増えて熊はドス!、ドス!、と音を立てながら向かってきている。
「アクロバットのほかの性能……?バック宙があったかな。一回やってみるか。“威嚇”!」
「ガゥォォォォ!!」
熊が突然雄叫びをあげると、体が動かなくなる。公式サイトに書いてあった、大声効果というものだろう。尤も人がやったところで効果はないが。これが自業自得ですか。
「横狩りをする気はないが、デスペナを喰らうのは君もいやだろ?」
突然黒髪・長髪のアバターが迫りくる赤い鉤爪を氷の盾ではじく。
「突然で悪いけど、一緒にこの熊を倒さないかな?失礼は承知だけど、君だけでは勝てるかわからないしね。」
さっき攻撃をはじいてくれなければ俺はダメージを負っていたわけだし、まだ熊は疲れる様子もない。またこの雄叫びを使ってくるかもしれないしな。
「ありがとう。君が攻撃をはじいてくれなかったら俺も死んでいたかもしれない。一緒に戦おうか。素材は後で山分けでいいかな。」
「オッケー!」
「俺はキリ。職業はベルセルク。君は?」
「私はアマテラス。職業はマジシャン。名前は神の名前からとったんだ。」
「じゃあ再開しますか!。」
「うん!」
「雑魚MOBが来た!俺が相手をしてくる!」
さっきも後ろから邪魔されて突進を完全に喰らってしまったし。
「了解!“バーニングフレア”!」
アマテラスは魔法の名前を言って、一気に熊の片手が燃える。少し焦げ付いた。
そして俺は雑魚MOBに近づいていく。
「“クロスカット!”」
敵は切り株お化け。そのまんまだ。
スパッスパッ!と二回連続で十字架を描くように斬りこんでいく。
バキバキバキッ!と微かに木の割れる音をあげて、地面に倒れこむ。
「もう一体か…“急加速”(アクセル)!クロスカット!“減速”(ブレーキ)!」
アクセルは動く速度を50秒だけ早くするという能力。桁違いに早くなるが、1秒ごとにMPが50消費するのでブレーキで効果を終了させる。その時。ピロリン!というレベルアップの効果音らしき音とともにスキルを習得しました。というシステムメッセージが現れる。投擲というスキルを覚えたようだ。効果は名前通り。木の枝がドロップしたので念のために回収してアクセルを発動。そして一気にもともと闘っていたところに走る。
「よし!ついた!」
「お!やっと帰ってきた。」
「ああ。片手をずっと燃やしていたのか。助かるよ!“加速”!」
一気に敵のもとへと走り、焦げて真っ黒になった片手をクロスカットで切り裂く。そして焦げた手は切り落とされる。
「ガォオオォオオォ!!」
熊は顔を真っ赤にして傷口から炎を噴出させている。
「ガォォオオォォ!!!!」
またあの雄叫びだ。だがあれは波状攻撃らしい。アクセルで加速して熊の後に回り込むと動けなくなるということはなかった。その時に持っている双剣を二本とも背中から刺す。忌々しい肉の切れるような感触と共に熊は崩れ落ちて素材を残して消える。
「なかなか耐久が高かったな…ユニークモンスターかな?」
「赤熊の角・赤熊の骨…おれでは使えないかな。俺はいらないものばかりだが…爪と牙だけもらっていっていいか?」
「いいよー私は骨と角だけもらってくね。杖だし。」
「あ。俺のアイテム欄に赤熊の魂っていうのが入ってるんだが。」
「あぁ。それね。レアドロップだと思うよ。よかったじゃない。」
「ふーん。…使えるのかなこれ…」
「で。チームを組んだままこの先に進むか、ここで別れるか。どうする?」
「君面白そうだしねー。このまま続けようよ。あとメッセンジャー登録しない?」
メッセンジャーとは…
プレイヤー両方が承諾すればできるシステム。いつでも1:1コール(一対一でチャット出る機能。最大9人までで話せる。)ができたり、遠くにいてもその場所に一瞬で転移できたりする。さすがにボス部屋や、イベント専用MAPでは行き来することはできないが。
「ん。いいよ。じゃあ進もうか。」
「ていうかさ、君の能力ってなんなの?私は詠唱破棄。詠唱なしで魔法を唱えられる。」
「あ。俺はまだ見てなかったな。どれどれ。」
ステータスウィンドウを開けてスキル欄を見る。
「は…?ない・・!?」
「え!?そんなわけないでしょ!?見せてよ?」
そんなことを言われましても。GMさん。ひどいです。
「あ、ほんとだ。ないじゃん!。GMコールしてみたら?」
「今は脱出不可能でしょ。そんなものがあったら苦情が絶えないよ。」
彼女は2秒くらい首をかしげて言う。
「まぁそんな物かな?」
俺はさっきの意味深な合間を気にしつつ狩りに励んだ。
そのまま進むと、ブレイブドッグというMOBとレオキャットというMOBが出た。
素材は犬の牙、犬の爪、猫の爪、牙など。レオキャットはブレイブドッグよりは少し強く、群れを作って現れることもあった。基本的に初めにアマテラスがフレアで弱らせて、俺が行って全滅させる。というものだった。
「ボスに行く?」
唐突にアマテラスは俺に言う。
「うーん。行ってもいいけどさ。一回町に戻らない?ポーションとかも切れてるしさ。
「まぁそうだねー。知り合いとかいたらよんでもいいよ。」
「分かった。」
怜と陽月を呼ぼう。
怜は本名そのままレイ。陽月はツクヨミにすると言ってた。
一対一コール。対象はレイ、ツクヨミ。と心で念じる。
すると前にチャット欄ができる。
レイ「何?」
ツクヨミ「何だ?」
キリ「知り合った人とボスに行こうって話になった。」
レイ「次の町にも行きたいしね。私は行くよ。」
ツクヨミ「怜ちゃんが行くなら俺も行く。」
キリ「満場一致ってことでいいな?こっちの時間で1時半に始まりの町の広場に集合。」
レイ「オッケー」
「レイ」様は一対一チャットを切断しました。
ツクヨミ「分かった。じゃな。」
「ツクヨミ」様は一対一チャットを切断しました。
「キリ」様は一対一チャットを切断しました。